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4日目

タクヤがそのファミレスで

働き始めたのは、春先だった。


大学の授業が落ち着き始め、

生活費の足しにと始めたアルバイト。


はじめてシフトを合わせた女性

エリさんは、少し影のある笑顔を浮かべていた。


目元に疲れが見えるのに、

客には丁寧に微笑みかける。


何を聞いても、決して感情を荒らげることはなく、

落ち着いた声で返してくる。


(あの人、何考えてるんだろう)


最初は、それだけだった。興味。

知りたい、と思ったのは、“好意”ではなかった。


一緒に働く日が増えて、

タクヤはだんだんと“気になる”ようになった。


特に、エリがパートを終えて帰る15分前

ちょうど自分が休憩に入るタイミングで、

二人きりになるあの時間。


いつからか、タクヤはその15分を心待ちにしていた。


帰り支度をしながら、冷たい缶コーヒーを片手に話すエリの姿。

家族の話はあまりしない。でも、それが不思議と心地よかった。


エリ「そういう言い方、優しいね。

タクヤくんって、意外と観察してるでしょ?」


たった一言。

けれどその言葉が、胸の奥に何かを落とした。


(俺……今、褒められて嬉しいって思った)


日が経つにつれ、

自分でも戸惑うほどにエリに惹かれていった。


年齢? 10歳くらい上かなぁ

人妻? もう結婚してるよね

子持ち? 子供いるのかなぁ


気がつけば、彼女の髪型が

少し変わったことに気づくようになり、

シフト表で彼女と重なる日を無意識に探すようになった。


エリの笑顔が見たいと思うたび、

心がじんわり熱を持った。


そんなある日。

いつもの15分。エリが少し疲れた顔で、

制服のエプロンを外していた。


エリ「今日……変なクレーム受けちゃってさ、

正直ちょっと泣きそうだった」


笑っていたけど、目が赤かった。


タクヤは言葉を選ぶ間もなく、

声が先に出ていた。


タクヤ「俺……エリさんが笑ってないと、

落ち着かないんです」


彼女が一瞬、手を止めた。


タクヤの心臓が跳ね上がる。


(やばい、今の……ほぼ告白じゃん……)


でも引けなかった。

むしろ、心の奥にしまっていた感情が、

ドッと溢れ出してくる。


(俺……本気で好きなんだ、この人のことが)


その日、タクヤはひとりベッドで天井を見上げながら、

声に出してみた。


「……エリさんが、好きだ」


誰もいない部屋に響いたその言葉は、

自分にとって“覚悟”だった。


数日後、エリが帰ろうとするタイミングで

タクヤは決意したように立ち上がる。


タクヤ「今日、時間ありますか? 5分でもいい。

ちょっとだけ……話したいことがあるんです」


その時の手の震え。

うまく呼吸できない胸の奥。

けれど、前に進みたいという思いだけが、足を動かしていた。


それはもう、“恋”ではなく“必要”になっていた。


それを横目に見て

カズ「おい、タクヤ…ダメだって…」


その声はタクヤには届かない…


タクヤは、エリの顔を見るたび、名前を呼ぶたび、

もっと知りたくなる、もっと近くにいたくなる。


タクヤにとってそれは、

誰かを好きになった“初めての春”...だった。



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