5日目
タクヤ「エリさん……俺、本気です」
その日の15分は、
まるで時間の流れが変わったように感じられた。
いつものベンチ。いつもの会話。
でも、タクヤの目だけは、
いつもよりずっと真剣だった。
エリは一瞬、息をのんだ。
思ってもいなかったわけじゃない。
でも、想像よりもずっと、真正面からだった。
エリ「……本気、って何が?」
できる限り軽く、冗談めかして返した。
タクヤがどれほど真剣な顔をしていても
この一線を越えてしまうのが、怖かった。
けれどタクヤは、真っ直ぐに言った。
タクヤ「好きです...」
冗談?...学生のノリ?...それとも...
エリは困惑していた
タクヤ「最初は憧れてました
でも、今はただの憧れとかじゃなくて...
ちゃんとエリさんを一人の人として、
大切にしたいと思ってます」
一言一句が、あまりにもまっすぐだった。
エリは、何も言えなくなった。
否定も肯定もできなかった。
(こんなの、現実じゃない。馬鹿みたい)
(でも……なぜか、胸が痛い)
カズ「お前何言ってんだよ!相手は人妻だぞ…」
タクヤはカズの静止も聞かず突っ走ってしまう
タクヤ「好きになってしまったものは
どうしようも無いんだよ…」
カズ「お前、自分に酔ってるけど
それってクズがやる事だぞ!だいたい、
エリさんがOKする訳ないだろ…」
タクヤ「ダメでも自分の気持ちを伝えたかったんだ…」
カズ「そうやって不幸になる人間ができるんだ…」
ドス黒く冷たい感情が顔に現れた…
エリは家に帰っても、あの15分が頭から離れない。
タクヤの声、まなざし、手の震え。
夫のタカシと過ごす時間が、
急に冷えた空気に包まれたように感じられた。
ただの生活。言葉のない会話。
形だけの家族。
(……このままでいいの?)
心の奥底で、もう一人の自分が問いかけてくる。
翌日の15分。
エリはタクヤに、こう言った。
エリ「……気持ちは、嬉しかった。けど、
私、家庭があるの。簡単に返事なんてできないよ
それとも、おばさんをからかってる?」
タクヤは真面目な顔で否定し
純粋な気持ちを言葉にした。
タクヤ「わかってます。でも、毎日、
15分でいい。俺、エリさんの隣にいたいです」
その言葉が、エリの心にじんわりと沁みていった。
告白の翌日からの15分は、空気が変わった。
それは張りつめた緊張ではなく、
確かに始まってしまった何かへの戸惑いだった。
エリは、いつものように更衣室で着替え、
いつものようにタクヤのいるベンチへ向かう。
でも、歩くたびに胸が少しずつ重くなっていく。
タクヤ「お疲れさまでした、エリさん」
タクヤは、何もなかったように笑った。
だが、その笑顔の下に“待っている気持ち”が見えた。
言葉を詰まらせそうになるのを、エリはなんとか抑える。
エリ「うん、お疲れさま。……今日、暑いね」
なんでもない会話。だけど、
それすらぎこちない。
タクヤは気づいていた。それでも、
15分間を変わらずに大事にしていた。