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異世界ニンジャと亡国の姫  作者: 青鬼
第0章:プロローグ
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ナッラー王国炎上

もしこの一話目のテンションに付いて来れるなら、二話目以降は問題ないです。

 ナッラー王国の南の果て、タマッキ・マウンテン。

 太古より、森の神「ゴッド・タマッキ」が住まうとされるその山は、豊かな森林地帯として名高い場所であり、神聖な場所でもあった。

 そんなタマッキ・マウンテンの夜の山道を、僅かな月明かりを頼りに1台のオープンカーが時速60キロメートルのスピードで駆け上がっていた。

 さて、いきなりの自動車の登場に読者の皆さんは混乱したことだろう。水を差すようだがここで軽く注釈を入れておく。

 この世界は、技術レベルが現代日本並みの、中世ファンタジーな世界である。

 余計に混乱を招いたかもしれないが、そう言う設定なのでしょうが無い。


「まったく、パンクだとかガス欠だとか! これだからクルマは嫌なんだ! いっそ乗り捨てちまおうぜ!?」


 顔いっぱいに冷たい空気を受け止めながら、シカ革製レザーアーマーを着込んだ大男、黒騎士ことアレックスは、オープンカーに結びつけたロープを引っ張りながら走っていた。

 何を隠そう、彼こそがこのクルマの動力源である。

 驚くべきことに、彼はこのオープンカーを2時間ぶっ通しで走らせているのだ。


 繰り返そう。

 荷物も合わせれば重量は1トンに相当するだろうオープンカーを、彼はその筋力のみで動かしているのだ。

 つまり人力! なんたる尽力! 彼の努力は賞賛に値するだろう!

 しかし悲しきかな、その努力が彼の主人に伝わることは決して無いだろう。


「確かに! しかしそれでは荷物が運べません。亡命のためのワイロです。タイセツに運びましょう」


 運転席でハンドルを握っているのは、同じくシカ革製レザーアーマーの、アレックスと比べればやや小ぶりな男。白騎士ことペッシェ・スパーダだ。

 その隣――――つまり、運転席と助手席の間には、ダンボール箱がいかめしく置かれている。この中身こそ、亡命の際に渡すワイロである。

 そして、その中身を知っているのは彼ら二人と、その主人である彼女のみだ。


「アレックス! ペッシェ! さっきから揺れが酷いわ、もっとマトモな運転できないの?」


 揺れが酷いのは彼らの運転が下手だからではない。この細い山道の至る所に岩や木の根が突き出しているからだ。例えベテランタクシー運転手であっても、こんな道でまともな運転など出来ないだろう。

 だが彼女はそんな言い訳を聞き入れない。

 たなびく金髪と共に後部座席から顔を覗かせたのは、ナッラー王国第一王女ことクレア・ナッラー。

 彼女こそ、ナッラー王国の正当な王位継承者である。

 いや、「王位継承者であった」と言うべきだろう。

 なぜなら彼女の治めるべきナッラー王国は、数時間前に滅んでしまったのだから。


「アレックス! 王国最強とか豪語してる騎士がへばってんじゃないわよ。ウスノロ!」

「へばってねえよ! バカにすんなよこの妄想王女! いてこますぞ(ボコボコにする事)!」

「主人に対してその言葉遣いは何よ! それに私は妄想王女なんかじゃないわ。ピンチな状況で白馬の王子様の登場を期待する、ほんのちょっぴり夢見がちな美少女よ。バーカ!」


 その桃色の唇から暴言を垂れ流し続けるクレアをよそに、アレックスの脳裏にはオサカ帝国の侵攻直後の情景がフラッシュバックしていた。あれはまさに一瞬の出来事だった――――。


 ※


 ちょうど夕暮れ時。

 いつも通り平和な、ナッラー王国の王都。

 その少し東にある平原「ナッラー・コーエン」にて、アレックスが野生のニポンジカとの死闘の末勝利し、ニポンジカの角こと、シカツノブレードを手に入れた直後のことだ。

 天然の素材だからと言って舐めてはいけない。このシカツノブレードは人間の技術力では到底及ばない戦闘力を秘めているのだ。

 ハガネを上回る強度を誇るシカツノブレードは、そのサイズが大きいほど、堅く、鋭くなる性質を持っており、アレックスが手に入れたソレは、非常に立派なシカツノだった。

 さらに、魔力を込めればツノの先端からビーム砲が撃てる。飛び道具としても優秀な武器だ。


 加工するまでも無く、最強の武器になるだろう。2本手に入れたし、1つはペッシェにプレゼントしよう。

 ツノを抜かれたニポンジカが悲しそうに去って行くのを見送りながら、アレックスは上機嫌に頷いた。


 ……その時! 王都の方角から謎の爆音が立て続けに轟いたのだ!


 アレックスは王都を振り返った。

 あの時の情景は忘れられない。

 視界に飛び込んできたのは、激しく燃え盛る王都の姿……!

 夕陽の光とあいまって、王都は見事なミカン色に染まっていた。


「なっ!?」


 アレックスは思わず叫んでいた。

 それと同時に空を見上げ、再び叫ぶ。


「あれは! オサカ帝国の爆撃機!」


 なんと残酷な光景か。

 立派なナッラー・キャッスルが!

 ナッラーの守護神トーダイをまつるトーダイ神殿が!

 美しきナッラーの王都が!

 爆撃機から焼夷弾の如くばら撒かれるオサカ帝国の兵器「タコヤキ」によって焼かれていたのだ!

 雨のように降り注ぐタコヤキ! 燃え盛る建物! ヤケドするナッラー市民! もはやナッラーは壊滅寸前だ。


 しかし、ナッラー王国もただやられるワケでは無い。こんな時のために、備えはしてあるのだ。

 あれを見よ。このナッラー王国の王都にて、ひときわ高くそびえ立つあの塔を!

 あれこそナッラー王国……否、ニポン大陸最古の木造兵器、「砲榴塔・ゴジューノ」!

 その塔に取り付けられている対空ミサイルは強力無比。たいていの爆撃機はコレを一発食らっただけでお陀仏だ。


 おお、しかし、なんという事だ!

 砲榴塔・ゴジューノに、タコヤキが着弾したではないか!

 炎は瞬く間に広がり、ゴジューノ塔を容赦なく燃やしていく。オーマイガッ!

 やはり木造建築は火に弱かったのだ。ゴジューノ塔は、その真価を発揮することなく燃え尽きてしまった!


 これでは、もはや打つ手は無いではないか。

 アレックスが絶望しかけたその時、一筋の光明が差しこんだ。


「ナムアミダブツ! ナムアミダブツ! ナムアミダブツ!」


 おお、あれはナッラー王国最強の魔導ゴーレム! その名も「ダイブツ」!

 座高15メートルもあるダイブツが、オキョーを唱えながらすっかり焼け落ちたトーダイ神殿から姿を現したのだ!


「ナムアミダブツ! ナムアミダブツ! ナムアミダブツ!」


 ザゼンを組んだまま、ダイブツは頭部から螺髪ミサイルを発射した。

 オサカ帝国の戦闘機は、躱す間もなく爆発四散。お見事である!


「ナムアミダブツ! ナムアミダブツ! ナムアミダブツ!」


 まるで歓喜に震えるように、ダイブツはオキョーを唱え続けた。

 アレックスも、思わずガッツポーズを取ろうとして……凍りついた。

 なんという無慈悲! アレックスの視線の行く先、西の空からさらなる爆撃機が飛んでくるではないか! その数、およそ50機!

 読者諸君はこう思った事だろう。圧倒的なダイブツ・パワーがあれば、爆撃機などおそるるに足らず。と。

 しかし、あろうことか、ダイブツは爆撃機の接近に気が付いていないのだ!

 あっという間に距離を縮めた爆撃機は、ダイブツの後頭部めがけて、対ダイブツ巨大タコヤキを発射した!


「ナムアミダブツ! ナムアミダ……ブッダ!」


 集中爆撃を受けたダイブツは、それだけ叫んで爆発四散した。


 ※


 その後、棒立ちになっている自分の下へ、オープンカーにクレアを乗せたペッシェがやって来たのだ。

 あれよあれよと言う間にアレックスも車に乗せられ、その車がパンクした上にガス欠になり、冒頭に至るというワケだ。

 ペッシェに聞いた話では、こういう事らしい。


「オサカ帝国の襲撃直後、私は国王陛下に命令を受けました。『クレア姫を連れて、同盟国であるワッカヤマ王国へ亡命せよ』という命令です。私は反論しました。陛下がナッラー王国に残り、オサカ帝国と戦うつもりだったからです。主君が戦場に残ると言うのに、その場から逃げ出すなんて出来るワケがないでしょう? しかし、陛下は言いました。『クレアを守れ』とね。命令とあっては、背くことは出来ません。私はクレア姫を逃がす事に決めました。ゼッタイに、命を懸けてでも守って見せます。それが、私の使命です」


 長い話なのでアレックスは適当に聞き流していたが、とりあえずワッカヤマ王国へ逃げる事になったらしい。

 ワッカヤマの国境までもう少し、あとはこの森を抜ければすぐだ。

 しかし、そんな時に後方から「パラリラパラリラ」という不穏なクラクション音が鳴り響いた。


「オバチャン部隊だ! ヤツら追いかけてきやがった!」


 アレックスは悪態をつきながら、背後を振り返った。

 視線の先には、2輪式貨物車両「ママチャリ」に跨った武装集団「オサカノオバチャン」が迫って来ていた。その数、5人。


 オサカノオバチャンの装備は非常に攻撃的だ。全身をタイガーストライプのスーツで覆い、頭部は冒涜的にもダイブツを模したパンチパーマ。「アツゲショー」と呼ばれる特殊なコーティングを顔面に塗りたくり、それがいっそう恐怖を引き立てている。人間的な理性を持たないその瞳には、「バーゲン」の4文字が浮かび上がっていた。

 そして恐ろしい事に、オサカノオバチャンは皆、同じ顔をしているのだ。

 何を隠そう、オサカノオバチャンとは、オサカ帝国が作り出したクローン生物なのである!

 オサカ帝国は、近年急速に発展してきたクローン技術を応用して、オサカノオバチャンを量産し、道具として利用しているのだ!

 まさしく、命に対する冒涜だ!

 オサカ帝国とは、なんと冷酷な国であろうか!


 だが、真に恐れるべきはママチャリの方だ。

 ママチャリに搭載された運搬器具「マエカゴ」には、ギッシリとタコヤキが積み込まれているのだ。

 オサカノオバチャンは器用にも片手でママチャリを運転しながらタコヤキを投げつけてきた。


「タコヤキ手榴弾だ! 撃ってきましたよ!」


 ペッシェがアクセルを踏む足に力を込める。

 ガス欠なので、全く意味は無かった。


 続いて、アレックスが地面を踏む足に力を込めた。

 一瞬だけ加速したオープンカーは、すんでのところで爆発に巻き込まれずに済んだ。

 安心するのも束の間、タコヤキに注意を払いすぎていたのがいけなかった。

 地面から突き出ていた木の根にタイヤが乗り上げ、車体が傾いたのだ!


 倒れそうになる車体に、ペッシェは床に向かってキックを放つ。お見事!

 キックの衝撃で、車体はバランスを取り戻し、なんとか持ちこたえた。

 しかし、減速してしまった事は否めない。オサカノオバチャンに追いつかれてしまった。

 車体後部に「ドンッ」と鈍い音が響く。オサカノオバチャンの1人が取りついてきたのだ。


「アメチャンタベルカ! アメチャンタベルカ!」

「キャー! 助けて白馬の王子様! 今こそご都合主義的な登場の場面よ!」


 這いずりながらオサカノオバチャンはクレアの腕を鷲掴みにする。

 狂言をわめきながら必死にもがくクレアだったが、オサカノオバチャンの握力は万力のように力強い。

 そのままクレアを引きずりおろそうとするオサカノオバチャンの腕を、アレックスが踏みつけた。


「おいおい、うちの姫さまに乱暴しないでくれるかね?」


 ロープを放り出して、いつの間にか後部座席に移動していたアレックスは、オサカノオバチャンを睨みつけながら、腰に差していたシカツノブレードを抜刀した。

 オープンカーは、慣性の法則によって未だに走り続けている。


「モウカリマッカ! モウカリマッカ!」

「お前らの所為で大損だよ。じゃあな」


 シカツノブレードを振り下ろし、オサカノオバチャンの腕を両断。切り落とされた腕だけを残して、オサカノオバチャンは地面に墜落した。

 運の良い事に、真後ろでママチャリを漕いでいたオサカノオバチャンがそれに巻き込まれ、見事に転倒。

 バラバラと零れ落ちたタコヤキが光り輝き、轟音と同時にアレックスたちのはるか後方で火柱が上がった。

 安心するのも束の間、こんどは側面からの攻撃だ。


「ナンデヤネン! ナンデヤネン!」

「ナンデヤネン! ナンデヤネン!」


 左右両側からオサカノオバチャンが飛び掛かってきた。仲間を殺された恨みか、怒髪天を衝くほどに怒り狂い、凶悪な顔を浮かべていた。

 しかし問題は顔ではない、手だ。

 なんとその手にはタコヤキが握られており、飛び掛かると同時に投げつけてきたのだ!


「しゃらくせえ!」


 しかしアレックスはシカツノブレードを振り回し、難なくそれを弾き飛ばす。

 一瞬遅れて車体の右側に取りついたオサカノオバチャンを瞬時に切り捨てる。

 そして、車体の左側に取りついたオサカノオバチャンを、無慈悲に蹴り飛ばした。

 残るオサカノオバチャンは1人だ。


「アホチャウカ! アホチャウカ!」


 さらに激しい怒りを露わにするオサカノオバチャン。その表情はまさしく修羅!

 常人ならば失禁してもおかしくないであろう怒気を叩きつけられながら、アレックスはシカツノブレードを構えた。


「やれるもんならやってみいや! この三段腹が!」

「ナンヤコラ! ヤンノカコラ! ヤッタンゾコラ!」


 なんと、オサカノオバチャンはママチャリのマエカゴから1メートルほどもある巨大タコヤキを取り出した。

 それを両腕でガッシリと抱え込むと、オサカノオバチャンはサドルをバネに真上に跳躍。

 10メートルほど飛び上がった所で、放物線を描きながらアレックス目掛けて急降下してきた。

 予想外の攻撃方法に、アレックスは思わず目を剥いた。


「車から飛び降りろっ!」


 避けきれないと悟ったアレックスは、クレアを担いで跳躍。クレアを庇うようにして地面に滑り込んだ。続いてペッシェも、ワイロを入れておいたダンボール箱を抱えて、車から飛び降りる。

 この一瞬の判断が、アレックスたちの命運を分けた。

 ペッシェが飛び降りた直後、オサカノオバチャンが車に墜落したのだ。

 墜落と同時。1メートルの巨大タコヤキが凶悪な閃光を放ち、オープンカーと共に爆発四散したのだった。

キャラ紹介


名称:クレア・ナッラー

年齢:14歳

性別:女

職業:無職(元王女)

出身:ナッラー王国

目的:白馬の王子様と出会う事

説明:

本作のヒロイン(?)であり、ナッラー王国の第一王女(だった)。

おとぎ話のような出会いに執着しているらしく、ことある毎に白馬の王子様を連呼している。ちょっとした妄想癖。

でも実は、本作のキャラクターの中ではマトモな部類の人間だったりする。


追伸:(5/17)

これでマトモって、けっこうヤバイと思う(小声)

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