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異世界ニンジャと亡国の姫  作者: 青鬼
第一章:無限森林脱出編
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ニンジャ、死す(3)

チート主人公は、殺しても死なないから好きなだけ殺せるね!

何を言ってるのか分からない人はまともな感性を持ってるから安心してね!

 森からの脱出にあたって、ニンジャはどうするべきか考えていた。

 食料調達の際の経験上、どの方向へ歩いても必ず野営地へ戻ってしまう事は実証済みだ。

 つまり横の動きでは野営地への帰還、クレアの言葉を借りれば、ループは免れない。

 ならば、ニンジャの取るべき選択は二つある。


「上に飛ぶか、下を掘るか……でゴザル」


 横に動いてダメなら、縦に動けばいいのだ。

 コメが無いならセンベイを食べればいいのだ。

 まさしく、逆転の発想と言う奴だ。

 今日のニンジャは普段と比べて冴えていた。

 普段から頭が冴えない人物ではあるが。


「冴えないと言えば、仲間からもバカにされていた覚えが有るでゴザル」


 日本に居る他の忍者たち。

 様々な任務を共にこなし、苦楽を分かち合ってきた仲間たち。

 彼らは今頃、どこで何をしているのだろうか。

 途端に故郷が懐かしく思えてくる。郷愁の念と言うやつだ。

 まあ懐かしいと言っても、まだ一日しか経っていないのだが。

 そう考えると、自分はどれだけ精神不安定なんだと思う。

 懐郷病にもほどがあるぞ。


 そう言えば、「~ゴザル」と「~そうろう」とで、どちらの語尾がカッコイイかを議論しあったりもした。

 懐かしい思い出である。

 あの議論は結局、「『~ゴザル』も『~候』もダサいでやんす。語尾なんてどうだって良いでやんす」と言うもう一人の仲間の主張によってうやむやになったのだが、今から考えてみれば彼の語尾こそダサかった気がする。

 うむ、やはりゴザル口調こそが最強なのだ。

 ……じゃなくて。


「とにかくまずは、空を飛んでみるでゴザル」


 話がかなり脱線してしまった。

 さっさと森から脱出してしまおう。


「コォォォォォォ」


 ニンジャは胸の前で腕を交差させ、ゆっくり息を吐きつつ両腕を腰に落とす。

 そして――――。


「スゥゥゥゥゥゥ」


 深く。深く。

 深く息を吸い込む。

 全身の力を余すところなく練り上げて、呼吸の流れとともにニンジャエネルギーを脚へと集中。

 腰をかがめて足に体重を落とし――――。


「チョイヤー!」


 ――――掛け声と共に一気に跳躍。

 ニンジャの体はマッハ4のスピードで地面を飛び出し、枝葉で覆い隠された天空へと突き上がった。


 さて、ここでニンジャが使ったのは忍術では無い。

 彼が使った技は「忍者跳躍術」。

 世間では「体術」と呼ばれる、忍者特有の超人的な身体能力を使ったタダのジャンプ・・・・・・・である。

 まさか、この作品を第8話まで読んだ読者の中に「タダのジャンプでマッハなんて単位が出るか!それと、ソニックブームはどうした!」なんてツッコミをする者は、流石に居ないだろう。

 そう、忍者の辞書に「ありえない」の文字など無いのだ。


 そして、タダのジャンプであるが故に、忍者ではなくとも――――つまり普通の人間でも努力次第では可能という事でもある。

 読者諸君も小さい頃は、ニンジャのようなスーパージャンプに憧れた事だろう。

 ニンジャの勇姿を見て、幼いころの冒険心を、揺さぶられたことだろう。

 なので、今回は、そんな読者のための、特別企画!

「忍者跳躍術」の練習法を記載しておくとしよう。


 1、麻を植える。

 2、その上を毎日飛び越える。

 3、麻は毎日1寸(2~3センチ)程度成長する。

 4、2と3を繰り返す。

 5、麻の成長に従って跳躍力もアップ!


 ……ね、簡単でしょう?

 ただし、現代日本では大麻取締法によって麻の栽培が禁止されているので、大麻取扱者免許を持っていない人は注意しよう。

 さあ、レッツトライ。


 ※


「いまさら言うのもなんだけど、ニンジャって一体何者なのかしら?」


 森の奥へと姿を消したニンジャを見送りながら、クレアは率直な疑問を口にした。

 なぜそんな話題を持ちかけたのかと言えば、些細な興味から来た呟きなのだが、しかし、独り言のように呟かれたそのセリフに対して、返答は無い。

 ここでペッシェが適当に相槌を打ってくれると予想していたクレアだったが、彼女の予想に反して、虚しい沈黙しか帰ってこなかった。


「……ペッシェ?」


 そう言えば、ニンジャと会話していた時も、ペッシェは一言も発していなかった。

 まあ、もともとそんなに喋らない奴ではあったが、必要最低限の言葉くらいは喋る筈だ。

 そう思い、訝しげに後ろを振り返ってみると。


「…………………」


 ペッシェが苦しそうに、その場にうつ伏せに倒れていた。


「ペッシェ!?どうしたの!?」


 只事ではないと思い、クレアは慌てて駆け寄った。

 ペッシェの上体を起こそうと、その体に触れたその時、クレアはようやく、残酷な事実に気づいた。


「そんな……死んでる」


 というのは嘘だ。

 ちゃんと生きている。

 ちょっとミステリー小説っぽく言ってみたかっただけだ。

 しかし、体調が悪いのは本当らしく、ペッシェはお腹を押さえて苦しそうに唸っていた。


「……腹痛?」


 まさか毒キノコでも拾い食いでもしたのだろうか。

 ペッシェはそんなに意地汚い男では無かったと記憶しているのだが……。

 とにかく、クレアは原因不明の腹痛に襲われた時の対処法など知らないのだ。

 さて、こんな時、読者の皆さんはこう考えたことだろう。


 治癒魔法や解毒魔法を使えば良いじゃないか、と。


 異世界ならば必ずあると言ってもいい治癒魔法。

 怪我や病気が一瞬で治る便利な魔法。

 しかし悲しきかな、この異世界では、特殊な人間しか治癒魔法を扱えないのだ。

 具体的にどういう人間かはおいおい説明するとして、この場にいる者は誰一人として、治癒魔法を扱うことが出来ない。

 故に、病気や怪我の対処法は一つしかなかった。


「そう言えば、胃腸薬がこの辺りに……」


 市販薬を飲ませることである。

 運の良いことに、数少ない荷物の中に、偶然にも胃腸薬キャベヅンが入っていた。

 ビンのラベルには、

 グンマー産キャベツエキス配合。

 ホモが飲むとノンケになる。

 クレイジー美肌効果。

 痔の特効薬。

 などの美辞麗句が所狭しと書かれていた。


「クレイジー美肌って何よ?」


 ツッコミを入れる場所は他にも有る筈なのだが、クレアは敢えてスルーした。

 しかし、美肌効果がある事は間違いない。

 自分も一粒飲んでおこう。パクリ。

 続いてペッシェにも飲ませてやる。

 ついでにアレックスにも飲ませてやった。


「ホモキャラって、大多数の読者にウケが悪い気がするわ……」


 さらっとメタ発言を繰り出すクレア。

 そんな彼女の視界の端に、あるものが映った。


「ん……これは!」


 食器だ。

 なんの変哲もないただの食器が、ペッシェの傍らに転がっていたのだ。

 クレアは食器を拾い、中身を確認して、目を見開いた。


「これは……ニンジャ特製キノコ汁!!」


 食器の中には、紫色のゲル状物質が盛り付けられていた。

 その奥底には、この世のものとは思えない、禍々しさを体現したようなキノコが入っている。

 ニンジャはこれを晩飯だと言っていたが、やはり、食べ物には見えない。


「まさか、ペッシェはこれを食べて……?」


 他に凶器らしきものが見当たらない以上、そういう事なのだろう。つまり、毒殺ということか。

 いや、死んでないけど。


「おのれ……ニンジャ許すまじ。絶対にいてこましてやる!」


 ふつふつと、腹の底から怒りが込み上げ、クレアはニンジャへ呪詛の言葉を吐いた。


「ニンジャ!今度会ったらタダじゃおかんからな!覚えとれよ!」


 何故か口調が変わるクレアだったが、そこにツッコミが出来る者は一人としていない。

 しかし、ただ一つ、言えることがある。

 次にニンジャがクレアと出会った時、彼は間違いなく肉塊と化すだろうという事だ。

 そんな時、ダンボールハウスの外、上空から、マッハ4の速度でニンジャが落ちてきた。


「ゴザアアアアアアアア……あべしっ!!」


 凄まじい勢いで地面に衝突したニンジャは、受身も取れずに爆発四散し、肉塊と化した。

用語説明。


胃腸薬キャベヅン:

ナッラー王国から遥か東に位置するグンマーと呼ばれる地域では、キャベツの栽培が盛んである。

こちらの世界とは比べ物にならない程、異世界のキャベツは栄養豊富で、様々な効能がある。

それらのキャベツの養分を凝縮し、錠剤にしたのが、キャベヅンである。

その効能の多様性と利便性は、市販薬の中では群を抜いており、ニポン大陸の人間(王侯貴族含め)は必ず持ち歩いていると言っても過言ではない。

しかし、効きすぎる薬は毒となる、とはよく言ったもので、過剰摂取した患者に、中毒症状が確認された事例も存在するため、取り扱いには十分な注意が必要だろう。

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