エピソード4 絶体絶命
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人生とはこんな呆気なく終わるものなのかと、口にタオルを巻かれ、手足を結束バンド縛られた状態で、藤崎は思案する。
もっとも、死を覚悟したからと言って冷静でいられているわけではなく、
連れ去られ、同じような状態でバンに乗せられた運転手が失禁した時、藤崎にはその気持ちが痛いほど理解できた。
怖いのに、身体に力が入らない。藤崎はもう最近では滅多に泣かないにも関わらず、今この状況においては、目から涙が溢れて止まらなかった。
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「ここら辺でいいだろう。奴らを降ろせ。」
車が停車し、バンの扉が開く。
どこかの港で、蓑虫のような状態の藤崎と運転手が雑にコンクリート地面に叩き落とされ、口の拘束を解かれた。
「おい、もう一度鳴らせ。」
「はい。」
部下のような人に指示を出している大柄の男が、恐らく柳田なのだろう。電話先と同じ声をしていた。
「ありました。女のバッグです。」
「じゃあ運転手は関係ねえのか。」
柳田はそう言うと、顎で運転手の方を指し拘束を解かせる。
「あ、あの…」
怯える運転手に柳田が近づく。
「お前、家族はいるか?」
「い…田舎に、お袋が1人…。」
「そうか。」
柳田はそう言うとポケットから現金を束で取り出し10枚ほど数えて運転手に渡す。
「へ…?」
「俺も田舎に母ちゃんがいてな、気持ち分かるんだ。今日見たこと、誰にも言わないって約束できるか?」
運転手は藤崎の方をチラッと見る。藤崎は必死で首を振った。しかし恐怖に支配された運転手は、柳田の方に振り向きしっかりと頷いた。
「い、言わない。誰にも言わない。」
「そうか、偉いぞ。なあお前漏らしたのか。情けねえ。ほらもう5万やるから、お袋に会う前に服買ってこい。」
「あ、ありがとうございます。」
「いいんだよ、さっさと消えろ。ほら。」
「ありがとうございます、ありがとうございます。」
運転手は足に力が入らないのか何度か挫けながらも生まれたての子鹿のように立ち上がり、柳田を見てお辞儀をし、藤崎の方を見た。
「ごめんなさい。」
罪悪感と安堵が混じったような表情に、藤崎は首を振る。
しかし運転手はその場から走り去った。
「助かった、助かった!」
運転手がそう呟いた瞬間
藤崎の頭上を、耳をつんざくような破裂音が2回、亜音速で通過する。
ぐちゃっと生々しい音を立てて、運転手がその場で崩れ落ちる。
「っーーーーー!!!!」
藤崎は声にならない声を叫ぶと同時に、自分が失禁したのを感じた。じんわりと熱を帯びる自分の下半身に、まだ生きていたのが不思議なくらい身体が冷えていたのだと気づく。
「腹に風穴開けて苦しませるつもりだったのにな。」
柳田はそう言って笑った。周囲の部下も笑っている。人が死んでるというのに。
「さて、と」
柳田は部下に指図し、運転手の亡骸を海に放り投げさせる。
「(私も、同じように殺される。)」
柳田とその部下達が事後処理について話し合っていると、唐突に車の排気音が近づいてきて藤崎の側で停車した。
車は柳田達の黒のバンではなく、一般車両だった。運転席が開き、男が降りてきた時、藤崎は目を大きく見開いて声を上げた。
「岩橋さん!!!!」
苦手だったプロデューサーだが、今この状況においては彼が最後の希望だった。
「桜ちゃん…あぁ、くそっ、まじか。」
プロデューサーが頭を抱えるが、今それどころではない藤崎はその様子に苛立ちを募らせ、ついに声を荒げる。
「何ぼけっとしてるの!!早く警察に電話して!!」
「ははっ、そいつはそんなことしねえよ。」
藤崎の言葉に応えたのは、プロデューサーではなく柳田だった。
柳田はプロデューサーに近づき藤崎のバッグから取り出したスマホを渡す。
「なんでお前のスマホが女のバッグにあんだよ。」
「じ、地震が起きた時ぶつかって入ったのかと…」
「チッ」
「うっ…!」
柳田がプロデューサーのみぞおちに拳を入れる。その様子を見て藤崎の表情はみるみる絶望に染まる。
「(じゃあ私が柳田からの電話に応じたスマホはプロデューサーのスマホで、プロデューサーは最初から柳田とグルだったってこと…?)」
藤崎は頭が真っ白になった。
今度こそ本当に助からない。
「ゴホッ、ゴホッ…ぁあ、あーあっ、なんで僕のスマホを持ってちゃうんだよ、桜ちゃん。」
プロデューサーは頭を抱えながらおぼつかない足取りで藤崎に近づく。
「気づかなければ、巻き込まれずに済んだのに。」
「死因はどうするつもりだ。」
柳田の質問にプロデューサーは肩をすくめる。
「もうここでヤク漬けにして溺死とかしかないんじゃないですかね。多忙でグループからも孤立し、自殺…みたいな。」
どこからともなく柳田の部下が注射器を持って現れる。柳田はその注射器を手に取り、瓶に入った液体を目一杯、注射器に吸い取る。
「い、嫌っ…。」
「こんな可愛い女殺すなんて勿体ねえな。全部お前のせいだぞ、岩瀬。」
「すみません。」
「お前でケジメつけろ。その代わり、その女を好きにヤリ捨てていいぞ。」
「!本当ですか!」
プロデューサーの目がいやらしく光り、藤崎の方へと向かう。
「おう、お前そいつ狙ってたんだろ?なのに名前もさっきから岩崎って間違えられて、可哀想だからな。最後に好き放題してから始末すればいいよ。」
柳田はそう言うと藤崎の拘束を解いた。
「捕まえて犯して、捨てろ。」
「へへっ、はい。ありがとうございます、柳田さん。」
プロデューサーは舌舐めずりをして、藤崎に近づく。
藤崎はなんとか立ち上がるも、足に力が入らず一歩も動けない。
「散々俺のことコケにしやがって…顔は良いけど生意気すぎるんだよ、さ・く・ら・ちゃーん。」
周囲はそんな様子の藤崎達を見て、「早くしねえと、俺達がヤッちまうぞ。」と野次を飛ばす。
「(お願い…!誰か、誰でも良いから誰か…!)」
藤崎がそう思うと同時に、再び地面が大きな揺れる。
「(また地震…?)」
そして次の瞬間、突如として藤崎とプロデューサーの間を割って入るように巨大な光が周囲を包んだ。
藤崎が目を開けると、そこにはさっきまでいなかったはずの、屈強な男の姿があった。
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