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第二話 暁人、さよりんと共に戦う

  こうして、暁人少年はさよりんの体の中に入ったまま、他のユルキャラたちと戦う事になったのだった。



 果たして、暁人少年はさよりんとともに全国ユルキャラバトル選手権を無事制することができるのだろうか…。



 ◆◆◆◆◆◆◆


 開会式で選手代表であるく○もんの選手宣誓が終わった後、まもなく試合が始まる旨のアナウンスが聞こえてきた。



 出場するユルキャラは16体で、勝ち抜きのトーナメント戦だ。一度負ければそれで終わりである。



 一回戦。



 さよりんと暁人は試合会場へ入場した。



 試合場は剥き出しの地面に白線で正方形を描いただけの簡素なものだったが、多くのユルキャラたちが周りを囲んでいて、かなりの熱気を帯びている。


 満月の光が地面から反射され、眩しいほどである。



「ほんとうに大丈夫かな…。」



 暁人はさよりんの身体の中で不安そうに身を縮めた。



 さよりんに続いて、一回戦の対戦相手が入場してきた。



「あ、あのユルキャラは…。」



 試合相手は暁人も知っている有名なユルキャラ、イナッシーだった。



 言わずと知れた、稲橋市の非公認キャラクター、自称梨の妖精である。

 梨のようなフォルムに、子供が落書きで描いたような目と口が顔の部分にあった。



「一昔前に大人気キャラとなり、忙しすぎて疲れ果て、一度は引退した超有名ユルキャラが最初の相手とはね…。」



 イナッシーは身体全体をカクカクと高速で振動させながら、さよりんを指差して言った。



「誰だよオマエ!?有象無象のマイナーユルキャラが!テメーみたいな下位カーストのユルキャラが出ても来ても全然盛り上がらないナッシー!!」



「さよりん、こいつ、めちゃくちゃ口悪いね…。」



「そうね。まあ、イナッシーのいう通りだけどね。」



 さよりんは至って冷静だ。



「さあ、早速これを喰らって試合に出た事を後悔するといいナッシー! なし汁スプラッシュアアアァァァァアアア!!」



 イナッシーはいきなり頭を突き出すようなポーズを取ると、甘い匂いのする果汁を大量に噴射してきた。



「ううっ…。」



 イナッシーのなし汁が目に入ったさよりんは、顔を押さえてその場にうずくまった。



 そこへ容赦なく、イナッシーのストンピング(かかとで踏みつけるような攻撃。)がさよりんの背中に連打されていく…。



「オラオラー!!さっさと降参するナッシー!」



「さよりん大丈夫!?こいつ、口も悪いし、めちゃくちゃ卑怯だね!」



 外からガンガンと蹴られる音が鳴り響く。その音を聞きながら、さよりんの内部で暁人は不思議に思っていた。



 こんなにイナッシーに蹴られているのに、さよりんの体には多少の振動があるくらいで、全く効いていないのである。



「はあ、はあ、はあ…。」



 イナッシーが蹴り疲れ、攻撃を中断したところで、さよりんは何事もなかったかのように立ち上がった。



「こ、こいつの身体、メチャクチャ硬いナッシー…。」



 驚愕の表情のイナッシーに迫りながら、さよりんは言った。



「やっぱり体力問題でテレビ露出が減ったのは本当だったようね。」



「お、俺の攻撃が効いてないナッシー?」



「…私は狭寄池名物の桜並木と、池の中央に祀られている龍神様をモチーフに生まれたユルキャラなのよ。つまり、この緑色のボディはドラゴンの鱗なみの強度を誇っている。梨程度がぶつかってきたところで、痛くも痒くもないのよ。」



「ド、龍の鱗(ドラゴンスケイル)だと…。」



「あなた、そんなことよりユルキャラは体力が1番大事なのよ…。朝から晩まで愛想を振り撒き、子どもに可愛くないと風船を受け取り拒否されても、緑色の身体がなんか怖いと泣かれても、笑顔で明るく対応する…。そのためには体力が1番大事なのに、あの程度で根を上げるなんて、ユルキャラ失格よ!」



「お、俺はもっとチヤホヤされてるナッシー…。」



「喰らいなさい!さよりんパンチ!」



「ぐぼらはああああぁぁぁぁぁああ!!」



 さよりんの昇竜拳のようなパンチを喰らい、イナッシーは満月に向かって吹っ飛ばされていった。



「さよりんの勝ち!」



 審判のせ○とくんがさよりんの手を取り、さよりんの勝利を告げた。



 派手なKO劇に、周りからのユルキャラたちの拍手や声援で、会場は大盛り上がりである。



「やった!勝った!さよりん強いんだね。さよりんパンチもカッコよかったよ!」



「ありがとう暁人くん。だから言ったでしょ、あなたを守るって。」



「うん!ありがとう、さよりん。」



 さよりんは本当に強いな。



 これなら、さよりんは僕をずっと守ってくれるよね。



 暁人は自分が操るわけではないけど、何かロボットに乗って戦っているようなそんな気持ちになり、興奮がおさまらないのだった。



 他の一回戦の試合も次々と行われ、二回戦が始まろうとしていた。



「さよりん、一回戦も楽勝だったから、次の試合も楽勝だよね?」



「どうかしらね。イナッシーは大して強くもないのに自分の人気を勘違いして出場してたけど、そろそろ本当に強いユルキャラが相手かも知れないわ…。」



 そして二回戦。



 試合場に現れたのは、またも暁人が知っているキャラだった。


 長細い頭部にぼんやりとした表情のおじいさんの着ぐるみである。


「あれ?次の対戦相手ってTOMOZO(トモゾウ)じゃん!日曜人気アニメの主人公○る子のおじいちゃんだよね!?」



「どうやらそのようね…。彼には暗黒武術の使い手であるという裏設定があるのよ。」



「暗黒武術!?そんな裏設定知らなかったよ…。てゆうか、こんな所に出ちゃって、いろんな意味で大丈夫なの?そもそも彼はユルキャラなの?」



「まあ、ユルいキャラではあるからね…。この大会、そのあたりはユルいのよ。ユルキャラだけにね。」



「そんな上手いこと言われても…。あ、TOMOZO(トモゾウ)が近づいてきたよ。」



「暁人くん、油断しちゃダメよ…。」



「おや、○る子じゃないか。こんな所にやってきてどうしたんじゃ?」



「私を自分の孫と勘違いしてる!?…どうやら相当認知症が進んでいるようね。」



「さあさあ、オヤツをあげよう。」



「チャンスだわ。さよりんパンチ!」



「ぶぼらべらああああああああああ!!」



「ああ!さやりんのこぶしがTOMOZO(トモゾウ)の顔面を思い切り打ち抜いたー!!トモゾウは顔を陥没させながらダウンしたよ!」



 TOMOZO(トモゾウ)は地面に倒れ、そのまま動かなくなった。



「勝者、さよりん!」



 おおおおおおおおおおおお!!



 鳴り止まない声援の中、さよりんは言った。



TOMOZO(トモゾウ)はかなりの強者と聞いていたから、ラッキーだったわ。もし私を孫と間違えていなかったら、そこに倒れていたのは私だったかも…。」



 さよりんは、観客たちの声援に手を挙げて応えながらそう言った。



「おめでとうさよりん!てゆうか、TOMOZO(トモゾウ)死んでないよね!?でもさよりんが勝てて良かったよ!」



「ありがとう、暁人くん。次はいよいよ準決勝だわ。」



「さよりんどの。」



 さよりんが試合場から退場してから、そう声をかけてきたのはしゅりにゃんだった。



「やはりお主も勝ち上がってきたようでござるな。お主からは、最初からただならぬ気配を感じていたでござる。お互い次の試合に勝てば決勝で戦うことになる。楽しみでござるよ。」



「私はあなたと戦いたくないけどね。」



「はっはっは。それはつれないでござるな。とにかく健闘を祈っているでござるよ。」



 そう言ってしゅりにゃんは次の試合場へと向かって行った。



「さよりん、あいつも勝ち残ってるんだね…。あいつ、強いの?」



「強いわね。それに、良くない噂を聴くわ。次で対戦相手のく○もんに負けてくれればいいのだけど。本当に。」



「噂ってどんな噂なの?」



「しゅりにゃんは、お金さえ払えばどんな汚い仕事でも請け負うっていう話よ。」



「そうなんだ…。じゃあこの大会に出てるのも、優勝賞金のためとかなの?」



「この大会には賞金なんて出ないわよ。だから、お金のためにしか動かないアイツがなぜこの大会に出てるのか分からないの。そこが気になってるのよ。」



「ふーん。よく分からないけど、バトルしたくなっただけとかなんじゃないの?」



 暁人の言葉にさよりんはクスリと笑った。



「そうなのかもしれないわね。さあ、とにかく私たちは次の試合に集中しないとね。」



 そうして暁人とさよりんは、次の試合場に向かったのだった。




「なぐごはいねぇかあぁぁぁ?」



 準決勝の相手は、すでに試合場で待ち構えていた。



 手に鋭い大きな鎌を持ち、藁のマントのようなものを羽織って、顔は鬼のように厳しい佇まいだ。



「このキャラ、僕一度テレビで見たことがあるような。たしか…。」



「東北地方のナマハゲよ。」



「ナマハゲって…。またもやユルキャラではないよね?ギラギラした刃物を持ってるし、顔も怖いよ…。トモゾウも微妙だったけど、ナマハゲはもうユルイ要素もないよね!?さすがにアウトなんじゃ…。」



「全く同感だわ。でも、キャラクター商売も色々あってね…。ナマハゲって私たち新参者にとっては大先輩なわけだし。出場したいって言われたら断れないわよね。もしかしたら、他とのコラボ企画とか、将来を見据えてむしろユルキャラ側から誘ったのかも…。」



「そうなんだ…ユルキャラたちも生き残りをかけて色々大変なんだね…。」



「とはいえ、あの鋭い鎌といい、実力は分からないけど油断は出来ないわ…。」




「なぐごは、いねえかあああああ!!」



 試合が始まったとたん、ナマハゲは鎌を大きく振り上げてさよりんに襲いかかってきた。



「あわわわわ!ナマハゲ怖い!メチャクチャ怖いよ!!」



「暁人くん!?今しゃがまれたら、動きが…。」



 さよりんが思うように動けず、鋭いナマハゲの鎌がさよりんの胸に迫った。



「!?」



 突然、ナマハゲの動きが止まった。



「うん? こども…。こどもの匂いがするだ…。こどもが近くにいるだか?」



 ナマハゲは戸惑った様子で周囲を見回している。



「チャンスよ!さよりんパンチ!!」



「ひでぶうううううううぅぅぅうう!!」



 さよりんの強力なボディブローを腹にくらい、ナマハゲは体をくの字にしてその場に倒れた。



「勝者!さよりん!」



「さよりん、勝ったの?」



 暁人は涙をふきながら、さよりんの体の中で立ち上がった。



「ナマハゲは子どもを驚かしては泣かしちゃう怖い存在だけど、実は子供の事を心から大切に思っているのよ。おそらく、わたしの中の暁人の気配を感じて動揺しちゃったんじゃないかしら。たまたまだけど、またも運が味方してくれたようね。」



 しかし、敗れたナマハゲが、審判に何やら抗議しているようだ。



「わるいご、わるいご、いてる」



 さよりんを指差し、しきりにアピールしているではないか。



「まずいわね…。」



 審判のせ○とくんがさよりんたちに近づいてきた。



「さよりん、ナマハゲが言っているように、まさか人間のこどもを体の中に入れたりしてないだろうね。」



「そんなことするわけないでしょう。ナマハゲが何か勘違いしてるんじゃない?」



「…。わたしもそう思うが、一応確認させてもらうよ。ほら、頭を外して。」



「…。」



 ヤバイ…。ここに僕が隠れていることがユルキャラたちにバレてしまう。今日のユルキャラたちはスーパームーンのせいで不安定になってるから危ないってさよりんが言っていた。僕が見つかっちゃったらどうなっちゃうんだ?



 暁人は怖くなり、声がもれないように口を必死で押さえながらも涙が滲んできた。



「暁人くん、ユルキャラたちに事情を話すわね。大丈夫よ。暁人くんはわたしが守るからね。」



 さよりんは彰人に小声でそう言って、自分の頭に手をかけた。



「待つでござるよ。」



 そう声をかけたのはしゅりにゃんだった。


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