小悪魔コスモスに誘われて
「アナタ、何を見ているの?」
「クラス名簿だよ」
「あら、もうそんな時期ですか?」
「今年は例年より少し早めかな」
学校のクラス構成については大体2~3月には決まることが多く、担任はそのさらにあとに決まるので中々に過密なスケジュールだったりする。
私はクラスメートの名前は全て覚えるようにしているため、正直結構大変だ。
今年は今までで一番早く担当クラスが決まりはしたが、それでもそこまで猶予があるワケではないため、試験前の学生気分を思い出している。
「どれどれ? 今年はどんな難読ネームがいるかな?」
「おい、個人情報だぞ」
「いいじゃな~い、別に悪用なんかしないしぃ。 それにチェックしておかないと、もしかしたら大変なことになっちゃうかもしれないでしょ? ……私みたいに♪」
「……君みたいな子がいるワケないじゃないか」
「そうかなぁ? 案外、私みたいにときめいちゃう子いると思うけどな。だって、可愛いから♪ 先生♡」
「もう先生は勘弁してくれよ……」
今でも罪悪感が凄まじいというのに……
◇
5年前、私は新任教師でありながら担任を任されることになった。
新任からいきなり担任など勤まるハズがないと思われそうだが、昨今はそう珍しくもないというか、割と当たり前になってきている。
ただ、だからと言って厳しいことは変わらず、実際すぐに潰れてしまう者も一定数いる。
当然私も余裕がなくて、今のように生徒の名前を覚えるなんてことは不可能だった。
その結果悩まされたのが、名前の読み方である。
「相馬……、え~っと……」
名簿には相馬 秋桜という名前が書かれている。
これは、何と読むのが正解なのだろうか?
昨今は名簿でもフリガナを振るのが普通なのだが、用意された名簿には何故かフリガナが振ってなかった。
(普通に考えればあきざくら、もしくはコスモスだが……)
どちらも読み方としては正しいが、名前として見ると少々バランスが悪い気がする。
「あの、先生――」
「待ってくれ、先生にチャンスが欲しい」
普通に考えれば聞くのが無難だというのに、新任ゆえの空回りというか、何故か意地でも読んでやるという気持ちになっていた。
「アキオ……、いや、きっともっと可愛い名前だよな……」
「っ!?」
◇
「真剣に私に似合う可愛い名前を考える先生、可愛かったな~」
「もう勘弁してくれ……」
結局彼女の名前はそのまんま秋桜だった。
当時は詐欺だと思ったものだが、それがきっかけで私達は結婚することに……
※秋桜さんは三年にわたる猛烈なアタックしかけましたが、先生は卒業式の日までなんとか耐え抜きました。