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転校生、山田くん  作者: ぱくどら
高校一年生
5/49

橘千代と高橋誠

 ここ最近、クラスのみんなの態度が今までと違うような気がしてる。

 チラチラと……見られているような。馬鹿にしているとか、嘘の噂話を流しているとか、そういう風でもない。

 本当に、ただ様子を見られているだけ。

 ……はっきり言って、居心地が悪い。だって、監視されてる感じしかしない。


 まぁ……原因はなんとなくわかってる。

 当然のように、私の近くに立つこいつ!! 山田のせいだよ!

 あんた、今、短い休憩よ?

 次の授業の準備とか、トイレとか……トイレ行くかしらないけど……とにかく自分の席に座っていなさいよ。

 なんで私の机の前に立ってんのよ!?

 本読んでても、視界に赤い腕がチラチラ見えて集中できやしない!


 最初は話しかけたりしてたけど、全部無視してやった。諦めると思ったから。

 そしたら、黙って私の前に立ってるだけ。ぼーっと前の方を見てるだけ。

 はぁ? 意味わかんないんですけど。物凄くみんなから見られてるんですけど!


 文句を言ってやりたいけど……今は周りに人が多すぎる。見られてるし。

 今日図書委員だし……たぶんどうせ、また付いてくるんだろうし……絶対、やめさせてやる!


    ◇    ◇


 HRが終わって、私はそそくさと教室を出ようとした。もちろん、誰にも今日が図書委員だとは言ってないし、話しかけてもない。

 それなのに、なぜか山田は当然のように私の後を追って来る。集まりかけていた男子も、呆気に取られてた。


「最近の山田……栗原さんのストーカーしてるよな。……何かの罰ゲームか?」

「さぁ……」


 そんな声が耳に届いたけど……私の方が罰ゲームだよ!!

 何が好きでタコ宇宙人にストーカーされなきゃいけないのよ!!

 ……なんて言えるはずもなく……悶々としたまま教室を出た。


「見て、山田くんよっ」


 教室から出ても……山田は目立つ。

 そんな奴が前とか後ろを歩くなら、まだ知らない顔はできる。

 けど……隣を歩かれるとそうもいかない。


「……隣の人、誰?」

「同じクラスの人?」

「……付いて歩いてるだけじゃないの?」


 そんな声がする廊下を、ひたすら顔を俯かせて歩く。

 恥ずかしい……なんでこんな目に遭わなきゃいけないのよ……。


「この人は栗原さんだよ。同じクラスの人。俺が付いて歩いてるんだよ」


 思わず立ち止まって、ハッと顔を上げた。

 みんな唖然とした表情で私を見つめてる。


「悪く言うのは俺だけにしてね」


 隣から聞こえるしゃがれ声。山田がどんな顔して言っているのかは知らない。

 けれど、私はとても恥ずかしかった。自分でも顔が熱く、赤くなっているのがわかる。

 その様子を周りの人たちが、ひそひそと声を漏らしてる。

 何を言ってるかわからない。けど、山田の近くにいるせいでいつもこんな思いになる。

 

 とにかく離れよう――そう思って山田を両手で突き放そうと思ったけど……あいつの身体は意外にも頑丈でびくともしない。

 見た目タコのくせに力強い。……ムカつく。


「……栗原さん?」


 私は振り返らず、走って図書室へと向かった。


    ◇    ◇


 なんとか……引き離せた。

 でも、今引き離せたところで、どうせここにやってくるんだろうし……意味ないんだけどね。


「……あれ、おかしいな」


 突然後ろから、そんな声が聞こえた。今私が座ってるのはカウンター。

 後ろは休憩室になってる。ということは、誰かが外から休憩室に入って来たということだ。

 誰だろう――振り返ってみると、黒ブチ眼鏡をかけた中肉中背で黒髪の特徴のない男子が立っている。


「な、何でしょうか」

「……今日、俺のクラスが担当日だったと思うのですが」


 ……担当日? え、嘘。

 カウンターの上に置いてある卓上カレンダーに目をやる。

 日付の下に担当のクラスが書かれてあるんだけど……今日は2-1と書かれてる。

 

 うわ……しまった……。

 私、勘違いしてたんだ!


「す、すいません! 勘違いしてました!」


 慌てて立ち上がって、席を譲る。

 その人はニコリともせず、眼鏡をクイッと上げ、空いた椅子に近寄った。


「別に気にしないでください。実はもっと早い時間に気付いていたのですが、少々休憩させていただきました。なので気にしなくても結構です」


 ボソボソとハリがない声だけど……要するに、わざと今まで言わなかったんだ。

 しかも、全然悪びれてる感じがしない。

 ……まぁ別にいいけど。

 先輩は椅子に座ると、くるっと身体を反転させじっと私を見上げる。

 ……眼鏡で見えづらいけど、目が狐みたいにきつい。


「……失礼ですが、名前は? 俺は高橋誠、と言います」

「私は……1年3組の、栗原知美、と言います……」


 すると、先輩が小さな声で「あぁ」と漏らした。

 そして、また眼鏡をクイッと上げる。


「1年3組と言えば……例のイケメンがいるクラスですね」

「イケメン……。……山田くんのことですか」

「そうです。……常時、女子に囲まれてるそうですが……一体どういう気持ちなのか、ぜひ話を聞いてみたいものです」


 そう言うと先輩は再び前を向いた。

 ……山田のことが羨ましいのかな。

 確かに……こう言っちゃあれだけど、先輩ってモテそうにない、かも。

 

「あの……たぶん、山田くんならもうすぐここに来ると思います」

「……栗原さんもイケメンに尻尾を振るタイプですか」


 ふん、と鼻で笑われたような気がした。なんか……嫌な感じ。


「あの……私、山田に媚びを売るとか、そういうことしていません」


 すると先輩は少しだけ振り返って、じっと私を見上げた。


「……そうですか。まぁ……そのようですね」


 そう言うとまた前へ向き直った。

 今の……何を見て納得したんだろ。

 不思議に思うのもつかの間――図書室の入口から真っ直ぐカウンターに向かう影。

 ――山田だ。あいつは座る先輩に構うことなく、目の前を立ち塞いだ。

 

「栗原さん、機嫌直った?」


 カウンターの前に立ってるだけなのに、後ろの席に座ってる人たちがざわざわと色めき立ってる。

 ていうか、みんなの前なのに私の名前出さないでよ。

 さっきから何なのよ、こいつは!


「……直ってないみたいだね」


 あんたの姿見たら自然に顔が歪むのよ。

 無言の怒りを露わにしていると――先輩から感嘆の声が聞こえた。


「……君が……山田くん、ですか?」


 見ると、先輩は興味深そうに眼鏡に力を込めてる。

 ……めっちゃ眺めてる。


「確かに……良い顔立ちですね」


 顔立ちもなにも、本当はのっぺらぼうですよ。


「ありがとうございます!」


 少しは謙遜しなさいよ。

 すると先輩は立ち上がった。


「俺は高橋と言います。今、時間があるのでしたら……奥で少し話しませんか?」

「え、俺とですか?」

「はい。少し、伺いたいことがあるんです」

「はぁ……。まぁ、栗原さんの機嫌が良くなるのを待たなきゃいけないし……いいですよ」


 何よ、その理由づけ。


「……じゃあ、栗原さん、悪いですが、代わりにここに座ってていただけますか?」

「……はぁ……わかりました」


 空いた席に再び腰掛ける。

 先輩は後ろの休憩室へと姿を消して行った。

 

    ◇    ◇


 今、カウンターの後ろの休憩室で、山田と先輩が話しこんでいる。

 扉は後ろのドアは空いてるんだけど、会話の内容までは聞こえてこない。

 図書室の中は静かなのに変な感じだ。

 私も本を読んでるんだけど、後ろの二人の様子が気になって内容が頭に入らない。


 ぼーっとしてたら、目の前に人がやってきた。

 おっと……図書委員の仕事もしなきゃね。

 背筋を直して見上げると――ニッコリと微笑んでる橘さんだった。


「栗原さん、見たわよ」

「……え? な、何を……?」


 いつの間に……よく見たら本持ってないし。

 見たって……何を見たんだろ……。山田と歩いてるところ? 山田としゃべってたところ?

 ぐるぐる考える私の前で、橘さんの表情は柔らかく微笑む。


「今の上級生、栗原さんの好きな人なんでしょう?」

「…………は?」


 なっ……何言ってんの。

 

「も~なかなか見つけられなかったんだから! 本当、栗原さんて隠し事が上手なのね。でも安心して、私たちみんな応援するから」

「え、あの、どういう意味かわからな――」

「山田くんに冷たくあたるのも、無視するのも、本当は好きな人にバレないようにするため何でしょう? 全部知ってるんだから」


 え、ええええ!?

 発想がぶっ飛び過ぎてて付いていけない……。

 橘さんはポケットから手帳を取り出すと、ペラペラとめくり始めた。


「クラスの女子全員で応援するから。確かさっきの人は……2年生の高橋誠って言う人でしょう? 特に浮いた話もなし、外見にこれといった特徴もなし。……うん、栗原さんにすごく似合ってると思うわ! 栗原さんの恋がうまくいくように、全員で応援するわ。……ね」


 ね、と言って橘さんが軽く視線を後ろへ逸らす。

 後ろで静かに読んでいると思われた人たち……よく見れば……クラスの女子の人たちだ!!

 え、いつの間にこんなにいたの!?


「あ、あの……私、誰も好きじゃな――」

「恥ずかしがらないで。恋なんて誰でもするものだから。気にしないで」


 この人も自分に都合の良い解釈をする人だ……!

 ……なんで私の周りって、こんな人ばっかりなんだろ。


「栗原さんの恋がうまくいったら、きっと山田くんも諦めてくれるはずよ。そうしたらみんなが丸く収まるでしょ? だから頑張りましょうね」


 と、すごく素敵な笑顔を私に向ける。

 ……なるほどね。ここ最近山田が私をストーカーしてるから、それを諦めさせたいんだ。

 そんなところだろうとは思いましたよ。

 でもまぁ……私も諦めてほしいとは思ってる。

 でもだからって……こんな嘘をつくのは嫌だ。

 先輩にも迷惑かけるし……本当に好きな人なんていないし。何より私……嘘なんてつきたくない。


「……あの、橘さん。気持ちは嬉しいんですが……本当に、私誰も好きじゃな――」

「山田くん!」


 橘さんがあっという間に頬を染め、私の後ろに熱視線を送る。

 ……なんでいつもタイミング悪いんだろ。


「あれ、橘さんどうしたの?」

「……」


 軽く頭を傾けてる山田と、その隣で眉間に皺を寄せ眼鏡をクイッと上げる先輩。

 なんか先輩の雰囲気が……さっきよりも刺々しい気がする。


「今日はたまたま図書室に来たの。ちょっと栗原さんの恋の相談を受けてて……」


 なんて言いながら、ちらっと私を見る橘さん。

 ちょっと……相談なんてしてないんですけど!


「恋の相談? ……栗原さんが?」

「そう! 山田くんも知らないでしょう? 実はね……」

「ちょ、ちょっと橘さん! だから、私は――!」


 否定しようとしたとき、妙に低い声が響いた。


「気持ち悪い」


 ……え? 今、どこから声が。

 橘さんも真顔に戻り、声のした方へと視線を向ける。


「暑苦しい化粧と吐き気のする臭い。よほど自分に自信がないようですね」


 一瞬でその場の空気が凍りつく。

 何かを察したのか、図書室に座っていた他の人たちがそろりそろりと出て行く。

 私も……ごくり、と唾を飲み込んだ。

 今、先輩の近くで化粧してる人なんて……橘さんしかいない。

 その橘さんも一瞬呆気に取られてたけど、すぐに険しい表情になった。


「……私に言ってるんですか? そんな厚化粧してませんが!?」

「それはそれは失礼しました。薄くても化粧をしないと人前に出れないお顔でしたか」

「はぁ!?」


 先輩さっきと雰囲気が変わり過ぎですよ!?

 橘さんもいつも見ないような、鬼の形相になってるし。

 ……に、逃げ出したい。

 ――すると、空気を読まない山田が突然笑い出した。

 橘さんの視線が山田に移る。


「ははっ! まぁまぁ、そこまで言わなくても。それぞれ事情はあるんですから」

「山田くん……! かばってくれるのね……!」


 いや……それはフォローになってない気が……。

 でも橘さんは気にする様子もなく、高橋先輩に向かって再び鋭く睨みつける。


「……初対面の私に、その言い方はないんじゃないですか?」

「君のような、カッコイイ男に尻尾を振る女が、俺は大っ嫌いなんです。思ってもいない言葉を気安く吐き、見るに堪えない足をさらけ出し、人を騙す笑みを向ける。……女なんて、大嫌いです」


 眼鏡から見える先輩の目は……物凄く殺気立ってる。

 本当に女が嫌いなんだ……て、あれ? でも、私のときは殺気なんて感じなかったような。


「そんな理由、通用するはずがないでしょう? ただの妬みじゃないですか」

「妬み? 全くそのようなことはありません。今、山田くんの話を聞いて感心したところですし、彼とは話が合いそうです」


 隣に立つ山田も頷いて共感しているみたい。

 ……この二人何を話し合ったんだろう。

 橘さんはそんな二人を悔しそうに見つめていたが、ふっと息を吐いてニヤリと頬を緩めた。


「……女が嫌いとおっしゃいましたけど、もし、女の子から好かれてるとわかったらどうしますか?」


 あ……嫌な予感。

 まさか『栗原さんが好きみたいですよ』とか言うんじゃないでしょうね……!

 一方で、橘さんの発言に先輩の眉間の皺が深くなる。

 

「よくも見え透いた嘘が吐けますね」

「嘘だと思うなら、直接本人に聞けばいいじゃないですか」

「……本人?」

「ふふ……ねぇ、栗原さん?」

「……栗原さんは関係ないでしょう」

「あら……本人だとしたら、どうしますか?」


 うわああああ! 本当に言ったよこの人。

 先輩の顔が真顔になってる……! 迷惑なのか嬉しいのかわからない! ……まぁ嬉しくはないか。

 山田は……うん、のっぺらだからわからない。


「あ、あ、あの! ち、違うんです……! 橘さんが勘違いを……!」

「も~栗原さん、素直になりなさいよ~」


 ちょっと黙っててください!!


 と、言ったつもりはないんだけど、橘さんはビクッとして口を閉ざしてくれた。

 ……ラッキー。

 すると、先輩が真顔のままクイッと眼鏡を上げた。 


「……栗原さんのこと嫌いではありませんが」

「……え?」


 女子が大嫌いと言ったのに、私のことは嫌いではない?

 どういうこと……意味がわからないよ……。

 ……あ、橘さん歪んだ微笑みになってる……。


「あぁ……すいません、誤解を与えてはいけないのではっきりと言います」


 な、何を言われるんだろ……。

 ドキドキしてきた……!

 

「栗原さんを女と認識できないので嫌いではない、と言う意味です」

「…………」

「……ふっ」


 ちょっと!!

 今、橘さん笑ったでしょ!?

 って、山田がぽんと私の肩に手を置いた。


「栗原さん傷つくことないよ。栗原さんの素晴らしさに関しては、俺も先輩も同じ意見だったんだ。ただそれが、先輩は女としての評価であって、俺は栗原さんの存在そのものだったってことだけだよ」

「ごめん、意味がわからない」


 とりあえず、この場に私の本当の味方がいないことはわかった。


「まぁ、いいんじゃない? ……ほら、もう帰ろう。図書室誰もいないし、結局当番じゃなかったんでしょ?」


 そう言われて見れば……私たち以外に誰もいない。

 いつの間にいなくなってたんだろ……。橘さんと先輩がやり合ってたからかな。


「山田くん! 私も一緒に帰りたいなぁ~。何だったら二人きりでもいいんだけど……!」

「あ、橘さんは先輩が話を聞きたいみたいだよ。付き合ってあげてよ」

「え!? なっなんで?」


 先輩を見ると、眉間に皺を寄せ眼鏡をクイッと上げている。


「……今度は群がる側からの意見を聞きたいんですよ。俺も嫌ですが、物事ははっきりとさせておきたいので……」

「わ、私だって嫌です!! どうして私のこと貶した人と一緒に――!」

「橘さん、先輩に付き合ってあげて。お願い」


 山田が橘さんの肩辺りを軽くぽんぽんと叩いた。

 すると途端に橘さんの顔が真っ赤になった。……わかりやすい。


「や、山田くんの頼みなら! ……でも、今度一緒に帰ってくれる?」

「あーうん。今度ね」


 軽っ。……適当に返事してるんじゃないでしょうね。

 でも、橘さんは嬉しそうに笑ってる。……本当に山田のこと好きなんだろうなぁ。

 でも、宇宙人って分かったら……橘さんショックだろうな。

 夢を壊さないようにしてあげないと……。


「……山田くん、今日はありがとうございました。また図書室に来てください」

「先輩もありがとうございました! また栗原さんと来ますね」


 そう言うと、山田は私の手を引いて図書室を出て行く。

 橘さんに恨めしそうな目で見られたけど、すぐに橘さんも先輩に話しかけられてた。

 まぁ……お相子ということにしておこう。

 ……てか、これどこに向かってんの?


「ねぇ、山田。どこに行くつもりなの?」


 山田は私の手を掴んだまま、スタスタと歩いて行く。

 幸いなことに、校舎の中には誰もいない。


「俺の家で飲み物ぐらい出そうかなって思ったんだけど」

「結構です」


 やっぱり。そんなことだろうと思ったわ。

 グッと足に力を込めて立ち止まらせた。山田も抵抗することなく足を止め、私の方へと向き直る。


「遠慮しなくてもいいのに」

「全然遠慮してないから」


 ようやく手が離れ、思わずその部分を摩った。

 ……うん、なんともなってない。


「それより、あんた最近何なのよ。みんな不審そうに見るし、今日みたいに橘さんたちも勘違いしちゃうじゃない」

「え? ……あぁ、なるべく栗原さんにはしゃべりかけないようにして、それでも俺と栗原さんが自然に見えるようにしてみたんだ。まだまだみんな不思議そうに見てたね」

「当たり前でしょ!? あんた、自分が学校一人気者だって知っててやってんの!?」

「知ってるよ。けど、人気があることが、栗原さんの近くにいちゃダメな理由にはならないでしょ?」

「それは……」

 

 何なのよ。

 ……平然と言ってくるから性質が悪い。


「……どうしたの、栗原さん。元気ないみたいだけど……」

「……別に。それより、先輩と何を話してたのよ」

「あぁ。女の子に囲まれたときの感想とか、本当はどう思っているのかとか。あと、栗原さんについてかな」

「私……? どういう意味? ていうか、あの先輩って……何を目的にそんなこと聞くんだろ」

「なんか、女の子が嫌いなんだけどその理由を明確にしたいのと、あとは理由を明確にすれば克服できるかもしれないから、だって」

「……ふーん。よくわからないけど……どうにかしたいっていう気持ちはわかるかも」

「それで、栗原さんに対しては嫌悪感を抱かなかったんだって。きっと女っぽくないからだろうって」

「……あ、そう」


 どうせ可愛くないですよ。

 でも……女っぽくなくても、地味でも……私だって一応女なのに。


「大丈夫だよ。栗原さんは俺のお嫁さん候補だって言っておいたから」

「……また誤解を広めたんだ」

「だって、先輩が栗原さんのこと好きになっちゃマズイから。予防線だよ」

「……なるわけないじゃない。女に見えないって言われた時点でわかるでしょ」

「今は、かもしれないよ。本当……栗原さんて自己評価低いね」


 自己評価――。

 確かに低いと思う。だって、スタイルも良くないし、頭も運動もそこそこ。何か人に誇れるような特技もない。

 橘さんみたいに可愛くもない。……本当、自分でも地味だとわかる。

 地味は地味なりに、静かに過ごして何が悪いの。変に自己評価上げて目立ったって、絶対良いことなんてない。

 ……だったらはじめから……諦めた方が傷つかないし。


「……もう帰る」

「家まで送ろうか?」

「……一人で帰りたい」

「そっか……わかった。今度、また一緒に遊ぼうね」


 山田の顔を見ずに背を向けた。

 山田の発言に悪意はないんだと思う。ただ事実を言われて、私が勝手に傷ついてるだけなんだ。


「栗原さん」


 少し進んだところで、山田の声が校舎に響く。

 思わず足を止めた。


「俺はね、クラスの女子の中で栗原さんが一番綺麗な人だと思うよ」


 そう言われても振り向かなかった。

 止めていた足を再び前へと出す。山田の声もそれ以上は聞こえなかった。


 あいつの真意はわからない。

 私を油断させるための言葉なのかもしれない。

 元気がない私を見かねて出てしまった、嘘の言葉かもしれない。

 そもそも山田は宇宙人だし。


 わかってる。全部わかってる。

 全部が山田の罠なのかもしれない。

 けど……。

 不本意ながら……顔の火照りを抑えることができなかった。

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