表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女転生録  作者: しえり
2/94

第2話 失われた生死

 夢であってくれと何度も願った。だけど痛みは親友のようにずっとそばにあって、失った両親の代わりをつとめるように私を掻き抱く。


「意識が混濁しているね。発狂した方がマシだろう。でもそれはいけない。この苦痛をしっかり覚えておきたまえ」


 喉笛が裂かれている。おびただしく出血しているのに、死が目前にあるはずなのに、どうにもそれは訪れない。


「む。靴が濡れるから、もう刻むのは止せ、エリーゼ」


 女はしずしずと彼の後ろに回った。剣からはその濡れる原因が滴っている。


「少し話をしよう」


 その時、私は否定したのだろう。彼は鼻で笑った。


「きみの友人、この顔の持ち主だがね、実はもう死んでいるんだ。……ほら、その目の輝き、まだきみの心は生きているじゃないか」

「なんで佐々木まで」


 裂けた喉の中ほどから漏れる安っぽい笛のような音色をかき消すほど、信じられないくらい力のある言葉だった。


「理由はきみだ。きみの心を破壊するため。それと孤児院の」


 椅子ごと前のめりに倒れた。()()だけでの荒業であるが、地面に着くより早く男が私の肩を支え、元に戻した。


「死んだよ。みんなね。五十六の母親代わりのシスターから、来年にはランドセルを背負う娘まで」


 涙が溢れた。頬を打たれると、惨めさと悔しさで一瞬痛みを忘れるほどだった。


「こんなところかな。きみは一度死んで、転生する。心身の崩壊が来世のきみを強くさせる。そのための準備が終わったわけだ。ひどいと思うだろうが、あっちで感謝するだろう。いずれまた会う、その時はよろしく」


 エリーゼと呼ばれた女が歩み寄る。同情と哀れみが視線に込められていて、それがなおさら悔しかった。


「……あなたの名前は」


 それには男が答えた。


銀城(ぎんじょう)(まどか)。両親のこともある、名前はそのままにしてやろう」

「そうですか。銀城円。私はエリーゼといいます。あなたの友人やあのシスター、義弟妹(きょうだい)たちは、私が殺しました」


 血液がかっと燃えるように痛む。ずぶりと胸に沈む剣よりも、今はこの男女の顔を忘れない事の方が重要だった。


「くっくっく、実にいい顔だ。死にゆく者にはとても見えない。さあエリーゼ、忙しくなるぞ」

「はい。ガルド様」


 覚えたぜ、エリーゼにガルド。脳内で反復しているうちに、あらゆる感覚が消えていく。残ったものはなにもない。家族と友人、命さえも。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ