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「パパ、おは……う」

 元日の朝。啓吾がリビングのソファーに腰をかけ、普段の三倍くらいの朝刊と格闘していると、娘の美冬が起きてきた。パジャマにしている白のジャージ姿で髪はぼさぼさ。しかも歯ブラシをくわえたままなので、ごにょごにょ何を言ってるのかわからない。


――元日なんだからおはようじゃなくて、おめでとうだろう。それにその格好はあんまりじゃないか

という言葉を啓吾は飲み込んだ。父一人娘一人の南原家は、しきたりなんかには全然うるさくない。おまけに啓吾は自分がヴァンパイヤだというひそかな負い目があるので、娘に対してむやみに父親の権威を振りかざすようなことはしないし、美冬は母親のエレーヌそっくりで気が強い。うかつなことをすればすぐに返り討ちにあうのは目に見えていた。


 けれど美冬は、これもエレーヌ譲りで、啓吾がちょっと常人と違う異種であることにはとても寛容だった。

「そんなのひとりひとり顔が違うのとたいして変わんないわよ。パパの場合は、人を殺したりするわけじゃないんだから、細かいことは気にしない気にしない」と慰められると、一事が万事で、すべてにおおざっぱな美冬の言動にも口出しはできなくなる。


「ゆうべはすごく楽しかったわよ。パパも来ればよかったのに」

 口をすすぎ終えてやっと滑舌のよくなった美冬が残念そうに言った。昨夜は、大学の友人たちとのカウントダウンライブだとかで、美冬は彼氏と出かけた。

「ジャズバンドとかもたくさん出てる大人な感じのライブだよ。パパも来れば」

 美冬はそう誘ってくれたが、啓吾は留守番をしたのだった。


「お雑煮でも食べるかい?」

 啓吾は新聞を置いてキッチンに立った。正月といっても二人だけなので、デパートでミニサイズのおせちとオードブルを買って、あとは雑煮の用意だけ。お湯をわかして餅をゆでている啓吾に、美冬が声をかけた。

「パパ、なんかウキウキしてるわね。いいことでもあったの?」

 娘の言葉に、啓吾の箸が一瞬止まった。

「そりゃあ……こうして私もお前も、健康で新しい年が迎えられたんだから……幸せな気持ちになるのは当たり前だよ。それより、今日はどうするんだ?」

「今日って……?」

「今日の予定だよ」

「ああ、お昼から宮内くんと初詣に行くけど、お正月だから夜はちゃんと帰ってくるわよ。晩ご飯はおせちもあるし、何か簡単なものを作るからパパは心配しなくていいわよ」

「そうか」

 啓吾はうなずいて、できあがった雑煮をお椀によそい始めた。


  

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