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アンドロイドの箱庭  作者: 流堂志良
災害支援型アンドロイド
3/8

カナルの異文化接触1

  カナルが災害支援型アンドロイドとして活動するためには、改装が必要だった。

 元は戦闘型の軍用機体として製作されたカナルの身体には内蔵型の武器が搭載されていたが、それがまず取り外される。

 外観も人間の暮らしに溶け込むように変えられた。外見で怖がられては活動に支障をきたすのだ。

「この外部センサーは何だ?」

 外観を変えるのに一旦休止していたカナルは、再起動して真っ先に新たなセンサーが取り付けられてることに気付いた。

「それは、警報を聞き取るための外付けセンサー。この国のアンドロイドは元々そのセンサーがあるから、付けてないんだけどね。君には必要だろう?」

「ん? センサーってことは人間には聞こえない周波数だったりするわけ?」

「そうだよ」

 他に目立つ変更点は、以前はゴーグルや何やらで大部分が隠れていた顔が見えていることだ。

 これでは修理中のディスが起動して彼を見ても、一目ではわからないだろう。

 もっとも、ディスなら識別信号でわかるだろうが。

「うん、バランスも問題ないみたいだ」

 色々とチェックも終えて、カナルは災害支援型アンドロイドとして研修を受けることになった。

 ここで、講師がバトンタッチ。

 カナルの修理・改装の担当から、災害支援型アンドロイドの担当に。

「やあ、はじめまして。これから君の研修を担当する深山だ」

 何だかんだと災害支援についての講釈が始まると思っていたのだが、違った。

「じゃあ、ちょっと街に出ようか」

「?」

 深山と二人、街に出る。

 街を歩きながら、深山はこの研修の目的を説明した。

「ようはこの国のアンドロイドではない君に、実際に日本という国を感じてほしいって言うのがこの研修の主旨さ」

「……とは言っても災害支援型アンドロイドってのは軍みたいに訓練ばっかりだろ?」

 カナルは本気でそう思って言った。

 たまには街の中で訓練もするものだろうが、普段はずっと訓練だろうと思ったのだ。

「そう思うだろ? でも普段俺たちは街の見回りもするんだ。教育機関にも常駐することもあるよ。避難所になることも多いしね」

「そうなのか?」

「それに、救助活動するのに、住んでる人の顔と行動パターンは実地で覚える方がいいんだ」

「何か、思ったよりアナログな事するんだな」

 ちょっぴり拍子抜けしたように呟いて、カナルは道行く人々を眺める。

 車の走り抜ける音と人々のざわめき。

 人々の営みを、カナルは知っているようで何も知らなかった。

 せいぜい経験があるとしても暴徒鎮圧任務、もしくはその訓練の為に街に出たぐらいだ。

 どちらも人間の通常の営みとは遠い隔絶された場所だ。

「どこか喫茶店にでも入って説明しようか」

「待て。俺は何も食べないのに飲食店入れるかよ」

 普通その店の裏方で働いてるアンドロイドぐらいしか、飲食店にはいないものだ。

 人間が食事している間に、家政型アンドロイドは家の買い物や掃除をするはず。

 それがカナル達にとっての常識だったのだが、こちらではどうも違ったらしい。

「まあまあ。こっちでは一緒に入るのが普通だから」

 深山はそう言って近くのファミリーレストランを指して言う。

 大きな窓からは家族四人が仲良く座っている。

 平和な昼下がり。ティータイムといったところだろう。

 しかし、よく見るとうち一人の前には飲み物も何も置かれていなかった。

「……あの中で座ってるの、アンドロイドなのか?」

「そう。見た目も人間と変わらないでしょ。耳にああいった飾りついてるの。君は外付けセンサーと兼ねてるけど。あれで店側はアンドロイドと人間を区別してるんだ」

 不思議なものである。

 少し前までは人間と対立する基地にいたというのに、それが嘘みたいな平和な異国にいることが信じられない。

「変な国だな、おい」

 喫茶店で普通に席に案内されて、カナルはメニューを眺める深山を呆れて見ている。

「俺たちにとってはこれが普通だよ」

「俺にとっては不思議だらけだっつーの」

 やがて注文を取りに来た店員の耳にはアンドロイドの証が揺れている。

 自然な笑顔で接客をこなした店員は、裏に引っ込む前に何故か何もない所で足をもつれさせ、転げかけた。

 アンドロイドにしてはおかしな動作ミスだ。

「あははは、またやっちゃったな」

 深山はそんな店員の様子を見て笑う。

「あんな何もない所で動作不良起こすなんて笑ってる場合じゃないと思うが」

「ああ。あの子は仕事に直接関係ない所でランダムに動作不良を起こす仕様なんだ」

 そんなおかしな仕様は聞いたこともない。

「どんな仕様だよ……馬鹿じゃねぇか……」

 動作不良をわざわざするように設定するなんて、おかしいとしか思えなかった。

「完璧なアンドロイド、と思わせて仕事に支障のない範囲で失敗するのは可愛いじゃないか」

「つまり、観賞用なのか?」

「違う違う。一緒に暮らしていく上で完璧すぎるだけだったら息が詰まるじゃないか」

 カナルは何か釈然としないものを感じていた。

「あの店員は自分が『欠陥アンドロイド』って知ってるのか?」

「欠陥は酷いよ。自分がランダムにミスをするアンドロイドだっていうのをあの子はきちんと知ってる。俺たちがくすっと笑う事でストレスを感じることもあるだろうね。でも、アンドロイドたちは人間の『ありがとう』っていう言葉に何よりの喜びを感じるように作られてるんだ」

 それはそれで不思議な話だ。

 アンドロイドの感じる喜びなんて向こうで考慮されたことなどなかった。

 どこまでもカナルの常識が通じない国である。

「この国ではあっちのアンドロイドの事件は報道されてなかったのか? よくこれだけ受け入れられるものだな」

「報道はされたけど、この国の人間にとっては海を隔てた向こうの事だ。すぐそばには普通にアンドロイドがいるわけだし」

 アンドロイドが危険かどうかの議論は実際にあったらしい。

 だが結局はアンドロイドは家族であり、友人であり、同僚だった。

 アンドロイドも人間も報道には困惑したものの通常の営みに戻ったのだという。

「まあ、今日の研修はここまでにするか。何回か研修してこの国に慣れたら、災害支援型アンドロイドとしての研修に入るよ」

 長々と話をした後、深山は席を立ち会計をする。

 さっき転げかけたアンドロイドの店員がお釣りを渡す際に、深山は店員に告げる。

「ごちそうさま」

 とびきりの笑顔でアンドロイドの店員が返した。

「ありがとうございました」

 どこまでもおかしな国だと、天を仰ぎカナルは思った。


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