3日目
タクヤ「エリさんって、
旦那さんと付き合い長いんですよね?」
ある日の15分、ファミレス裏口近くの小さなベンチで。
タクヤが、初めて“家庭”のことに触れた。
エリは少しだけ、間をおいた。
その問いかけに悪意がないことを確かめてから、口を開く。
エリ「うん、もう十年以上かな。
でも、最近はね……正直、しんどいなって思う時もあるよ」
笑顔を作るのに、少し時間がかかった。
けれど、タクヤはその“作られた笑顔”に気づいた。
タクヤ「エリさん、頑張りすぎてるように見える...」
その一言に、息が止まる気がした。
誰かにそう言われたのは、いつぶりだっただろう。
タクヤの視線は、真っ直ぐで純粋だった。
恋とか、好意とか、そういう名札のついた感情ではなく、
ただ“彼女自身”を見ていた。
それが、エリの心を少しずつほどいていった。
別の日、エリが軽く咳き込むと、
タクヤはすぐに自販機で温かいお茶を買って戻ってきた。
タクヤ「これ、のどにいいやつらしいです」
と、少し照れたように手渡す。
エリは思わず笑ってしまった。
エリ「ありがとう。ほんと、優しいのね」
タクヤ「優しくしてもらいたい人にだけですよ」
その言葉が、ふと胸の奥に残った。
一度、偶然彼のアパートの前で合った事がある
タクヤ「エリさん!偶然ですね、僕の家ここなんですよ~
今から出勤?いっしょに行きましょう」
彼の家は通勤路の途中にあった
またある日、エリは彼のアパートの前を通る帰り道、
無意識にスピードを緩めていた...
玄関灯がついているか、
カーテンが開いているか
それを気にしてしまう自分に気づいて、
少しだけ頬が熱くなった。
(……なに考えてるの、私)
けれどその日から、タクヤの存在が頭から離れなくなっていく。
まだ、恋ではない。
でも、夫に向けていた気力が、
確実に彼の方へと傾き始めていることに、
エリは気づいていた。
そして、タクヤのアプローチは、
決して無理強いではなかった。
けれど確実に、“心の隙間”を埋めにくる。
静かに、けれど本気で。
タクヤにとっても、
この15分が日に日に特別な時間になっていた。
彼は、自分が彼女にとって
“特別な存在”になりたいと思い始めていた。
カズ「タクヤってエリさんの事好きだろ~」
何となく、からかうつもりで言ってみた
タクヤ「うん…」
真面目な顔で真剣な目で返事する
カズ「えっ!15ぐらい上だぞ…歳上好きなんだー」
あれっエリさんって結婚してなかったっけ?
真面目でいい奴だけど…コイツとんでもねーな…
そして、次の週、タクヤは
告白という“ライン”に、
静かに足をかけようとしていた。