表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/34

6話 ヴァンパイアハンター ②


しばらく歩いて、廃工場の外に出る。

そこには紫月のバイクが停められていた。

紫月から、(わたし)用のヘルメットを渡される。


「ちょっと待って、紫月、運転大丈夫?」


「は? 前にも乗ったことあるだろ」


「いや、だって、肩……」


紫月があまりにも平然としているから忘れかけていたが、肩を撃たれていたはずだ。


「もうなんともねーよ。ヴァンパイアは頑丈なんだ」


そうだとしても、さすがに実弾を受けておいてまったく痛まないわけはないと思う。

けれど免許もないのにバイクの運転を代わるわけにもいかないし、私はここがどこかもわかっていない。


「……本当に平気?」


「平気だって。早く乗れよ、置いてくぞ」


心苦しさは拭えないが、紫月に甘えることにした。

後ろのシートに座り、紫月に抱きつく。


「……いいか? 動くからな」


確か、バイクに掴まるところがあるって聞いたけど。

今は、これでいい。こうしたいんだ。


私は紫月のからだに回した腕に力をこめて、よりいっそう強く抱きしめた。



紫月の背中にしがみついていると、安心する。


ーー紫月のこと、もっと知りたいな。

私に出会う前、それよりも昔、紫月はどんな風だったんだろう。


私の知らない紫月の過去に思いを馳せる。

樹莉ちゃんとは、いつから知り合いなんだろう。

そういえば、蒼生って誰なのかな。


紫月に訊きたいことを考えていると、突然、バイクから異音がした。

道端にバイクを停め、紫月が原因を探る。


「……ダメだ、なんか細工されてる」


一度停めたバイクは、もうエンジンがかからなくなってしまったらしい。

陸君たちの仕業だろうか。

なんにしても、もうバイクに乗っていくことはできない。

紫月は、バイクをとりあえずこの場に置いていくことを決めた。


私は紫月に抱きつく口実がなくなって、少しだけ残念に思う。

すると、紫月に手を握られた。


「仕方ねぇから、歩いてくぞ」


当然のように指を絡められて、繋いだ手を引かれて歩く。

……こ、恋人繋ぎってやつじゃない?


さっきの残念な気持ちなんてすぐになくなって、代わりにどうしようもない照れくささに支配された。



「……ね、蒼生って、誰?」


繋いだ手の温もりにも慣れた頃、さっき考えていたことを思わず訊ねてしまった。

紫月は一瞬立ち止まり、それからまたすぐに歩き出す。

私に合わせてくれていた歩幅が、少しだけ広がった気がした。


「い、言いたくなければ、いいの、全然!」


「……いや、話す。もう隠しごとはしない」


きっと、あんまり話したいことではないのだろう。

それでも紫月が教えてくれるというのなら、私は受け止めるだけだ。


紫月の手のひらを、強く握る。

せめて、どんなことがあっても大丈夫だと示してあげたかった。


「蒼生は俺の弟。樹莉の同級生だった」


弟? でも紫月は、家族なんていないって言ってた。

それに、マスターも樹莉ちゃんも、紫月は一人だって。


そうなると、考えられるのはひとつ。

蒼生君は、今はもうーー。


「……そんな顔すんなよ。何も死んだわけじゃねーよ」


「えっ、あ、そっか……」


私、顔に出てた?

でも、蒼生君がいなくなったわけじゃなくてよかった。


「蒼生は、もうヴァンパイアじゃないだけだ」


「え……それってーー」


ヴァンパイアが、ヴァンパイアじゃなくなった。

それはつまり、銀の弾丸で撃たれたということになる。

それか、水瀬いわくヴァンパイアは18歳まで血を飲まなければ人間になるらしいけどーー蒼生君が樹莉ちゃんの同級生なら私より年下だから、そういうわけじゃないだろう。


「……ハンターに、やられたの?」


紫月は頷いた。


「樹莉の目の前でな」


……樹莉ちゃんが言ってた『あの時』って、このことだったのかな。


「……両親と姉も、ハンターに撃たれた。だから家族はいないって言ったんだ」


「……そ、んな……」


ハンターにやられたということは、紫月の家族はみんな記憶をなくしてしまったということだ。

私は自分の家族が嫌いだけど、紫月はきっとそうじゃない。

いなくなってもいい家族だったら、そんな辛そうな顔をしないはずだ。


「……ま、昔の話だし、今はどっかで元気にやってるだろ」


「でもっ……でも、そんなの……」


簡単に飲み込める話じゃない。

きっと紫月にとって大切な家族だった。

お父さんとお母さんと、お姉さんと、弟の蒼生くん。

四人も失って、最後の王族になって。

紫月は、ずっと孤独だったのかもしれない。


紫月の家族は、どんな人だったのかな、なんて。

そんなことを考えたら、ふと、思い出した。


「……私、見た……」


「見たって、なにを」


「夢で、四人が撃たれるところ……」


前に、五人家族が私の父親に撃たれる夢をみた。

たったひとり、男の子だけがのこされて、そこで目が覚めたんだ。

もしかするとあれは紫月の家族で、のこされた男の子が紫月だったのかもしれない。


「私、紫月のカプセルを持ったまま寝たから、紫月の記憶をみちゃったのかもしれない。……紫月の家族を撃ったの、私の父親だった……!」


「……俺の家族を撃ったのは一人じゃない。本当に俺の記憶をみたんだとしても、夢でみたのが全部真実かはわからないだろ。……お前の深層心理かなんかが反映されたんじゃねぇの。お前からすればハンターといえば自分の父親ってことだろ」


やったのが父親じゃないとしても、ハンターであることは事実だ。

手が震えて、力が入らない。

するりと抜け落ちそうな私の手を、紫月はぎゅっと強く握りしめた。


「陽奈が気にすることじゃない」


「……でも、」


「お前、もう家を出たんだろ。それにハンターになるつもりだってないんだろ? それならお前とハンターは無関係だ」


……紫月は、優しい。

これ以上うじうじ悩んでも、紫月を困らせるだけだ。

わかっているけどーー一度湧きあがった罪悪感は、簡単には拭えない。


「……ほら、他に訊きたいことないのかよ。今なら何でも答えてやるから」


……紫月に訊きたいことは、たくさんあったはずだけど。

これ以上、私から進んで詮索したくはない。


答えあぐねていると、紫月が先に口を開いた。


「ないなら俺が訊くけど、なんでカプセル持ってたんだよ」


想定外の質問に、これ以上ないほど動揺してしまった。


「えっ! こ、これは、なんかほら、お守り代わりっていうか……実際、役に立ったでしょ?」


紫月のことが好きだから血液を持っていたかったとか、本人に言えるわけがない。


「俺の血がお守り代わり? へぇ、お前、俺のこと好きなの」


……わざわざ言わなくても、バレバレだったみたい。


「ーーっ、だ、だから、す、好きだって……」


「ふっ、素直じゃん」


「……いじわる」


紫月が頬を緩めた顔を見ると、安心する。

……紫月が、私の横でそうしてくれるなら。

過ぎたことばかり気にするんじゃなくて、前を向こう。


紫月の隣で、胸を張れるように。


そんな決意をして、少しだけ気分が上を向いたとき。

視界に捉えたものによって、一気に私の心に不安が満ちることとなった。


「っ、な、なにーー?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ