表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/34

6話 ヴァンパイアハンター ④


ーー水瀬が、どうしてここに?

私が言おうとしたとき、紫月が私の前に出る。


「……お前が水瀬か。随分マナーのなってねぇお客様だな」


「それは申し訳ない。ヴァンパイアのマナーなんて知りたくもないからさ」


「……俺に何の用だよ」


「何の用って、聞くまでもないだろ? 僕はハンターで、君はヴァンパイアなんだから」


「だったらピストルを使えよ。陽奈に当たったらどうするつもりだった?」


「そうだな……そうなっても、僕は別に構わないよ。もちろん陽奈ちゃんは僕にとって大切だけど、なければそれはそれでどうにかするし」


やっぱり水瀬は、私を人質にするつもりすらなかった。


「事情があって、君に銀の弾丸は使えないんだ。みんなに渡したピストルにも銀の弾丸は入っていなかっただろ?」


私が受け取ったピストルが空だったのは、やっぱり故意だったんだ。


ーーけど、みんな(・・・)に渡したって?


心当たりは、紫月が今も隠し持っている陸君のピストル。

実弾がこめられていて、普通のハンターの仕業ではないと思っていたけれど……まさか、これもーー?


「……水瀬、どういうこと?」


「んー、何を聞きたいのかな? 陽奈ちゃん、何もわかってないと思うし、一から全部話そうか?」


わからなくて当たり前だ、水瀬の考えなんか。


知りたいのは、銀の弾丸を使わせたくないと言いながら、私にピストルを渡した理由。それが空だった理由。

それから私の勘が当たっているとしたら、陸君に実弾入りのピストルを渡した理由。そもそも陸君と繋がってた理由。

それから、一番聞きたいことーーそれは、紫月が訊ねてくれた。


「お前の目的を言え」


「……言ったら、お話は終わりだけどいい?」


背筋がぞくりとした。

それを言えば、水瀬は動き出すということだ。


紫月か、私か、それとも両方。


絶対に危害を加えてくる。

水瀬がおとなしく帰るわけがない。


「ど、どういうつもりで私にピストルを渡したの?」


……せめて、時間を稼ごう。

紫月が体勢を立て直して、水瀬から逃げる作戦でも考えてくれるくらいの時間を。


「時間稼ぎかな? 賢いねぇ、陽奈ちゃん。お望み通り教えてあげるよ、僕たち許嫁だもんね?」


一気に、空気がぴりついたのを肌で感じる。

紫月の顔がこわばった。


「……あれ、その反応。間宵君、聞いてなかったの?」


「しっ、紫月、あのね、これはーー」


「それじゃあ僕たちがどんなことしたかも聞いてないよね。もちろんキスくらいはしてるけど、どんなキスだったか想像できる?」


私に言い訳をする暇も与えてくれず、水瀬が追撃する。

本当に最悪な性格してる。

焦る私の頭の上に、紫月が優しく手のひらを置いた。


「……煽ったつもりか? お前が陽奈と何をしてたとしても、どうせお前の独りよがりだろ。初対面でも余裕でわかる。お前、陽奈に嫌われてるだろ?」


「ーーふふ、ご名答。一筋縄ではいかないねぇ。そのぶん陽奈ちゃんは簡単だったのに。……あぁ、ピストルを渡した理由が聞きたいんだっけ?」


紫月の答えに、救われたような気持ちだった。

その反面、水瀬は私をとことん見下しているのが伝わってくる。


「この際ぜーんぶ教えてあげるけどさ。僕はね、陽奈ちゃんがどう動いてくれてもよかったんだ。僕のところに帰ってきてくれても、間宵君と仲良くなってくれてもね。陽奈ちゃんが僕を選べば僕は暁家に婿入りできる。間宵君を選べば、陽奈ちゃんは間宵君の弱点となってくれるからね。実際、そうだろ?」


水瀬が、懐から取り出したナイフの切っ先を私に向ける。

紫月は、私を庇うように前に立った。


「ほらね?」


心底おかしそうに、水瀬は笑う。

水瀬にとって、私は駒でしかなかった。


そんなこと、わかってた。

けど、私が何をしてもそれが水瀬の手のひらの上だったということが、すごく悔しい。


「ーーで、そんな陽奈ちゃんにピストルを渡したら面白そうだと思ったんだ。間宵君は、陽奈ちゃんなんかのことを信じきれるのかなって。陽奈ちゃんが一人で僕のところに来たときは、かわいそうだと思ったよ。間宵君に見放されちゃったんだって。でも、そうじゃなかったみたいでよかったね」


「……なんでも知ってるんだね、水瀬」


「そりゃあ、君の肩に盗聴器と発信器がついてるからね」


ーーあの時だ。


水瀬にピストルを返しに行ったときの、去り際。

確かに、水瀬に肩を掴まれたのを覚えている。


どこまでも迂闊(うかつ)な自分に嫌気がさす。


私が肩を左手で払っていると、下げたままの右手に何かが当たった。

ちらりと見ると、触れていたのは陸君のピストル。


紫月は水瀬から目を逸らさないまま、後ろ手で私にピストルを差し出している。

持っていろ、ということだろう。

水瀬にバレないよう、素早く受け取ってポケットに差し込んだ。


でも、いざピストルを使わないといけない時が来たらーー私は、撃てるかな。

人を撃つ、なんて、そんな勇気のいることできるかな。


ふいに陸君のことを思い出す。

陸君はためらいもせずに、紫月のことを撃っていた。

それはきっと、陸君に覚悟があったからだ。

理由こそ褒められたものじゃないとは思うけど、陸君が目的のために覚悟を持っていたのは事実だ。


……じゃあ、私の目的は?

今ここで、私は何をしたくて、何をするべきだろう。


ゆっくり考える時間なんてあるはずもなく、水瀬は否応なしに話を続ける。


最後(・・)だし、気になってるだろうから話すけどね、陸とかいう頭の悪そうなヴァンパイアがいたでしょ。彼、利用させてもらったんだ。間宵君を少し弱らせてもらおうと思って。そしたら想像以上に陸は使えなかったよ。間宵君、まだ元気そうだよね? 僕、自分が痛いのは嫌なんだけどなぁ」


水瀬はわざとらしくため息をつく。


水瀬が言葉に出さないその続きを、私は知っている。

水瀬は自分が痛いのは嫌だけど、『傷つけるのは好き』だと知っている。


……ため息なんて、白々しい。

爛々(らんらん)とした目の輝きは、紫月と戦うことを心待ちにしていたという証拠に違いないのに。


紫月は水瀬の言葉を聞いて、呆れたように笑った。


「お前は、まわりのもの全部自分の駒とでも思ってんのか?」


「……あぁ、うん、そうかもね? どうも、他人のことを自分と同等って思えなくてさ」


「随分むなしい人生おくってるんだな」


「そう? 君とどう違うのかな。ヴァンパイアの王様はもう何年もひとりぼっちって聞いてるよ」


水瀬は人の嫌がることを言うのが本当にうまい。

口をつぐんだ紫月に、水瀬は嘲笑まじりで言った。


「ーーさて。もう僕ばっかり話すのも飽きたし、そろそろ始めようか?」


水瀬がそう言った瞬間、紫月が先に動いた。

紫月は咄嗟に傘を掴むと、水瀬がいるリビングへ突撃する。

しかし水瀬は迫る傘の先をひらりとかわし、一直線に私の方へと踏み込んだ。


「陽奈っ!」


逃げなきゃーー私がそう思うと同時に、紫月が叫ぶ。

しかし、水瀬の狙いは私じゃなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ