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第4章〜こっち向いてほしいけれど あきらめることも私なりのファイトでもある〜⑪

 屋上フロアに座り込んだクラスメートの様子に焦ったオレは、彼女の体調を確認するべく、すぐにそばに駆け寄る。


「上坂部、大丈夫か!? こんな暑い場所に、呼び出してすまなかった」


 片ひざをついて、彼女の顔をのぞき込みながらそう言うと、上坂部葉月(かみさかべはづき)は、脱力した表情で、ため息をつきながら、


「もう……立花くんは……そういうところだよ!?」


と、チカラの無い笑顔を見せた。その表情を確認し、


「す、すまん……早く、涼しい場所に……」


移動しよう――――――と声をかけようとしたのだが……。

 彼女はスカートをはらいながら立ち上がり、


「それも、そうだけど! 思わせぶりなことを言うから、誤解しちゃったじゃない!」


そう言って、憤りをあらわにする。


「えっ……? 誤解って……また、オレ何かやっちゃいました?」


 思わず、自分の過剰すぎる能力を自覚せずに異世界で活躍する『無自覚チートキャラ』のようなセリフが口から出てしまったが、上坂部の言葉と意味と腹を立てている理由がわからないオレは、絶賛、混乱中だ。

 すると、彼女は、ふたたび、ハァ〜と、深いため息をついたあと、まくし立てるように、こう言った。


「この前も、私のことをかばうみたいに、教室の黒板前で大演説を始めちゃうし、最近、一緒に行動することが多かったから……あんな風にココに呼び出されたら、『告白されるのかな?』って、勘違いしちゃった……これじゃ、『私、男子にモテてる?』って思い込んでる頭の浮かれた女子じゃん!? あ〜、恥ずかしい!」


 めちゃめちゃな早口で語られたその言葉からは、ここまでの彼女の感情の起伏が、そのまま表現されていることが理解できた。

 これは、素直に謝っておかねば……と、考えて、

 

「そ、それは……誤解を与えてしまったのなら、申し訳ない」


そんな、謝罪の言葉を口にしたのだが、彼女の腹立ちは収まらない様子で、


「なに、その『悪気はなかった』みたいな言い分。()()()()()()()()()()()()()、って謝ってることにならないからね!」


と、オレを追及する手を緩めない。


「オレの不用意な発言の数々で、上坂部を混乱させてしまいました。誠にゴメンナサイ」


 両足の踵をつけ、つま先を少し開き、両肘を体側に沿って伸ばす、気をつけの姿勢から、頭部を45度以上の角度に倒す最敬礼のポーズを取ると、上坂部は、


「まあ、そこまで言うなら、もう、イイよ……勝手に勘違いした私も悪かったし……」


と、渋々ながらも、なんとか怒りを解いてくれたようだ。


「そ、そうか……それは、助かる」


 安堵しながら、オレが答えると、これまでの困惑や憤りなどの表情から、スッと冷静な顔に戻ったクラスメートは、


「ところで、立花くん、いま言ってくれたことは、どこまで本気なの?」


と、こちらに覚悟の程を問うてくる。


「あぁ、オレに出来ることなら、なんでもさせてもらうつもりだ! 上坂部には、花火大会に誘ってもらった恩もあるしな」


 実際のところ、今朝の教室で行われた久々知&上坂部のクラス委員コンビのフォローがなければ、オレは、少なくとも夏休みが明けるまでは、クラス内で空気的存在として居続けなければならなかっただろう。

 そのことも含めて、オレが謝礼の意味を込めて返答すると、クラス委員は、笑顔で宣言する。


「そっか……立花くんが、そう言ってくれるなら、私も全開パワーを出さないとね! 夏休みは、全力で()()()を磨かないと!」


 そうか……()()()と来たか……。

 オレが、まだ幼かった頃は、テレビなどで、そのフレーズを良く耳にした気もするが、これは、令和の時代にも、ポピュラーな言葉と言って良いのだろうか?


 まあ、2020年代も半ばの現在にあって、(あの深夜アニメとはなんの関係もなく)クラスメートとのカラオケで、『LOVE2000』を歌うようなセンスを持つ上坂部なので、今さら、彼女のセンスにツッコミを入れても仕方が無いのだが……。


 そんなことを考えながらも、明るい表情が戻ったクラス委員に、


「あぁ! オレにサポートできることがあったら、なんでも相談してくれ!」


と言って、軽く握った拳を突き出す。笑顔でうなずいた上坂部が、同じく軽く握った拳をぶつけ、オレたちは、交渉が成立したことを確認しあった。


 その直後、校舎棟の出入り口になっている鉄製の扉がゆっくりと開き、その向こうから、女子生徒が姿を見せる。


「あら? 先客が居るとは思わなかった」


 楽器が入っているであろうケースを持ちながらあらわれたのは、クラスメートの大島睦月(おおしまむつき)だった。


「睦月、ここで個人練習をするのなら、やめておいた方が良いと思うよ?」


 苦笑しながら上坂部が言うと、大島も、額に汗が滲んでいるオレとクラス委員の顔を交互に見ながら、


「どうやら、そうみたいね……他を探すことにするわ」


と、微苦笑を浮かべて返答する。


「それじゃ、私は部活があるから……」


 そう言って、先に屋上を去って行く上坂部を見送りながら、オレは、もう一人のクラスメートにも礼を言っておくことにする。


「大島、ありがとう。週明けに、オレが、教壇の前でやらかしたとき、長洲(ながす)先輩に話しをしてくれたのは大島なんだろう? おかげで、オレは今朝、上坂部と久々知にフォローしてもらうことができた」


「お礼には及ばないわ。私は、先輩たちに教室で起きたことを報告しただけだから……それに、久々知が、あなたを花火大会に誘ったのは、名和(めいわ)さんが、口添えをしたみたいよ?」


「えっ!? 上坂部じゃなくて、名和立夏(めいわりっか)が? いったい、なんで?」


 大島の口から出た意外な生徒の名前に、オレは、つい声を上げてしまう。


「さあ、それは、私にもわからないけど……」


 そう言って、言葉を濁した彼女は、「それより……」と、話題を変えるようにつぶやき、


「アナタも、葉月も、ずいぶんと吹っ切れたような表情をしているわね……私も、がんばらないと……」


と、なにかを決意するように整った細い眉にチカラを込めたあと、穏やかに微笑んだ。


 吹奏楽部の有望な部員であるらしい大島には、「ずいぶんと吹っ切れたような表情をしている」などと言われたが――――――。


 夏祭りからの一連の騒動が一区切りついたあとも、オレの中の日常は、あのヨネダ珈琲・武甲之荘店での一件以来、もとに戻ることはなかった。そして、それは、つい、ひと月ほど前まで熱心にプレイしていた『ナマガミ』をまったく起動しなくなったことからも、自覚がある。


 幼なじみキャラクターの桜田志穂子は、プレイ前の推しキャラだったハズなのだが……。

 その攻略ルートを実行するのに気分が乗らない、というのは、我ながら不思議に感じている。


 しかし、この翌日、オレは思わぬカタチで、その理由を突きつけられることになった。

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