エピソード1 勇者消失
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ファンファーレが城中に響き渡り、人々の歓声が勇者一行を包み込む。
「カイ様ーーー!!」
城の女官達がはしたなくも勇者の名前を呼んだ。平時なら許されぬその行為も、100年に渡り続いた、魔物全盛の時代を終わらせたというこの記念すべき日においては、城の王族・貴族も大目に見ることにしていた。
「良くぞ戻った、勇者カイよ。」
「はっ」
精悍な顔つきの男は、王の前に跪く。
続いて彼の後ろの騎士団もそれに倣い跪いた。
「其方らも、よくやった。勇者と共に魔王討伐に尽力した王国騎士団の英雄達よ。」
「勿体なきお言葉…!痛み入ります、陛下!」
騎士団の面々が、垂れた頭で上手く表情を隠しながら啜り泣く。勇者カイはふっと微笑んだ。
長いようで短い間であったが、
王国を出立し、共に旅をして、数多の死戦を一緒にくぐりぬけてきた彼らは、カイにとっては家族のような存在であり、
その彼らが名誉を賜ることは自分の事のように嬉しかった。
顔を上げた騎士団の先頭にいた騎士団長ロエルと目が合う。長い睫毛が涙で濡れ光っていた。戦場では数々の強敵を屠ってきた彼女も、式典用の礼服に身を包むと、一国の王女のように見える。
「(よかったな。)」
口だけでそう告げるとロエルは
「(はい。)」
と、それだけ言って微笑んだ。
「さて、勇者カイよ。」
「はっ。」
「この者達は元は余の、ひいてはこの王国に仕える騎士である。」
「はっ、承知いたしております。今日、この日をもって私は彼らの指揮権を陛下にお返しし…」
「いや、その必要はない。」
「!い、いえしかし陛下、それではこの者達は…」
「いいか、皆の者よく聞けえー!!
余はこの勇者カイを正式に我が娘、王女エリーゼの婿と認め、次期この国の"王"として戴冠の儀を執り行うこととする!」
その瞬間、わっと歓声が上がった。
「陛下それは本気なのですか!?」
「無論、そのようにすれば彼の者達もそなたに今後とも着いていくことが出来ようて。それとも、生涯の伴侶が余の娘では不満かな?」
「滅相もございません!しかし、王女様のご意思の方は」
「私も異論ございません。あなた様と一生を添い遂げられるのであれば本望です。」
「決まりじゃな。」
王の一言で改めて歓声が上がる。
勇者カイは戸惑っていた。戦争孤児だった自分が、その才を認められ勇者となり、魔王討伐の後、今度は王国一の美女と謳われるエリーゼ王女と結婚し、王となれと言われたのだ。
未だ実感が湧かない。しかしこれを断る訳にはいかない。
「謹んでそのお話、お受け致します。」
「うむ。頼んだぞ、勇者カイよ。」
城内は割れんばかり歓声と拍手に包まれる。
そのせいで、誰もが刺客の詠唱に気付かなかった。
「なっ!」
「王女様!!」
突如、エリーゼ王女の足元に妖しく光る魔法陣が現れる。
「エリーゼ!」
「陛下お下がりください!」
「お父様!!」
混乱の最中、勇者カイは術式が完全に発動する寸前でエリーゼ王女を突き飛ばし、代わりに魔法陣へと閉じ込められる。
「カイ!!!」
ロエル達騎士団が駆け寄ってくる。同時に悲鳴が聞こえ、その方を見ると、衛兵1人と貴族2人が殺害されていた。すぐ側の窓が割れているのを見るに術者は逃げたらしい。
「待ってて、今すぐ助けるから」
「ロエル、良いんだ」
「良いわけない、ちょっと待っていま術式を解析して…」
そう言うロエルの目には涙浮かんでいた。
分かっていたのだ、魔王討伐に向かった者達は皆、これは古代闇魔法であり、人族である我々では未だ解除方法が分かっていない代物だということを。
この術でカイ達は多くの仲間を失ってきた。
「ロエル、みんな、最後の命だ。術者を追え、かなりの手練だから気をつけろ。
…それと、皆んなに出会えて幸せだった。ありがとう。」
大粒の涙を溢れさせながらロエルは唇を噛む。
「いつまでも、お慕い申しております…!」
そんなこと、普段だったら絶対言わないのに、そう思ってカイは微笑む。
「陛下、申し訳ありません。」
「おおカイよ、其方余の娘を庇って…すまぬ、本当にすまぬ。」
膝から崩れ落ちる陛下にカイは首を振る。
「私は勇者なので、当然のことをしたまでです。」
「カイ様!」
「エリーゼ様」
駆け寄るエリーゼにカイは頭を下げる。
「申し訳ありません。折角この分だと結婚は難しそうです。」
エリーゼは目に涙を浮かべていた。
「私の所為で…」
「いいえ、エリーゼ様の所為ではありません。」
魔法陣の光はいよいよカイを全て飲み込もうとしていた。
「私、いつまでもお待ちしています。」
「エリーゼ様、それは…」
「いいえ、いつまでも、いつまでもあなたをお待ちしております。それが私に出来る唯一の」
光に飲まれ、カイの目の前から全てが消えていく。術が完全に発動し、カイはこの世界から姿を消した。
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「うあ"あ"ぁぁぁあぁ!!!!」
光に飲まれた直後、身を引き裂くほどの電流がカイの身体を迸る。
これが呪殺か、と腹を括るが次の瞬間、
先程までの浮遊感が一転、今度は一気に地面に引き込まれるような引力へと変わる。
「(まずいっ、受け身を取らなければ…!)」
反射的に拳を地面に突き、なんとか受け身を取ることに成功する。
「(無事…なのか?)」
拳についた、黒い、土にしては硬すぎる何かを払う。地面に足がついてる感覚を確認し、カイが顔を上げると、1人の女性と目が合った。
見たこともないような珍妙な格好をしているにも関わらず、カイは思わずその女性に目を奪われてしまった。
女性を花と表現したのは、この人の為だったのではないかと思うほどに、その女性は美しかったのだ。
「(天使だろうか?)」
カイがそう思った瞬間だった。
「お願い!!!助けて!!!!!!」
これからも良ければぜひお付き合いください!




