流星群の日
それは予兆もなく、突然始まった。
月のない夜空に星が流れてくる。
アンドロイドに干渉して全世界を混乱に陥れさせた流星群は、日本には何の害も与えなかったように見えた。
しかし実際はその晩は、アンドロイド達にとって緊張に満ちた一夜だった。
「ねえ、春香。警報が聞こえないか?」
「聞こえるね。何だろう。天気予報は何もなかったし、揺れも感知しないよね」
災害支援型アンドロイドの待機場所で、何事かと二機の災害支援型アンドロイドが首を捻る。
「発信場所わかる?」
「いや、わからない。外に出てみよう」
二人が外に出ると、夜空に星が光の軌跡を描いていた。
予想もしていなかった光景にアンドロイドたちは息を呑んだ。
警報は相変わらずどこからか鳴り響く。
この警報は人間たちには聞こえない周波数。
彼らアンドロイドだけが聞こえる特殊な警報だった。
「場所分かる?」
「あっちこっちから聞こえるからまったくわからん。どこの基地だ?」
搭載されたセンサーを使って探してはいるものの、あまりにも聞こえるのが全方位すぎて場所が全く分からない。
「場所がわからないなんてことないわよ夏彦。そんなんじゃこの先どうやって災害で人を救えるって言うのよ?」
「いやいやいや。これはわからないってば」
これは『夏彦』の言っていることが正しい。
建物で反響してる影響もあるのだろうが、幾重にもその音が重なり、音の出所が不明なのだから。
その時、通信が入った。
『こちら、冬人。警報の状況は』
「こちら春香。状況は不明。警戒中」
恐らくこのまま状況を把握するまでに、他のアンドロイドたちから問い合わせが待機の二機のところに殺到するだろう。
『春香』は通信を切り替えて、他の災害支援型アンドロイドに対して放送した。
もちろん、他のアンドロイドや人間には聞こえない放送だ。
専用の通信機器を持っている、彼らの隊長にあたる人間は聞いているだろう。
「町内巡回中の災害支援型アンドロイドの皆さん、こちらは待機中の春香です。先ほどから警報が鳴っていますが、発信場所、発生警戒災害は不明です。引き続き警戒に当たってください」
放送を終えて、『春香』は『夏彦』を振り返る。
「待機してる私たちにはわからなくても、巡回中の子たちならわかるでしょ?」
「まあ、確かに」
納得した『夏彦』は、再びセンサーで警報の発信源を調べようとした。
その時だ。
警報の音の種類と音量が変わった。
二機の間に緊張が走る。
研修中の間しか聞いたことのない前代未聞の警報。
ノイズが走っているが間違いない。
大音量で流れるのは全アンドロイド向けの一種の非常事態宣言だった。
この瞬間から災害支援型ではない他のアンドロイドたちの機能のリミッターが全解除される。
すぐさま『春香』は全アンドロイドに向けて災害警戒放送を流した。
ここまで警報の音量が上がれば、もう発生源は疑いようがなかった。
「ねえ、夏彦」
「まさか発生源がアレとはな」
二機はそろって夜空を見上げる。
降り注ぐ流星。
光がさまざまに一瞬の線を引く、その夜空から警報は聞こえていた。