第二十二話 幕間 リオと星奈
場所は変わって、とある山中。
レイとエルのいる【水端】近郊のアジトから、それほど離れていない地点に、少女の姿があった。
片方は、褐色の肌に踊り子の衣装。
脇腹には【紋黒蝶】のタトゥーが刻まれている。
先ほどレイと対峙したリォ=リィと名乗った少女――通称【顔剥ぎ】である。
「ヤー、ありがとさン! 助けてもらわなかったら死んでたナ」
相変わらず能天気な口調。
しかし、それに応える声があった。
この場にいたのは、リオだけではなかったのだ。
「全く……何をしているのでありますか、アナタは」
呆れたようにそう言ったのは、黒いレインコートを羽織った女だった。
若々しい外見ではあるが、そのハスキーな声色は、円熟した女性を思わせる。
身長は160cm前後。
黒の短髪を、耳とうなじが隠れるぐらいまで伸ばしている。
丈の短いレインコートの下にショートパンツを合わせているため、彼女の雪のように真っ白な太ももが、惜しげもなく晒されていた。
黒いフードに隠れた相貌も、それなりに整っていることが窺える。
口調は軍人のそれだが、その身のこなしは柔らかだ。
しかしながら、それは決して「無防備である」と言うことを意味しない。
見る者が見れば、まるで密林に潜むオセロットのように、自然体ながらも用心深く周囲の景色をつぶさに観察していることが分かっただろう。
色白でレインコートの女と、褐色肌に踊り子の衣装を纏った少女。
一見すると共通項などなさそうな、むしろ正反対の外見をしているようにも思える。
しかし、たった一つだけ共通しているモノがあった。
それはタトゥー。
レインコートの女の太ももに刻印された【紋黒蝶】のタトゥーは、彼女自身の肌の白さと相まって、いっそうクッキリと浮かび上がっていた。
二人はある時期から志を同じくしており、共にとある組織に所属しているのである。
レインコートの女は、同じ刻印をもつ同僚に向かって苦言を述べた。
「まだ接触するなと言われていたでありましょう? しかも、わざわざ素顔を晒すなんて……どういうつもりでありますか」
「いやァ、なんだかテンション上がっちゃってサ。何せホラ……」
ここでリオはニヤッと笑い、意味ありげに言葉を区切った。
「……ようやく、星奈ちゃんの後輩に会えたわけだシ?」
リオの視線は、星奈と呼ばれたレインコートの女の腕に注がれている。
コートに隠れて見えないが、その下にも別のタトゥーが刻まれていることを、リオは知っていた。
それは、レイやエルと同一のもの。
死刑囚を意味する、悪趣味な大鎌のタトゥーだ。
リオの言葉を聞いた星奈は、キロリと彼女の方を睨んだ。
「……早死にしたくなければ、余計なことは言わないほうが身のためでありますよ」
「たはーッ! 怖イ怖イ!」
「……はぁ。相変わらずでありますね、リオは。アジトに着くまでに、ボスへの言い訳を考えておくのでありますよ」
「ゲェ!? 報告するのかヨ!? この人でなシ!」
「当然でありましょう? ほら、キビキビ歩くであります」
「ううッ……。この鬼軍曹メ……」
ぶつくさ言いながら素直に歩き出したリオと、彼女を急かす星奈。
二人の姿は陽の落ちてきた木々の影に隠れ、すぐに見えなくなった。




