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4話 モノは大切に ②


寝る支度も終わって、ソファに横になる。

ベッドはまだ届いていないらしい。


家では、紫月がベッドで私は床に敷いた布団に寝ていた。

まあ『デザート』の後、そのまま一緒に寝たことがないわけじゃないけど。


……けど、今のこの状況は、許されていいのかな。


ソファに二人で寝るって、ちょっと密着しすぎだと思う。

なんか、初めて会った日の夜を思い出してしまうのもあって、心臓の鼓動がかなりうるさい。


「……やっぱ私、床で寝る!」


「なんで……あ、キツいか? 怪我したとこ」


「や、そうじゃなくて! ち、近いから……!」


「……じゃ、ダメ。言うこと聞く約束だったよな?」


「そ、そんなぁ……」


ダメだなんて、どういうつもりで言ってるんだろう。

こっちはいつ後ろから噛みつかれるかわからなくて気が気じゃないのに。


けど約束と言われたら仕方ない。

私が諦めて目を閉じた頃、紫月が口を開く。


「……責任、取る。傷が残ったら」


「えっ、いいよそんな、紫月のせいじゃないし……」


紫月がそんな風に思うことじゃない。

けど、頭に疑問がよぎる。


――責任、って、どんな?


もちろんそれを口に出すことはしなかった。

代わりに、別の質問を投げかけてみる。


「――ね、病院で、なんで婚約者なんて言ったの?」


「会わせてもらえなかったから」


「……あ、あぁ、面会するのに?」


「そう」


……それだけの理由。

そりゃ、そうだよね。それ以上の意味なんてない。

なにに期待をしていたのか、少しがっかりしている自分を馬鹿馬鹿しく感じる。


けどさ。ちょっとだけ思うんだ。


「……私たちの関係って、なんなんだろね」


始まりは突然で、他に選びようもなくて。

でも私はあのとき紫月に出会えて本当によかったと思う。

それから一緒にごはんを食べて、隣で寝て、同じお店で働いて――それって、なんていうのかな。


関係性に名前がほしいわけじゃない。

そんなのなくてもいいって、わかってる。


それなのにどうしてか、不安になるんだ。

それはきっと、私がワガママだから。


私の傷をいたわるように後ろから回された紫月の手のひらに、私も自分の手を重ねた。


「……本当にする?」


「えっ……」


「婚約」


「え、ええ、えっと、こん、婚約……ほんとに?」


紫月は何も言ってくれなくて、少しの沈黙が流れる。

先に耐えきれなくなったのは私のほうで、口を開いた。


「冗談、やめてよ……もう……」


いろんな意味でドキドキして眠れそうにない。

言うだけ言って、きっと面白がってるんだ。


……紫月は、ズルい。


「……お前、熱くね? 水飲む?」


誰のせいだと思ってるんだろう。

私の返事も待たず、紫月はミネラルウォーターのペットボトルを取ってくれた。


「ありがと……」


「ん」


「……紫月って、優しいよね」


意地悪なときもあるけどね。

でも初めて会ったときからずっと、紫月は本当に優しかった。


「……ま、モノは大切にしねぇとな」


その言葉を聞いた瞬間、ひやりとした冷たさが全身を駆けめぐる。

さっきまで浮かれてた気持ちが一気に沈んで、我に返るような感覚だった。


モノは大切に。

うん、そうだよね。当たり前のことだ。


――私は紫月にとってなんなんだろう。

その答えが、少しだけわかったかもしれない。


彼はヴァンパイアで、私は人間。

きっと結局、そういうことだ。


勝手に滲む涙をこっそり拭って、目をつむる。

背中に感じる体温も吐息も、なんだかいつもより冷たい気がした。

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