大学生編 1
完結してから5年以上経っている作品なのですが、ただただ、イチャイチャきゅんきゅんなるような作品が書きたくて、山田くんと栗原さんのお話を書こうと思いました!!!
かなり時間もたっていますし、忘れられている作品ではあると思いますが、作者の自己満足にお付き合いいただきましたら幸いです。
入学して数週間。日々一人暮らしの大変さと、大学生活に慣れようと必死に毎日送ってる。
一緒に住みたいという山田の申し出を全力で拒否して、少しずつ自分の生活のリズムを掴み始めた。料理やら掃除はまだ慣れないけど、きっと時間の経過と共に慣れると思う。今更ながら、母さんのありがたみが身に持って滲みる。
さぁて……今日も身支度を整えて、大学へ行こう。
私も大学に入って自分の身なりを気にするようになった。だって周りの人たち大人びた人ばっかりなんだもん。そりゃそうだよね、もうすぐ二十歳なんだから化粧して当たり前だ。ということで最近私も化粧するようになった。いづれ就職したらしなきゃならないんだし、今のうちに慣れてた方が絶対にいい。……それに、山田と並んでおかしくない女になりたいしね。
「おはよう、栗原さん!」
玄関を開けると、必ず毎日山田が出迎える。
……近くに住んでるのか? きっとまた人にバレないような場所に宇宙船を隠してるんだろうけど。今更気にしたってしょうがない。
「……おはよう」
玄関に鍵をかけて――伸びている山田の手を握る。
……本当、毎日毎日、嬉しそうな笑顔を向けてくる。背が高くて、手もちゃんとしたゴツゴツとした男の人の手。顔はのっぺらぼうなんかじゃなく、目鼻立ちのハッキリとしたイケメン。髪も薄茶色のサラサラとした髪だ。……タコ宇宙人の山田が恋しい。未だにこの姿の山田に慣れない……どんだけ洗脳されてんだ、私。
「どうしたの、栗原さん」
「いや……山田の人間の姿になかなか見慣れなくて」
どうにも騙されてる感が半端ないんだよね。そりゃ表情わかるのは嬉しいけどさ……所詮偽りの姿だから。
もしかしたら別の人間と入れ替わってるんじゃないかと不安になる。山田だとわかってるけど、別の人といる感覚なんだよね。
「俺も変化を解きたいけど、他の人間にバレたら大変だから。二人きりになるまで我慢してね」
「うん……」
なんだか恥ずかしくて視線を逸らして頷いて答えた。
チラッと山田の方に目を向ければ、嬉しそうに笑ってギュっと手に力を込めた。
「栗原さんって本当に可愛いね」
きっと周りが聞けばびっくりするような発言だろうけど、私は純粋に嬉しくて返事をする代わりにちょっとだけ握り返してあげた。
◇ ◇
「ったく、あんたはいっつも遅いな」
昼食時間、山田との待ち合わせの場所へ行くと、当たり前のように宇宙人ヒデオ――今は人間の姿である『前田英雄』が座って呆れ顔でこちらを睨んでる。
こいつもそういう設定にしているのか知らないけど、山田に負けず劣らずのイケメン青年になってる。山田よりも色黒で、黒髪のツンツンした短髪。パっと見、スポーツをやっているようなガッチリしたような男性に見える。……まぁ、中身は山田と一緒でタコなんだけど。
「私、別にあんたに待ってほしくないんだけど」
「うっせぇな。しょーがねぇだろ。別にあんたらの邪魔する気はねぇんだから気にすんなよ」
ふん、と肘をつくと、買っていたのだろうサンドイッチに被りついている。
「まぁまぁ栗原さん。英雄さ、この調子だから俺ら以外に友達いないみたいなんだ、大目に見てやってよ」
「あっ……」
「先輩、余計なことは言わなくていいんすよ」
チッ、と舌打ちをした後不貞腐れたようにサンドイッチを再び食べ始めた。
「……まぁ英雄のことは置いておいて……。待ち合わせ時間に遅れてごめんね。講義に同じサークル内の人たちがいたからちょっとだけしゃべってくつもりだったんだけど……」
「あー、写真部だっけ?」
「うん。そうだよ」
私は前から少し興味があった写真部に入った。
今はスマホとかで簡単に写真も撮れちゃうけど、やっぱり実際に手に取れて、形として残せる写真も魅力的。写真の技術は全然ないけど、楽しく学べたらいいなぁと思って入部を決めた。
「今度写真撮りに近くの公園に行こうって話になったんだ。そこの公園、今いろんな花が植えられてるみたいでいい被写体になるんだってさ」
写真部の人数がそんなに多くない。私たちの学年でも、私を合わせて4人。先輩たちを合わせても10人行くか行かないかぐらい。
大人数だと疲れちゃうけど、それぐらいの少人数だと私は楽なんだよね。
「……その日ついていってもいい?」
「え、山田も? ……まぁ、別にいいと思うけど、一応確認するね」
山田は邪魔することはないだろうし、一緒だと私も嬉しいしね。
さっそく連絡とってみようっと。
私はスマホ操作、山田と英雄がそれぞれ売店で買ったおにぎりやらパンを食べていると――複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。
「すいませーん。何年生ですか? ずっと気になってたので声かけちゃいましたぁ」
「二人とも背高いし、めっちゃカッコいいですよね?」
「お二人一緒にいることが多いし、良かったら席移って話しませんか?」
「無理なら連絡先教えてください!」
急に聞こえたはしゃぐ女子の声に顔を上げると、化粧ばっちり髪のセットもばっちり、服もふるゆわ可愛い系でまとめた女子四人がいた。
四人は二人それぞれで山田と英雄を挟むように顔を向けている。
あーはいはい、いつものやつね。私の存在が見えないやつ。
いい加減この扱いにも慣れてきた。それより返事まだかなー?
と、視線を感じて少し顔を上げると山田がジーッと私を見ていた。大変イケメンな人間のお顔で。人間バージョンの時はこういう時にわかりやすくていいよね。
山田は隣に座る英雄にも視線を向けた。
「英雄、何か言ってあげなよ? 俺、栗原さんと席移るから」
「は?」
山田は睨み上げてきた英雄を無視し席を立つと、ニコニコ顔で私に手を差し伸べた。
「たまには二人だけで食べよっか。ね、栗原さん」
「……うん」
山田がそう言ってくれてるし、そうしよう。英雄と離れるチャンスだしね。
「おい、何勝手なこと――」
「え、待って待って! その人と知り合いなの!?」
ようやく女子四人が私の存在を認めたらしい。
……この展開、いつまで続くんだろ。
「え、何、どういう関係?」
四人とも信じられないと言った表情で、横に並んだ私と山田を交互に眺める。
……確かに、人間で山田ぐらいのカッコ良さなら、凡人の私は不釣り合いに見えるんだろうな。中身が宇宙人なんてわかるわけないしね。
そして、この宇宙人が次に発する言葉が容易に想像できたので、あらかじめ顔を背ける。
「婚約者だよ。じゃ、行こうか」
声も出せず唖然としている女子を後目に、私は山田に手を引かれるままその場を後にした。
◇ ◇
どこに行くんだろうと黙ってついて行けば、建物の裏にあるベンチにたどり着いた。
てか、こんなところにベンチがあるなんて良く知ってるなぁ。知られていないのか、周りに人の気配はない。
「今日は天気が良いけど、もし肌寒かったりしたら教えてね。上着貸すからね」
「うん、ありがとう。……なんか、山田すっかり人間っぽくなったね」
「まぁ、これだけ長く生活してると染みついちゃうよ。……さ、食べよう」
ビニールの中に入っているおにぎりを取り出して、器用にビニールを取り外す山田。
人間の姿で食べるせいなのか、おにぎりが不自然に消えていくこともない。ちゃんと口の中に収まって噛んでいる。
「……なんか変?」
「えっ! いや……人間のときってちゃんと人間の仕草になるんだなぁって思って」
「あぁ。まぁ、そういう風に見せてるだけだよ。……もしかして、この姿って栗原さん好みじゃない?」
山田は自信なさそうに視線を落とした。
いやいやいやっ! めちゃくちゃイケメンだよ! テレビでアイドルとしてデビューしてもおかしないぐらいに!
私は慌てて手と顔を横に振った。
「いやいや! 好み、というか、女子なら全員が振り返るぐらいに見た目はいいよ!」
「そうなの? なんかさ……なんというか……」
そう言いながら、珍しく言いにくそうに視線と落としチラッと私を見た。
「……さっきもそうなんだけど、最近の栗原さん、俺にあんまりかまってくれないよね?」
「……はい?」
え、どこが? さっきの何が?
かまってなかったら、こんな風に一緒に昼食を食べないんだけど。
「その、俺が言うのも恥ずかしいんだけど、俺が女の子たちに囲まれてもスルーしてるよね? ……どうしてかなぁって思ってさ」
思わず首を傾げてしまった。
「どうしても何も……いつものことじゃない? いちいち反応してたら身体が持たないよ」
「まぁそれはそうなんだけどさ」
「……ひょっとして、私に妬いてほしいの?」
「妬く……。それもあるかもしれない。……いや俺はもっとさ……」
そう言うと山田はベンチから腰を浮かせて、ぴったりと私の隣に座りなおした。
そして、空いていた私の手を掴むとそっと自分の口元寄せた。
「俺が栗原さんのこと好きだってこと、もっと周りに伝えてほしいなぁって。見せつけるぐらい表現したら、周りも静かになると思わない?」
そう言いながら、手の甲にチュッとキスを落とした。
そして、上目づかいでじっと見つめた後、にこやかに笑って見せた。
「……顔真っ赤になってるよ」
「いっ、いきなり変なこと言うから――!」
「栗原さんがそんな反応してくれるなら、もっと大胆な行動していこうかなぁ」
「だっ、大胆!? 人前では絶対にやめてよね!」
「えっ、じゃあ二人きりのときはいいんだね?」
自分でも顔が真っ赤にになってることがわかる。
その言葉を拒否する気持ちがない、むしろ、もう少し山田との関係を進めたいなぁって思ってる自分もいる。
――恋って恐ろしい、自分が自分じゃないみたいだ。
「はぁ……もう……。栗原さん可愛すぎる」
がばっと山田に抱きしめられた。――温かい。あのぶにぶにした感触の宇宙人じゃないけど、中身が山田だから気持ちは変わらない。
そっと顔を上げたら山田と目が合った。
あぁ、視線が合うのも人間化してるおかげなんだな――そんな風に見つめていたら徐々に山田の顔が近づいてきて――。
"ブーッ!!"
ポケットに入れていたスマホのバイブが鳴った。
「ま、待って! 返事が来たみたい!」
思わずぐいぐいと山田を押し返して、スマホを取り出した。
山田は残念そうに頭を抱えているけど、これは仕方ない。
「……愛ちゃんがいいよって。じゃあ今度の土曜日、一緒に写真部の活動に参加しようね」
「……うん。わかった」
私は顔の火照りを抑えながら、再びおにぎりを食べ始めた。
それを見て諦めたのか、山田も再び食べ始めた。
高校の時も散々振り回されたけど、大学生でも色々と振り回されそうな、そんな予感がした。
頑張って続きを書いていきたいと思います。




