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第4章〜こっち向いてほしいけれど あきらめることも私なりのファイトでもある〜⑫

 夏休みまで、残すところ10日となった木曜日――――――。


 前日のオレとの交渉の成果なのか、上坂部(かみさかべ)は、久々知(くくち)に対して、積極的に話しかけているようだ。

 

 そんな彼女の様子をうかがいつつも、昨日までと異なり、放課後にとくに予定がないオレが、帰り支度をしていると、後方の席から声がかけられた。


「ムネリン、ムネリン! 放課後に予定が無いなら、サンサンタウンで、お昼ご飯を食べて帰らない?」


 そう言って誘ってくる塚口マコトの声に、「ん〜、そうだな〜」と反応する。

 ちなみに、サンサンタウンとは、市浜(いちはま)高校の最寄り駅の目の前にある商業施設のことで、最近、大規模工事があって高層マンションが併設され、地域の人口増加に貢献している。


(たまには、クラスメートとの交流を深めておくか……)


 そう考えたオレが、後方席の男子の誘いに、承諾の返答しようとすると、意外な人物が声をかけてきた。


「立花クン、もし、時間があるなら、一緒にお昼を食べない?」


 声の主の方に顔を向け、驚いたのはオレだけではなかったようだ。


名和(めいわ)さん! どうしたの急に?」


 オレより先に声を上げたマコトに対して、名和立夏(めいわりっか)は、カタチだけ申し訳なさそうに、


「ゴメンね、塚口クン……ちょっと、()()のことで、立花クンに相談したいことがあって……今日は、立花くんを譲ってくれない?」


と、交際相手であるクラス委員にチラリと視線を送ったあと、顔の前で手を合わせ、可愛らしいポーズを取る。

 その仕草にあてられたのか、女子にも劣らない愛らしい顔立ちの男子生徒は、


「そっか、そういうことなら仕方ないね。ムネリン、相談相手になってあげてよ。でも、名和さんが可愛いからって、変な気を起こさないようにね」


と言って、アッサリと身を引いた。


「余計なことを言ってないで、用事が無いなら、さっさと帰れ! マコリンペン」


「む〜、その呼び方はやめてって言ってるじゃん! あと、明日は、一緒に帰ろう。約束だからね!」


 オレが、退散をうながすと、塚口マコトは、小言を言いながらも、キッチリと翌日のアポイントを取って、教室を出て行った。


 ◆


 突然の誘いに困惑しながらも、オレは、短縮期間中で生徒の少ない食堂にクラスメートを案内する。

 彼女に着席をうながしたあと、正面の席に座ったオレは口を開く。


「――――――で、話はナンなんだ? わかってると思うが、オレが久々知(くくち)のことで相談に乗れることなんて、ナニもないぞ?」


「もちろん、そのつもり。話したいことは、大成(たいせい)クン本人のことじゃなくて、葉月(はづき)のこと。あのコ、今日もずいぶんと雰囲気が違って見えたけど……あなた、彼女にナニを吹き込んだの?」


 さすがのカンの鋭さ、というか、以前も上坂部(かみさかべ)の微妙な雰囲気の変化に、いち早く気づいた相手ではある。

 ただ、今回もとくに、オレは具体的な助言などをしたわけではない。


「別に、オレはなにかアドバイスしたわけじゃないよ。ただ、上坂部は、『夏休みは、全力で()()()を磨かないと!』とかなんとか言ってたけどな……」


 オレが、ややトボケながら、そう返答すると、彼女は、「そう……」と、つまらなそうに答えたあと、


「まあ、この程度で、本音を引き出すのは無理か……?」


と、かすかに自嘲気味な笑みを浮かべながら、軽く肩をすくめる。

 そして、軽くため息をつき、


「仕方ない……攻め方を変えるか……」


と、わざとらしくつぶやいて、挑発的な笑みを浮かべる。


「ずいぶんと、葉月に肩入れしているみたいだけど……仲の良い異性の幼なじみが居る相手なんて、外部の人間からみたら、ノーチャンス過ぎる相手にイレ込んでも、結果的に空しくなるだけだって気付かないの?」


 その、こちらの神経を逆なでするような表情とモノ言いに、オレの言葉も刺々しくなる。


「は? なんのことだよ!?」

 

「ミディアムショートの髪型がよく似合う、丸い目がチャームポイントの、かなり真面目で、少しだけ抜けたところのあるお茶目な学級委員長に恋をしたら……彼女には、小さな頃から、ずっと一緒の学校に通っている、家が隣同士の幼なじみがいて、時々ケンカしながらも基本的にはイチャイチャ、ラブラブでした……な〜んて、ケンカ売ってるとしか思えないシチュエーションに、良く夢中になれるなってこと」


 たっぷりと皮肉をこめた発言は、露骨にオレを煽っていることが理解できた分、こちらも少しだけ残った理性で、なんとか冷静さを保つことができた。


「だとしたら、どうだって言うんだ? そもそも、その幼なじみは、いま、親しかった相手を想って、努力しようとしてるんだ。それを応援しようとして、ナニが悪い?」


 名和立夏の挑発に乗らないように、なるべく、落ち着いた口調で返答したのだが――――――。


「別に……あなたが、どんな行動を取ろうと、私が、どうこう言える義理ではないけれど……ただ、少しあなたのことが心配になっただけ……葉月が、『立花くんは、携帯機でゲームをしてる』って言ってたけど……恋愛シミュレーションゲームをプレイしているのなら、幼なじみキャラの攻略に支障を来さないのかなって?」


 彼女が発した言葉――――――それは、ここ数週間、オレが、これまでの日常を取り戻せないと感じている最大の要因でもあった。

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