15.大天使ステラちゃん、お祭りの準備をする
こんにちは! 私の名前はステラ。ステラ・ジャレット。
パパはゲイリー・ジャレット。ママはディジョネッタ・ジャレット。
私のおうちはとっても大きくて、家の中では使用人の人たちが私たち家族のために働いてくれているの。
明日は、年に一度のお祭りの日。
お祭りの日は、街中が飾り付けられたり、たくさんの屋台が出たり、広場に集まって歌や踊りをしたり、とっても楽しい日になるの。
日が暮れる頃には、とっても偉い人の乗った豪華な馬車が、街中を練り歩いたりもする。
以前のお茶会で、マルクスのパパのフリューゲル・ミラーさんから、お祭りの日の警備のお話も聞いたから、今年のお祭りはいつもよりもっと楽しみになっちゃった。
お祭りの日は人がいっぱいだから、去年まで、私はお部屋の窓から眺めるだけだったけど。
使用人さんたちや、パパやママからお祭りの様子は教えてもらえるし、窓の外もいつもよりずっとにぎやかで、それを聞いているだけでも楽しい気持ちになるの。
私は夜は寝なくちゃいけないけど、大人の人は、お祭りの日の夜は家族や大切な人と過ごすんだって、パパに教えてもらった。
お祭りの日だけは、夜になるとパパも必ず帰ってきて一緒にご飯が食べられるから、私はそれもとっても楽しみ。
お祭りの日の夜にだけ料理人さんが用意してくれる鶏の香草焼きも、特別な感じがするし、とっても美味しいのよ。
お祭りは夜通し続いて、翌日の朝に締めくくられたあと、街のみんなで手伝ってお片付けするんだって。
「チャーリーは、明日の夜はおやすみ?」
「……はい。ありがたいことに、私もおやすみをいただいています」
「チャーリーも、お祭りの夜、楽しんでね!」
そう言った私に、チャーリーは今年も少し潤んだ瞳を向けた。
お祭りの日の昼過ぎから、後夜祭の日の昼までの間は、使用人さんたちもみんなお仕事はおやすみ。
パパは、希望者のみって厳命して、住み込みの使用人さんで予定のない人は、同じテーブルで一緒に晩ごはんを食べようって、毎年誘ってくれているのよ。
女性の使用人さんたちや、ヘイデンや庭師のおじいちゃん、料理人さんは毎年一緒に食べているの。
去年は、お医者の先生も一緒だったけど、今年はどうかなあ。
新しく家族になった、ダニーとポーギーと一緒に過ごすのもきっといいと思うなあ。
今年も、若い執事さんや門番さんは、「せっかくのおやすみだから、家の者と過ごしますね」って言って前日の今日、挨拶に来てくれた。
チャーリーと彼らの帰り道は一緒らしくって、彼らと一緒に、いつもチャーリーも帰省しているそうなの。
「彼らも、家族のようなものだから過ごしたい気持ちは分かるけどね。でも、一緒にと主人が言ってしまえば、命令になってしまう。無理強いしてはいけないよ」
二歳のお祭りの日、チャーリーと初めて離れることになって泣いちゃった私に、パパが言ったこと。
私は、いつも一緒のチャーリーが、お祭りの夜にはいないとパパに教えられて、しょんぼりしちゃったの。
その場に同席していたチャーリーは「いや、俺は、いえ私は、お嬢様と一緒にいたいのに、本当にご一緒したいのに、師匠たちが」なんて、眉を下げてオロオロとしながら言ってくれた。
私がわがままを言ったら、チャーリーのこと困らせちゃうんだって、うんと小さかった私は、その時初めて気づいたの。
二歳の時のお祭りの日は、昼過ぎになって門番さんたちと同じく出かけていくチャーリーを、ポロポロ泣きながら黙って見送ることしかできなかった。
チャーリーもそんな私を見て可哀想に思ってくれたのか、「嫌だ! 俺も! お嬢様と鎮花祭を過ごすんだ!!」って、いつになく荒い口調で言ってくれたの。
チャーリーは優しいからそんな風に言ってくれて、私は嬉しくて、もっと涙が出てきちゃったけど、私はぐっと我慢して、お見送りの最中だったけど、お屋敷に駆け戻るしかできなかったの。
チャーリーも、私に駆け寄ろうと走り出してくれた音が、後ろの門の方からした。
振り返ったら、チャーリーは、門番さんや若い執事さんに両腕を抱えられるように引き止められていて、そうしてそのまま出かけていったの。
その時の私はチャーリーと離れるのが寂しかったせいで、チャーリーが無理やり引きずられて連れて行かれちゃったみたいに思ったけど、小さかった私には、そう見えちゃうくらい寂しい経験だったんだと思う。
きっとあのままじゃ、いつまでも私はチャーリーに寂しいって顔をしちゃって困らせてたって思うから、あの時連れて行ってくれた門番さんたちには、今ではちゃんと感謝してる。
もう私は五歳になったから、心の準備もしているし、ちゃんとお見送りできるのよ。
「ねえ、チャーリー。今年はチャーリーがおやすみに入る前に、一緒に屋台見に行ってもいいかなあ」
私は、恐る恐る聞いた。
だって、毎年パパに「ステラはまだ小さいから、危ないからだめだよ」って言われて、私は一度もお祭りの日にお出かけしたことがないの。
五歳になったし、どうかなあ。ダメかなあ。
私は期待と不安でぐるぐるしちゃう。
「はい。今年は旦那様から許可が降りましたよ」
「本当!? 嬉しいぃ〜!」
とっても嬉しくて飛び跳ねたくなったけど、そう言ったチャーリーの顔は、なんだか苦しそうで、心配になっちゃう。
チャーリーは、拳を握って悔しそうに、独り言なのか、「毎年、毎年まだお前が未熟だから駄目って……、俺のせいでお嬢様に我慢させてしまっていた……、やっとだ……」とか言ってる。
よく分からないけど、うつむいて思いつめたような顔も心配だったし、握っている拳も痛そうだなーって思ったから、手をよしよししてあげた。
「チャーリーは、もしかして、私と一緒にお祭り行くの嫌、かなあ」
思わず、不安になっちゃって、聞いてみる。
せっかく楽しみなお祭りの日だけど、明日の夜から次の昼までチャーリーと離れ離れだと思うとやっぱり寂しくて、お祭り前日の私はいつも、ちょっとだけ後ろ向きになっちゃう。
「嫌なわけない! そんなこと、あるはずありません!」
せっかく拳を撫でて解けてたのに、力いっぱい両拳を握りなおしたチャーリーが答えてくれたから、私はちょっとびっくりしたあと、「チャーリーは元気いっぱいだねぇ」って、笑っちゃったの。
+ + +
今日の私は、パパとママからもらった新しい服を着てるの。
キモノっていうんだって。
今日はお祭りの日。
出発の早いパパに合わせて、いつもより少し早めに朝ご飯を食べたとき、「本当にお祭りに行っていいの」ってパパに確認したら、にっこり笑顔で頷いてくれた。
ママはお小遣いをくれて、パパはこれを着ていきなさいって、プレゼントしてくれたのが今着ているキモノなの。
嬉しくって、「パパ! ママ! 大好きぃ!」って、ご飯中だったのに、パパとママに駆け寄って、抱きついちゃった。
お祭りは鎮花祭っていって、『みんな元気で過ごせますように』って、神様に花や薬草をお供えするんだって教えてもらった。
街のみんながお供えしたあと、国の偉い人が最後にお供えして、それを全部大きな火で焚いてお空に届けるんだって。
後夜祭の朝はいつも、窓の外から不思議な香りがするなあって思っていたけど、薬草なんかを焚いた香りだったんだね。
パパがプレゼントしてくれたキモノは、なんだか不思議な服。
お洋服とは形からして違っていて、羽織物みたいな前開きの物を、前で合わせて腰に帯を巻いて着たの。
初めて着るはずなのに、私はなんだかキモノを見た途端に嬉しくて、ちょっと緊張するような不思議な気持ちになったの。
お着替えは、いつもの女性の使用人さんだけじゃなくて、ママのお世話をしてくれている女性の使用人さんとポーギーも来てくれて、ママの使用人さんが着方やコツなんかを他の二人に説明しながら着せてくれた。
お洋服とは、全然着方が違っていて、腕を上げたり、回ってみたり、いつもよりお着替えに時間がかかっちゃった。
「服じゃないみたいだったのに、こんなに素敵になっちゃうんだねえ! とっても難しそうなのに、着せてくれてありがとうぅ」
出来上がった姿が華やかで、可愛くて、ママの使用人さんにそう言ったら、「実は、たくさん練習いたしました」って照れたみたいに言ってくれた。
「そうなんだ! とっても上手! すごいねえ」って、私はいっぱい感心しちゃったの。
キモノは、お祭りの日に着る特別な衣装なんだって。
帯でキュって絞られて、背筋がぴんと伸びて、なんだか異国のお姫様になったみたいな気分!
普段のドレスと全然違って、でもなんだかしっくりくるような気もして、すっごく素敵。
ピンクのキモノに、紅い帯。
キモノには、白いお花が布いっぱいに大きくいくつも描かれてる。
帯につけた濃い赤の帯紐に、小さな鈴がついていて、私が動くとチリチリって、小さく鳴るの。
足元も、いつもと違う。
親指だけ別れた不思議な白い靴下は、なんだか変な感じ。
椅子に座って履かせてもらってから、なんだか面白くって、親指をピコピコ動かしてたら、ポーギーにくすくす笑われちゃった。
「ポーギー笑っちゃヤダ〜」
「申し訳、ありません、ステラお嬢様。思わず、ふふ、お可愛らし、いえ、うふふ」
「もー!」
笑いの止まらないポーギーのところまで歩いていって、正面から私より少し背の高いポーギーの両肩をつかんで立ち、靴下のままの足先でポーギーの足をふにふに踏んでやったの。
「ふふっ」
「うふふ」
おかしくって、二人で笑ってたら、いつもの女性の使用人さんが、「尊い」って言って天井を見上げてた。
前にも彼女は天井を見てたなあって思い出して、彼女の見てる先を見てみたけど、やっぱり天井しかなくて不思議だった。
彼女の癖なのかなあ?
笑いの収まったらしいポーギーが、一つの箱を出してきてくれた。
「ステラお嬢様。今日は、履物も特別ですよ」
そう言って渡されて、私は箱を開けてみる。
「わあ! 可愛い!」
それを見て、私は思わず声を上げちゃった。
真っ白でなんだか丸っこくて可愛い、不思議なお靴がそこに入っていたの。
「下駄といいます」
そう言って履かせてもらって立ってみると、いつもより目線が高い。
少しぐらぐらとする、下駄という不思議なお靴を履くと、ちょうどポーギーと同じ目線の高さだって気づく。
私はお姉さんになったみたいで嬉しくって、いっぱいニコニコしていたら、ポーギーに思わぬことを言われてびっくりしちゃう。
「ステラお嬢様。その下駄は、初めて鎮花祭に参加されるお嬢様へ、使用人一同より、ささやかですが、贈り物です」
「えっ」
私は思わず、ポーギーや女性の使用人さんたちのことも見回しちゃう。
三人とも、綺麗な姿勢で、両手を体の前で重ねて立って私の方を向き、優しい笑顔を向けてくれている。
「これ、下駄、みんなが……? 贈り物……?」
私は、彼女たちと、足元の丸っこくて白い下駄を、何度も見比べちゃう。
そして気づいたの。
白い下駄の表面には、光が当たると反射して浮かび上がるように、猫と百合の花が透明感のある白い糸で刺繍されているって。
スタイルのいい猫さんのシルエット。
リリーだ!
この真っ白い下駄が、私のために用意されたものだって、使用人さんたちみんなからの贈り物なんだって分かったら、もうたまらなくなっちゃった。
嬉しい気持ちがぐんぐん湧いてきて、抑えきれなくて、ポーギーに駆け寄る。
慣れない下駄は、少しだけ重いけど、今まで履いたどんなお靴よりもしっくり足に馴染んで、足を持ち上げるまま、まるで吸い付いてくるみたい。
一度だけ、下駄同士が当たって、カロンっと軽やかな音を立てた。
ガバリとポーギーに抱きついて、「うれじい゛い〜!」って、すっごくおっきな声が出ちゃった。
でも、嬉しくて嬉しくて、胸がいっぱいでどうしようもなかったの。
少しだけ涙が出ちゃったけど、きっとバレていないと思う。
だって私は、ポーギーにぎゅーって抱きついて、顔もポーギーの肩に埋めてしまっていたから。
「鎮花祭では、大切な相手とお祭りに参加して、贈り物で日頃の感謝を伝えるのが、街で流行っているんですよ」
ポーギーがそう教えてくれた。
使用人さんたちは、パパに許可をもらって、私に贈り物をって、この下駄を用意してくれたんだって。
「そうなんだねえ、とっても嬉しいぃ」
私は、ポーギーに抱きついたまま、ポーギーの肩にぐりぐりって頭を擦り付けて、この溢れる嬉しさが伝わってほしいなって思ったの。
顔を上げた私は、いつも「笑顔が好き」って言ってくれるポーギーにも、女性の使用人さんたちにも、一番の笑顔を見せるつもりで思いっきり笑って、「ありがとう!」って言ったのよ。
髪も結い上げてもらって、いつもは付けないおしろいと、唇にもうっすら紅をさしてもらっちゃった。
今日の私は、下駄のおかげで背も少し高くなって、なんだかお姉さんみたい。
お出かけの準備ができた私は、お礼が言いたくて、使用人さんたちを探して、ポーギーと一緒におうちの中を歩き回ったの。
真っ先に出会ったのは白猫のリリーだったから、私はリリーにたくさんたくさん下駄を自慢した。
私が騒がしくしているといつもは去っていっちゃうリリーも、私が下駄のままダダダダッて走り寄ったら、あまりの勢いにびっくりしたのか、尻尾の毛を爆発させて硬直してた。
だけど、構わず自慢しちゃう。
使用人さんたちに、お礼も言いたかったけど、それと同じくらい、誰かに自慢したかったんだもん。
私が下駄を見せて説明している間、見開いたくりくりのおめめで、金の瞳を真ん丸にして、リリーは固まったまま話を聞いてくれた。
その後、お医者の先生のお部屋や、ポーギーに道案内してもらいながら、調理場、執事さんの執務室にも行って、みんなにお礼を言った。
いっぱいお礼を言う私に、お医者の先生やダニー、料理人さん、ヘイデンや若い執事さんも照れたように、嬉しそうにしてくれた。
みんな、「大人っぽいです」「普段と雰囲気の違う装いも、とてもお似合いです」ってたくさん褒めてくれた。
ヘイデンに「髪飾りは百合ですね」って言われて、初めて私は髪につけてもらった白い大きなお花の髪飾りが、百合をモチーフにしたものだって気づいたの。
下駄には、キラキラと控えめに光を反射して浮かび上がる百合の刺繍。
下駄を見て、髪飾りに触れて、私はもっともっと嬉しくなっちゃう!
ポーギーが誇らしげにしているのに気付いて、選んでくれたのが彼女だって分かって、ポーギーの手を取って、ありがとうの気持ちを込めてぶんぶん振っちゃった。
執事さんの執務室で合流したチャーリーは、下駄のプレゼントには参加してないんだって。
私はピンと来て、「チャーリーは、お祭りに一緒に出かけてくれるのがプレゼントだもんねぇ」って言ったら、「……はい」って言ってくれたけど、ハハハって笑う声は乾いていて、ちょっと弱々しい笑顔な気がした。
なんだか小声で「いつも一緒でずるいとか言ってハブるとか……」とか言ってる気がしたけど、よく聞こえなかった。
仕事に戻るポーギーに、もう一度お礼を言って、チャーリーとお外に出る。
石畳の上を歩くたびに、下駄がカラン、コロンって軽やかな音色を鳴らしてる。
なんて素敵なお出かけかしらって、私のちょっとお姉さんになった気分は、とってもロマンチックな気持ち。
庭師のおじいちゃんのところに行くと、私の格好を見るなり、ぐっと息をつまらせてちょっと目を潤ませるみたいにしてから、「大きくなられましたな」って褒めてくれた。
撫でようとしてくれたのか、庭師のおじいちゃんは手を私の頭の方へ出しかけたけど、すぐハッとして引っ込めちゃった。
見えたお手てはごつごつで、大きくて、なんだか撫でてもらえないのが惜しくて「撫でてほしいなあ」ってお願いしてみたら、おじいちゃんはびっくりしたお顔をした。
それから恐る恐る、本当に触れるか触れないか、髪の一房も乱さないように頭にそっと手を乗せてくれたの。
一瞬だったけど、庭師のおじいちゃんのお手ては大きくて温かくて、ふわっと草の匂いがして「私、庭師のおじいちゃんのお手て、守ってくれるって感じがして、とっても好きだなあ」って言ったの。
おじいちゃんは目を見開いて、両手をぎゅって握り合わせて、下を向いてから、「ありがとうございます、ですじゃ」って笑ってくれた。
「これをお持ちくだされ。病を弾く妙薬になる薬草ですじゃ」
「お焚き上げの薬草! おじいちゃん、ありがとう〜!」
庭師のおじいちゃんは、乾燥させた数種類の薬草を、猫やうさぎの可愛い柄のついた薬包紙に包んで渡してくれた。
お医者の先生のところ以外、使用人さんのお部屋に入るのは、実は今日が初めて。
庭師のおじいちゃんのいるこの小屋にも初めて入ったけど、色んな薬草を乾燥させたものや、すり鉢やガラス容器みたいなよくわからない器具がいっぱい置いてあるお部屋だった。
その中に、なぜだかあちこち、可愛いぬいぐるみや可愛い飾りが置いてあって、それらはずっと置いてあって日に焼けたのか、少しだけ色褪せていて、なんだかこのお部屋にミスマッチなはずなのに馴染んでいて、それが面白かった。
庭師のおじいちゃんとまたお話したいなって思って、「また来てもいいかなあ?」って聞いたら、とっても嬉しそうに喜んでくれたから、お仕事のお邪魔にならないようには気をつけて、また会いに来ようって思った。
庭師のおじいちゃんの喜び方は、「よしッ!」って言って拳を握っていて、普段の穏やかなおじいちゃんの雰囲気とはちょっと違って見えて意外だった。
噛みしめるようにしながら「ほれみろへいべえ、ぬいぐるみ作戦ばっちりじゃねえか」って、普段と違って聞こえる言葉遣いでブツブツ言ってる気がしたけど、なんだったのかなあ。
チャーリーが咳払いをしたから、喉が痛くなっちゃったかなって思ってそっちを見たら、「大丈夫です」って言われた。
それに安心してもう一度庭師のおじいちゃんのほうへ向いたら、もうおじいちゃんは、いつもの穏やかな優しいお顔に戻っていたの。
薬草を預かるってチャーリーは言ってくれたけど、なんとなく「自分で持つね」って言って断った。
お祭りの重要な要素になるそれを、自分で持っていたくて、小さな包みをキモノの袖に仕舞っておく。
小さな軽いものならここに入れておけるって、着替えたときに教えてもらったの。
門番さんたちにも駆け寄って、お礼を言う。
門番さんたちは、「お可愛らしすぎる……!攫われてしまう!」とか「フットマンではやはりまだ実力不足では」なんて言っていたけど、ずいと前に出たチャーリーと、数分間、無言で見つめ合ってから、やれやれと言った風で門を開けてくれた。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ、お嬢様」
「よい祭りを」
「うん! ありがとう〜!」
そうして、私は門番さんたちにいってきますと手を振って、チャーリーと二人で、お祭りの街に出かけたの。
なんだか今日は、いつもと違う一日になるって、そんな予感を抱きながら。
※和装の表記について※
ちびっこ舞妓さんのような姿を想像いただけますと幸いです。
キモノ、足袋、下駄等の表記に違和感を覚える方もいらっしゃるかと思いますが、作者の表現力と知識不足ゆえ他表記へ置き換えることができませんでした。
下駄については、舞妓さんのぽっくり下駄が一番近いです。
異世界であり、日本ではない世界観である前提の元、何卒、お目溢しいただけますと幸いです。