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転校生、山田くん  作者: ぱくどら
高校二年生
27/49

告白

 体育館の裏手に向かって、山田の少し前を歩いてる。体育館の裏手は人が来ないから場所としては最適。……二人きりという状況は心臓が喉から飛び出そうだけど、人に見られる方が死ぬほど恥ずかしい。

 というか、自分がまさかこんな状況になるなんて……。そもそも、誰かを好きになる気がしなかったし、好きになったとしても告白する勇気なんて絶対にないと思ってた。人間やろうと思えばできるものなんだ。

 ……って現実から目を背けるな! 心臓がバクバクして止まらないし、顔はさっきから火照りっぱなし。こんな状況で告白できるの……? 山田に顔も向けてないのに。


「ど、どうしたの栗原さん……さっきから黙ってるし、なんでここに?」


 体育館裏について足を止めると、後ろからしゃがれ声が聞こえた。

 背中を向けてたけど、ゆっくりと山田と対面する。でも、顔が上げられない。

 ……心臓の音が耳に響く。緊張して手が震える。


「そっ……その……」


 声がかすれる。……何で。あれだけ山田と普通にしゃべってたじゃない。いつもみたいに山田に話しかければいいだけよ。ただその内容が、いつもと違うだけ。それだけなのに……恥ずかしくて、踏み出せない……!

 顔を俯かせて、緊張をほぐそうと深呼吸を繰り返してたら……山田の赤い足が見えた。と同時に私の両手が山田の手に包まれる。


「大丈夫!? 顔真っ赤だし、手震えてるし、体調悪いんでしょ!? 今、保健室連れて行くから!」


 そう言うと、山田は少し屈んで私を横抱き――お姫様抱っこしようと、膝裏に腕を通し抱え上げようとする。


「え、ちょ、ちょっと違う! 大丈夫だから! 体調は悪くないの!!」

「……そうなの?」


 山田を睨み上げ必死に否定すると、抱え上げられそうだった身体を降ろしてくれた。……あ、危なかった、色んな意味で。

 

「でも、顔赤いよ? どうしたの」

「そ、それは……あんたに……言いたいことがあるから」

「言いたいこと?」


 ……落ち着いて。深呼吸して……うん。叫んだおかげで声は出る。

 あとは……伝えればいいだけ。


「あの、ね。私……やっと気付いたことがあって……それを伝えたくて」

「あぁそうなんだ」


 山田はいつもと変わらない。……私が言ったらどんな言葉で返すんだろう。

 ……ここまで来たのよ。言え、私!!


「わ、私……山田のことが好きなの!!」


 ……い、言っちゃった!! 恥ずかしい……!!

 顔上げられないし、顔が沸騰しそう!


「……え?」


 短く小さなしゃがれ声。でもそれは、明らかに戸惑いの色がある。

 ……あ、れ……もしかして……迷惑だった……? どうしよう、だとしたら……誤魔化すべき? 言わなかったことにして、今まで通り山田と接した方がいいのかな。でもそれは……悲しい。悲しいけど……仕方ないんだ。


「び……ビックリ、した? はは……そうよね、そうよね! 私、ただの実験体候補だよね……こんなこと言ってもあんたが困るだけだもんね」


 笑え。……笑って私。じゃないと涙が溢れそう。


「ご、ごめん急に変なこと言っちゃって……あんたの休憩時間奪ってごめん……。もう変なこと言わないから……教室、戻ろう」


 回れ右して山田に背を向ける。……泣くの我慢できそうにない。

 どうしよう、このまま教室帰っても目立ちそう。体調不良で保健室に行ってしまおうか。……嘘は嫌だけど、泣き顔なんて誰にも見られたくないし。

 ――そんなことを考えていたら、突然、後ろから腕を引っ張られた。バランスを崩して後ろに倒れかけるものの、身体を受け止めたのは温かなものだった。


「……え?」


 気付くと赤い腕が後ろから伸びて私の肩を抱いてる。頭にも温かい何かが乗ってる。

 ……え、これ……山田が……後ろから抱きついてる……?


「え、ちょ……ちょっと……」


 ……み、身動きが取れない。山田は黙ったまま、顔を私の頭に押し当ててるみたいだった。頭のてっぺんがぽかぽかする。視界に入っている赤い腕も、いつもよりも赤く見える。


「あ、あの……や、山田? い、いきなり……何を」

「栗原さん……さっき言ったこと、本当?」

「さ、さっき……あ、あぁ、変なこと言っちゃったことね、それは――」

「俺を好きって言ってくれたこと」


 な、何これ。全身が心臓みたいにバクバクする……!! 

 すると、山田は少し身体を離して肩を持つと、私の身体をくるりと回転させた。

 うわ……し、正面に向かされた。こ、これじゃ……顔が火照ってるのが見えちゃう。でも……全神経が山田に集中してて、身体が動かない。見上げればすぐ目の前に山田の顔……息まで届きそうな気がする。


「……本当?」


 いつもよりもしゃがれてる。でも切なげに耳に届いたその言葉は、まるで魔法のように一気に私を高揚させ、身体を余計に強張らせる。

 声を出せる自信もなくなって、怖々と頷いて答えるしかなかった。


「嬉しい」


 そう呟くと同時に、山田は私をギュっと抱き締めた。私の頭のてっぺんにも山田の顔が当たって、全身包まれてる感覚。

 緊張で身体は全く動かない。心臓がバクバクして、絶対山田にも伝わってる。こ、こんなに誰かとくっつくなんて……初めてだ。

 ……温かくて気持ちいい。


 でも何か……。

 頭に当たる感触が段々とおかしくなってる気がする。なんだろ……何か垂れてる感じが……。


「あ、あの……山田? 顔……大丈夫?」


 そう言うと、頭に感じた何かが垂れる感覚がピタッと止んだ。そして、山田は腕の力を抜いてゆっくりと身体を離した。おかげで身体の緊張も少しほぐれる。

 ……何だったんだろ今の感じ。思わず頭に手を当てて確認するけど……特に濡れてる感じはない。


「……ごめん。今、嬉しすぎて解けそうに……」

「……は?」


 え、どういうこと……。


「大丈夫……何もないから」

「そ、そう……」


 今、もしかして……止めなかったら危なかったのでは……。

 疑いの目で山田をじーっと見ていたら、あいつ頭を掻いたり抱えたり、落ち着きがなくなってきた。……何いきなり。


「でもこの嬉しさどう伝えればいいんだろう……。俺も、人間だったら……栗原さんが同じ種族だったら……!!」


 ……私もそれはちょっと思うけど……さっきから雰囲気がおかしい。

 それに、なんとなく身の危険を感じる。


「……こういう時、人間はどういう風に伝えるの? 栗原さん、教えて」

「え……。……わ、私に聞かないでよ!!」

「まさか、栗原さんが俺のこと好きになってくれるなんて思わなかったから、全然知識を身につけてなかったんだ……」


 その割には、いきなり抱き締めたり手を握ってきたりしてきたじゃない。

 こいつの欲しい知識って一体……。


「あぁでも……今は言葉で伝えるのが一番かもね」


 そう言うと山田は腕を伸ばしてきて、優しく私の頬を摩る。先端が丸い腕。指なんてないのに、確かに優しく撫でてる感じがした。


「……俺も大好きだよ」

 

 こっ……このっ……! い、いきなりそんなこと言うなんて卑怯だ!

 せっかく冷めてた顔がまた火照っていくのを感じる。それを見たせいなのか知らないけど、山田は「ははっ!」と笑うと私の手を握り締めた。


「……さ、一緒に教室に戻ろう。お昼食べて、午後の競技に備えなきゃ。見ててね、俺、絶対一位取るから」


    ◇    ◇


 教室に二人で帰って橘さんの元へ行くと、私の表情を見るなりニンマリと笑われた。


「帰って来ないかと思っちゃったー。まぁ、二人とも早くお昼食べなさいよ。もうすぐ午後の部が始まるわ」

「うん、そうだね」


 そう言うと、山田は何事もなかったかのように椅子に座りパンを食べ始めた。……あんた、切り替え早いわね。私なんかまだ顔が火照ってるのに。

 まぁいいや……早くお弁当食べよう。


「……栗原さん、今日は色々疲れたでしょう? 午後はゆっくり応援しなさい?」


 橘さん……今、色々って部分が強調されてましたけど……。うぅ……全部筒抜けだ……。

 でも、本当、応援頑張ろう。山田と橘さんが参加するリレー、頑張ってほしいから。


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