エピソード2 藤崎桜
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『藤崎桜さん、入られます!』
番組ADの声がスタジオに響くと同時に、大量にいたスタッフが道を開ける。
大きな丸い目に、まるで作り物のように長く美しく放物線を描く二重幅、そしてスッと高く通った鼻筋。
見る者全てが息を呑むような美しさを兼ね備えた少女は、ローファーの音をカツカツ鳴らしながらマネージャーを従えてスタジオに入ってきた。
「今日何本撮り?」
「2本撮りです。」
「2本?たかがグループの冠番組でしょ、1本は別日にとかできないの?この後パリから来てるモデルの友達と呑みの予定あるんだけど。」
「ですが放送の予定も決まってるので…」
「じゃあ早めに巻くようプロデューサーに言っといて。」
「分かりました…」
「よろしく」
藤崎はそう言うと、追い払うようにマネージャーをプロデューサーの元へ送る。
所属者23名、曲を出せばその全てが必ずヒットし、デビュー後わずか2年で全国6都市ドームツアーを成功させるなど、前人未到の記録を今なお打ち出し続けているアイドルグループ、それが藤崎の属するグループであった。そしてその中でも藤崎はグループの絶対的エースであり、グループ大躍進の立役者。
彼女の我儘はどんなものであっても目を瞑る。
それがこのグループの不文律であった。
「藤崎、何やってたんだよ〜」
番組MCを務める大物芸人が藤崎を見るや否や笑顔で話しかける。
「すみませーん、メイクに時間かかちゃって。」
もちろん嘘だ。ゲームが楽しくてそっちを優先していただけである。
「おいおい頼むよ、みんな待ってたんだから。」
「ごめんなさーい。」
藤崎も愛想笑いだけを返し席に着いた。
メンバーが小声で、「まじ調子乗ってる」とかなんとか言っていたが、藤崎はそんなこと気にも止めず、むしろそのメンバーに聞こえるようMCに話しかける。
「そういえば、私ドラマの主演決まったんですよー。」
「おー見た見た!大河の主演だろ?すごいな。現役女性アイドルでは初だっけ?」
「ふふっ、初なんて大袈裟ですよ。」
「いやでもすごいよ、今の時代にそれできるの藤崎くらいじゃないか?」
「えー、そうですかぁ?」
藤崎はそこまで言うと先程小言を言っていたメンバーの方を向きにっこりと微笑む。
「ミキちゃんはどう思う?そんなにすごいかな、私。」
「…チッ」
「ミキちゃん?」
「あ、ごめん話」
「話聞いてなかったなんてことないよね?こっち向いてたんだから。」
「…すごいよ。藤崎さんくらいなんじゃない?そんなことできるの。」
「えー、そう思ってくれてるんだ。ありがとう。…あ、でもミキちゃんもなんか深夜?のドラマで主人公のいじめっ子の役決まったんでしょ?おめでとう!」
「くっ…」
「ん?どうしたの?おめでとうってば。」
「…ありがとう。」
「どういたしまして。」
藤崎は満足そうに笑うと前に向き直る。
(誰のおかげでこのグループが人気だと思ってるのかしら)
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「いやぁ〜桜ちゃん今日も可愛かったね!」
「どうも」
「どう?この後ご飯なんか行かない?美味しい焼肉のお店連れて行ってあげるよ!」
「残念ですけど、これから友達との呑みがあるので。」
「まぁ、そう言わずさあ〜」
「(しつこい。)」
藤崎はかねてよりこのプロデューサーが苦手であった。自分含め、メンバーに対する視線が下心だけで構成されており、生理的に受け付けなかったのだ。
「(ただでさえ忙しくて自分の時間なんて殆ど無いのに、なんでそれをアンタに使わないといけないわけ。)」
「どうかな?」
「すみません、急いでるんで。」
すっと彼の脇を通り過ぎようとした瞬間
地面が大きく揺れ、視界が突然真っ暗になった。
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