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転校生、山田くん  作者: ぱくどら
高校一年生
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【某日某所にて、クラス女子会】

今回は山田も栗原も出ません。三人称です。

補足的なお話です。

 とある日の放課後――学級委員である橘千代を中心に、一部を除くクラスの女子全員がファミレスの一角を陣取っている。

 皆、注文した食べ物に手をつけることもなく、真剣な表情で顔を突き合わせていた。


「……最近の山田くんに関してだけど……みんな思うことは同じだと思う」


 橘の発言に、皆同時に頷いた。


「山田くんが栗原さんのこと気に入ってることは……間違いないわね?」


 認めたくないのか、皆、視線を落とし嫌そうな顔をしている。

 そんな女子たちの顔を見回した後、橘も大きくため息を吐いた。


「……みんな気持ちはわかるけど、現実を見なきゃ。みんなには、二人の動向を観察してもらったけど……何か変なところはあった?」

「変なところというか……もう……山田くんが栗原さんにアタックしてるようにしか……」


 一気に皆の肩が落ちた。

 

 そう――このところ、目に見えて山田が栗原を意識した行動をとっていた。

 授業で移動する際も常に隣をキープし、休憩中も常に視線を送り、昼ごはんも一緒に食べないかと誘う。

 栗原が図書委員のため図書室へ行く際は一緒に行く有様だった。


「……でも、救いなのが……栗原さんが全くその気がないっていうところかも」


 山田は近くにいるだけでドキドキするようなイケメンだが、栗原は山田が近くに来ようが全て無視をしていた。

 澄ました顔で本を読み続け、隣をキープされても目もくれずスタスタと早歩きをし、返答を求められても全て「結構です」しか言わない。

 

「ありえないよねぇ。もし、私が山田くんからあんな風にされたら……もう普通じゃいられないかも!!」

「私もあんな風にされたいぃぃ!!」

「ていうか、山田くんなんで栗原さんなんだろうねぇ?」


 皆顔を見合わせ、首を傾げた。


「……背、高くければ低くもないし、太ってもないけど痩せてもないよね」

「髪も短くもないし、長くもなくて……セットしてるわけでもなさそうだよね」

「勉強も運動も、普通、だよね」

「……というか、あんまりしゃべらないよね」

「……普通、というか……普通過ぎて地味だよね」


 うーん、と唸る。

 栗原は特に特徴のない女子だった。ゲームで例えるならば、絶対にモブのような存在だろう。

 常に一人で、誰かに話しかけることもなければ、一人だからと悲しんでいる様子もない。

 日々淡々と学校生活を送っているように見えた。

 たまに話しかければ、驚いた様子を見せるものの敬語で簡潔に返してくる。

 男子も女子も、好きでもなければ嫌いでもない――そんな存在だった。


「……栗原さんて、私たちが話しかけた時は多少慌てた様子見せるよね?」


 真剣な眼差しで視線を落とす橘。

 

「うん。きっと、話しかけられるとは思ってなかったから驚いてるんだよ」


 ははっとみんなが笑う中――橘だけは表情を変えなかった。

 何か考えているのか黙り込んだまま、テーブルを睨み続ける。


「……千代、どうしたの?」

「栗原さん、山田くんが話しかけた時……慌ててないよね? 普通に無視してない?」


 段々と皆の顔が真顔になっていく。

 そう――栗原は誰が話しかけても、ビクッと身体を震わせるのだ。

 それが、山田の時は違う。まるっきり無視だ。


「……栗原さん、本当に、山田くんのこと嫌いなんじゃない?」

「え? マジ? あんだけかっこいいのに!?」

「あ、わかった! 誰か別に好きな人がいるとか!?」


 全員の目がキラッと鋭く光る。

 橘も伏せていた視線を上げ、少し高揚気味に口を開いた。


「そうよ……きっとそうよ! たぶん、誰か別に好きな人がいて、その人に誤解させたくないから無視してるんだわ! 今山田くん、すっごいしつこく栗原さんを追いまわしてるじゃない? だから、山田くんに対してだけ冷たく接してるのよ!」

「そうかもね……! 山田くんとしゃべったりしてたら、きっと男子も好きなんだって勘違いしちゃうもんね」

「そう! ……だとしたら……みんな、山田くんを諦める必要なんてない!」


 にやりと微笑む橘の姿に、その場にいた全員が顔をほころばせる。

 火照る顔を両手で押さえる子、隣同士で手を取り合う子など……それぞれで喜びを爆発させていた。

 橘はごほんと咳払いをした後、コップの水を一口含み、喉を潤した。


「……山田くんに栗原さんを諦めさせれば、私たちにも目が出てくるわ。けれど、直接訴えると……もしかしたら山田くんに嫌われるかもしれない。だからと言って、栗原さんに強く迫るようでは山田くんの心象を悪くしかねない。……つまり……みんなわかる?」


 お互い、視線をぶつけ合う。合っているかどうか自信がないらしい。

 けれど、一人の女子がぼそっと声を出した。


「……キューピット」


 ハッと息を呑む声が漏れた。

 そして、橘はバンとテーブルを叩いた。


「それよ! 栗原さんの恋を成就させてあげるの! そして、山田くんにはすっきり諦めてもらう。……どう、みんな?」

「……そうかぁ、栗原さんに彼氏ができたら……」

「山田くん、栗原さんを諦めてくれるかも……!」


 ひそひそと嬉しげな声に、ニッコリと橘は微笑んだ。


「決まりね。……でも、いつ栗原さんが山田くんに心変わりするかわからないから、なるべく早めに成就させてあげましょう。まぁ……まずは相手が誰かを確かめなきゃいけないんだけども……みんな協力してくれるわね?」

「オッケー!」「もちろんだよー!」「まかせてっ!」

「ありがとう。一応山田くんにも、栗原さんにも、このことは黙っておいてね。変に意識させちゃって、二人がうまくいっちゃったらダメだから」


 橘はグッと拳を握る。


「名付けて、恋のキューピット作戦よ!! 栗原さんの恋を成就させるわよ!!」

「おー!!」

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