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異世界ニンジャと亡国の姫  作者: 青鬼
第一章:無限森林脱出編
5/42

暗殺少女は傷つかない

前回までのあらすじ:

オサカ帝国によって祖国ナッラーを滅ぼされたクレア一行は亡命のために立ち寄った森の中でニンジャと出会う。しかしニンジャが殺されてしまった。明日にでも葬式を挙げなければ。

「ニンジャ!」


アレックスがそう叫んだものの、すでにニンジャは後ろから刺された後だった。

暗殺者から目を離さず、アレックスはすぐさまバックステップでクレアの下へ飛び退ると、シカツノブレードを抜いてニンジャを殺した暗殺者と対峙する。

暗殺者はニンジャの腹から脇腹にかけて切り裂き、感情の籠らない、冷たい声で呟いた。


「まずは一人」


それと同時に、胴体が皮一枚でつながったまま、大量の鮮血をまき散らし、ニンジャは地面に倒れこむ。

余りのスプラッターな光景に、クレアは込み上げる吐き気に口元を押さえた。


(なんてこった! ニンジャが殺されちゃった!

人が死ぬところなんて初めて見た。想像以上にショッキングだ、吐きそう。だが、こんな場所で吐いたら王女の名折れ、こういう時には落ち着くことが肝心だ。そう、白馬の王子様を思い浮かべるのだ。そうよクレア。あなたには白馬の王子様がついてるの! さあ白馬の王子様! そのイケメンオーラで私を癒して! ……ふぅ)

(ここまでの思考時間およそ0.02秒)


気分が落ち着いたところで、ニンジャを斬った暗殺者に目を向ける。

黒いローブ姿、顔はフードとマスクで覆い隠されており、その顔を窺う事は出来ない。

しかし、僅かな隙間から見える瞳に「バーゲン」の文字が浮かび上がっていなかった。

彼はオサカノオバチャンでは無い。普通の人間だ。

だが、それなりの手練れだという事は分かる。

逃亡中に襲ってきたオサカノオバチャンと比べても、その実力は一段と秀でていると考えていいだろう。

一人だけで襲撃を仕掛けるとは考え難い。きっと周囲には仲間が潜んでいるのだ。

ものすごいピンチだ。流石に死ぬかもしれない。クレアは割と本気でそう思った。

しかし、この緊張と絶望に満ち溢れた状況に、クレアは内心ガッツポーズ。

なぜなら、これこそクレアの待ち望んだ展開だからだ。


(今度こそ、白馬の王子様の出番よね!)


クレアは恋に恋するお年頃。純情な一人の乙女である。

天性の超浪漫主義者スーパーロマンチストである彼女にとって、全ての不幸はその後に訪れる幸せなシチュエーションのための布石、伏線、前フリ、お膳立て、その他類義語もろもろであり、どんな出来事も彼女の前ではポジティブ変換されてしまうのだ。

それに伴ってクレアの中では、ニンジャの存在が敵の強さを引き立てるための、つまり噛ませ役へと収まってしまう。グッバイニンジャ。あなたの犠牲は無駄にはしない。

もしここにクレアの父親が居れば、またしても「不謹慎だ」とクレアの頭にタンコブを作るだろうが、生憎あいにくクレアの父は今は居ない。つまり、クレアを止める存在は一人としていないのだ。

クレアが頭の中で暴走劇的妄想メルヘンフルバーストしてる間に、暗殺者の話が始まる。


「せっかく森の出口で待ち伏せしていたのに、一向に姿を見せないからわざわざ来てやったぞ。……じゃなくて、ええっと……ナッラ王国第一王女クレア・ナッラ及び黒騎士アレックス並びに白騎士ペッシェ・スパーダ。無駄な抵抗は止めて降伏しろ。そうすれば命は助けてやるとの陛下のお達しだ。抵抗すると言うのなら――――」


そこで言葉を切ると、暗殺者は指パッチン。

すると、周囲の茂みから音も無くオサカノオバチャンが姿を現し、見せつけるようにタコヤキを取り出した。

ひい、ふう、みい……全部で32人だ。暗殺者も含めれば33人。ゾロ目だ。

これだけの数からクレアを守る必要がある今、どう見ても劣勢に追い込まれていると思い知らされる。


「チッ、ザコがうじゃうじゃと……。降伏だってよ姫さま。どうする?」

「我々も、ここ数時間の疲労が溜まって来てますし、かなり厳しい状況ですね」

「超強い騎士がなに弱気になってんのよ。降伏なんかするわけないでしょ」


バッサリ要求を切り捨てたクレアだが、暗殺者は全く動じる素振りを見せずに、軽く頷いてから命令を出す。


「そうか。ならば実力行使に移らせてもらおう。――――全員、掛かれっ!」


アレックスとペッシェは互いににクレアに背を向けるような位置でシカツノブレードを構える。――――が。


「…………」


暗殺者の鋭い号令に、なぜか周囲のオサカノオバチャンは人形のようにピクリとも動かない。

――――かと思いきや、白目をむきながら一斉にバタバタと倒れ始め、ニンジャを斬った暗殺者を除く全てのオサカノオバチャンが倒れてしまった。胸が規則的に上下している所から、死んだわけでは無いらしい。


いったい何が起こったのだろうか。

訝しげに眉を寄せるクレアだったが、この状況で一番慌てていたのは暗殺者の方だった。


「お、おい貴様ら! 一体どうし――――うがっ!?」


その瞬間、まるで人の後頭部を丸太で殴るような鈍い音が響いたかと思うと、暗殺者が驚きに満ちた叫びを上げ、そのまま目を回して地面に突っ伏してしまう。

そして、暗殺者の背後から一人の人物が姿を現した。


「ヨーロッパの忍者と言うのは、思いのほか弱いでゴザルな」

「ニンジャ! 生きていたの!?」


なんということだろうか。

てっきりこっきり死んだと思っていたニンジャが、丸太片手に現れたのだ。

いや、確かにニンジャは死んだはずだ。死体だってそこに――――。


「死体が……ナッシング」


暗殺者アサシンの足元に転がっていたハズの死体コープスは、クレアのあずかり知らぬ間に、まるでそれがミラージュだったとでも言うかのように消失ディサピアーしてしまっていた。

その代わりに一本の丸太が物寂しげに置かれていた。


「コレは拙者の使う忍術の一つ、『変わり身の術』でゴザル」


そう言いながら、ニンジャは先ほどまで死体があった場所の丸太を回収し、手に持っていた丸太と共に服の中へと仕舞い込んだ。

どう見ても服の中に入りきらないサイズの丸太は、どういう理屈か、音も立てずにニンジャの服の中へとするする入って行き、結局全部入ってしまった。

それでも、ニンジャの服が丸太で膨らんだ様子は無く、いつものままだ。

どんなトリックを使っているのだろうか。


「いったい、何が起きたのでしょうか?」


目をパチクリさせながら、ペッシェは今起こった出来事に唖然とし、ニンジャに詮索を始めた。

いつ入れ替わったのか、どうやって入れ替わったのか、丸太に何か仕掛けがあるのか、ニンジャの服はどうなっているのか、他のニンジュツも見せてくれ……など、矢継ぎ早に質問を重ねた。

ニンジャはその質問全てに、「このことは内密にな」の一言で済ませた。

ペッシェはその一言で納得し、引き下がった。


読者の皆さんは疑問に思ったことだろう。

そんな一言で納得するはずがない、と。

実は、ニンジャはペッシェを納得させるために、忍術を使ったのだ!


これこそ忍者の持つ忍術の一つ、「忍者説得術」!

都合の悪いことを聞かれたりした時に発動される忍術である!

ニンジャはペッシェから質問をされた瞬間に、忍術を発動するための超常的なエネルギー。『ニンジャエネルギー』を解放したのだ!

忍者の体から放出されるニンジャエネルギーは、そのまま相手の脳波に干渉し、あたかも納得のいく説明を受けたように錯覚させるのだ!

したがってこの忍術の前では、誰もがニンジャの言葉に納得してしまうのだ!

しかし悲しきかな、「忍者説得術」はその場にいる人間にしか効果が無い。

つまり「忍者説得術」の効果が及ばない画面の前の読者の皆さんは、そんな一言では納得しないのだ。

故に、ここで変わり身の術についても注釈を入れておくべきだろう。


変わり身の術。

これは、忍者が命の危機に瀕した際に発動される忍術である!

まずニンジャは暗殺者に切り裂かれた瞬間にニンジャエネルギーを解放したのだ!

解放されたニンジャエネルギーは小規模な重力場を生み出し、擬似的なワームホールを形成。時間と空間に干渉したのである!

それによって意図的にタイムパラドックスを引き起こし、「ニンジャが斬られた」という事象を「丸太が斬られた」という事象に改変したのである!

したがってこの忍術の前では、誰もがニンジャを殺せないのだ!

この忍術が後に、アインシュタインが相対性理論を発見するための足がかりとなることを、この時はまだ誰も知らない。



ニンジャが気絶させた暗殺者達をロープ代わりに木のつるで縛り上げた後、話し合いが始まった。


「白馬の王子様が出て来なかったのは残念だけど、ニンジャが生きていて良かったわ。人が死ぬのは、見ていて気持ちの良いものではないし」

「同意するでゴザル。拙者も、自分が死ぬのは気分が悪いでゴザル」

「すごく自分本位な発言ですね。まあ、ニンジャの事については後でじっくり話すとして、まずはこの森を抜け出る方法を探すことが先決ですよね」

「それなら簡単だ。そこの暗殺者に道を聞けば良い。森の出口で待ち伏せてたって言うし、森の出口まで案内してもらおうぜ」


そう言ってアレックスが指差したのは、ニンジャを斬った、リーダー格らしき暗殺者。

今はすっかり気を失っているが、叩き起こせば問題ない。

とりあえず起こそうと、アレックスが暗殺者のフードを引っぺがす。

フードの中から現れたのはなんと、まだ年端もいかぬ少女の顔だった。


「……なんだコイツ、女だったのか?」


意外な事実に落胆するアレックスだったが、だからと言ってどうなるわけでもない。

適当にビンタすることに決めた。女だからと言って容赦など無い。


バチン! バチン! バチン! バチン! バチン! バチン!


六発目を当てた所で暗殺少女は目を覚ます。ついでにもう一発バチン。

暗殺少女は、自分が意味も無く叩かれたことに驚愕しつつも、一瞬だけ恍惚とした表情を浮かべた。見なかったことにしよう。

暗殺少女は、平然と生きているニンジャを視認すると、まるで死人でも見たかのようにその眼を見開いた。


「……!? なんで生きて……確かに殺したはずなのに……?」

「まあ、俺たちは非常識さに関しては姫さまで慣れてっけど、普通は驚くよな。ガクガクだわ」


アレックスは、暗殺少女の反応に納得の表情で頷いた後、「それより」と前置きして本題を切り出した。


「俺たち絶賛遭難中でな。お前に森の出口まで道案内してもらう。おわかり?」

「遭難中だと? ハッ、このマヌケがっ! お前たちに協力など、死んでもするものか! さあ、殺せ!」

「分かった」

「待て待てアレックス! 躊躇いなく剣を抜かないでください!」


容赦なく暗殺少女に剣を振り下ろそうとするアレックスの腕を、ペッシェは慌てて抑えた。


「大事な情報源なんですから、丁重に扱わないとダメでしょう!」

「うるせえ! 丁重に扱ってたら、いつまで経ってもコイツは喋らねえ。多少いてこました方が良いだろうが!」

「いてこますだと? 拷問か、拷問だな! いいとも、さあ、こい!」


こんな状況でも気丈に振舞う暗殺少女。何故かその表情はだらしなく緩んでいた。

クレアたちは知る由もない事だが、彼女はオサカ帝国の精鋭暗殺者であり、他の暗殺者達とは一線を画す。いわばエリートアサシンであった。

そんな彼らには、どんな拷問にも耐えられるよう、特殊な訓練が施されており、どんな苦痛も、ものともしないのだ。それどころか、拷問を受けて興奮する変態なのである。

つまり、アレックスたちが強引に話を聞き出そうとしても、決して彼女は口を割らないだろうという事だ。

そんなときである。


「アレックス殿。情報収集は忍者の専門分野。ここは拙者に任せてほしいでゴザル」


ニンジャが一歩前に進み出た。

特に拒む理由も無く、えらく自信満々な様子だったので、ここはニンジャに任せる事にする。

アレックスがその場を譲り、代わりにニンジャが暗殺少女の前に立つ。

暗殺少女をギロリと睥睨するそのサマは、意外にも板についており、暗殺少女は心なしか萎縮しているようにも見える。

クレアたちの期待を一身に受けながら、ニンジャはどのような方法で情報を聞き出すと言うのか。

ニンジャが考え出した尋問の方法、それは――――!


「さあ、拙者のキノコを食べるでゴザル」

キャラ紹介


名称:ペッシェ・スパーダ

年齢:20代

性別:男

職業:白騎士

出身:ナッラー王国

目的:クレアの護衛

説明:

クレアは妄想癖、ニンジャは変質者、アレックスは男色ときて、この男。

何らかのキャラ付けをしたいと思ったが、良い感じの設定が思いつかなかったので、暫くはモブとして活躍してもらうつもり。

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