外国語
シゲールは家に帰ると、女の事はすっかり忘れて家事や仕事をしていた。
食後に皿を洗っていると、母親に呼ばれた。
「シゲール、ちょっと腰が痛いの。さすってくれない?」
「こう?」
「こんにちは」
家の前で黒髪の女が立っていた。
「お母様、もうすぐ産まれます。産婆さんをお呼びしました」
「どうして、そんなことがわかるの?」
「満月の日は子供が生まれやすいので」
産婆さんは急いで中に入り、タライと布団、大量の布を用意した。
「男と子供たちは外に出て!ここからは女の仕事よ!」
シゲールと家族は家から追い出されてしまった。
「男の子か女の子かわかる?魔女さん」
「魔女ってのは名前じゃないわ。私、アンって言うの。あなたの名前は?」
「僕?シゲールだよ」
「シゲール……私の故郷では、勝利って意味よ。いい名前ね」
アンは棒切れを取り、不思議な文字を書いたイナヅマのように見える
「これが、シゲールって文字」
「へぇ。かっこいいね」
「あなたの名前だからね」
シゲールは顔を赤らめた。
「アンはどこから来たの?」
「東からよ。それ以上は言えないわ」
「そうなんだ」
「ねえ、シゲール兄ちゃんこの女の子、何を話しているの?」
「何……って、お互いの自己紹介だよ」
「このお姉さん、がいこくご、話してるよ」
「え!?アン、そうなの?」
「あら。普通に会話が通じるからいいじゃないの外国語でもなんでも」
シゲールはびっくりして口をつぐんだ。