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―22― あなたを許せない

 お嬢様と他の冒険者たちの帰りが随分と遅い。

 そのことに気がついて、森に戻ってみたところ、信じられない光景が待っていた。

 数え切れないほどの鎧ノ大熊(バグベア)と、お嬢様を襲おうとする魔族の存在。


 魔人の振るった槍を防ぎながら、間に合ってよかったと安堵する。

 もう少し遅かったら、今頃お嬢様はもう……。そうなったら一生悔やんでも悔やみきれないに違いない。


 ひとまず、お嬢様を抱えて安全な場所まで運ぶ。

 

「他の人たちは……?」

「まだ、戦っていると思う」

「わかりました。助けに行く必要がありそうですね」


 そう言いつつ、自分の上着をお嬢様にかぶせる。

 なぜかわからないが、彼女はほとんど裸だった。おかげで、さっきから目のやり場に困っていた。

 上着をうけとったお嬢様は恥ずかしそうな顔をしながら、それを身にまとう。


「だ、大丈夫なの……?」


 いつも堂々としているお嬢様が珍しく不安そうな表情を浮かべている。

 だから、安心させるために僕はお嬢様の頭を撫でる。


「僕は大丈夫なので、安心してください」


 すると、彼女はなぜか顔を真っ赤にしていた。

 ……熱でもあるんだろうか。


「わかった。信じてるからっ」


 ひとまずお嬢様の許可をおりたことだし、お嬢様の元を離れて戦場へと向かった。





「〈加速〉」


 まずは運動を操ることで、自身の動きを速くする。その上、自身の質量を軽くすることで、さらに加速が可能だ。

 そして、起きる現象が、時間の歪みだ。

 速く移動すればするほど、周りの時間が遅くなることを俺は経験から知っていた。


「〈光の刃〉」


 そして、圧倒的加速から生まれる〈光の刃〉はあらゆるものを切り裂くことが可能だ。

 たった一太刀で、鎧ノ大熊(バグベア)を一刀両断にする。

 とはいえ、一体一体斬っていたら時間がかかるな。

 まずは、鎧ノ大熊(バグベア)と戦っていた冒険者を見つけ出し、救出することを優先する。

 どうやら、皆重傷は負っているものの生きてはいるようだ。

 だから、一人一人手で掴んではお嬢様を避難させた場所まで、一瞬で運ぶ作業を何度も繰り返す。

 そして、冒険者たちが全員、安全な場所まで運んだのを確認したら、一つの魔術を発動させた。


「〈殲滅魔弾砲〉」


 魔力を無数に細分化させ、それぞれに質量を与えた上で、広範囲に狙撃。

 これなら魔物がどれだけいても倒すことができる。


「一体なんなのだ、お前は!?」


 一通り鎧ノ大熊(バグベア)を倒し終えると、後ろから話しかけられる。

 振り返ると、そこには一人の魔族がいた。

 そうだ。この魔族がお嬢様を殺そうとしていたんだ。

 そう思うと、心の底からふつふつと怒りが沸いてくる。

 こいつはどんな手を使ってでも、ぶちのめそう。


「まぁ、いいでしょう! 少しぐらいやるようですが、たかが人間。私の足下にも及ぶまい」


 そう言って、魔族は魔術を発動させる。


「〈無窮(むきゅう)黒槍(こくそう)〉」


 見上げると、無数の黒い槍が出現していた。





 ティルミお嬢様を襲った魔族にはデッシングという固有の名前がある。

 デッシングは狡猾で残忍な性格をしていた。

 とはいえ、魔族のほとんどがそういった性格のため、デッシングが特別変わっているというわけではないが。

 そして、デッシングには絶対的自信があった。

 それもそのはず。

 魔族一体の力で、町一つを壊滅させる力があると知られている。

 ゆえに、デッシングは目の前に鎧ノ大熊(バグベア)を殲滅させた少年が現れても、驚きはしたが脅威には感じなかった。

 自分だって、あれぐらいできる。

 そもそも魔族よりも強い人間がこの世にいるはずがない。


「〈無窮(むきゅう)黒槍(こくそう)〉」


 跡形もなく殺してやろう。

 そう思ったデッシングは無数の黒い槍を生成して、雨を降らすように少年へと放った。

 黒い槍にのまれて少年は見えなくなる。

 意外とチョロかったな。

 これなら、一瞬で殺してしまうのではなく、もっと残忍な方法で殺せばよかった。


「今のがお前の本気か?」

「あ……っ!?」


 驚いたのにはわけがある。

 なぜか、真後ろから声が聞こえたからだ。

 目を離した覚えはない。なのに、気がつかないうちに自分の真後ろへと移動したというのだろうか。

 慌てて、さっきまで少年がいた場所をみる。そこには、虚空があるのみでなにも存在しなかった。


「驚きましたね。まさか、知らぬ間に移動していたなんて。そうだ、ひとつお名前を聞かせていただいても?」

「……アメツ」

「アメツですか。私の名前はデッシングと申します」


 そう言って、デッシングは律儀に挨拶をする。


「それで、さっきの質問ですが――」


 アメツが「今のがお前の本気か?」と聞いたのをデッシングは覚えていた。


「あんなの私の本気ではありませんよ。あんな攻撃、私にとってはたかが知れています。では、特別に見せてあげましょう。私の本気というものをねっ!!」


 デッシングは高らかに笑いながら、魔法陣を展開した。


「〈黒竜演舞(こくりゅうえんぶ)〉」


 途端、巨大な黒い竜の影がデッシングの背後から生み出される。

 そして、竜の影は一直線にアメツに襲いかかった。


「これが私の本気です!! こんなの、あなたには防げないでしょうねっ!!」


 デッシングは高らかに宣言する。

 すでに自分の勝利を確信していた。〈黒竜演舞(こくりゅうえんぶ)〉を見て、生き残ることができる人間などこの世に存在するはずがない。


「そうか、これがお前の本気か」


 そう呟いたアメツの瞳はどす黒かった。

 一体なにを考えているのか、デッシングは見当もつかない。

 それだけが気がかりだが、自分の勝利は揺るぎないものだろう。


「〈霍ウ譴∬キ区沿鬲鷹ュ?ュ埼ュ主、ゥ荳雁、ゥ荳句髪謌醍峡蟆〉」


 アメツの口から紡がれた言葉をデッシングは理解できなかった。

 気がつけば、アメツの周囲に複数の魔法陣が展開されていることに気がつく。

 それもただの魔法陣ではない。

 あまりにも複雑怪奇。幾重もの魔法陣が複雑に絡み合い、その一端を見てその全容を全くもって把握できない。

 これらの魔法陣がどれだけの術式処理速度を誇るのか、デッシングは到底理解不能だった。


 とはいえ、自身の〈黒竜演舞(こくりゅうえんぶ)〉が圧倒的威力を持っていることには変わりない。

 だから、〈黒竜演舞(こくりゅうえんぶ)〉をただぶつけることを考えたらいい。

 そう思って、黒い竜をアメツにぶつける。

 瞬間、黒い竜が砕け散った。

 まるでガラスが砕ける瞬間のようだった。


「一体、なにが……!?」


 デッシングは困惑する。

 なぜ、自分の〈黒竜演舞(こくりゅうえんぶ)〉が無力化されたのか、理解が及ばない。


(な、なにかがいる……?)


 ふと、そのことに気がつく。

 一見、そこにはなにも見えないが、目をこらすとアメツの目の前におぼろげにそれがいることを認識する。

 異界から覗いている巨大な目。

 そうとしか表現できないなにかが、アメツの目の前に顕現していた。

 その目はデッシングのほうを確実に捉えていた。


「まずい……っ!!」


 このままだと殺される!

 あの不気味な目と戦おうとしてはいけない。

 そう判断したデッシングは翼を広げて、空へと高く飛び上がる。

 飛んで逃げてしまえば、人間は追ってこられない。なぜなら、人間は空を飛ぶことができないから。


「おい、逃げるなよ」

「――――ッッッ!!!」


 声にならない悲鳴が聞こえた。

 なぜか、アメツが空を浮遊して、デッシングの目の前にいたのだ。


「な、なんで、人間が空を飛べる!?」

「空を飛べる魔術なんて珍しくはないだろ」


 確かに、風の力を使って飛ぶ魔術は存在する。

 けれど、目の前で浮遊しているアメツは風の力で飛んでいるとは思えない。


 そして、恐るべき事態が起きた。

 アメツの隣には、異界から覗く巨大な目がちゃんとついてきていた。


「彼に、死よりも恐ろしい苦痛を」


 そうアメツが言った瞬間、異界から黒い二本の腕が伸びてくる。

 黒い腕は両手でデッシングの体を強く握った。


「や、やめてくれぇえええええ!!!」


 黒い腕はデッシングを異界へと引きずり込もうとする。この異界に飲み込まれたら、死よりも恐ろしいことが待っていることは容易に想像できる。


「お願いします……っ!! 許してください!! 何でも致しますからっ!!」


 だから、デッシングは懇願した。

 その顔からは涙と鼻水でぐちょぐちょになり、いかにも情けない顔だった。


「そうだな……」


 と、アメツは考えるそぶりを見せる。

 これを逃すまいと、デッシングは叫んだ。


「あなたの下僕でも奴隷でもかまいません! どんな命令でも守りますから、許してください!!」


 それに対し、アメツは一言こう口にした。


「お嬢様は慈悲深いお方なので、あなたを許すかもしれません。ですが、僕はあなたを許せないですね」


 その言葉を聞いた瞬間、自分の運命が決まったことを悟った。


「いやだぁああああああああああ!!」


 その言葉と共に、デッシングは黒い腕に引きづられて異界へと引きずり込まれ、そして、異界は音もなく閉じてしまった。

 戦いが終わった瞬間だった。





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[良い点] 話の流れが判りやすく引き込まれます。
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