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アンドロイドの箱庭  作者: 流堂志良
引きこもり少年と家政型アンドロイド
7/8

家政型アンドロイドの苦悩2

 新学期に入ってから、ただひたすら部屋の中でごろごろしているだけだったのが祟った。

 走りすぎて喉が痛いぐらい、呼吸が苦しい。

 汗をダラダラ流しながら、晴翔はるとは地面にしゃがみこむ。

 少し休憩したらまたカイトを探しに行かないと。

 自分が引きこもることで、両親を困らせてるのは知っていた。

 仕事から疲れて帰ってくるのを知っているのに、引きこもったきっかけを言えなかった。

 ただそれだけ? と思われるのが嫌だった。

 そして、これからどうやってクラスメイトと顔を突き合わせていいのかわからない。

 一回休むと、ずるずると休み続けてしまう。

 このまま引きこもりをする未来を考えると怖くなる。

 カイトはこんな晴翔を一体どう思ってるのかわからない。

 夏休みと同じように、家事を続ける。

 彼は、晴翔が休み続ける事に何も言わないのだ。

 あまりにも彼が人間に近いからもしかしたら幻滅されて嫌われてしまったのではないかと錯覚してしまった。

 そんなことがあるはずはないのに。

「そんなところで座り込んでいると危ないと思うぞ」

 ぼそっと後ろで呟かれた言葉に、晴翔は慌てて立ち上がり、息を整えるのも間に合わずに咳き込む。

「大丈夫?」

 振り返ったそこにいたのは晴翔と同じぐらいの外国の女の子だった。

 焦げた茶髪に緑の瞳、少しだけ晴翔たちとはイントネーションの違う言葉だ。

 その女の子は、心配そうに晴翔を覗き込む。

 すると、その隣にいる男が女の子に呟いた。

「見たところ、疲労で座り込んでるだけだろう」

 少女と違い、綺麗な発音の言葉だった。

 彼が人間ではないことに、晴翔は気づかない。

 まだ暑い時期だというのに汗一つ掻かず、男は裾の長いコートのようなものを着ていた。

「何かあったの?」

 見知らぬ相手だというのに、少女は気後れせずに次々と質問をする。

「そろそろ、帰るぞ。でないと、心配されるぞ」

「どうせパパたち仕事で遅いもん」

「誰がお前の両親の話をしたんだ? ベルの事だ」

 晴翔をそっちのけで会話をする二人に、彼はカイトが恋しくなる。

 早く見つけたいのに、見つからない。

「ねえねえ、何かあって走り回ってたのかもしれないけどお家に待ってる人いるんじゃないの?」

 ぐさりと女の子の言葉が胸に刺さる。

「待ってる奴なんていないよ。今探してんだから」

 晴翔がぶっきらぼうに吐き捨てる。

 言ってしまってから、しまったと晴翔は思った。

 間違っても女の子に対して、こんな乱暴に言ってはいけなかったのに。

 しかし少女はそれを気にした風でもなく、傍らの男の袖を引く。

「ねえ、お兄ちゃん。探すの手伝ってあげようよ。家に家族がいないのって嫌だよ」

 少女の言葉に、男は大げさに肩を落とす。

 心から嫌がっているわけではないのだろう、声は幾分柔らかかった。

「まあ、言うと思ってた。お前が言うなら仕方ない。探してる奴の特徴は?」

 ようやく男が、晴翔の低い視線に合わせるように顔を覗き込んで質問する。

 晴翔は『兄』の特徴を話した。

 すると、男は難しい表情で少女を振り返る。

「アンドロイドだとさ。走って行った家政型アンドロイドなんて目立つよな」

 そこでようやく晴翔は男の耳にアンドロイドの証であるピアスのようなアクセサリーを見つけた。




 その頃、カイトは災害支援型アンドロイドの拠点に運び込まれていた。

「深山隊長ー。こいつ、どこの家政型アンドロイドか知らないけど多分オーバーヒート」

 土手で話をしていた災害支援型アンドロイドのカナルが、突然倒れたカイトを連れて自分の拠点に戻ったのだ。

 秋とはいえまだ暑い夕方に走っていた彼が、オーバーヒートを起こして倒れるのは当然の結果だった。

 深山は慌てて周りのアンドロイドに指示して、冷却水が循環する専用の装備をカイトに装着していく。

「なんだってこのアンドロイドは走ったりしたんだろう。危険だというのは知ってるはずなのに」

「さあ? 色々あるんだって言ってたしストレスじゃないのか?」

 カナルは深山の手伝いをしながら、カイトと少し話をして聞いていたことを話した。

「家庭内のストレスって人間でもなかなか難しいところがあるからね。よし、応急処置としてはこんなところだ。問題は、このアンドロイドがどこの子かってことだな」

「わかるのか?」

「そのうちこの子の家の人が探しに来ると思う」

 深山は難しい表情で考えながら言う。

「じゃあなんでそんな顔してんだよ」

「そりゃするよ。オーバーヒートしたこの子がちゃんと再起動するのかは、家の人に確かめてもらわないといけないんだし。こっちには修理出来る人いないんだよ」

 考えてみれば当然のことを、深山は言う。

「そりゃそうか」

 深山にできることは、正常にまだ稼働したアンドロイドの部位が欠損した時に丸ごと取り換えるという作業だけだ。それも緊急時にのみ。

 中まで壊れてるかわからないアンドロイドを扱うのにはもっと高度な専門知識が必要だった。

「じゃあ、俺は見回りに戻るから――」

「まあ、まあ。今日のところはこの子の家の人を探すことにしよう。君の分の見回りは他の子に行ってもらうよ」

 深山があっさりとそう言った事にカナルは顔をしかめた。

 何か碌でもないことを頼もうとしている、とカナルは感じたのだ。

「何を俺にさせるんだよ」

「ほら、君の友人のところのお嬢さん、面白い能力持ってたよね」

「……」

 そう言うと思っていた。

 カナルの友人ディスの『妹』である少女は自身の能力を隠そうとはしていない。

 アンドロイドの心を読む、という能力を。

 もう一つ付随する能力について、今はその片鱗さえも見せていないが。

「休止した奴の記憶が読めるかは知らないぞ」

「いやいや、あの子どういう感じ方してるのかわからないけれど、本人でも気づかない不調を指摘することもあるから、この子が無事に再起動するの確かめられないかなぁと思って」

 なかなか人を便利に使ってくれる。

 そうでなければ、災害支援型アンドロイドの指揮など覚束ないのかもしれない。

「はいはい、ちょっと待ってろ。ディスを呼んでやるから」

 そう言ってカナルは友人へ通信を飛ばした。

 すると意外な返答が返って来た。

 短い会話を彼と交わして通信を終了させる。

「どうだった?」

 深山の質問に歯切れ悪くカナルは応えた。

「いや、何か家政型アンドロイドを探してる子どもが一緒にいるから連れて来るって」

「ほぼ、その話の子どもがあの子の家族なんだろうなぁ」

 深山が困った表情を浮かべる。

 カナルは何かぴんと来たのだろうと思いながらも、人間の事情はなかなか理解できない事なので、何も聞かなかった。

「あーあ……あいつら早く来ないかなぁ……」

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