牢獄塔、暗闇にて
『……義母上、オルガバル公爵令嬢とソラウは上手くいってるでしょうか?』
薄ぐらい部屋の中、やつれた少年が訪問相手に問いかける。彼の名はジャック・キングバル元第1皇太子、皇族として産まれ、恋慕した相手と添い遂げるために婚約者を陥れ、婚約破棄をした愚か者である
『えぇ…ミリアちゃんと近衛騎士リックストル、早ければ年内にでも婚約を発表するつもりですって。自他ともに認める幸せそうな2人とも呼ばれてるわ』
複雑な面持ちで伝えるのはその義母、アリシェル・キングバル現皇后妃。ジャックの実母である元皇后妃が息子の愚行の責任を取って位を退き、その後皇帝ギリウス・キングバルによって選ばれた彼女は、一連の流れと目の前の少年の晴れやかな顔に疑問を募らせるばかりであった。
『……そろそろいいのではないかしら、何故貴方があんな愚かな真似をしたのかを教えてくれない?』
『…私が愚か者だった、ただそれだけの話です』
くしゃり、と
寂しそうな、泣きそうな、なんとも言えぬ笑顔で笑うジャックは、幾度目かの戯言を吐く。学院の卒院生パーティでの唐突な婚約破棄宣言、不確定な証拠を元とした公爵令嬢への断罪、近衛騎士クラウとその仲間たちによる弁護と返された断罪、ジャックに与したもの達の捕縛
そして、ジャック本人への裁きである王城北の監獄塔への幽閉。幽閉された時からアリシェルは問いかけ続けてた。ジャックの聡明さを知ってるからこそ、ジャックの知性を目にしてきたからこそ、彼の短絡的かつ愚かな行動が引っかかってしまっていたのだ