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103.名探偵ステラちゃん、潜入調査承ります

 じゃっらじゃっらとボンボンの身につけた服の装飾品の音がお城の静かな廊下に響いていた。

 歩く度に音がして邪魔くさくないのかなって思って聞いたら、貴族っていうのはこういうものなんだって、エッヘンされちゃった。


『馬鹿馬鹿しいのぅ……』


 オアゲが何か悪口わるくちを言ったみたいだったけれど、ボンボンには見えてないし聞こえていないみたいだったから私はオアゲに悪口言っちゃ駄目だよって言うみたいに視線でめってやるだけにした。

 ボンボンは、私が今日身に付けているワンピースやポシェットをじっくり見て、悪くないけどもっとボンボンみたいになりたかったら宝石やビーズをあしらったらいいよってアドバイスしてくれたりしてる。


 しばらくそうしてボンボンとオアゲと一緒に歩いていると、人の声が聞こえてくるようになった。

 人がよく出入りする場所に近づいてるみたいだ。

 私がこれ以上は見つかっちゃうだろうなって思って覚悟を決めていると、オアゲが『仕方のない』って一言言って、そうしたら私の体を何かが通り抜けるようなそんな感覚がしたの。


「あれ? 今何したの?」

「!? お、俺様に分かるわけないだろ!」

「ボンボン、しーっだよ」

「む!? お前が先に話しかけてきたんだぞっ」

「ねえねえ、今のオアゲが何かしたの?」

『少しの間見えなくしただけじゃ、いちいち絡まれていたのでは煩わしいでな。後ろの彼奴らには悪いが、これで束の間誰からもそなたたちの姿は見えんでな』


 よく分からなかったけど、たぶんオアゲが何かしてくれたんだと思う。

 ドアの鍵のことといい、もしかしたらオアゲには不思議なお力があるのかもしれなかった。


 私たちはそのまま使用人さんのいる区画へと歩みを進める。

 けれど、そこにいる誰にも私たちは見えていないみたいだった。


「ほんとだ」

『何じゃ疑うとったのか。無礼な娘じゃの』

「な、何なんだぞ……。使用人も兵士も、僕が見えていないんだぞ……?」

「オアゲがね、してくれたんだってぇ」

「??」


 歩きながら、キョロキョロと不思議そうな怖がっているようなご様子のボンボンにも私はオアゲが見えなくしてくれたんだよって教えてあげる。

 ボンボンはますます訳が分からなさそうなお顔をしたけれど、しばらく一緒に歩くうちにお気持ちが明るくなってきたみたい。


「何かは分からないけど、これは面白いぞ!」

「ボンボン、お声は聞こえてるみたいだから、しー、だよぅ」

「む。そうなのか。でも僕たちの姿は誰にも見えないんだぞ? ならあっちこっちへ行ってみるんだぞ!」

「お腹はいいの?」

「いっ! いいんだぞ!」

「そっかあ」


 ボンボンに元気が出てきたみたいで良かった。

 ワクワクしたお顔をして行ってみたい場所を挙げていってるボンボンは楽しそうで、お城には何度も来たことがあるのかどこにどんなお部屋があるのかボンボンは詳しいみたいだった。


 私はこっそり、オアゲにオアゲのパパとママはどこにいそうかなって聞いてみる。

 私はオアゲのパパとママを探してあげなきゃいけない。

 それが見つからなさそうなら私のパパのいるところにオアゲを連れて行ってあげなきゃ。


 そう思ったんだけどオアゲも『さてな』って、分かんないって言う。

 それから、じゃあボンボンの行きたいところを順々に回って、そこでオアゲのパパとママがいないか探してみようってことになった。




 ◇ ◇ ◇




 私たちはそれから色々なところを歩き回ってみた。

 途中、ボンボンの身につけたジャラジャラの装飾の音のせいでバレそうになったんだけど、そうしたらボンボンはあっさり音の鳴る装飾を全部外してズボンのポケットに入れちゃってる。


 やっぱり本当は邪魔くさかったみたいで、全部を外してすっきりしたボンボンはさあ次だって体も軽そうに楽しそうにしてた。

 お城のエントランスや、ボンボンが入ったことがあるっていう客室、それからたまたま私たちの目の前でドアが開いたお部屋にも入ってみる。


 入ってみたお部屋では、いかにも身分の高そうなおじさんたちがテーブルを囲んでヒソヒソ、何かお話し合いをしているみたいだった。

 私たちは最初、いたずらっ子のお気持ちで、お話し合いをしている最中の真ん中をつっきってみる。

 だけれどやっぱり誰も私たちのことが見えている人はいないみたいだ。

 おじさんたちには私たちの向こう側にいる相手の姿が透けて見えているみたいで、いかにも難しそうなお話し合いは私たちがこそこそ真ん中をつっきっていく間にもそのまま進んでいってた。



『………………………毛生え……………………………………薄毛………………………救世主………………』

『東国……………妙薬………………抜群の効き目…………………』

『……………噂…………………国王………愛用……………………………』



 おじさんたちはみんな神妙なお顔で肩を寄せ合っていて、ヒソヒソお声でご意見を交わしてる。

 時々どよめいたり感嘆したりしながら進むそのお話は私たちには聞こえなかったけど、とっても深刻で重要なお話し合いだっていうのは雰囲気だけで伝わってきた。


『……ハァ。もうええじゃろう、次へ行こう』


 オアゲのそんな呆れがこもったような一言をきっかけに、私とボンボンは万が一にもお話し合いのお邪魔になっちゃいけないってしっかりと頷き合い、こっそりお部屋を抜け出したんだ。




 それから、お城の中の探検を続けていた私たちは、私を子ども部屋に案内してくれたメイドのお姉さんの姿を偶然見つけた。

 給仕用のカートを押して歩くメイドのお姉さんは使い終わったティーセットを運んでいる最中だったみたいで、私たちはそんなメイドのお姉さんがどこへ行くのかこっそり後を付いて行ってみることにしたんだ。


 メイドのお姉さんの後を付いていくと、お姉さんは客間や会議室の並んでいた廊下からどんどんと奥まった場所へと進んでいき、最後にはメイドさんたちがたくさん出入りする一見倉庫みたいなお部屋へとたどり着いた。

 そのお部屋はカートが出入りするためか間口が広く取られていて、お部屋の中でお水を汲んだりお湯を沸かしたりできるような作りになっているために今日見てきたどのお部屋とも全然作りが違ってる。


 天井に届くくらいに高く作られた大きな棚には密閉できる透明な瓶がたくさん並んでいて、その中にはそれぞれ違う種類のお茶っ葉や角砂糖なんかが入っているのが見て取れた。

 たくさんのメイドさんたちでごった返すそのお部屋の中に慣れたご様子で入っていったメイドのお姉さんは、使い終わったティーセットを素早く担当の人に渡すとざっとカートを清掃し、次のご準備なのか無言のままでテキパキと必要なものを必要なだけカートの上に新しくセットしていっている。


 そこで私たちはきっとこのお部屋は給仕係のメイドさんたちのご準備のためのお部屋なんだねっていうのが分かった。

 お部屋は本当にびっくりするくらいに多くのメイドさんたちが慌ただしく出入りしていて、みんながみんな忙しく動き回ってる。


 外から見れば簡略化されたキッチンみたいな、倉庫みたいな不思議なそのお部屋は、とにかく出入りしてるメイドさんたちの数が尋常じゃなく多かった。

 ドアを開け閉めする時間すら惜しいのか、大きめに取られた出入口のドアは開け放たれたままで固定されていて、その代わりと言うみたいに天井から下げられた布で目隠しがされている。


 その布も絶えず出たり入ったりするメイドさんたちとメイドさんたちの押すカートで押し開けられているせいでほとんどその役割を果たせていなかった。

 あまりの目まぐるしさにすっかり圧倒され立ち尽くしていた私たちはふと、慌ただしく動き回るメイドさんたちの中、年かさのメイドさん数人がその中を練り歩いているのに気が付く。


 お茶やお菓子のご準備なんかをしているメイドさんたちの手元をじっと観察するみたいに見て回っていて、まるでその目は不審な動きをしたら絶対に許さないって言っているみたいに光って見えた。


 じっと、じっと、じーーーーーっと。


 私たちは私たちが誰からも見えていないっていうのは分かっていたんだけれど、それでもその年かさのメイドさんたちの強く厳しい視線がいつか私たちに向くんじゃないかって気が気じゃなくなって、全員、何も言わずにそっとその場を後にした。

 私もボンボンもオアゲも、心なしかお顔が青い。


「………」

「………」

「使用人も大変なんだぞ…………」

「うん……。すごかったね……」

「すごかったんだぞ……。あの目……ブルッ。み、みんな給湯室ではあんなに目にも止まらぬ動きをしていたのに、一歩廊下へ出たら品よく歩き始めるから見ていて混乱したぞ」

「うん。()()()()()()()()()だったのが、布をくぐったら()()()()()()()()になったよねぇ」

「その通りだぞ。それにしても、何であの中でぶつからないんだぞ? あいつらも僕らのこの見えないやつみたいな、ぶつからないやつを使ってるんだぞ??」

「そうかもしれないねえ……! メイドさんたちすごいんだ」


 私を子ども部屋に連れて行ってくれたメイドのお姉さんがあんなに忙しくしていたなんて知らなかったから、あれだけ何度も私の様子を見に来てくれたメイドのお姉さんに後でもう一度必ずありがとうってお伝えしようって私は決める。

 私たちはいつの間にかそんなメイドのお姉さんのことも見失っちゃってたから、この後に行く場所を決めなくちゃいけなかった。


 そのタイミングでまたボンボンのお腹がグウって言って、そういえばボンボンがお腹を空かせていたねって思い出す。

 お菓子か何かをもらいに行こうって決めた私たちは、だけどさっきのメイドさんたちのお部屋に戻るのは怖かったから、それならキッチンで何かもらえるんじゃないかって言って目的地をキッチンに決めてお城の探検を再開したんだ。




 ◇ ◇ ◇




「おいそっち! できてるか!」

「あと二分ほどです!」

「セッティングは済んでいます!」

「メインは!」

「鴨が十分ほどで他は盛り付け以外完了しています!」

「よし! 焼き場は最後まで気を抜くなよ。おい、そっちは先付けで分担してもう給仕に回していい。昼前の客は一旦ここまでだから、終わった者から交代で休憩を取っていいぞ!」

「「「はい!!」」」


 お城の中に詳しいボンボンの案内でたどり着いたキッチンは、メイドさんたちの部屋に負けず劣らずで慌ただしく料理人さんたちが動き回っていた。


 火の付いたたくさんのコンロにはいくつも鉄鍋やフライパンが並んでいて、焼き場を担当しているのだろう料理人さんたちの手によってそれが次々と入れ替えられていっている。

 置き直すたびにコンロの五徳と鍋がぶつかるカァンという音が響き、中の具が油に熱されジュッジュッとかき回されているのを見ると離れている私たちにまで熱気が飛んでくるみたいだった。


 キッチンの中央では大きな作業台を囲んでこちらも何人もの料理人さんたちが手を動かしている。

 大小様々な食器が所狭しと並ぶそこではほんの瞬きの間に一皿また一皿と料理が盛り付けられ完成していっていた。


 広いキッチンからは美味しそうなお料理の香りが廊下まで漂ってきていて、間もなく焼き上がるらしい鴨の脂の焼けるジュワァッと香ばしい匂いまですれば、私はお口の中がよだれでいっぱいになっちゃった。

 隣ではボンボンがもうよだれを垂らしてる。


 入口そばに立つ私たちはやっぱりここでも姿が見えていないみたいで、私たちに気付かないままに給仕係だろう人が私たちのすぐ横を通り過ぎていく。

 その手にはサラダが何皿も乗っていて、お城のサラダは目に鮮やかなお色をしているんだなあと私はそれを目で追っていた。


 瑞々しく今にも水滴が垂れ落ちそうなほどパッツリした葉野菜たちが花束みたいにこんもりボウルに盛られている。

 綺麗だなあ。

 私が思ったそんな風なことをボンボンも思ったみたいだった。

 感嘆するみたいにボンボンが言うのが分かった。


「すごいんだぞ、ここも満員で忙しそうだ。こっちには男も女もいるんだぞ」

「うん、みんなすごいよねえ」


 広い調理場の中で何十人もの人が統一されたコック服で働く光景は何かメイドさんのお部屋とも違った迫力がある。

 それぞれが決められた場所でそれぞれ別っこの作業を担当しているからかメイドさんのお部屋のような混沌さがない代わりに、一人一人が一度に複数の料理や作業をその場で同時進行で進めていっているそのご様子からは当てられてしまいそうなほどの熱気が発されているような、そんな心地がした。


 私はすっかり感動してその光景を見ていたんだけれど、そんな私の隣でごそごそ、なんだか不審な動きをする者がいたんだ。

ステラちゃんたちが見失ったあとすぐ、メイドのお姉さんはアポなしでやってきた貴婦人に廊下で捕まった模様です。その貴婦人は長話で有名だぞ! 頑張れ、お姉さん!



城内秘密結社【F.F.C】(フッサ・フッサ・クラブ)

若年層からベテランまで多くの人材が秘密裏に集い日夜情報収集とその共有に当たっている。

参加資格は城への参内を許されていること。そして本人(もしくは近しい親族の誰か)が、体の特定の部位において乏しく淋しい印象を与える状態であることが必須条件。

クラブの活動拠点である一室には達筆な文字で大きく『伸びしろ』と書かれた垂れ幕が下げられている。

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クラブに入りたいのですが…
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