七夕
今日が七夕だったので急きょ書いてみました。読みづらい箇所がありましたら申し訳ないです。
明日七夕ということもあってか、町のあちこちに短冊がついた笹が飾り付けられてる。
……七夕かぁ。一年に一度しか会えない織姫と彦星、ね。ロマンチックに聞こえるけど、実際どうなんだろう。
「ねぇ、さっきから葉っぱが飾り付けられてるけど、何か意味があるの?」
隣を歩くタコ宇宙人――山田が首を傾げ私の方を向く。
表情が見えたなら、不思議そうに笹を眺めてたに違いない。ま、宇宙人に七夕なんていうのはないだろうしね。知らなくて当然だよね。
「あれは明日が七夕だから飾り付けてるの。詳しい理由は知らないけど……私が知ってる七夕に関する話は、織姫と彦星って人がいて、お互い好き合ってるのに会えない二人だったんだけど、会いたいってお願いをしていたら、七夕の日の年に一度だけ会えるようになったっていう話。だからみんな笹に、願いを書いた短冊を書いて吊るしてるのよ」
「へぇ。面白い話だね。そうすれば何でも願いが叶うの?」
「ううん、あくまで願いだから叶うってことはないと思う。……でも叶ったら素敵だと思わない? 現実は甘くないだろうけどね」
話しながら歩いてたんだけど、山田が来てないことに気付いて足を止める。
振り返ってみたら、その場に立ったまま笹の方を向いてた。……何考えてんだろ。
「……どうしたの」
「栗原さんは何か願いはないの?」
「私? ……別に今はないけど」
……まさか願いを叶えるとか、変な事を考えているのでは。
「あの……山田のテクノロジーが凄いのは認めるけど……そこまでしてくれなくてもいいから」
「えっ、俺の考えてることわかったの!?」
「どうせ、私の願いを叶えてあげるとか、そんなこと思ってたんでしょ? ……別にいいから。私は雰囲気だけ楽しめればいいし……」
山田は、ありえないことをやってのけるから性質が悪い。もしかしたら山田が宇宙人だってバレちゃうかもしれない。
っていっつも心配してあげるのに、本人は全然気にしてないよね。……バレない自信でもあるのかな。
「雰囲気かぁ。……じゃあさ、明日どこかに行かない?」
「それは構わないけど……あ、じゃあ、星見ようよ」
「星……? どうして?」
「織姫と彦星っていうのは星のことなの。良い機会だし、じっくり見たいなぁって思って」
「あ、そうなんだ! うん、じゃあそうしよう」
◇ ◇
七夕の日に星を眺めるなんて、今までの私なら絶対にやらなかっただろうなぁ。だって一人で星眺めて感傷に浸るなんて……なんか寂しいし。
そんなことを考えつつ授業を受けてたんだけど……朝からハッキリしない天気は、夕方になるにつれてどんどん暗くなって……最後のHRが終わる時には、雨がどしゃぶりに降り始めた。……これじゃあ星なんて眺められない。
「ひどい雨ねー。ゲリラ豪雨ってやつかしら。栗原さん、傘は持ってきた?」
「え。あぁ……一応」
かばんを持って今にも帰りそうな橘さんが声をかけてくれた。
「……どうしたの、元気ないみたいだけど」
「い、いえ……。雨に気をつけて帰ってくださいね」
「うん。栗原さんもね。じゃあまたね」
さわやかな笑顔で手を振ってくれて、橘さんは教室から出て行った。……まさか、今日山田と二人で星を眺めるなんて、恥ずかしくて言えない。まぁそれは置いておいて……この天気じゃ星眺められないよ。雰囲気も何にもないし。まぁ、まだ梅雨だもんね……仕方ないか。山田に今日はなしって言いに行こう。
「山田、今日のことなんだけど……」
「うん、雨がひどいよね。だから、俺の拠点に行こう」
「……はい?」
なんで拠点に……? 考える私に構うことなく、山田は私の手を取るとそのまま教室から出て行く。
ちょ……無理矢理連れていくつもりかい! 何考えてんのよ……!
「ちょ、ちょっと! まだ私行くとは――」
「大丈夫、大丈夫。怖いことなんてしないから」
足を踏ん張っても意味はなく……そのまま山田の拠点まで連れて行かれてしまった。
◇ ◇
……久しぶりに来たな、ここ。
黒い穴のワープを使って、山田の拠点にやってきた。金属板が張られた床を進んで、あの不思議な透明のツリーの前まで移動する。……たぶんだけど、このツリーが山田の拠点の重要な役割を果たしているんだと思う。山田はツリーの前にある画面でタッチをしながら操作を始めた。
「……何してるのよ」
「雨だけど星を見せてあげたくって」
「まさか宇宙船でも飛ばすの?」
「それは難しいから別の方法でするよ。……ちょっと待ってね」
難しいってことは不可能ではないんだ。山田の技術ってどれぐらい凄いんだろ。……あんまり考えないようにしよう。
……あれ、ツリーの土台の下に笹が落ちてる。なんて不釣り合いな……ん、これってもしかして。
「ねぇ山田。そこに笹が落ちてるけど……もしかして、用意したの?」
「……ん、あぁ、そうだよ。俺も真似したくなったんだ。せっかくだし、体験してみようかなぁって」
山田の後ろから回り込んで笹の葉を拾い上げる。小振りな笹の枝から葉が数枚垂れてる。
「……短冊も用意してるとか?」
「うん。俺の部屋にあるよ。あ、良かったらこっちに持ってきてくれないかな? 部屋に入っても構わないから」
そう言われたので、一度入ったことのある山田の部屋へ向かう。
自動ドアが開いた先に、ほとんど物がない小さな部屋がある。ここが山田の部屋。ベッドと椅子、そして机の上に……あった、短冊とペンもある。手に取って、っと……。
「……持ってきたよ」
「ありがとう。……よし、これで準備はできた」
パネルに操作をし終えた山田がこっちを向いた。……何の準備してたんだろ。
パネルを覗き込んでもやっぱりわからない。そもそも何が書いてあるのか理解できないし。
「今からこの空間を星で満たすよ! 見ててね」
「星で、満たす? ってどういう――」
言い終わる前に――突然辺りが真っ暗になった。天井も壁も床も、全部真っ黒。まるで自分が宙に浮いてるみたい。後ろにある青白いツリーはそのままで、黒い空間の中青白くぼんやりと発光していて綺麗だった。
「……よし、じゃ一緒に星を見よう」
そう言って手が握られる。……ん、あれ、赤い丸い手じゃない。ちゃんとした五本指の大きな手のひら。それに声だって……。
まさかと思って顔を上げたら、イケメンバージョンの山田だった。
「なっ、なんで人間になってんの!?」
間近で見る見慣れないイケメンに思わず身体を引いた。長い手足に身長の割りに小さな顔、サラサラと流れる薄茶色の短髪に綺麗なパッチリとした目。その目は真っ直ぐ私に向いて、嬉しそうにニッコリと微笑んだ。
「ビックリした? せっかく二人きりだし、ここなら人間になってもバレないと思って。ほら見ててね、今から星が出てくるから」
……山田が笑ってる。イケメンはともかく……山田の表情がわかるのが新鮮。人間の姿も嫌いじゃないけど、表情がわかることが良いよね。……前見て上を見上げてる。視線もどこ向いてるのかわかるんだ……。
「……栗原さん、見たくないの?」
っていきなり山田がこっちを向いた!
「も、もちろん星見るわよ!」
「良かった! もうすぐだよ」
慌てて前を向く。……な、なんかドキドキしてきた。手の感触もちゃんと手のひらだし……なんか別の人とこの空間にいるみたい。
すると――真っ暗だった空間に、小さな星が次々の浮かび上がってきた。大きな光だったり、今にも消えそうな星だったり。それが空いっぱいに広がってる。……すごい。
「ほら、足元にもあるんだよ」
そう言われて見下ろすと、足元にも星が広がってる! ただの床だったはずなのに、まるで自分が宇宙空間にいるみたいに大きな星や小さな星が足元にある。……なんか本当に宇宙の中にいるみたい。どうなってるのこれ。
「気に入ってくれた?」
「うん……凄くて、なんて言えばいいのか。本当に綺麗で、宇宙空間にいるみたい……プラネタリウムより凄いと思う」
「今まで記憶してた宇宙空間を床や壁や天井に映し出してるんだ。実際に星を見上げれたら良かったんだけど、これでも雰囲気が楽しめるかな?」
「雰囲気、というより……本当に宇宙に来たみたい。想像以上だよ……」
目の前に広がる星たちに圧倒されながら見上げ続ける。360℃星に囲まれるなんて……世の中そうそう体験できる人はいないんじゃないかな。本当に綺麗で、全然飽きがこない。
「……満足してくれたみたいだね。俺も嬉しい」
思わず山田の方へ視線を戻すと、目を細めて本当に嬉しそうに笑ってた。
……いつもこんな顔で笑ってたのかな。
「どうしたの? 俺の顔、おかしくなってる?」
「いや、そうじゃなくて……いつも山田の表情わからないから、それが今ならわかるから新鮮で」
「あぁなるほど。俺はいつも栗原さんのこと見てるよ。笑ってたら俺も笑ってるし、嬉しいなら俺も嬉しい。……でもやっぱり、表情がわかるこっちの方が、栗原さんにとって良いのかな?」
首を傾げて、じっと私を見つめる。
……ちゃんとこっちを見てくれてるんだ。確かにこうやって相手の反応がわかることは、私にとっても安心感を与えてくれると思う。でも……やっぱりこの姿はちょっと違う。山田は山田なんだろうけど、本来の姿じゃない。
「……私は、いつもの山田で慣れてるから。今みたいに教えてくれてもいいし、私が察することもできるし、どうしてもわからなかったら聞けばいいんだし。それにいつも人間のフリして疲れるでしょ? ……私のことは気にしなくていいから、素の山田のままでいいよ」
そう言うと一瞬、山田の目が見開いて驚いたような表情になる。けど次の瞬間には、顔の皮膚が垂れていつもの赤い表皮に覆われていく。……相変わらずのグロさ。それはあっという間に全身に覆ったみたいで、繋がっていた手もいつもの丸い赤い手になってる。
山田は空いてる手で顔を抑えつつ、何かを堪えるように顔を少し背けた。
「……栗原さん、後ろのモニターのところで短冊にお願いを書いてくれない? それで笹に吊り下げて」
「え? あぁ……うん。……どうしたの顔を押さえて。大丈夫?」
「だ、大丈夫だから気にしないで」
山田は繋いでいた手を離して、ブンブンと横に振った。……まぁ、いいか。
せっかくだから短冊にお願いを書いちゃおう。……こんな宇宙空間みたいなところでお願い書くなんて、私ぐらいしかいないだろうなぁ。……んー何しよう。……山田が隣にいる手前、恥ずかしいことは書けないよね……無難に書いてしまおう。
『楽しい学校生活が続きますように』
うん。これでいい。
これで笹に括りつけてっと。
「山田、書いて吊るしたよ?」
「ありがとう。……なるほどね、今のままならきっと楽しい学校生活が送れるよ」
受け取った山田は私の短冊を見た後、それをツリーの根元に立て掛けた。
宇宙空間に淡い光を放つツリーと不釣り合いな笹の葉。……なんか現実の世界じゃないみたいだなぁ。
「ありがとう山田。……こんなに七夕を満喫したのは初めてだと思う」
「本当! 良かった、色々準備した甲斐があったよ。じゃ、空間を元に戻すね」
そう言って山田がモニターを操作すると、あっという間に元の無機質な宇宙船内部に早変わりした。
……なんか現実に引き戻された感じ。でも、ちゃんと立て掛けられてる笹はそのままだった。
「どうしよう、その笹、私が持って帰ろうか。邪魔でしょ?」
「え? ……俺がもらっちゃダメかな」
「……別にいいけど」
「やった! 大事にするね!」
そう言うと山田は両手で笹を掴み、大事そうに笹を持ってる。……まぁ何に使うかしらないけど、気にすることはないか。
年に一度の七夕の日。今日は一生に一度もないような、素敵な体験ができた。……ありがとう山田、来年もあればいいな。




