表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紋黒蝶は月夜に舞う〜元死刑囚のお仕事は、超能力で悪人を裁くことです〜  作者: 少林 拳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/48

第四十三話 救援


「グオォォォォ!」


「くっ」


レイは必死で【巨足】の攻撃を避け続けていた。

今のレイは、ランによって【心理能力】を封じられた状態だ。


生身で【巨足】の攻撃を喰らえばひとたまりもない。

あっという間にミンチにされてしまうだろう。


かと言って、逃げ続けるのにも限界があった。

【巨足】はその図体にそぐわぬほどの敏捷性を備えており、凄まじい速度で攻撃を繰り出してくるのである。


【心理能力】を失ったレイがここまで逃げ切れているのは、彼女が生まれつき高い身体能力を備えているからだった。何キロ全力疾走しても息切れしないスタミナと、50mを数秒で走り抜ける走力、ドアノブを歪めてしまうほどの膂力。


人外じみた身体能力ではあるが、文字通り人外の化け物である【外魔】が相手となるとかなり厳しいものがあった。


そもそも、身体能力が高いと言っても、頑丈さは普通の少女と変わらないのだ。

一撃でも喰らえば、それでお終いである。


しかし、いつまでも逃げ続けているわけにもいかない。


この極寒の気候と吹雪のせいで、彼女のコンディションは極めて悪い。

それに加えて、積雪のせいで足場も最悪だった。

いくらスタミナがあるとは言え、人間ではある以上、少しずつ体力は失われていく。


(ええい、ままよ!)


レイは、とうとうここで腹を括った。

逃げ続けるのをやめて、【巨足】と正面から向き合う。


「グオォォォォ!」


即座に突き出される【巨足】の拳。

レイは、その類稀なる動体視力によって、【巨足】の動きを捉えた。


(――ここだ!)


紙一重で【巨足】の拳撃を回避すると、素早く拳を繰り出す。

ズンという音と共に、レイの拳は【巨足】の腕に食い込んだ。


「グゥゥゥゥゥ!?」


予想外の痛みに、【巨足】が呻き声をあげる。

素の状態で鋼鉄さえ捻じ曲げるほどの膂力を持つ、レイのパンチだ。

例え上級の【外魔】とはいえ、何も感じないというわけにはいかない。


しかし、【外魔】の表皮も鋼鉄並に頑丈である。

対してレイの拳は、耐久力だけ見れば普通の少女のものだ。


そのようなものを力任せにぶん殴れば、レイの方もタダでは済まない。


はず、だったのだが……。


(……ん? あまり痛くない……?)


かなりの痛みを覚悟していたレイだったが、予想とは異なり、それほど大きな痛みはなかった。不思議に感じた彼女であったが、すぐに理由に辿り着く。


(これは……〈魔力〉が、私を守っている?)


その気配は、ランによって封じられたはずの、彼女の【心理能力】の痕跡だった。


それと同時に、レイはランのセリフを思い出した。

彼女は、【心理能力】をオフにした、と言ったのではない。

【心理能力】の射程をゼロにした、と言ったのだ。

つまり、彼女は【心理能力】を使えない、というわけではない。


レイの【心理能力】である《魔女》は、不可視のエネルギーを生み出し、操作するもの。

これまでは体外で生み出し、鎧や刀、銃弾のように使ってきた。


しかし……〈魔力〉を生み出すのが、体内であれば?


レイは、この状況を脱却するヒントを得たような気がした。


「グオォォォォ!」


痛みを堪えるように吠えた【巨足】が、素早く次の攻撃を繰り出してくる。

考えている暇はない。


レイは、素早く〈魔力〉を体内で練り上げるイメージを浮かべる。

そして、【巨足】の拳を掻い潜るように懐に潜り込むと、猛スピードで拳を繰り出す。


ドガン!


轟音と共に、【巨足】の5mもある体がぐらついた。


「グォ……ッ!?」


【巨足】の口から、苦痛に塗れた呻き声と共に、油っぽい血液が溢れ出す。

レイの拳は、間違いなく【巨足】に大きなダメージを与えていた。


(……いける! これなら……!)


彼女が行ったのは、至極単純な「身体強化」である。

不可視のエネルギーである〈魔力〉を体内で練り上げ、一点に集中。

ただでさえ高いレイの膂力に〈魔力〉によるエネルギーがプラスされ、拳撃の威力を爆発的に高めたのだ。


「グオォォォォッ!」


苦し紛れに【巨足】が繰り出した蹴りをひらりと躱すと、次にレイは自身の脚に〈魔力〉を込めた。そして、【巨足】の顎目掛けて、思い切り蹴り上げる。


ゴガン!


更なる轟音とともに、その巨体が僅かに浮いた。


「グアァァァァ!」


【巨足】のあげる絶叫は、明らかに苦痛に満ちていた。

蹴り上げられた口元から、血液と砕けた歯のかけらがパラパラと散る。


【巨足】の身体がぐらつき、僅かに後ずさる。

それは、戦いが始まってから、初めての後退だった。


「……逃げるのですか?」


「グ……グオォォォォッ!!」


レイの呟きが聞こえたかのように、【巨足】が怒鳴り声を上げた。

そして、感情のままにレイに向かって突っ込んでくる。


それを闘牛のようにひらりと躱すと、レイは〈魔力〉を込めた突きを放つ。

ズン、という音と共に指先が【外魔】の表皮に食い込み、【巨足】は更なる負傷を負った。


そこからしばらくは、ペースを掴んだレイが優位に立って戦いが進んでいった。

【巨足】はジワジワとダメージを負い続ける一方、レイは未だ無傷。


しかし、この優位性はあくまで薄氷の上に存在するものだ。

レイは一撃でも喰らえば、ゲームオーバー。

一方、【巨足】は持ち前の頑強さと生命力で、レイの攻撃に耐えることができる。


しかし、【巨足】がレイに怯えを見せ始めているのに加え、レイが終始冷静に対応しているために、戦況は彼女に味方していたのだった。



しかし、そんな中、とびきりの不運がレイを襲った。

【巨足】の蹴りを飛び退いて回避し、反撃しようと踏ん張った瞬間、その身体がぐらりと傾いたのである。


(――しまっ……!)


吹雪のせいで、視界は最悪だ。

また、積雪のせいで、足元も悪い。


そんな状況で戦っていたせいで、吹き溜まりの上に着地してしまったのだ。

地面の穴にズボッと足を取られ、レイの動きが一瞬だけ緩慢になる。


文字通り、彼女は薄氷を踏み抜いてしまったのである。


その隙を、【巨足】は見逃してはくれなかった。


「グォォォォォ!!」


【巨足】は傷だらけの拳を、レイ目掛けて思い切り振り抜いた。

掬い上げるような【巨足】の拳撃は、正確にレイの身体を捉える。


直後、少女の身体が宙を舞った。


***


(……くっ!? 身体が……!)


【巨足】に思い切り殴られたレイの意識は一瞬だけ途絶えたが、持ち前の身体能力の高さが幸いして、即座に気を取り戻していた。


しかし、正面から【巨足】の攻撃を喰らったせいで、身体が痺れたように動かない。

それどころか、あちこちが酷く痛んだ。あちこち骨折しているか、良くても骨にヒビが入っているだろう。控えめに言っても重傷である。


レイの優れた身体機能にかかれば、これだけの重傷でも直ぐに動けるようになるだろう。しかし、いくらなんでも重傷を負っても平気、などとというわけではない。


実のところ、上級【外魔】の一撃を喰らってもバラバラになっていない方がおかしいのだが、レイはそのことに感謝できるような心境ではなかった。


「グッ、グッ、グッ……!」


【巨足】は笑い声を上げながら、地面に倒れ伏しているレイを覗き込んだ。

彼女が逃げられないのを分かっていて、痛ぶるつもりだろう。


(くそ……!)


もはやこれまでか、とレイが覚悟を決めた、その時だった。


ジュッ! という微かな音と共に、純白の吹雪の中を一条の紅い熱線が駆け抜けた。


「グアァァァァッ!」


その紅いラインは【巨足】の胸元を貫通し、直後、絶叫が上がった。


(いったい、何が……?)


レイの疑問は、即座に氷解した。


「大丈夫か? 【死神】の……レイ、だったか?」


吹雪の向こう側から姿を見せたのは、真紅の衣を纏った長身の女。

【紅】第七部隊の隊長、吉良 響だった。


その傍には、《跳躍》の使い手である乾が控えている。

おそらく、自身の【心理能力】で吉良を連れて急行してきたのだろう。


レイは、痛みに霞む視界の端で、吉良が【巨足】に向かって指を構えるのを見た。


「――〈一指・炎銃〉」


吉良が手を鉄砲のような形に構え、人差し指を【巨足】に向ける。

直後、その先端から真紅の光が迸った。


「グアァァァァ!」


その光線は先ほどと同様に【巨足】を貫き、再び悲鳴が上がった。

胸元からプスプスと白煙を上げながら、【巨足】は穴の空いた胸を掻きむしる。


高崎の【火球】では傷一つ負わなかった【巨足】が、明確に傷を負っていた。

それを為したのは、吉良の【心理能力】。しかし、彼女の能力は何も突飛なものというわけではない。それどころか、彼女の能力の本質は高崎と変わらない。


彼女の【心理能力】は、【火】。

ごくごく単純な、火を発生させるというだけの【開放型心理能力者】だ。


しかし、高崎のように巨大な火球を発生さえると言ったこともできない。

文字通り、火を起こすことができるだけの能力なのである。


高位の火炎使いともなれば、周囲を火の海に変えられるほどの、大規模な【火】を操ることができる。

しかし、吉良にはそのような真似はできない。

それどころか、彼女が【火】を灯すことができるのは、自身の爪の先だけ。


ごく小さな範囲でしか【火】を操ることのできないという、【紅】の隊長にはおよそ似つかわしくない、極めて使いにくい能力なのである。


【心理能力】に目覚めた直後は、当然のように一等級で、本当に小さなライター程度の火力だったのだ。

しかし、彼女は諦めなかった。


吉良は考えた。

爪の先にしか灯すことができないのなら、その熱を凝縮させれば良いのでは、と。


毎日、血の滲むような努力を続けた彼女は、とうとう8等級まで上り詰めた。

そうして吉良は、その小さな【火】を唯一無二の技にまで昇華して見せたのである。


先ほどの〈一指・炎銃〉は、爪の先に灯した【火】を凝縮し、熱線として放つ技だ。

吉良にとっては最も基本的な技であり、同時に彼女の奥義でもある。

特に貫通力に優れ、その熱は、下位の【心理能力】を無効化する上級【外魔】にさえ、容易に風穴を開けるほど。当初はライター程度の火力だったなどと到底思えないほどの威力を誇るのだ。


しかし、貫通力にこそ秀でてはいるものの、攻撃範囲は狭い。

5mもの巨体を誇る【巨足】には、いささか効き目が弱いようだった。


「グオォォォォッ!!」


流石に2度も胸元に風穴を開けられれば、新たな敵に気付くというもの。

【巨足】は目を怒らせながら吉良の方を振り向くと、猛然と飛びかかった。


「……なるほど。〈一指〉では仕留めきれんか。ならば……」


吉良は、人差し指と中指を揃えて、ピンと伸ばした。

そして、揃えた2本の指を腰だめに構えると、突進してくる【巨足】目掛けて、素早く振り抜いた。


「――〈二指・炎刃〉」


刹那、鋭さを増した真紅の閃光が【巨足】を両断した。


【巨足】は、どこかキョトンとした顔で吉良のことを眺めていたが、やがて、その上半身がずるりと零れ落ちた。


ズシン、という地響きを立てて、両断された【巨足】の死体が雪原に転がる。



しばらく残心していた吉良であったが、やがてチラリと地面に倒れたままのレイに視線を向けた。


「……助けは要るか?」


「……お願いします」


危ういところを救われたレイは、羞恥と申し訳なさで、思わず顔を伏せた。

【黒】として任務に赴いた先で、【紅】に討伐対象を代わりに退治してもらうなど、前代未聞であろう。


しかし、ひとまず事件は解決したようだ。

あれだけ強かった吹雪も、少しずつ収まりつつある。


レイは、小さくため息をついた。

そして、未だ力の入らない拳をグッと固める。

なぜなら……。


「やー危ないところやったな! たはは!」


レイに縛りプレイを強要した挙句、全てが終わってからノコノコと現れたランのことを、思い切りぶん殴ってやろうと思ったからである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ