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17日目

翌日・ファミレスのバックヤード(休憩時間)


午後2時すぎ。

ランチのピークも過ぎ、

店内が少し落ち着きを見せる頃。

バックヤードの冷蔵庫前、段ボール箱の陰。

いつもの、ふたりの“秘密の時間”。


エリがそっと近づくと、

タクヤはすでにそこにいた。

いつもの制服、いつもの手袋。

でもその姿が、今日はまるで違って見えた。


「……待った?」

「ううん、俺が早かっただけ」


エリが微笑むと、

タクヤは照れくさそうに視線を逸らした。


ほんの数秒、ふたりの間に沈黙が落ちる。

でもその沈黙すら、甘く感じる。


やがて、エリが自分の手をそっと

タクヤのエプロンの端に触れさせた。

それだけで、タクヤの呼吸が少し深くなるのがわかる。


「昨日……ありがとうね」

「こっちこそ。……来てくれて、ほんとに嬉しかった」


その言葉に、エリは少しだけ頬を染めた。


「……今も、まだ、ドキドキしてる」

「俺も。何かちょっとでも思い出すと、すぐ……」


タクヤが言葉を飲み込むと、エリは小さく笑った。

そして、そっと指先をタクヤの手の甲に重ねた。


「……ねえ、こっち向いて」


囁くような声に、タクヤはゆっくり顔を上げる。

その瞬間、エリがつま先を少し上げて、

タクヤの唇にキスを落とした。   カシャ


一瞬だけの、静かなキス。

でも、それは昨夜の続きだった。


「……やっぱり、好き」

「……俺も、エリさんのことばっか考えてた」


ふたりの距離はもう、言葉では測れなかった。

近づいて、触れて、確かめ合うたびに、

“好き”の温度が、身体に染み込んでいく。


「今日の夜、少しだけ……また、話せるかな?」

「うん、話そう。何時でも……何分でも、

エリさんがいいって思えるなら」


エリの目が、ふわっと潤む。

その瞳を、タクヤは指先でそっとなぞった。


ほんの15分の休憩時間。

でもそれは、ふたりにとって一日の中で

いちばん濃く、あたたかい時間だった。


ドアの向こうから店長の声が聞こえた瞬間、

ふたりは名残惜しそうに離れた。


けれど、離れても心はそのまま。


触れた指先が熱を帯び、

次に会う瞬間まで、

その温度を抱きしめるように、

ふたりは厨房へ戻っていった。


その日の夕方――


ディナータイムが始まる前の、

わずかな空白の時間。

制服のままロッカー室にいた

エリのスマホが、静かに震えた。


《今日はありがとう。まだドキドキしてる。

また……会いたい。タクヤ》


ほんの一行。

でも、その言葉の奥にある熱に、

心がじんと反応する。


(“また”って……私も、だよ)


エリはすぐに返信しようとしたが、

指が何度もフリックしなおす。


言葉を選びすぎて、うまくまとまらない。

気持ちは溢れているのに、どこか怖い。


けれど、画面に映る「タクヤ」という名前が

その不安をやさしく溶かしてくれる。


《……私も。今日はずっと幸せだった。

また、少しでも、逢えたらうれしい。》


送信。


スマホを胸に抱きしめると、

ほんの数秒後にまた震えた。


《エリさんがいいって言ってくれるなら、

何時でも、どこでも会いに行く。

無理はしないで。でも、俺は、ずっと待ってる》


読んだ瞬間、涙が出そうになった。


(どうして、こんなに……まっすぐなの、あなたは)


エリはそのまま、スマホをぎゅっと胸元に押し当てた。

誰にも見られていないのに、頬がほんのり熱い。


エリの変化を冷たい視線で追う人物が居た


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