たこ焼き(食べ物) タコヤキ(爆弾)
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「神の魔力を検知した結果、この扉の向こうから巨大な反応があった。間違いない、神はこの先にいる」
「でもこの扉、開けられなくてさ。いっそ君にぶち壊して貰おうと思って呼んだわけ」
「でも、そんなことをして大丈夫なんですか? 神の怒りを買いでもしたら……」
「大丈夫だって。言ったろ? 神は魔力の塊。物理的な力の行使は不可能であり、何をするにしても魔力を使う。そして神の魔力を問答無用で吸いとるマナバキュームが有る限り、僕らに干渉することは不可能なのさ。言わばマナバキュームは、対神に特化した神封じの兵器ってとこかな? ……まあ、実践はこれが初めてで、全部推論でしか無いんだけど」
「ぜんぜん大丈夫じゃなくないですか!?」
「ルルベルク」
帝王が厳めしい面持ちで言った。
「俺が何の確信もないまま、こんなことをしているとでも?」
「はい」
「…………」
「あ、いえ、そう言うわけでは……」
帝王が落ち込んだのを見て、ルルベルクは慌てて言い直した。
「とにかく、大丈夫だ」
「……しかし」
「お前が気にすることは何もない。命令だ、やれ」
「……わかり、ました」
帝王の命令に背くことは出来ない。
ルルベルクは杖を構えて、扉に向けた。
確かに巨大な扉だが、世界最強の魔法使いであるルルベルクにとっては、紙切れも同然だ。わざわざ本気を出すまでもない。
「僕らを巻き込まない程度にね~」
既に遥か後方へと避難していたピュラスが、ニヤニヤしながら言った。ルルベルクの消極的な態度が、帝王の機嫌を損ねたのだと内心バカにしているのだ。
ルルベルクは、誰にも聞こえないように舌打ちし、いつかピュラスに仕返しすることを決意した。
そして、怒りを込めて呟く。
「イグニス・バースト!」
放たれたのは火属性の上級魔法。森羅万象を灰塵へと帰す業火の炎。その一撃は全てを飲み込み、喰らい尽くす。怒りに猛る荒々しき炎は目の前の一切を平等に、そして無慈悲に焼き尽くす。
杖の先端から溢れだした爆炎は、熱と光の奔流となって巨大な扉へと突き進み、そして、消えた。
「……あれ?」
何が起きたのか?
ルルベルクは慌ててもう一度杖を振った。
「イグニス・バースト!」
放たれたのは火属性の上級魔法。森羅万象を灰塵へと帰す業火の炎。その一撃は全てを飲み込み、喰らい尽くす。怒りに猛る荒々しき炎は目の前の一切を平等に、そして無慈悲に焼き尽くす。
杖の先端から溢れだした爆炎は、熱と光の奔流となって巨大な扉へと突き進み、やはり、消えた。
「え? あれ?」
魔法は確かに発現しているのに、扉へ辿り着くと同時になぜか消失する。
ルルベルクはもう一度杖を振った。
「イグニス・バースト!」
放たれたのは火属性の上級魔法。森羅万象を灰塵へと帰す業火の炎。その一撃は全てを飲み込み、喰らい尽くす。怒りに猛る荒々しき炎は目の前の一切を平等に、そして無慈悲に焼き尽くす。
杖の先端から溢れだした爆炎は、熱と光の奔流となって巨大な扉へと突き進み、また消えた。
「イグニス・バースト!」
消えた。
「何でですか!?」
たまらずルルベルクは叫んで、杖を地面に叩きつけた。
そして、扉を忌々しげに睨み付け、ふと気づく。
六角形のガラス状の物体が、ハチの巣のように集合し、扉の周囲にバリアを形成していることに。
「……なるほど、魔力障壁ですか」
魔力障壁。
つまり、ルルベルクの魔法が無効化されていたのは、この障壁が全て防いでいたからなのだ。
だが、世界最強の魔法使いたる彼女の魔法を無効化するということは、人間の魔法では一切この障壁を破れないと言うこと。
扉の破壊は不可能ということか?
「おっ、おおっ? おおおおっ!?」
不意に、ピュラスがすっとんきょうな声を上げた。
ルルベルクが振り向くと、ピュラスは何らかの計測機械の示す数値を覗き込み、興奮した様子で叫び始めた。
「神の魔力が! 凄まじい数値だ! 二千……四千……八千……まだ上がっている! すごい! すごすぎる!」
同時に、計測機械がオーバーヒートを起こして爆発を起こした。
ピュラスは爆発に巻き込まれて吹き飛ばされ、アフロと化した。
「アハハハハハハハハハハハッ!」
だが、それでもピュラスは狂ったような笑いを止めない。
今までも変な男だと思っていたが、まさかここまでとは。
(今後は関わらないでおこう……)
もはや、ピュラスに対する憤りは、憐れみと侮蔑へとすり変わっていた。
「これほど強力な魔法障壁。間違いなく神の仕業だな。どうやら、よほどこの扉を壊されたくないらしい」
「帝王様」
「上出来だ、ルルベルク。反撃が来ないところを見ると、やはり奴は世界崩壊の阻止に全力を費やして……コホン、別のことで手一杯のようだ」
「え? いま何か物騒な単語が聞こえてきたような?」
「ヴェッホヴェッホ! 気にするな。とにかく、よくやった」
「よ、よいのですか? これで……?」
「ああ。実を言えば、扉の破壊は無理だと薄々思っていた。お前には壊せと言ったが、まあ、気にするな」
「……いえ、しかし」
「胸を張れ。お前のおかげで奴は相応の魔力をこちらの防備に回してきた。……おい、ピュラス。この狂人め、いつまで笑っている。さっさと始めろ」
「ハハハハハハハ……ハァッ! わかってますともー、スイッチーオンッ!」
ピュラスは笑い転げながら、ポケットからスイッチを取り出して、押した。
すると、巨大掃除機めいたフォルムの大型機械が稼働し始めた。
マナバキュームだ。マナバキュームは凄まじい吸引力を発揮して、扉を守る障壁を、それを構成する魔力を吸い上げ始めた。
障壁の六角形ガラスプレートが、次第に形を失い崩れていく。
しかし、欠けた所からまた新たな障壁が次々に生成されてしまうようだ。
「いくら相手が無防備とは言え、神の無尽蔵の魔力を削ることは容易ではないな」
「しかし、いかに神とは言えど限界はあるはずです。このまま続けていれば、いずれは……」
「川からバケツ一杯水を取ったところで、川の流れに変化は起きん」
ルルベルクの言葉を、帝王の言葉が切り捨てる。
帝王はマナバキュームに近づいて、レバーを引いた。
すると、マナバキュームは煙突から蒸気を上げて、激しく揺れ始める。
ゴウンゴウンゴウン……チーン!
電子レンジのような音を立てて機械上部のハッチが開くと、なんと、アツアツのたこ焼きが出てきた。
帝王はそれにつまようじを突き刺し、眼前へと持ち上げる。
「だが、バケツに取った水を利用することはできる」
帝王はたこ焼きを食べた。
その瞬間、ルルベルクは目の前の光景が信じられなかった。
いや、光景と言うよりは感覚的なものに近い。
とにかく、彼女は確かに感じたのだ。
帝王の周囲に渦巻く魔力の流れを。
ほとばしる魔力の波動を。
下手をすれば、ルルベルクと同等か、それ以上の魔力量を。
(帝王様は、魔導の才に恵まれた方ではないはず。これほどの魔力……どう言うことですか!?)
「驚いたかルルベルク? これがマナバキュームのもう一つの機能。マナサプリだ」
「マナ……サプリ……」
「マナバキュームで吸い出した魔力を、特殊な機構を用いて物質に変換し、たこ焼きとして出す。それを食べれば、体内で再び魔力に再変換され……」
帝王は自らの内から溢れだす魔力のオーラを見た。
「こうなるわけだ」
「…………」
ルルベルクは戦慄した。
たった一個のたこ焼きを食べただけで、これだけの魔力量。凄まじい力だ。
しかし、神の魔力はこの程度ではない。
総量を考えれば、計り知れない魔力量となるだろう。
その神の魔力を全て手にするとなれば、一体どれだけの……。
(いったいどれだけのたこ焼きを食べなければならないのですか!?)
天文学的数字になることは明白だ。
(太る。絶対に太る! 帝王様、あなたは何という修羅の道を進むおつもりなのですか。私にはとうてい真似できません!)
なるほど、これがオサカ帝王の生きざまと言うわけか……!
目的のためにはどんな手段も厭わない。圧倒的な力への執念。
これがオサカ帝王だ。オサカ帝国なのだ。
ならば、と。
ルルベルクは、改めて誓った。
(オサカ帝国四天王の一人として、忠実な部下として、私は、この方の逝く道を、必ず支えて見せる!)