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異世界ニンジャと亡国の姫  作者: 青鬼
第一章:無限森林脱出編
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ニンジャ、死す

ネタバレ:ニンジャが死ぬ

ニンジャがクレアたちと行動を共にして数十分。

先ほどまで「キャハー! 白馬の王子様と会うんだー!」と張り切っていたクレアだったが、そもそも彼女は王女様。

もともと体力は備わっていない彼女に、徒歩で森を移動する事はかなりの疲労を与えていたらしく、今はペッシェの背に負ぶさって、すやすやと寝息を立てている。

たまに、「やだー。白馬の王子様が私のファーストキスをー」などと幸せそうに寝言を呟いていた。

のんきな事である。


(それにしても、さっきから同じ場所をグルグル回っているような気がするでゴザル)


しばらく歩いているものの、一向に森の出口に辿り着く気配は無い。

森の中を進むうちに、木々の隙間から漏れ出ていた月光はいつからか完全に途絶え、辺りは完全に闇に包まれていた。

それ故に、森から抜け出るどころか、ますます奥深くに入っているような錯覚を覚える。

まさか、迷っているのではないだろうか?

いや、そんなばかなと首を振る。

アレックスとペッシェを見よ。

あれだけ自信満々に進んでいるのだ。

ここの地理に関して何も知らない自分が、彼らを疑うなど言語道断。

ニンジャは黙って彼らに着いて行くのみだ。


しかし、念のために木に印を着けておこうか?

いや、彼らは亡命中だと言っていた。

そして、どうやら暗殺者が追って来ているらしい。

わざわざ痕跡を残すなど、とんでもない話だ。

ニンジャは黙って彼らに着いて行くのみだ。


そう決意してから数時間が経った。

既に陽が昇る時間のハズだが、辺りが少し明るくなっただけで、陽の光は完全に閉ざされていた。

そうとう森の奥深くに来ているらしい。ニンジャにとっても、ここまで深い森は初めてだ。さすがはヨーロッパである。いや、確かニポン大陸とか言っていただろうか? まあ、そんな事はどうでも良い。

感心するニンジャに対して、アレックスとペッシェは、少し青い顔で、先ほどから行動に落ち着きが無い。何やら焦っているらしい。

そして時折、「参ったぜ……」とか、「どうしましょう……?」というひそひそ声が聞こえてくる。

森の闇は一層深くなり、未だに森から脱出できないまま、ニンジャはとうとう尋ねた。


「ところで、目的のワッカヤマ王国と言うのは、いつごろに到着するのでゴザルか?」


具体的な到着時間さえ聞いておけば、何も悩むことは無い。

最初から、この質問をしておけば良かったのだ。

しかし、その質問をした途端に、二人がビクリと肩を震わせた。


「そ、そうだな。もうそろそろかな」

「そ、そうですね。そろそろです」


慌てた様子で同時にそう答える二人だが、ニンジャの洞察力は欺けない。

二人がウソをついている事はバレバレだった。

自分達は、完全に道に迷っているのだ。

その事実を前にしてなお、ニンジャは動揺しない。

この森で出会った奇妙な出来事に比べれば、道に迷うなど大して驚くべきことではない。


まあ、だからと言って、何か手が有るワケでは無いのだが。


「……んぅ? わたし……寝てた?」


アレックスとペッシェがおろおろする中、とうとうクレアが目を覚ました。

眠そうに眼を擦りながら、キョロキョロと辺りを見回した後に、未だに森を進んでいる事に気付いて、深々と嘆息した。


「……まだ森の中なの?」

「お、おう! もうすぐワッカヤマ王国に着くハズだぜ!」

「ええ! 迷ってなんかいませんよ!」


騎士二人の態度から今の状況を察したクレアは、もう一度大きく嘆息すると、自分を下ろすように命令した。ペッシェはそれに従う。

クレアは、地面に着地するや否や、説教を始めた。


「これだから嫌なのよあなた達は! いつもいつも、問題ごとばかり増やして! バカバカバカ!」


「……申し訳、ありません」

「ふつうに歩いて数時間の距離でしょうが! なんで迷うのよ!」

「過去の失態を振り返るよりも、未来に目を向ける方が有意義だと思うぜ?」

「お先真っ暗よバカ! どうすんのよこれから!」

「あまり説教が長いと、オバサン臭いでゴザルよ?」

「うるさいわよバカ! もう良いわよバカ!」


フン、とそっぽ向いて、クレアは踵を返して歩き去っていく。

ペッシェはクレアを追いかけようとして、


「トイレよ! ついてくんな!」


と怒鳴られ、慌てて立ち止まるのだった。

クレアの姿が見えなくなってから、やれやれと肩をすくめるアレックスに、ニンジャは尋ねる。


「それで、どうやって森から脱出するのでゴザルか?」

「ああ……まあ、きっと何とかなる。イザとなりゃあ、俺の魔法でなんとかするぜ」


鼻高々と言った様子でそう言うアレックスだが、ニンジャは首を傾げた。

聞きなれない単語が有ったからだ。


「魔法とはなんでゴザルか?」

「あ?」

「ゴザ?」


どうにも話が噛みあわない。

二人が互いに首を傾げあっていると。


「うぇぇ……ひっぐ……グスン……もうわたしお嫁にいけない……」


先ほどまでの怒気はどこへやら。

めそめそと泣きながら、クレアが姿を現した。

用を足すにしては、随分と早いようだが、何かあったのだろうか。


「クレア姫! ど、どうしました!?」


ペッシェが慌てて駆け寄ると、クレアは嗚咽を漏らしながら言った。


「ゴブリンの……ひぐっ、ゴブリンのU☆N☆K踏んじゃったぁ……うわーん!」


そのままクレアはわっとばかりに泣き崩れた。

彼女の靴を見てみると、確かに茶色いモノが……いや、説明するのはよそう。

茶色からは、かなり鼻につく異臭が放たれており、ニンジャは面頬を押さえながら一歩下がる。

忍者の嗅覚は犬並みなのだ。


「女の子がUNKウンコとか言うんじゃありません! と、とにかく靴をお脱ぎください! 魔法でキレイに洗い流しますから!」


あたふたとしながらも、ペッシェはクレアの靴を丁寧に脱がせると、今度は靴に向かって手をかざす。

何をするつもりなのだろうか。


「プッ、ウチの姫さまはホントにタイミングが良いと言うか……。ニンジャ、よく見てろよ? アレが魔法だ」

「魔法でゴザルか?」


主人が不幸な目に遭っているというのに、アレックスは必死に笑いを堪えながら、ペッシェを指さす。

なにやら興味深かったので、よく観察する事に決める。


「ウォーター」


ペッシェがそう呟くと同時。彼の体から、漠然とした何かが放出されているのを肌で感じた。

ソレは次第に地面や植物に溶け込んでいき、次の瞬間には、ソレの溶け込んだ至る所から大量の水滴が現れ、凝縮し、ペッシェの掌に集まっていった。幻想的な光景である。


これは恐らく、ペッシェの体の中にあるチカラが、周囲の物体に溶け込み、そこから水を抜き取ったのだろう。水滴が抜き取られたコケや地面は、すっかりカラカラだ。

忍者たるもの、目の前で起こった出来事を見間違えたりはしない。

試しに地面を踏みつけてみると、ザラリと乾いた音がする。

おっと、しまった。忍者たるもの足音を立ててはいけない。


砂遊びもいい加減切り上げて、ペッシェの方へ視線を向ける。

フワフワ浮かぶ水の球が、靴の底を洗い流しているのは、見ていて不思議な気持ちになるが、ヨーロッパでは当たり前なのだろう。

流石はヨーロッパ、奇妙な術など日常茶飯事と言うワケだ。


「ニンジャの国では魔法が無かったのか?」

「無いでゴザル。しかし、拙者は忍者。忍術を使うことは出来るでゴザル」

「ニンジュツ? なんだそりゃ?」


アレックスの質問に、ニンジャは首を横に振った。


「忍者が特殊な修行を重ねて会得する術でゴザル。詳しく教える事は、掟により禁じられているでゴザル」


忍者たるもの口を滑らせない。

特に、忍術はホイホイ話して良い技ではないのだ。

そうこうする内に、靴の汚れは完全に取れたらしく、ペッシェは次の魔法を使った。


「ウインド」


再びペッシェの体からチカラが漏れ出て、今度は空気に溶け込んだ。

すると風が巻き起こり、クレアの靴を見る見るうちに乾かしていく。

その光景に集中していたせいで、ニンジャは、周囲の警戒を怠っていた。

それが、ニンジャの命とりとなる。


「ニンジャ!」


突然の、焦ったようなアレックスの叫びが聞こえ、ようやくその気配に――――。


「ぐはっ……!」


――――気付いた時にはもう遅い。

視線を激痛のもとへ向ければ、ニンジャの腹から、一本の刃物が生えていた。


「まずは一人」


後ろからそんな声が聞こえた。

きっと、暗殺者の声だろう。このままニンジャを殺し、クレアたちも手に掛けるつもりなのだ。

そのまま凶刃はズブズブとニンジャの腹を切り裂いていき、脇腹に達したところで思いっ切り振りぬかれる。

噴水のように血が飛び散り、乾いた地面に真っ赤な華が咲いた。

そのままニンジャは地面に崩れ落ち……。


「な、なんじゃこりゃぁぁ……ゴフッ」


それだけ言い残して、ニンジャは息絶えた。

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