1日目
朝から晩まで、家にいる...
タカシも娘もいる。けれど
自分の居場所はどこにもない。
夫・タカシは数年前から在宅ワークに切り替えた。
最初の頃こそ助け合えていると感じたけれど、
次第に、息が詰まり始めた。
昼も夜も、ひとつ屋根の下でずっと顔を合わせる毎日。
ドアを閉めても、キーボードの音や通話の声が耳に届く。
台所で立つ背後に、
無言で夫の気配があるだけで、
ぞっとする時があった。
夫婦の会話は実用的なものばかりになった。
そのくせ、夜だけは“男と女”としての役割を要求される。
タカシの性欲は変わらず強かった。
「在宅だから、時間に余裕もあるしな」
冗談めかして言うその一言が、
エリの神経を擦り減らした。
子育てで疲れきった心と身体に、
触れられるのが怖くなっていた。
子供が夜泣きしてるころ寝室を分ける事が出来た
子供も小学生になり、夫と二人きりになる時間が増え
体を求めてくる旦那を避ける為パートを探した
そんなある日、
何気なく歩いた駅前の通りで、
ファミレスの「パート募集」の貼り紙が目に入った。
(家にずっといるのは、もう限界かもしれない)
(タカシと毎日、空気を共有することすら苦痛なんだ……)
そのとき、エリは気づいていた。
家に“守られている”のではなく、
“閉じ込められている”のだと。
応募の電話をかけたとき、
自分の声がかすれていたのを覚えている。
そうして始まったファミレスでのパート。
初めは戸惑いながらも、
厨房の音や、お客さんの何気ない「ありがとう」が、
日ごとに心の疲れを和らげてくれた。
家ではない“外の場所”。
タカシと同じ空気を吸わなくていい時間。
エリはようやく、自分の呼吸を取り戻し始めていた...
そんな中、ある日。
大学生の新人アルバイト・タクヤが、
ファミレスの裏口から、
少し緊張した顔でやってきた。
その出会いが、エリの感情を大きく揺さぶることになるとは
このとき、まだ誰も知らなかった。