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31.大天使ステラちゃん、プレゼント作戦を立てる

「物じゃないプレゼント?」

 私の言葉に三人ともきょとんとしてる中、シドが聞いてきた。

 私は、うーんって考えながら言った。

「プレゼントやお手紙は難しくても、他に何かないかなあ?」

 私の言葉に、レミも一緒にうーんって考えてくれて、しばらく悩んだあと、こぼすみたいにぽつりと言った。

「やっぱりお金と人手よね」

「お金と人手?」

 私が聞き返すと、レミはちょっと困ったみたいに苦笑いした。

「ステラに“お金と人手”とか言わせちゃうと、なんか罪悪感あるわね……。まあ、シスターが必要なのは、その二つかなって思ったの」

「そうかあ、両方とも、用意するの難しいやつだ」

 私がうむうむって唸っていると、チャーリーが「よろしければ」と言って、紙とペンを貸してくれた。

 私はチャーリーに「ありがとう~」って言って、紙の一番上に大きく『かね と ひと』って書いた。

 それを見ていたレミが「うげえ」って言った。

 レミ、そんなお声も出るんだねえ。


「お金と、人を集めるアイデアをプレゼントするのはどうかな」

 私は、思いついたことを言ってみた。

「簡単に言うけど、そんなこと出来るアイデアがあるなら、もうとっくにやってるだろ」

 シドは疑わし気だけど、今ここには私とシドとレミとソラ、それにチャーリーもいるから、みんなで話し合えば、何かアイデアが浮かぶかもしれないって思った。

 レミもそう思ったのか、ちょっと真剣なお顔になって、考え始めてくれたみたい。

 そしたら、それまで黙ってたソラが言ったの。

「ひとは、だれでもいいわけじゃない」

「そうね」

 レミが頷いてそれに答えて、「家事が得意だったり、小さな子の面倒を見慣れてる人がいいわ」って言った。

 私は、メモの『ひと』の字の下に『かじ、ちいさなこ』って書いた。


 聞いてみたら、今はシスターのファウスティナさんが、小さな子の面倒を見るのも、食事の配膳も、お金のこともほとんど一人でしてくれているんだって。

 ある程度大きい子もいてお手伝いしてるらしいけど、チャーリーくらいの年になる前にみんな孤児院を出るから、大きい子でも十歳くらいらしい。

「それは、さすがに……」

 話に参加してもらっていたチャーリーが、思わずっていう風に顔をしかめて言った。

 私も同じ気持ちだ。

 それってすっごく大変なことじゃないかなって思う。

 今ここにいるだけでも、十歳くらいまでの子が二十人以上いるし、レミの話だと、食事を吐き戻しちゃうことがあるような小さい子も何人かいるらしい。

 体が不自由だったり、病気になった子は救護院に移動するらしいけど、一人で全部なんて絶対大変だと思う。

 ここに馬車で着いたとき、パパがファウスティナさんを心配していた気持ちが分かっちゃった。

「でもよう、」

 私たちの反応に、ちょっと不安そうなお顔になったシドも、自分の考えを教えてくれる。

「家事や育児ができる人には、自分の子どもがいるだろ。俺たちの面倒なんて、見てる暇ないぜ」


 それを聞いて、私は思いついたの。



「じゃあ、その人の子どもも、ここに来たらいいんだよ」



 全員にぎょっとされちゃった。



 + + +


 私が考えたのは、ここを、孤児だけじゃなくて、小さな子が集まる場所にしたらどうかってことだった。


 子どもを預けるんじゃなくて、街の人たちの子もここに集まってもらって、大人は何人かずつ、何日かに一回当番で来ればいいようにしたらどうかなって思ったの。


 みんなに見えるように紙に丸を書いて、『ひと』と『ちいさなこ』の文字から矢印を引っ張って見せた。

 私が説明したら、レミはしばらく考えてから納得げに頷いてくれた。

「いいかも。一人で子育てするより、ずっといいはずだもの。子どものいる人同士、交流を持ちたいと思ってる人も多いはずよ。ここは救護院もあるからケガや病気もすぐ診てもらえるし」

 チャーリーも、「細かいルール作りは必要かもしれませんが、喜ばれそうですね」と言ってくれた。

 チャーリーはそう言った後も、何か大きな問題点がないか考えてくれているみたい。

 レミは本当に感心したみたいに何度も頷いてくれていて、「この世界では、子育ては自助か公助かしかなかったもの。ここを互助のための場にするのね」とか言っていたけど、難しくて私には分かんなかった。


 レミは物知りさんだし、今日はとっても楽しかったから、またここに来てみんなと遊んだり、お勉強を教えてもらえたりしないかなって、私はちょっと思い始めていた。


 シドは私の、ここに人もその人の子どもも集めるアイデアが、良いのか悪いのか分かんないって言ってた。

 でも、良くなるかもしれないんだったら、やってみたらいいんじゃないかって言ってくれる。

「それで人が集まったとして、金はどうすんの?」

 シドの言葉に、私たちはもう一度考え始めた。

「お金ね……。たしかに、下手なやり方だとトラブルになりそうだもの」

 物知りのレミもさっきよりずっと悩ましげだ。

 子どもが増えればその分お金がかかるし、自分の分を持ち込んでもらうことにしたとしても、お金の問題が解決しないのは変わらない。

 そうしていたら、チャーリーが手を挙げて発言してくれた。

「ステラお嬢様のアイデアがうまくいけば、孤児院の環境改善に興味を持って下さる方も増えます。多少は寄付も増えると思いますよ」

 それからチャーリーは、「関心を持つ人が増えるだけでも、寄付に対して変な横やりも入りにくくなります」と続けた。

 その考えを聞いて、私もチャーリーの言う通りかもって思った。

 みんなもチャーリーの言葉が説得力があったのか、「そうかも」って言ってくれた。

 でも何か、まだできることがある気がする。

 ここにみんなが集まりたくなっちゃうような、何かないかな。

 ソラは、目をつぶってウーンと考えてくれていたけど、何か思いついたみたいにパッと目を開いた。

「とうばんのひになっても、おかねをはらったら、やすめる」

「あ! いいかも、それ!」

 ソラのアイデアを聞いたレミもソラのアイデアがいいって思ったみたい。

 それに対してシドは、ちょっと考えてから、「俺には難しいことは分かんねえけどさ、」と前置きしてから言った。

「それ、結局子どもばっかり増えて、人が集まんなくなるんじゃね?」

「「あ」」

 シドの言葉に、ソラもレミもハッとしたみたいだった。

 だけど、私はソラのアイデアもなかなかいいんじゃないかと思った。

「ねえねえ、事前に当番の日を決めるときに、“選びたい人”だけ、お金を払って選べるようにしたらいいんじゃないかなあ」

 それには、チャーリーが同意してくれた。

「いいと思います。それなら当番の日に来てくれる方の人数は変わりませんから。当番は、無料で使う人には入所順などの決まった順番になるよう説明しておいて、月に一度、当番の日を選びたい人だけお金を払って当番の日を選べる形であれば受け入れられそうです」

 シドは、そう言う私たちを見ながら、「なんか、発想が……、さすが金持ちって感じ……」とちょっと顔を引きつらせた。

 それからチャーリーは引きつるシドをちらりと見て、少しだけいじわるな時のお顔をした。

「それから、こういうのはどうですか?」

 みんながチャーリーを見る。


「当番を選ぶのに払うお金は、具体的な金額は明示せず、一番多い金額を払った人から順番に選べるようにするんです」


 そういったチャーリーは、「貴重品の買取をする際に使われる、入札と同じようなシステムです」って、ニッコリ笑顔で付け加えた。


 シドは、もう完全に引いていた。

「金持ちの発想こええ……」


 + + +


「僕の可愛い天使、おまたせしたね。ここの子たちとも、随分仲良くなったみたいだね」

 私たちの話がまとまった頃、パパがファウスティナさんと一緒に戻ってきてくれた。

 それに気づいた私が立ち上がって、パパのところに駆けていくと、パパは私を受け止めて、私の膝やお尻についていた土埃を払ってくれた。

 それから、私が脱いだまま忘れていたジャケットを、チャーリーが着せてくれる。

「ありがとう、パパ、チャーリー。パパは、お話はもういいの?」

「ああ、近況も聞かせてもらえたから大丈夫だよ。そろそろ次の訪問客が来るようだしね」

 パパに頭を撫でられて、前髪ももう一度整えてもらった。

 一度チャーリーに直してもらったけど、まだ跳ねてたのかな。

 パパに「楽しかったかい?」って聞かれて、「鶏とヒヨコが最高なの!」って教えてあげた。


「じゃあ、ステラ、ご友人方にプレゼントをしようか」

 パパが振り向いて、私もそっちを見ると、チックが三人分のプレゼントの包みを持ってきてくれていた。

「ステラお嬢さん、このふたつが黒髪の男の子と女の子の分、こっちが少し小柄な金髪の子の分ですよ」

「チック、ありがとう!」

 お洋服も入っているから、サイズで中身が分けてあるんだね。

 私は、ひとつ受け取って、まずはシドに渡した。

 一人分ずつまとめて布に包まれて、色のついたヒモでプレゼントっぽくまとめてある。

「すげ、ほんとにプレゼントだ」

 受け取ってくれたシドの目はプレゼントに釘付けで、キラキラになってる気がする。

 普段とは違う見た目なのかなって、不思議に思ってたら、チックが隣にきて教えてくれた。

「普段は施設ごとに人数分をまとめて配布して、あとは現地の職員に分けてもらってますからね。今回、中の確認とサイズの振り分けだけでも結構な手間だと分かったので、来年もあるなら改善しなきゃです」

「うん、じゃあ来年もよろしくね!」

 私も、ファウスティナさんが大変ってわかったから、ちょっとでも負担は減らしたいって思った。

 私のお返事に、片眉を上げたチックが聞いてくる。

「来年もご自身のプレゼントはいいんですか?」

「うん!」

 私が答えると、チックはまたゴツゴツの手で頭を撫でてくれた。

 そうして撫でてもらっていたら、なぜかパパがズンズンやってきて、チックの体を自分の体でぐいぐい押しやって、チックの代わりに私を撫で始めてくれた。


 そのあと、チックからもう一つ大きいほうのサイズのを受け取って、今度はレミにあげる。

「ありがとう、ステラ」

 レミはちょっと重たいプレゼントを受け取ると、笑顔でお礼を言ってくれた。

 私も笑顔で返して、それから、残ったソラの分もチックから受け取る。

「ありがと」

「うん」

 ソラも、中身が気になるみたいでじーっとプレゼントを見てくれていた。


「開けてもいいか?」

 シドが、三人とも受け取ったのを見て、我慢できないって感じで聞いてきた。

 ファウスティナさんがそんなシドに「はしたない!」って叱ったけど、私は三人が喜んでくれたらいいなって思って、「見てみて」って言った。


「わあ!」

 三人は、ほとんど同時にプレゼントを開けて、歓声みたいな声を出した。

「服、これ全部俺のか!?」

 シドは服が増えたのを見て、「これも? これも俺の?」って私やチックを見ている。

 私が「そうだよ~」って言ったら、シドはすっごく嬉しそうに服を抱えた。

 その隣では、レミがうっとり布を撫でている。

「ああ、手触りがもっと良くなってる気がする~」

 チックが「開発部のやつがこだわってまして」と笑うのを聞いて、「ぜひ、お礼を伝えてください!」って叫んでた。

 喜んでもらえてよかったねって、チックと目を合わせて笑い合った。


 ソラはどうかなって思って見てみると、右手に赤鉛筆、左手にチラシの束を持って、私を呆然と見てた。

「どうしたの? ソラ」

「えんぴつがあかい」

「赤鉛筆だよ~使い方は黒いのと同じだよ。赤い字が書けるの」

 教えてあげると、ソラは右手の赤鉛筆をじっと見て、今度は左手のチラシの束を見た。

 私はそっちも教えてあげる。

「そっちは、パパのお店の商品が載ってるチラシなの。もう代金が変わったりしてるから、字を書いたりするのに使っていいんだよ」

「じも、すうじもえもある。いろもついてる」

「そうだね、ソラは読めるから、チラシを見てるだけでも楽しいよねえ」

 ソラの目は、チラシに釘付けだ。

「どらいや? ってなに?」

「えっと、髪を乾かすやつだったかなあ」

「ぱぱーや? ってなに?」

「あったかい場所のフルーツだよ! おいしいの!」

 ソラは、わかんない絵を見つけては字を読んで聞いてくる。

 私は知ってるやつは教えてあげられるけど、中には知らないのもあって、一緒にチラシの絵を見て「なんだろうねえ?」って首を傾げた。

「しらないもの、いっぱい」

 ソラのほっぺがほんのり赤くなってる。

 それから、ソラは私にふわっと微笑んだ。

「ソラ笑った!」

 あんまり表情の変わらないソラが、本当に嬉しそうに笑ったから、私はびっくりして、それからとっても嬉しくなった。

「ソラ、笑ったほうが可愛いね!」

「かわいい?」

「うん! みんながソラのこと大好きになるお顔!」

「そう」

 嬉しくていっぱい言う私に、ソラは不思議そうにした。

 でもそのあと、「じゃあわらう」って言ってまたふわっと笑ってくれたの。


 + + +


 シスターさんと私と、従業員さんたちもみんな手伝って、孤児院の子たちみんなにプレゼントが行き渡った。

 これだけでも、シスターさん一人でやるには大変だよねえ。

 でも、そのシスターさん、ファウスティナさんは、プレゼントをもらって元気いっぱいに騒いでいるみんなを、すごく嬉しそうに笑顔で見ていた。

 それから、みんながいるのとは距離のあるところまで行くと、ファウスティナさんはパパと私に頭を下げる。

「今年も、どうもありがとうございました。寄付をいただくことが増えたとはいえ、子どもたちに見えて、残る形で行き渡るのは最後になってしまいますから。本当にありがたいです」

 そう言ったファウスティナさんに、パパは肩にそっと触れ、頭を上げるように言う。

「些細な助力しかできず、心苦しいくらいですよ。それに、我々が子どもの数を調査するに当たって、負担も増やしてしまっているのでは?」

 パパの言い方は意味深で、ファウスティナさんが私に聞かせていいものかと悩むような素振りをした。

 パパが「構いません」って促すと、ファウスティナさんはおずおずと言葉を返した。

「ジャレット商会様が動かなければ、街で野宿していた子どもや、育児放棄された子どもはみんな、把握されることもなく、支援を受けられずそのままでした。こうして院に迎えられたことは、本当に素晴らしいことだと思います」

「……また人を遣わせます。力仕事もできる者をやりますので、こき使ってください」

 パパは笑って言った。

「そんな。本当に、いつもありがとうございます」

 ファウスティナさんは嬉しそうに笑っているけど、やっぱり疲れているようなお顔だと思う。


 二人のお話は、全部は分かんなかったけど、私のプレゼントの関係で、パパのお店は孤児院のことが必要な子を見つけたってことなのかな?

 小さな子が増えたらそれだけファウスティナさんは大変になるもんね。

 やっぱり、ファウスティナさんへのプレゼントは、『お金と人手』なんだって分かった。


「ねえ、パパ」

 私は、パパの服を裾を引っ張った。

「なんだいステラ?」

 パパはしゃがんで、お返事してくれる。

「あのね、シドたちと、考えたことがあるの。みんなを呼んできてもいい?」

 パパと、ファウスティナさんが不思議そうにしながらもいいよって言ってくれたから、私は、離れたところでこちらの様子を見てくれていたシドたちを呼びに行った。


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― 新着の感想 ―
[一言] いつも癒されるお話ありがとうございます ステラ嬢の友達勢もかなりの人数に達してそうですし何かの機会にステラのうちに遊びに来てね!の鶴の一声で錚々たるメンバー揃ったらその場に来たレミの顔が引き…
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