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転校生、山田くん  作者: ぱくどら
高校一年生
1/49

転校生、山田太郎

以前、短編で投稿したものを連載として投稿しました。


とっても軽めに書いています。

お気軽にお楽しみください<(_ _*)>

 入学式が終わって数週間過ぎたある日のこと――突然、変わった転校生がやって来た。

 それは、私の目から見れば明らかに異質だった。

 だって……どうみても……宇宙人、だった。


「みんな、静かにしろー! ……さ、山田くん挨拶してくれるかな」


 先生は平気な顔をして『山田』と名乗る宇宙人の背中に手を回している。

 いや、山田くんて……嘘でしょ。


「初めまして。山田太郎、って言います。わからないことばかりですけど、よろしくお願いします」


 うわぁ……なんて言うしゃがれ声。

 言葉は聞きとれるけど……ていうか、宇宙人って日本語しゃべれるんだ。


「……顔もイケメンで、声もすっごくさわやかっ」

「……なんか少女漫画から出てきたって感じだね」


 ――女子のひそひそ声が聞こえる。

 え、あれがさわやかな声? 嘘でしょ?

 どう聞いても喉をつぶしたプロレスラーって感じに聞こえるけど。

 おまけにイケメン? どこが?


「……よし、じゃあ……ここの前の空いている席な。みんな、しっかりフォローしてあげてくれよ!」


 宇宙人山田が席につくと、周りの女子が色めき立っている。

 ちらちらと見る人だったり、ひそひそと小声で話してみたり。

 一方で男子はちょっとムッとしてる? 

 というか……みんな、反応おかしくない? 宇宙人に見えるのは私だけ? 

 全身赤色で頭部が丸いのっぺらぼうで、胴体は頭部よりも少し大きいぐらいでちょっと腹部がぽっこりしてて……。

 腕二本、足二本だけど……先端が丸くてつるっとしてて……一応制服きてるけどはみ出てるし。

 これのどこがイケメン? むしろ……気持ち悪いけど。


 まぁ……いいや。私は一番後ろの席だし、今まで通り静かにやり過ごそう。

 私は高校生活を無事に終わらせればいいんだ。



 宇宙人山田の観察を続けていると、みんな本当に宇宙人には見えてないみたい。

 女子はみんな恥ずかしそうに話しかけていたり、男子は男子で楽しそうに談笑してる。

 山田の方からもしゃべりかけているし、見た目さえ気にしなきゃ本当にこのクラスの生徒みたい。


 変な行動しないかって注意深く見たりするんだけど、本当に普通。

 普通に授業受けて、普通にパン食べて、普通に掃除もしてる。

 あの宇宙人、何しに来たんだろ。


 私には宇宙人にしか見えない山田くんだけど、クラスの女子曰く、少女漫画から飛び出たイケメン、らしい。

 より詳しく様子を探ってみると、常にさわやかに笑顔を振りまき、優しい言葉を投げかけ励まし、勉強も運動もそつなくこなす――らしい。

 ……私から見れば、いつ笑っているのかもわからないし、優しい言葉でもしゃがれ声にしか聞こえないし、勉強や運動ができても見た目がアレじゃあ……。


 そもそも、なんでみんなにはアレが見えないんだろう。

 催眠術でもかけられたのかな。

 それとも、私だけが宇宙人に見えるようになってるのかな。

 うーん……。

 原因はわからないけど、とりあえずあんまり関わらない方が良さそう。


「――さん」


 私は教室の隅っこで、いつも通り気配を消して本を読めばいいんだ。

 誰にも気づかれず、授業をこなして帰れればそれでいいんだ。


「……栗原さん」

「……え?」


 顔を上げると、真っ赤なのっぺらぼうが目の前にせまっていた。

 驚いて思わず「ひっ!」と言ってしまった……。ま、まぁ本で殴らなかった分だけマシかな。


「ごめん、急に話しかけて驚いた? 栗原さんだけずっとしゃべったことなかったから声かけたんだけど……」


 長い腕で顔を掻いている。

 私が驚いたのは山田の姿なんだけど……。


「何の本読んでるの?」

「……べ、別に」


 い、いきなり何なのよ……。

 まさかクラス全員の情報を仕入れて、何か企んでるつもり!? じょ、冗談じゃない……!


「や、山田くんには……関係ないでしょ」

「……あ、そ、そうだね」


 プイと窓側に顔を背けて言ってやった。

 早くどこかへ行って……。怖い……。


「山田、やめとけやめとけ。栗原はこういう人なんだよ。放っておけ」

「そうだよー山田くん。それより早く学食行こうよ」


 あれ……近くに他の子もいたんだ……。

 もしかして……みんなにも聞こえていたのかも……。

 き、気まずくて振り向けない。


「こういう人って、どういうこと?」

「栗原さんは一人が好きみたいなの。だから邪魔しちゃ悪いじゃん。ほら、行こうよ」


 笑う声が少しづつ離れて行く。

 また、私の周りから人の気配が消えた。顔を戻してみると、山田の姿もなかった。

 うん、これで……良かったんだ。

 私は一人の方がいいから。一人でひっそりと過ごせればいいから。

 でも……。

 みんな、本当に人間として映ってるんだ。

 あんなに親しくして……大丈夫、かな。



 常に一人で細々とクラスの中にいる私とは対照的に、山田は常にクラスの中心にいるようになった。

 見た目はアレだけど、言動は本当にクラス一番の人気者になってる。


 あの日以降、山田は私に話しかけてこなくなった。

 正直、助かってる。

 だって、みんなはニコニコして山田を見ているけど、私は無理だもん。

 山田の目に、私がどう映っているのか気になるけど、クラスの一部として映ってるならそれでいい。

 というか、山田の姿が宇宙人に見える、っていうことをバラしたくない。

 絶対みんなに馬鹿にされるし、言ったところでみんな信じてくれないだろうし。

 それに……本当に山田が宇宙人だったら……何されるかわからないし。

 私はひっそり、空気みたいに過ごせばいいんだ。



 ――今日も無事に一日が終わった。

 特に何もないいつもの一日、とくに何もないからいいんだよね。平和だっていうことだし。

 さて、さっさと荷物をまとめて出よう。


「栗原ー! ちょっといいかー?」

「……え、あ、はい」


 先生……そんな大声で叫ばれると、一気に視線を集めて目立つんですけど。

 まぁ、いいや。何だろ。


「はい、何でしょうか」

「悪いな。今日何か用事はあるか?」

「……いえ、特に何もありません」

「そうか、良かった。……山田ー! お前もちょっと来い!」


 えっ!?

 山田って……あの山田!? 

 うっわ! こっち来てるよ!


「何でしょうか」


 見ちゃ駄目だ。視線を落として、なるべく視界に入らないようにして、声は我慢だ。

 先生早く終わらせてよ。


「二人で図書室からここまで、教材を運んでほしくてな。そんなに量はないんだが、俺、今から会議があってなぁ。頼めるか?」

「はい。俺は構いません」

「おぉ助かる、ありがとう山田」


 荷物を運べ?

 なんで……よりによって私と山田のチョイスなんですか……。


「……なんで私が」


 と、思わず出てしまった言葉。

 しまった……先生の心象悪くしたかも。けど、言った言葉は取り消せないし、本当に思ったことだし。

 すると、先生は私にそっと耳打ちする。


「……栗原。お前ずっと一人だっただろ? 山田と話してみて、輪の中に入れてもらえ」

「……は?」


 な、何を言っているんですか先生……。

 ニコニコとそんな微笑みを向けないでください。私、今のままでいいんですよ。


「じゃあ山田頼むぞ」

「はい。……栗原さん、行こう」


 あぁ……最悪だ。

 なんで宇宙人と一緒に荷物を運ばなきゃいけないのよ。


 先頭を歩く宇宙人山田の後ろを、私はなるべく見ないように顔を俯かせて歩く。

 やっぱりクラスだけの人だけじゃなく、学校にいる人全員が山田はイケメンに見えるらしい。

 図書室に向かう間も、山田はよく声をかけられた。

 かわいい女子、かっこいい男子、色んな先生――こんな見た目なのに、どうやらコミュニケーション能力は高いらしい。

 一方で私は終始無言。だって誰からも声かけられないし、気配消してるし。

 と言うか……早く帰りたい。


「……結構多いね」


 しゃがれ声にようやく視線を上げると、目の前に積まれたクラス人数分の教材たち。

 てか、これのどこが少ないんですか先生!


「何往復かするようになるね。……栗原さん、俺一人でやるけど?」


 このセリフ、イケメンに言われてみたかったなぁ。

 それにしても、なんでこんなに気を遣うんだろ、この宇宙人。


「……別にいい。私も一緒に運んだ方が早く終わるし」


 本当山積みだなぁ。五往復以上しそうな予感。

 はぁ……いつ帰れるのかなぁ。


「栗原さんって……」


 ビクッとして後ろを振り返る。

 赤いのっぺらぼうがじっと私を見下ろしていた。……怖い。


「……な、何?」


 赤いのっぺらぼうの、どこが目でどこが口かわからない。わからないから視点が定まらない。

 ていうか、こいつどこから声出してんの。こんな間近で見たの初めてだし。

 ……みんながこいつの顔見てニコニコしてるのが信じられない。


「栗原さんって……太ってもないし細くもないよね」

「……え? ま、まぁみんなよりは太いかも、ね……」

「それに全然、化粧っ気もないよね」

「……え? そう、だね」

「アクセサリーとかも全く身につけてないよね」

「……まぁ」


 何なのよ! 私を馬鹿にしたいわけ?

 私から言わせたら、山田の方が私よりひどい姿してるのに。

 顔が引きつりそう。


「そんな怖い顔しなくても……。俺……褒めたつもりだったんだけど」

「あ、そう」


 それはどうもありがとうございました。

 さっさと運んで帰ろう。

 この宇宙人、私を馬鹿にしたいんだ。


「あとさ……」


 教材を持って図書室を出ようとしたけど、思わず足を止めてしまった。

 なんだか、声のトーンが変わったような気がして。

 顔だけ振り返ったら……宇宙人山田は教材を器用に抱えて、じっと私の方に身体を向けてた。


「……栗原さん、もしかして俺のこと……人間に見えてないのかな?」


 言葉を聞いた瞬間、血の気が引いていく感じがした。



「なっ何の、こと?」


 声が裏返っちゃった……。


「栗原さんだけ、俺の顔ちゃんと見てくれてないから。……ねぇ、俺のこと、人間じゃないように見えているんでしょ?」


 ひぃ! 近づいてきた!

 うぅ足が固まっちゃって動かない……! 赤い宇宙人がこっちに来る……!


「だ、だとしたら……私を……どうするの?」

「きっと俺のミスでそうなってしまったんだろうし、きっと怖い思いをさせてしまったんだろうし……謝るよ」

「……え。……謝るの?」


 口封じのため亡き者にしてやる! とか、この世から抹殺してやる! とかじゃないんだ。

 謝るって……なんだか拍子抜けしちゃった。


「本当はこの学校全体に時空を作り上げたつもりだったんだけど、きっと俺が作った時空と栗原さんの生命反応が合わなかったんだろうね」

「時空……生命反応……」

「もうバラしちゃうけど、俺、栗原さんが見ての通り、宇宙人なんだ。驚かせちゃってごめんね。あと、このことは誰にも言わないでね」


 軽っ!

 てかこの学校、もうすでに侵略されてるんじゃ。

 というか……なんで宇宙人がいるの?


「ね、ねぇ……宇宙人さん、なんで――」

「俺のことは山田って呼んでね。じゃないと、俺が宇宙人ってバレちゃうかもしれないから。それに、栗原さんがますます浮いちゃうよ」


 余計なお世話よ。


「……なんで学校に来たの?」

「それはね……この星の人間たちと交流したいって思ったからだよ。あとは、気になる女子がいたらお嫁さんにしたいって考えてるよ」

「え……よ、嫁?」

「うん。だから、転校する前しばらくの間は人間について研究してたんだ。……栗原さんには見えないだろうけど、万人に好かれる容姿、声、頭脳、運動能力をインプットしたんだ。きっと人間たちには完璧な男子として見えているよ」


 だからクラスで人気者になったんだ。

 それにしても……学校一のイケメンの正体が、こんなタコみたいな宇宙人だってバレたら……。

 絶対、高校生活が無事に終わらない。

 学校中が大混乱、マスコミが殺到、世界規模で大パニック――そんなの絶対にダメ。

 私は地味に過ごしたい。


「……わかった。山田くんが宇宙人だってこと……誰にも言わない」

「本当!? 良かった、ありがとう」

「……私、静かに学校生活を送りたいの。だから今まで通り……私に話しかけないで」


 い、言いたいこと言えたよ、私! 言いきってやったわ!

 よし、さっさと教室に教材を運ぼう。運び終えて家に帰ったら、今日も無事に終わったことにしよう。

 うん。今の話は深く考えないようにしよう。

 山田くんは宇宙人だけど、転校生の山田くんなのよ。宇宙人の姿をした山田くんなのよ。

 何も問題ない、そう思えばいいのよ。


「わかった。今まで通り、みんながいる所では栗原さんに話しかけないよ。でも、こんな風に二人きりになったときは話しかけるね」


 すぐに私の隣を歩き始めた山田は、頭をこちらに向けそんな言葉を口にした。

 ……何言ってんの、こいつは。

 私の話、聞いてなかったの。


「栗原さん……そんな嫌な顔しなくても……」

「……私、話しかけないでって言ったんだけど」

「だから今まで通りでしょ? みんなの前では話しかけないよ。いいじゃん、二人きりの時はさ。俺、栗原さんの容姿、気に入ったんだ」


 鳥肌が立ちました。

 何が好きで宇宙人からそんな言葉を聞かなきゃいけないの……身体、乗っ取る気ですか。


「仲良くなる女子みーんな、化粧とか香水とか、気合入れてつけてくるんだよ。そんな偽装しなくてもいいのにさぁ」


 それ、あんたが言っていいセリフじゃない。


「その点、栗原さんはそういうのがないしさ。……ね、俺のお嫁さんにならない?」


 初めて告白してきた奴は、宇宙人でした。

 私の黒歴史の新たな一ページがここに……って冗談じゃないよ! 


「嫌よ! 私は平凡な地味な存在でいいの! 何が好きでタコ宇宙人のお嫁さんにならなきゃいけないのよ!」

「ははっ! 栗原さんってちゃんと大きな声出せるんだねぇ」


 だ、ダメだこいつ……! 私の口撃が通用しない!


「……まぁ急に言われても無理だよね。お嫁さんの話はなしにしよう。もしかしたら、もっと素敵な女子が現れるかもしれないし。でも、栗原さんのことを気に入ったのは本当だから。これからもよろしくね」


 そう言って、立ち止まっていた私を残してさっさと歩き出す山田くん。

 山田くんが教材を持って歩いている廊下は、女子がきゃーきゃーと騒いでる。あぁ……他の人がいたから先に行ったのか。

 それにしても……本当にモテるね、山田くん。

 それに男子からも好かれちゃって……教材、他の男子が持つの手伝ってくれてるじゃん。

 まぁ……私がこんな風に歩いても、誰も気にしないよね。

 空気みたいな地味な私の、平凡な高校生活をどうか壊さないで。


 山田くんと私――奇妙な関係の、始まりのチャイムが鳴ったような気がした。

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