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15日目

タクヤのアパートは道路には面しているが

部屋の入口は裏側に当たり建物の中にさえ入れれば

人目には付かない。付かないが道路の人通りは激しい


建物の中に入るところを誰が見ていても不思議では無い

エリはタクヤのアパートに入ろうとしたが


今、冷静になって考えるとかなり大胆な行動だった

熱にほだされて回りが見えなくなっていた…


翌日、ファミレス裏口 夕方近くの曇り空


店内の片付けも終わり、

バックヤードには他の従業員の姿もない。

ロッカーを閉めたエリは、一人深呼吸をした。


(昨日……あんなに近くまで行ったのに)


あと数歩、あのときアパートのドアに手をかけていたら…

思い返すたび、胸の奥が火照る。


(冷静になったら、わかる。私、浮かれてたんだ…)


ファミレスの制服の上に、ロングカーディガンを羽織りながら

エリは口元に手を当てて、小さく呻いた。


「うぅ、やっぱり…タクヤくんのアパートに入るの、まずいよね……」

「変装とか……マスクに帽子にサングラス? いや逆に怪しい……」


でも、考えれば考えるほど苦しい。

もう、15分の会話じゃ足りない。

あの温度じゃ、満たされない。


(触れたい。もっと近くで、タクヤくんを感じたい……)


ガラガラ、と裏口が開く音。


「エリさん」


振り返ると、そこにいたのはタクヤだった。


一瞬目が合って、それだけで二人とも息を呑む。

昨日の未遂が、今なお体に熱を残していた。


エリは笑った。けれどそれは、

無理に明るさを装った笑みだった。


「ねぇ……タクヤくんの部屋、入口裏側なんだよね。

あの建物にさえ入っちゃえば、見えないよね?」


唐突な言葉に、タクヤは目を見開いた。


「え……」


「いや、変な意味じゃなくて……ただ……」

「昨日、途中まで行ったときに思ったの。

結構、人通りあるよね……あの通り」


「……うん。たしかに」


「私……また誰かに見られたら、

と思うと、すごく怖くなって……」


エリの声が小さくなる。


「でもね……」


そこで言葉を切ると、

エリはふっとタクヤの胸に額を預けた。

その行動に、タクヤは驚きつつも、

そっと両腕をエリの背中に回す。


「……でも、もう我慢できそうにない」


タクヤの心臓が跳ねた。


「俺も……」


喉の奥で声が詰まった。

やっと触れられた。

でもそれだけじゃ、足りなかった。


「エリさん……俺の部屋、来ますか?」


その声は、囁きだった。

だが、確かだった。


エリはゆっくり顔を上げ、

タクヤの目を見つめる。

彼女の瞳は潤んでいたが、

迷いはなかった。


「……うん」


そしてふたりは、短い頷きだけを交わし、

人気の途切れた瞬間を見計らって建物の裏へと歩き出した。


今度こそ、あと数歩。


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