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転校生、山田くん  作者: ぱくどら
高校二年生
23/49

山田くんの事情

 山田はストローでオレンジジュースを少し飲んでから、ゆっくりと語り始めた。


「俺はこの星より随分遠くの――鉱物ばかりある星から来たんだ。地上には水分はほとんどなくて、植物も地上には芽を出してないんだ。その代わり、変わった鉱物がゴロゴロしていて、地中にしか芽吹かない植物があったりしたよ。動物は俺みたいな種族しかいなくて……他にいなかったんだ。だからみんな必死になって自分の星について調べた。結果、自分たち以外には動物がいないってわかったんだ」

「食べ物とかはどうしていたの? 農業とかしてたの?」

「まぁそうだね、少なからず水分はあったし、植物もいくらか食べられるものもあったから、なんとか食い繋げてたよ。でもやっぱり不安は拭えなくて、他の種族がいるかもしれない外の星に興味を持ち始めたんだ」

「へぇ……」

「それから俺たちは様々な鉱物を元に色んな技術を開発したんだ。おかげで星の文明は豊かになったんだけど……それでも他の星へと興味はなくならなかった。もっと興味をそそられる素材があるかもしれない、知らない種族がいるかもしれない――元々研究熱心だった俺たち種族は、ますます研究に没頭し始めたんだ。色々な星々を巡って――この地球を見つけたんだ。俺もね、元いた場所じゃ研究員だったんだよ」

「山田が……研究員。……じゃあ山田って元々本当に頭が良かったんだ」


 研究熱心な宇宙人……。

 そりゃそうよね……じゃないと宇宙船とか、瞬間移動なんてできるはずないし。そう考えると、やっぱり山田ってちょっと危険な宇宙人なのかな……。そう考えたくはないんだけど。


「で、上司からね、直接地球へ行って調べてこいって言われたんだ。それで調べるだけじゃつまらないから、人間に見えるようにして仲良くしようって思ったんだよ。で仲良くなった女の子をお嫁さんとして連れて帰っちゃおうかなぁ、なんて考えてたんだけど……難しいね」


 そう言葉を切ると、オレンジジュースを飲み始めた。

 ……なんというか、この説明じゃ今までと何にも変わってない。もっと……もっと突っ込んだ話にしなきゃ。……やっぱりハッキリ聞くしかない。


「……その上司の人から指示されてるから、お嫁さん探しもサンプル集めも止められないの?」

「……え、どうしたの急に」

「私が一番の実験体だったけど、正体ばれて連れて帰れない。だから吉村さんに近づいたんでしょ?」


 ハッキリ聞くと山田は良い返事をしない。案の定、山田は少し黙りこんでしまった。

 でも……いつまでも、このままじゃ何にも始まらない。山田が何か悩んでいるのは間違いないし、それが私に言いづらいことも間違いない。でも相談に乗れる人物って私ぐらいしかいないじゃない。だったら……どんな内容でも聞いてあげたい。

 だから、私も引かない。


「私、あんたが今悩んでることを知りたいの。前、心配しなくていいって言ったけど……そんなの無理、できない。気になってしょうがないから」

「……大丈夫だよ。吉村さんのことは本当に何とも思ってないし、栗原さんに迷惑かけないし、もちろん橘さんにも――」

「違う。山田が思い詰めて、一人で悩んで、前みたいに体調崩したりしたら……私はあんたのことが心配なの」


 山田が背けずに真っ直ぐ私へと顔を向けてる。


「話してくれなきゃわからない。だから悩みを聞かせて。その上で協力できることがあるなら、なるべく協力するから」


 顔を向けてるけど、本当に私を見てくれてるのかもわからない。今、目の前にいるのは人間じゃない。でも、今はそんなこと関係ないんだ。私は山田のことを信頼してるし頼りにしてる。理由なんてそれだけで十分だから。


「……栗原さんが俺に興味を持ってくれたように……俺も少し、考えが変わったんだ」

「……変わった?」


 弱々しい声色で、どこか悲しげに聞こえる。今、一体どんな表情で話してるんだろう。


「それは――……いや」


 言いかけた言葉を飲み込み、山田は困ったように頭を掻いた。一旦、私から顔を背けたものの、またすぐにこちらへと顔を向ける。


「……じゃあ一つ、お願いしてもいい?」

「何?」

「今まで通り、俺と一緒に時間を過ごしてくれないかな。学校行事もそうだし、今日みたいにたまには一緒に出掛けたりもしたい。俺、栗原さんと一緒にいたいんだ」

「そんなこと――」

「その代わり、俺が宇宙人ってバレないか心配してくれてるみたいだから、俺ももう、お嫁さん探しとかサンプル探しはしないよ。約束する」

「……えっ」


 ……聞き間違えじゃないよね。今、お嫁さん探しもサンプル集めもしないって……。


「……本気なの?」

「うん。栗原さんの回答次第だけどね」


 何その脅す感じ。それだったら答えなんて決まってる。


「わかった。あんたとなるべく時間を過ごすようにする。……でもそれって、今までと何ら変わらない気がするんだけど」

「うん。それがいいんだ。……良かった! 断られたらどうしようかって思っちゃった」


 どうしようって、嫁探しに没頭するだけでしょ。

 でも、なんか……あれだけ言ってたのに、あっさり覆すなんて……なんか逆に怪しい。


「……ねぇ、本当にそれだけで諦めたの? 何か信じられないんだけど」

「本当だよ。栗原さんの言葉で踏ん切りがついたんだ。ごめんね、心配かけちゃって。もう悩まないから。……さ、料理を食べないと。冷めちゃうよ」


 そう言って、ひじをついて楽な姿勢で顔を向ける山田。

 ……よくわからないけど、もう悩まないって言っているんだし、お嫁さん探しもサンプル集めもしないって言い切ったし……大丈夫なのよね。釈然としないけど、今は山田の言葉を信じるしかない。もし、また吉村さん時みたいに他の女子に目をつけたら、思いっきり頬を抓ってやる。


    ◇    ◇


 昼食を食べ終えると、アトラクションへと足を運んだ。そこはおばけ屋敷と脱出ゲームが合わさったアトラクションらしい。大きくて広そうな外観の黒い洋館。そこから長い列ができていた。


「本当、遊園地ってどこ行っても並ぶんだね」

「まぁそれだけ面白いってことなんじゃない?」


 そんな会話をして、いざ列に並ぼうとした時だった。

 突然、近くを歩いていた人が足を止め小さく「あっ」と声を漏らした。


「山田先輩!? きゃー、私服もカッコイイ!」


 甲高くて妙に大きな声は……山田と同時に顔を向けると、そこにいたのは吉村さんだった。でも……学校と雰囲気が違う。化粧をしてるし、いつもの地味な黒ブチ眼鏡じゃなくてコンタクトになってる。髪型もポニーテールではなくて、頭の上でお団子になってた。服装も……ゴスロリに近いフリフリした見た目がうっとうしい格好になってる。……地味子、どこ行った……。


「……え、吉村さん、なの?」

「も~何言ってるんですか~! 私ですよー? あ、そっか、先輩って化粧嫌いなんですよね。まさか会えるなんて思わなくて、バッチリ化粧しちゃいました~」


 えへへ、と笑う吉村さんだけど……どうやらこれが本性みたい。……やっぱり地味子は計算づくめの演出だったのか。


「一人で来たの?」

「違いますよ~、トモダチと二人で来たんですー。っていうか、先輩はデートですかぁ?」


 と、ここでようやく吉村さんの視線が私へ向けられた。私の足の先から頭までサラッと視線を流すと、フッと鼻で笑ってきた。

 ……何よ、その笑いは。


「栗原先輩、今日はいつもと違っておしゃれさんですねー。ま、いつもいつも地味なわけないですもんねー」


 この子……絶対私のこと馬鹿にしてる。

 早くどっか行きなさいよ。引きつりそうになり顔をなんとか堪えて、声を絞り出す。


「……連れの人の所へ戻った方がいいんじゃないですか?」

「あ。こっち呼んじゃいますね。ちょっとー」


 ちょっとって……呼び寄せるのかい!

 私の心の叫びもむなしく、すぐに吉村さんの連れがやって来たんだけど……男子だった。山田ぐらいの身長で、色黒のガッチリした体型。何かスポーツでもしてるのか、半袖から見える二の腕が鍛えられてた。


「あ……もしかして噂の山田先輩?」


 パッチリとした目が印象的な少し童顔の人だ。その割には耳障りの良い落ち着いた声色だった。……なんとなくだけど、モテそう。ていうか、山田のこと知ってるってことは同じ学校の人なのかな。友達っていうから女子だと思ったのに、まさか男子だったとは。


「え、ヒデオくん、山田先輩のこと見たことなかったの? ありえなくない?」

「そりゃ噂は聞いてたけど、わざわざ見に行くもんでもねぇし。……へぇ、良いツラっすね先輩」


 ヒデオと呼ばれた男子は、山田を見てフッと鼻で笑って見せた。……なんだろ、この二人どこか性格が似ている雰囲気がある。

 じっと見ていたんだけど、急に男子の方が私へ視線を移した。バッチリ目が合ってしまって、思わず視線を逸らす。


「……へぇ、あんたが山田先輩の彼女さん、か。……なるほど」


 何だろう物凄く威圧的な感じ。そう思っていたら、すかさず山田が目の前に立ち塞がった。


「もういいかな? 別に用事がなければ、俺たち移動したいんだけど」

「え~、先輩たちと一緒に遊園地周りたいです~。人数多い方が絶対に楽しいですよ~」

「俺は栗原さんと二人きりの方が楽しめるんだけど」


 ハッキリ言い切った山田に対し、吉村さんはムッと頬を膨らませていた。引き下がるかと思いきや……隣にいた男子がすかさず口を挟む。


「まぁいいじゃないっすか。先輩たちは脱出ゲームに行こうとしたんすよね? だったら俺たちも後ろに並んじゃいますよ。列は長いんだし、待ってる間、話し相手にでもなりますから。ほらほら、並びましょうよ」


 そう言って、男子は無理矢理私たちを待ち列へと連れて行った。

 私たちが前に並んで、そのすぐ後ろに吉村さんたちが並ぶ。するとたちまち後ろに列ができ始めた。


「ほら、また列が伸びましたよ。早めに並んで良かったっすね」

「……」


 山田は後ろに顔を向けもせず無言だった。……怒ってるのかもしれない。

 一方で、男子は面白がるように頬を緩め笑ってたんだけど、無反応の山田に飽きたのか、すぐに携帯を取り出しいじり始めた。


「山田せーんぱい。せっかくですし、四人で入りましょうね。これぐらいのわがまま、山田先輩なら聞いてくれますよね?」


 後ろからニッコリと微笑む吉村さん。相変わらず、言い方に腹が立つ。

 山田はすぐに吉村さんの方へ振り返らず、一度私へと顔を向けた。珍しく私に気を遣っているのかも。……しょうがないので頷いてあげた。


「……そうだね、吉村さんにも色々迷惑かけたみたいだし、それぐらいは聞くよ」

「わー嬉しい! 先輩と入れるなんてすごく楽しみ~」


 どうせ断ったらまた騒ぎそうだしね。そんな考えを知ってか知らずか、吉村さんは横目で私を見ると勝ち誇ったようなと笑みを見せた。そして、男子と同じように携帯をいじり始める。

 ……何なのこの二人は。もうせっかく……山田とアトラクション回れるって思ったのに。まさかこんな所で吉村さんに会うなんて……運がなさすぎる。思わずため息を漏らしていると――。

 

「……栗原さん」


 山田が身体をぴったりとくっつけて小声で話しかけてきた。


「中に入ったら時間を止めるから。その隙に逃げちゃおう」


 山田からのトンデモ提案だったけど、うんざりしてた私は思わず頷いて答えた。

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