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――危なかった。ばれるかと思った
美冬が彼氏と初詣に出かけた後で、啓吾は胸をなでおろした。おおざっぱに見えて美冬は妙に勘のいいところがある。もう少し突っ込まれていたら、洗いざらい吐いてしまうところだった。
実は啓吾は、クリスマス・イブの夜にデートした高原真由子から初詣に誘われている。イブの夜は、アクシデントで散々な結果になった上に、美冬には真由子との交際を禁止されてしまったが、当の真由子からは、啓吾の体を気遣って度々電話やメールが来るようになった。大学が冬休みになっているので、直接顔を合わせる機会がないからでもあるが、内気な真由子はどうやら電話やメールのほうが話しやすいらしい。
二人は、啓吾のフランス留学時代の思い出話や、映画や音楽、料理などの話題で盛り上がった。
「先生、あの……」
そんな真由子が電話の向こうで口ごもったのは一昨日のことだ。
「どうしました?」
「初詣」
「えっ?」
「先生と一緒に初詣に行きたいなあと思って」
「初詣……ですか」
「あっ、でもご無理だったらいいんです。もしお体に障ったりしたら」
「いや、体は全然大丈夫ですよ」
「私、成人式の時に振袖を着たきりで、それから一度も袖を通してないんです。だからほんとに久しぶりに振袖を着てみたくなっちゃって」
「あなたの着物姿は素敵でしょうねぇ」
真由子は、今はもう絶滅種に近い楚々とした日本美人なのだ。振袖着て鳥の巣みたようなキテレツな髪型をするようなキャラでもないし、きっと夢二の絵から抜け出たように美しいだろう。啓吾は、ふわふわとそんな空想をしながら、初詣の誘いをOKしてしまったのだった。