月明かりの下で
「……ル。シゲール」
誰かが呼ぶ声がして、目を覚ます。
まだ明け方で外は暗い。
シゲールは寝床を片付けると、服を着替え、兄妹たちを起こさない様に細心の注意を払い、外に出た。
肌寒い空気の中満月が煌々とあたりを照らす。
太陽よりひそやかで、星々より冴えた光。
シゲールは朝の空気を胸いっぱいに吸う。
森の中は静かで獣たちさえ寝息を立てる。
そんな中、シゲールは歩を進めた。
風さえも動かない。月光だけを頼りにして。
「着いた」
そこは、シゲールの秘密基地。
満月の日にしか咲かない不思議な花がある花畑。
なんの娯楽もない村で唯一拝めるもの。
周囲にはむせかえるくらいの甘い香りを放つ。
月の光の下、たくさんの花が咲いている。
シゲールは草むらに寝そべり、周囲に漂う薫香を楽しむ。
甘い匂いを感じ、丸い月をみている。
天に触れる様に右手を伸ばして空気を掴む様に手を握った。
そこにあるはずのない光に触れるように。
目を閉じて、背中で下敷きにしている草花の感触を楽しむ。
風がふわりと体を包む様に凪ぐ
これは、シゲールが誰にも見られずにやっている、秘密の習慣だが、今回は違った。
「何、してるの?」
「……!」
黒い髪、黒い目、黒の服に白い肌。
夜みたいな色の女がそこにいた。