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転校生、山田くん  作者: ぱくどら
高校二年生
19/49

新しいお嫁さん候補?

 色々あった一年だけど、なんとか無事に過ごすことができて今日から高校二年生の始まり。

 不安だったクラス分けは、無事に橘さんとは同じクラスになった。このまま三年に上がるから、卒業までは橘さんと一緒のクラスになる。本当に良かったんだけど……山田の奴も同じクラスになった。こいつの場合、何か仕組んでるんじゃないかと疑いたくなる。

 けれど本人はいたって普通で、相変わらず赤いタコ宇宙人のまま教室で普通に腰掛けてる。

 何人か同じクラスだった子もいるけど、大半は初めて見る顔。女子はニコニコと頬を染めて、男子は興味深そうな眼差しで山田の元に集まってた。その様子を少し離れたところから橘さんと一緒に眺める。


「……去年、栗原さんもこんな感じで見ていたわけね」

「……そうですね」


 橘さんの目にはイケメン山田の姿で映っているはずなんだけど、正体を明かしてから警戒心を解くことはない。常に山田に対しては疑り深い目で見ていて、少しでも変なことをしたら即座に正体をバラしそうな感じ。でも、橘さんも一年間山田のこと見てたんだから、そこまで警戒しなくてもいいと思うんだけど。

 それに、せっかくの綺麗な顔立ちが台無しだ。ピリピリとした雰囲気を察してか、一年の時よりも男子が近づいてこない。みんな遠目から橘さんを見てる。女子は私と橘さんは眼中にないようで、すでにグループが出来上がってるみたい。まぁ、女子なんてこんなもんだよね。つくづく橘さんと一緒のクラスで良かったと思う。


「宇宙人のおかげで、見た目カッコイイ人でもあまりなびかなくなったわ。やっぱり人間って中身よ、中身」

「はは……」


 プイッと顔を逸らした橘さんだけど、窓越しに何か見えたのか手招きをしてきた。


「見て。新しく入学してきた子たちよ。なんだか初々しいわね」

「……そうですね。なんだか懐かしいです」

「あの中の子たちも、宇宙人のことを知ってアタックかける子がいるのかもしれないわね。かわいそうに」


 ふう、と橘さんはため息を漏らした。

 ……私もそんな気がしてる。何事もなければいいんだけど。


    ◇    ◇


 二年生になっても図書委員をやることになった。あの空間は好きだし、全然問題はない。

 でも、やっぱりというか、山田の奴は当番の日は必ずついてきた。図書室まで一緒に歩く姿は、ある意味見慣れた光景となっているのか、前ほどじろじろと見られることもなくなったと思う。けど、一年生にとっては信じられない様子のようで、ひそひそと耳打ちする姿が見て取れた。でも、正直私も慣れた。好きなだけ言わせておこう。


「あー、ここはいいね。静かだし、栗原さんとゆっくりできるし」


 控室ですっかり慣れた様子でくつろぐ宇宙人。気のせいかもしれないけど、前より控室が綺麗になってる気がする。

 ……そういえば、顔合わせした図書委員会のとき、やけに小奇麗な女子が多かった気がする。まさか、山田目当ての女子が増えてるんじゃ。


「そういえば、新入生の女の子が何人かやってきたんだ」

「ふーん。……まさか、またお嫁さん候補とか言い出すんじゃないでしょうね」

「うーん、栗原さんより良い女の子は今のところいないかな」

「……そう」


 はじめの頃は、他の女子を実験体にするんじゃないかとひやひやした。けど、途中からいないってことがとりあえずは良かった。けど……新入生が入って来て、もしかしたら今までみたいにならないかもしれない。私みたいな地味で化粧っ気のない子なんて絶対にいるし。


「もし……山田好みの女子がいたら、どうするの?」

「悩むね」


 間髪いれずの即答ですか。何なのこいつ。

 悪びれる様子もなく、両腕を頭の後ろに椅子の背もたれでブラブラと揺れてる。……なんかムカつく。


「へぇ……悩むんだ! 宇宙人でも、目の前に好みの女子がいたら目移りしちゃうんだ。へぇ!」

「えっ!? ……な、なんで栗原さん怒ってるの?」

「別に! 軽蔑してるだけ」


 山田はモテるから、色んな女子に興味が沸くのは仕方ない。いくら宇宙人と言えど、人間の女子に興味がないっていうことはないんだろうし。けどさ、一応表面上ではあんたと私は付き合ってることになってるのよ。だったらさ、せめて私の目の前では気を遣ってほしいんだけど。浮気前提とか、何、私は予備なわけ? こっちはモテたことないしモテようとも思わないけど、さすがに面と向かって言われると腹が立つんですけど。


 ――イライラが頂点に達しようとしたとき、カウンターの方から「すいません」と声がかかった。

 ……いかんいかん、今は図書委員の仕事しなきゃ。深く息を吐いて、呼吸を整えてからカウンターへと向かう。


「……すいません、おまたせしました」


 カウンターにいたのは、ポニーテールの黒ブチ眼鏡をかけてる女子だった。眼鏡越しの垂れ目がじっと私を見つめる。……というか、本持ってない。何の用だろう。


「どうかされました?」


 そう声を掛けると、フッと鼻で笑われた。

 ……えっ? 何?


「あっ! 山田先輩!」


 厭味ったらしい笑みが一変、目を細めニッコリと私の後ろに笑顔を向ける。

 振り返ると、タコ宇宙人が控室から出てきた。と、同時に図書室の空気も一瞬ざわめく。……女子の大半は山田目的なのか。


「栗原さん、俺なんか悪いこと言ったかな? 良かったら教えてほしいんだけど」


 そんな周りの視線なんか気にもせず、山田は真っ直ぐ私の方へと顔を向けてる。……こいつ、いつになったら空気を読めるようになるのよ。


「……山田くん、後にしていただけませんか? 今は――」

「ひどーい!!」


 言葉を遮られて叫ばれた。ぽかんとして声のしたほうを見れば、さっきカウンターに来ていた下級生だ。

 眉間に皺を寄せてムッとした表情になってる。そして、その叫びが引き金となったのか、図書室にいる全員がこちらを見てる。


「山田先輩がせっかく謝ろうとしてるのに、突っぱねちゃうなんてどーなんですか!? 聞くぐらいいいじゃありませんか!」

「あの、静かにしていただけませんか? ここは図書室です。本を読まれてる方が迷惑ですから」

「話を逸らさないでください!」


 な……なんだこの子は!!

 顔が引きつりそうになるけど、この場にいる女子たちの冷たい視線が突き刺さる。今にも声が上がりそうな雰囲気だし……。

 ちょ、ちょっと冗談じゃない……どうにかしてこの場を落ち着かせないと……。


「わ、わかりましたから……話を聞きます。だから静かにお願いします」

「はじめからそう言ってくださいよねー。山田先輩っ! 良かったですね!」


 半ば睨む形で山田を見る。

 けど山田はじっと下級生に顔を向けてた。見つめられるせいか、下級生の頬が赤く染まっていく。


「……名前は何て言うの?」

「あ……は、はい! 吉村美子って言いますっ!」

「吉村さん、ね」


 ……なんかいつもと違う対応。確かにこの吉村さんって子は……私と同じ背格好だし、化粧っ気もないし、眼鏡かけて地味だと思う。……え、まさか。


「あ、あの! 山田先輩、良かったら途中まで一緒に帰りませんか? ずっと、お話したいなって思ってて……」

「あ、そうなんだ。俺は別にいいよ。……栗原さん、ごめん。今日は先に帰るね」「……え?」

「本当ですか!? やったー! 嬉しいです!!」


 また大きな声で叫んだ吉村さんのせいで、図書室はざわざわと騒がしくなった。迷惑そうに目を向ける男子や、ひそひそと耳打ちをしながらこちらを見る女子たち。

 そんな中、吉村さんは勝ち誇ったような笑みを見せつつ、山田の赤い腕に腕を絡ませ図書室から出て行った……。


 ……どういうこと。


    ◇    ◇


 次の日、教室へ行って席についた途端――バタバタと近づいてくる足音が聞こえた。そして、バンッと勢いよく机を叩かれる。


「栗原さん!! 何があったの!?」


 橘さんだ。怒ってるのか、目つきが怖い。


「お……おはよう、ございます……。ど、どうしたんですか、いきなり」

「何言ってんのよ。昨日、図書室で下級生が宇宙人と一緒に帰ったって、すごい噂になってるわよ。私が知らないとでも思ったのかしら?」

「あー……広まるの早いですね」

「で、相手はどんな奴なのよ」


 昨日の図書室での出来事を話した。山田との会話は……話さなかった。たぶん、話したら橘さんが余計に怒るような気がするし。


「ふーん……吉村美子、ね。仮にも彼女の前で一緒に帰るとは、随分いい度胸してる女ね。っていうか、あの宇宙人も宇宙人よ。普通断るでしょ!? それに、栗原さんもよ! なんで止めなかったの?」

「あ、いや……だって図書委員の仕事中でしたし、あの場であれ以上騒ぐのは他の人の迷惑かと思って……」

「……まぁ栗原さんらしいといえばらしいわ。で、宇宙人にも話を聞きたいんだけど……」


 白けた目で橘さんが前の方の机を見つめる。 

 今日、山田は来ていない。空っぽの席が妙に寂しく思え、気のせいかもしれないけど教室も静かな気さえする。


「ま、今日は無理でも絶対問い詰めてやるわ。……それにしても、栗原さん冷静なのね。やっぱり相手が宇宙人だから?」

「そう……ですね」

「まぁそうよね。……全く、あの宇宙人、人の気持ちを弄んでるのかしら? 栗原さん、無理しちゃダメよ。それに下級生にだって言う時はガツンと言わなきゃ。今度、私も一緒に言ってやるわ」

「はは……ありがとうございます」


 結局、その日に山田が登校することはなかった。


 ……あの図書室の一件を振り返ってみると……どうも違和感がある。自惚れてるわけじゃないけど、今までならきっと、山田は私のことを優先してくれてたと思う。けど今回はそうじゃなかった。あいつの興味はあの吉村さんに向いてた。

 今まで散々私のこと好きとか言ってたくせに、やっぱり実験体探しは諦めてなかったんだ。きっとあの子は山田の好み……というより良い実験体なんだと思う。たぶん……。

 これを知ってるのは私だけだから……止めなきゃ。どっちを止めればいいんだろう。山田の方? それともあの女子の方? ……でもなんか……モヤモヤする。明日、ちゃんと山田と話してみよう。

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