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転校生、山田くん  作者: ぱくどら
高校二年生
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恋愛相談

 夏休み終わって始まった二学期。気のせいか、みんながこんがり日焼けしてる気がする。……きっといっぱい出掛けたんだろうなぁ。

 ……私は何したっけ。橘さんたちと花火大会に行った後は……とくにイベントもなかった。橘さんと二、三回会ったぐらいかな。山田とは、吉村さんに会ったあの日から会わなかった。あいつ、たまに電話するとか言ってた癖に全然かかって来なかったし、その上こっちからかけても繋がらない。

 まぁ……学校には来てるみたいだし、体調不良ではなさそうだから良かったけど……まだ考え込んでるのかな。


「――……いつまでも夏休み気分でいるんじゃないぞー。気を抜くなよー」


 そんな担任の呼びかけで、また学校生活が始まっていく。


    ◇    ◇


「二人とも、夏休みはどこかへ行ったりしたの?」


 昼食のとき、橘さんがニヤリと笑いながら私と山田を見る。

 ……橘さん、期待させて申し訳ないですが……。


「……どこにも行っていません」

「え? どこにも? 会ったりはしたんでしょう?」

「花火大会以降、会ったのは一度きりです」

「……嘘でしょう」


 目をまん丸にして驚いてる。一方で、山田は無言のままパンを食べ続けてた。……あんたも何か言いなさいよ。

 でも、そこまで驚かなくてもいいのに。こうやって学校が始まればまた会えるんだし。


「栗原さん。今日の図書委員、一緒に行かせてもらうわ。ちょっと話し合いましょう」

「えっ!? ……は、はい」


 そう言うと橘さんは再びお弁当を食べ始めた。話し合うって何を話し合うんだろ。


「ごめんね、俺は先に帰らせてもらうから。……橘さん、栗原さんをよろしくね」

「……わかったわ」


 橘さんはそう言ったものの、ムスッとした表情で山田を睨んでた。でも山田は気にする様子もなく、パンを再び食べ始める。……なんか空気が重い。


 午後の授業も受け終えて、あっという間に放課後になった。

 昼の宣言通り、山田はHRが終わると教室から出ていき、橘さんは私の元へと来てくれた。


「……ちょっと、ケンカでもしてるの? 宇宙人なんか暗いわよ」

「ケンカはしてないんですが……最近考えごとしてるみたいです」

「大丈夫なの?」


 ヒデオって人に会ってから調子がおかしいんです――……って言ったら、きっと橘さんは一年の教室に乗り込むよね。……うん、言わない方がいい。もしそうなったら、今度は橘さんの身が危ない気がするし。笑って誤魔化そう。


「……大丈夫ですよ。ほら、図書室へ行きましょ」


 そう言って、橘さんと一緒に図書室へと向かった。



 図書室は相変わらずだ。私が担当の日は女子の数が目に見えて多い。でも今日は一緒に来たのが橘さんだったので、みんな小さくため息を吐いて図書室から出て行く。ごっそり減った女子のおかげで、今日は一段とがらんとしてる。これなら後ろの控室で橘さんと話せるかな。よし、今日は初めから後ろの部屋に籠ってしまおう。


「……椅子ありがとう」


 埃を払って橘さんに椅子を用意する。……話し合うってなんだろ。


「まずそうね……夏休み期間中、二人で会わなかったって本当なのかしら?」


 腕組みをして橘さんは鋭い視線で私を見つめる。


「は、はい」

「栗原さんはそれで良かったの?」


 それで良かった、とは……。

 理解できずに返事できずにいると、橘さんは呆れたように大きくため息を漏らした。……え、なんで。

 

「栗原さん、私は宇宙人の事情なんて知らないし、あいつが何を考えてるかなんて想像もできないわ。でも、栗原さんのことは応援したいの」

「はい……」

「勇気を振り絞って告白して、堂々と付き合ってるって言える関係なのよ? 栗原さんはもっとワガママになっていいと思うわ」

「ワガママ……ですか」

「そう。そりゃ……相手が人間じゃないし、何をしてくるか分からない不安はあるけど……それでも栗原さんの好きな人なんでしょう?」

「はい……一応」


 改めて言われると未だに恥ずかしい。

 視線を落としてると、また橘さんからため息が聞こえた。


「……今のままでいいの? いつか目の前からいなくなるのよ? そのとき後悔しない?」


 ――いなくなる。胸がチクッと痛くなる。

 ……山田と過ごす学校生活はとっても楽しい。今いなくなった後のことなんて考えられないし、考えたくもない。でも……その日はいつかやって来るんだ。


「……そんな顔しないで。もう……あっさり残れって言ってみるのはどう? 今だって周りを誤魔化せてるんだし、この先もうまくいくと思わない?」

「……どうなんでしょうか。私も、できれば残ってほしい気は……」

「それ。それを宇宙人に伝えた?」


 橘さんにじっと見つめられつつ思い出してみる。……ポロっと口に出てしまったことはあるけど……直接本人に伝えたことはない。

 ……でも、伝えたところでどうにもならない気がする。


「伝えてないのね。じゃあ今度言ってみれば良いじゃない。言わないと何も始まらないわ。言わないで後悔するよりも、ダメ元でも言った方が絶対にマシよ」


 確かに……そうかも。

 山田が色々考えてるのは間違いないけど……だからって私が遠慮することないのよ。そうじゃなくても今まで散々振り回されてきたんだし……たまにはガツンと――!

 

「……わかりました。今度言ってみます」

「うん。それがいいわ。あとは……そうね……カップルらしいこと、かしら」

「か、カップルらしい、こと?」


 突然何を言い出すんですか……。

 橘さんは顎に手を当てて何か考えてるみたい。……嫌な予感。


「うーん……やっぱりアレしかないわ」

「アレ?」

「……栗原さん、今度不意打ちでキスしちゃいなさいよ」

「はい!?」


 何言ってるんですか!? 

 でも橘さんはニコニコと笑って、言葉を続ける。


「前、キスされそうになったって言ったでしょう? ということは、向こうもそういうことをしたいって思ってるってことだと思うの。その辺りはやっぱり男なのね。でも、宇宙人だし栗原さんが襲われて何かあったら嫌だから……やっぱりキスじゃないかしら。相手もしたがってるみたいだし、この際しちゃいなさいよ」

「なっ、何言ってるんですか!?」

「えー? 普通、付き合ったらそういうことしたいって思うのだけど。……栗原さんはそういうこと思わないの?」

「わっ……私は……」


 そりゃ好きだけど! でも……でも……あいつ解けるんですよ!!

 って……想像したら顔が火照ってきた……! なんてこと言い出すんですか、橘さん!!


「顔赤くしちゃってー。栗原さんもやっぱり思ってるのね」

「えっ、い、いや……その……! で、でもですね! 向こうが解けるんです! そんなの無理です!!」

「だから不意打ちって言ってるじゃない」


 悪戯っぽくニヤリと笑みをこぼす橘さん。

 なんか物凄くからかわれてる気がする……。


「……ま、するかしないかは栗原さんにまかせるけれど、宇宙人が元気がないのは明らかなんだから、何か元気づけてあげれば? きっと喜ぶと思うわ」

「……は、はい」

「私が言いたかったのはそれだけ。じゃ、頑張ってね」


 そう言うと橘さんは立ち上がり、にこやかに控室から出て行った。

 私が……山田にキス? ……。む、無理無理!! っていうか、あいつが起きてるのか起きてないのかもわからないのに、不意打ちなんて無理ですよ! ……解けなきゃいいのになんで解けるのよ……。……あーどうしよう!

 橘さんが急にこんなこと言ってきたのって……たぶん、山田が見るからに元気ないから、かなぁ。うーん……キスは置いておいて……今度山田に何かしてあげよう。今までのお礼のこともあるし……何がいいかな。

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