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転校生、山田くん  作者: ぱくどら
高校一年生
11/49

山田くん、体調不良になる

 冬休みはあっという間に終わり、再びいつもの学校生活が始まる。

 ざわざわとしていた教室は、担任の先生が入ってきたことでようやく落ち着く――だけど。


「……先生! また山田くんは休みなの~?」

「あぁ。体調不良だそうだ。確かに……ちょっと長いなぁ」


 そう――ここ、3日間ぐらい山田は休んでる。

 いっつも私の視界を邪魔するかのように目立っていたタコ宇宙人。

 それがいないせいか、空いた席もぽつんと寂しげに見える。

 

 というか……そもそも宇宙人って風邪引くのかな。

 本当に体調不良かどうかも怪しいけど。


 でもそれからも――山田は学校を休み続けた。


 そして――休み始めて、丁度一週間経った。

 男子も女子も、口ぐちに山田の心配をしてる。

 みんなに心配かけさせて……山田のやつ、何やってんのよ。




「……これから暇な奴はいないかー?」


 その日の最後のHRで突如、先生がそんなことを言った。


「山田への配布物が溜まってるだろう? そろそろ届けようかと思っていたんだが、先生ちょっと都合が悪くてな。誰か持って行ってくれると助かるんだが……」


 そう先生が言った瞬間――何人かの視線がちらっと……私に向けられたような。

 その中には橘さんも含まれてて、思わず目が合ってしまうとニヤっと笑われてしまった。

 

「はーい! 私暇でーす」


 静まる教室で、一人の女子が嬉しそうに手を上げた。

 すると、次々に「私も」と女子が4、5人手を上げ始めた。

 ……たぶん、山田の家に行きたいだけなんだろうな。

 先生は、はは、とにこやかに笑いながら困ったように頭を掻く。


「あー……そんな大人数で行ったら迷惑だろ? これ配布物をまとめてるから、誰か代表して届けてやってくれ」


 先生はプリント類が入ったトートバックを手に、最初に手を上げた女子の席に近づきそれを手渡した。

 女子は嬉しそうに笑ってる。


「よし! じゃあ今日は終わり! 起立!」



 ――HRが終わって先生が教室を出て行ったすぐ後、女子たちが集まって話し合いをしてる。

 誰が山田の家に行くか話し合ってるらしい。

 ……みんなよく行くなぁ……宇宙人の住み家ですよ……? 

 でもそんなこと知らないからだよね……。行く人に一言注意した方がいいって言うべきなのかな。


「……栗原さん。難しい顔してるわね」


 ハッとして顔を向けると、小首を傾げて見つめる橘さんの姿だった。

 

「話し合いには参加しないの?」

「……え? なっなんで私が……」

「いいじゃない。行って来れば。山田くんの家に入りこむチャンスじゃない」

「い、嫌ですよ! 絶対嫌です!」

「えぇ~?」


 ――すると、ポケットに入れていた携帯が震えた。 

 何だろう。こんな時に電話を掛けてくるなんて……母さんかな。

 手にとった携帯の液晶に出てきたのは『非通知』の文字。

 ……これは。

 山田から連絡は、なぜか番号が表示されない。もしかしたらこの電話は……。

 でも、橘さんが目の前にいるし……出なくてもいいよね。


「何、携帯が鳴ってるの? 気にしないから出て」

「……は、はぁ」


 うぅやっぱり出ないとダメか。

 ……しょうがない、覚悟を決めて――。


「も、もしもし」

「栗原さん……」


 ひどい声。いつもはしゃがれ声だけど、一応は聞きとれる。

 けど今日はいつもよりさらに掠れてるし、声に元気がない。

 

「ちょっと……大丈夫? ひどい声だけど」


 ちらっと橘さんに目を向けると、ニヤニヤと笑ってる。どうやら相手が山田だとわかったらしい。

 すると……なぜか話し合いをしていた女子たちもぞろぞろと近寄って来る。

 なっ、なんで……?


「俺の家に……来なくていいから。嫌なんでしょ?」

「は、はぁ……い、嫌、ですが……」


 こんなに集まったらいつも通りにしゃべられない……!

 橘さんを除いて、みんな訝しげに睨んで来るし!


「……他の、女の子がいるんだね……」

「は、はい」


 ……ていうか、なんで山田の奴は来なくていいって言うのよ。

 誰かが来るかもしれないって知ってんの? ……まさか、この教室のどこかにカメラがあるとか。

 四隅に実はカメラが仕掛けられてるとか……。


「ちょっと栗原さん! それ、もしかして……山田くんなんじゃないの!?」

「……へ」


 思わず視線を戻すと――トートバックを持った女子が腕組みをして、思いっきり私を睨んでる。

 あ……その子だけじゃなくて、みんなだった。


「え、あの、これは……」

「ひどい! 嫌とか普通言わないわよ! ちょっと代わりなさいよ!」

「え!?」


 思わず携帯を握り締めたけど、その子は私の手首を掴むと携帯を無理矢理奪い去った。

 呆気に取られる私を余所に、すぐ橘さんが眉をひそめその人の肩を掴む。


「ちょっと! 奪うことないでしょう!? 今、話してるのは栗原さんよ」

「千代! あんた最近栗原さんに入れ込み過ぎだよ! 山田くんにフラれて頭おかしくなっちゃったの?」

「なっ!」


 カァっと橘さんの顔が赤くなる。

 後ろで様子を見ていた男子たちも「マジか」「聞いたか今の」など、そんな言葉を口ぐちにしている。

 

「……知らないとでも思った? 女子みーんな知ってるんだから」

「あれだけ山田くん山田くんって言ってた千代が、突然静かになるんだもん。そりゃ何かあったって思うって」

「でも、抜け駆けするなんて千代もひどいよねぇ」


 女子が口ぐちに言葉を吐き出す中――橘さんは顔を赤くしたまま俯かせる。

 やめてよ。

 橘さんが何したっていうの。何も悪いことなんて……してないのに。


「あの!!」


 自分でも驚くほど、大きな声が出てた。

 一気にみんなの視線を集める――けど、恥ずかしさなんてなかった。


「そういうのやめませんか!? 聞いてて気分が悪いんですけど!!」


 ……叫んだ後の教室は一瞬、しん、と静まり返った。

 みんな唖然と私をじっと見つめてたけど……女子の一人がフッと小さく噴き出すのを皮切りに、みんなが笑い始めた。


「栗原さんが叫んだの初めて見た!」

「マジで、超ウケル!」

「顔真っ赤なんですけど!」


 なっ……何なのよこの人たち……!!

 私の言ったこと、聞いてなかったの!? 何なのよ……腹が立つ……!!


『ねぇ! そんなに笑えることだった?』


 山田のひどい声が、突如教室に響き渡った。

 うるさかった笑い声はピタッと止み、みんなどこから声がするのかと視線を泳がせてる。

 ――見ると、女子に奪われた私の携帯が、いつの間にかスピーカーになってた。


『女の子で、俺の家に来たい人、みんなでおいでよ。話したいこと、あるから』

「えー!! 本当! 私行くー!!」

「私も行くー!!」

「やったー!!」


 電話に向かってキャーキャーと騒ぐ。

 ……何なのこの人たち……山田をアイドルか何かと勘違いしてるんじゃ。

 ていうか……さっき私の言ったこと、もう忘れてるでしょ……!


『栗原さんに代わってくれる?』


 騒いでたのが途端静かになる。

 冷たい目線で私を睨みつけながら、携帯を持っていた女子が私に差し出した。

 何か言いたげな感じだけど、山田に聞こえている手前何も言わない。……やな感じ。

 携帯のスピーカーを戻し耳に当てる。


「……代わりました」

「今から言う場所に、みんなを連れてきてくれる? あと、橘さんも一緒にね」

「……はい?」

「体育館の裏。じゃあ、待ってるから」

「え、ちょっと!」


 ――……切れた。

 いつもいつも……あいつの電話は……!


「で、山田くん何て?」


 見ると、冷たい眼差しで女子の皆さまが睨んでた。

 ……今はそんなことを思う場合じゃなかった。


「わ、私が案内するようにと……言われました。ですから、山田くんに用事がある人はついてきて下さい」


 私が案内することに不満を漏らす女子もいたけど……知ったこっちゃない!

 ……あ、橘さんにも言わないと。


「橘さん」


 見ると橘さんは顔を赤くしたまま、俯いたままだった。

 

「……橘さん? 大丈夫ですか?」


 肩を叩いてようやく――橘さんがこっちを向いた。

 少し潤んだ目を擦って、すぐに笑顔を作った。


「な、何?」

「山田くんが橘さんも来るようにと言ってました」

「そ、そう……わかった」


 もしかして……私が出過ぎたことを言ったせいなのかな。

 ……謝った方が良いのかも。


「あ、あの橘さん……すいませんでした」

「え? ……なんで栗原さんが謝るの?」

「え、あの……私が変なことを言ってしまって、橘さんが傷ついたんじゃないかと――」

「違うわ」

 

 橘さんは頭をぶんぶん振って、その目は若干潤んでた。

 そして嬉しそうに微笑んだ。


「傷つくわけないじゃない。馬鹿ね。大丈夫……ほら、山田くんの家に行きましょう」


 橘さんに促され、結局5、6人の女子を引きつれて教室を出た。

 ゆっくり橘さんと話したいんだけど……とにかく、この人たちを山田のところへ案内しよう。


    ◇    ◇


 案内しようと意気込んだのはいいんだけど……体育館の裏って……。

 ……確か学校の地下が拠点とか言ってた気がするけど……本当にそこへ来させるつもりなの。


「ちょっとぉ! 山田くんの家に案内するんでしょ? なんで体育館の方へ行くのよ!」


 私に言わないでください……。

 

「……栗原さん、本当に山田くんがここへ来るように行ったの?」


 と、橘さんがそっと耳打ちをしてくる。

 あぁ……そんな疑いの眼で見ないでください。本当に言われたから来ただけなんです。

 

 体育館の裏――着いたけど、どうしろと……ってあれは……。


「山田くん!!」


 後ろにいた女子たちが一斉に前へと走り出す。

 その先にいたのは――ゆったりとしたパジャマを着たタコ宇宙人。

 ……やっぱり体調が悪いのか、パジャマなのに首の辺りには黒いマフラーを巻いてる。

 それに……気のせいか、赤い顔が余計に赤く染まってるような気がする。……茹でタコみたい。


「……みんな来てくれて、ありがとう」

「うわ! 大丈夫!? 声、ひどい!」

「もう、寂しかったんだよ!」

「ほら、配布物も持ってきたよ!」


 橘さんと並んで、女子に囲まれる山田を眺める。

 

「……山田くん、大丈夫かしら……顔がすごく赤い気がする。それにあの格好でここまで来たの?」

「さ、さぁ……」


 確かに学校にパジャマ姿って……おかしいよ。

 って、山田のやつがこっちに来る!


「……橘さん、来てくれて、ありがとう」

「私はいいんだけど……山田くん、本当に大丈夫? まさか、学校にいるとは思わなかったもの」

「俺もね……本当は、休みたかったんだけど……ハッキリさせようと、思って」

「ハッキリ?」


 そう言ったと思ったら――。

 山田は急に私の腕を掴んで、思いっきり引き寄せた。

 そして振り返り、女子たちに見せびらかすようにギュっと腕に力を込める。


「俺、栗原さんと、付き合ってるんだ。だから……栗原さんに悪口言う人は許さない」


 って……ええええええ!!!

 何言ってんだこいつは!!! 女子たちみんな口開けて唖然としてるし!


「それと、橘さんにも……悪口言う人は許さないよ。彼女は、栗原さんの、大事な友達、だから」


 頭の上から息苦しそうな声が聞こえる。本当に辛そうだ。

 体調不良で頭がますますおかしくなっちゃったの? もう意味わかんないんだけど。

 と、とにかく手を振りほどいて冷静にならなきゃ――。


「何言ってるの山田くん! 栗原さん、山田くんのこと全然相手にしてなかったよ!? 今だって山田くんのこと全然心配する素振りもないし!!」


 ハッとして女子たちを見れば……敵意むき出しの眼差しで私を睨みつけていました。


「地味で、存在感の薄い人のどこがいいの!? 全然山田くんとは釣り合わない人だよ!?」

「そうよそうよ!」「早まらないほうがいいって!」


 などと……好き勝手なことを言われ放題の私。

 女って怖い。そこまでしてイケメン山田を我がものにしたいんだ……。


「……確かに釣り合わないだろうね」


 弱々しい、消えてしまいそうな掠れ声。力の入っていた腕も一瞬、抜けたような気がした。

 倒れるのでは――そう思って思わず山田を見上げる。

 ……まぁ表情なんてわからないんだけど、それでもつい見上げた。


「でも、いいんだ。そんなこと、考えたくもない。周りから言われる筋合いなんて、ないんだよ」

「なっなんで……! も、もういい! クラスみーんなに広めてやるんだから!」

「うん。ありがとう、助かるよ」

「っ! もう知らない! 行こう!」

 

 女子たちが逃げるように走り去って行った。

 残された三人で呆然と見送ると――山田がガクッと膝から崩れ落ちた。

 咄嗟に私と橘さんで身体を支える。


「ちょ、ちょっと! 山田、大丈夫?」

「大丈夫、だよ。フラフラするだけ。思考が、まとまらなくて」

「この間からあんたおかしいわよ。しっかり休んでなさいよ」


 山田は足元をふらつかせながらも、私と橘さんの支えを借りながらなんとか立ちあがった。

 それにしても、さっきよりも茹でタコみたいに赤い気がする。

 ……本当、体調良くないんだろうな。


「……山田くん、栗原さん。……ありがとう、嬉しかった」


 見ると、橘さんが視線を落とし恥ずかしそうに顔を赤らめている。


「みんなからあんな風に言われると思ってもみなかったからショックだったんだけど……二人がかばってくれたから、本当に嬉しくて……」

「え、ぜ、全然気にしないでください! 私も……聞いてて腹が立って……。でも……すいません、明日からその……教室……」


 居づらくなるんじゃないでしょうか……。

 ……それって私のせいだよね。私がうじうじ考えなかったら、あんなことにはならなかったと思うし。

 ……どうしたら。


「気にしないで! 私、負けないし、それに、二人が味方でいてくれるなら心強いから!」


 そう言って微笑む橘さんは本当に綺麗だと思う。

 綺麗で、強い、本当に良い人だなぁ……。


「……栗原さん、本当にありがとう。私、ずっと栗原さんのことウジウジしてる人だな、って思ってたけど違ったわ。ちゃんと自分を持ってる強い人だと思う。だから、さっきあの子たちが言ってたことなんて気にしないで。いつでも私を頼っていいから」

「橘さん……」

「その代わり、私も栗原さんを頼らせてもらうから! ……じゃあ、あとはお二人でごゆっくり。山田くん、早く体調良くしてね」


 橘さんは笑顔で手を振って、その場を後にした。

 私……初めて、人に頼られたかも。……嬉しい。

 これから橘さんと……良い関係を築けたらいいなぁ。

 

 って……待てよ。

 橘さんとじっくり話したいと思ってたのに……帰っちゃった。

 まさか……気を遣って山田と二人きりにさせたとか?

 いやいや……誤解してる。絶対誤解。誤解……。

 ハッ! そうだ、山田の奴、勝手に付き合ってるとか言ってたのよ!! そりゃ誤解するよ!


「ちょっと山田――!」


 パッと横を向いた瞬間――立っていた山田がまた膝から崩れ落ちるように倒れた。

 のっぺらぼうの顔は真っ赤に茹であがり、ガタガタと身体も震えてる。

 

「え……ちょっと大丈夫!?」


 しゃがみ込んで、山田の背中を摩ってやる。……何だか身体も熱い気がする。

 相当熱が出てるんじゃ……。


「ご、ごめん……フラフラしちゃって……。で、でも、大丈夫。一人で、戻れるから」

「何言ってんのよ。立ってるのもきついんでしょ? ……あんたの家どこ? 送るから」


 さすがに放って帰れるわけない。本当に辛そうだし。

 山田の腕を肩に乗せて、なんとか立ち上がらせる。


「ご、ごめんね……」

「いいから。で、どこに行けばいいの?」


 言いたいことが山ほどあるけど……今は我慢しよう。

 宇宙人でも病人だしね……。とにかく……パジャマ姿で目立つけど学校の外へ出なきゃ。

 体育館の表へ出ようと歩き始めようとしたけど――なぜか山田の足が動かない。

 ……まさか歩けないんじゃ。


「どうし――」

「こっちじゃなくて、逆」

「……逆?」


 逆って……グラウンドに出るのに遠回りになるんだけど。

 まぁいいか。ひとまず回れ右して……こっちから出ますか。


「……そこ」


 山田の足が止まって、震える腕を前へと突き出す。

 ……そこ? そこって……体育館の壁しか……。

 ん……何あの黒い穴は。

 体育館の外壁と地面が当たる隅っこに……丸い黒い穴がある。


「そこの下が……俺の拠点」


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