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100.大天使ステラちゃん、名探偵と不思議な獣

祝100話(?)!

 ケイニーの推理を読み進めるうち私は、私まですごく賢くなって、名探偵になった気分になった。


「『策謀の香りだ……』」


 キリのいいところまで読むと、私はやっぱり今作でも作中に登場したケイニーの決め台詞を真似っこする。

 今回はちょうどそのシーンで挿絵も入っていたから、ポーズまで真似てみた。


 ケイニーは犬なんだけど、とっても賢い犬だから喋るし二本足で歩く。

 飼い主さんのヴァッカスさんはそんなケイニーにもっと犬らしくしていてほしいんだけど、賢いケイニーは二本足でベラベラ喋ってビシバシ事件を解決していっちゃうんだ。


 私はご本を閉じると窓辺へ向かう。

 このお部屋の窓は大きくて、窓に面したお庭に出て遊べる作りになっているみたいだった。


「なるほどナァ……。事件の香りはこっちからするようだゼェ」


 私はなるべく渋い表情を浮かべて、窓の枠に身を隠すみたいに立ってそっと外を覗き見た。

 お声も、小説を読んでいて想像していたケイニーのお声を意識して出してみる。


 こうしていると、本当にお外で事件が起きているような、そんな気がしてくる。

 窓のそばであっちにこっちに、まるで外から見張っている誰かがいるようなのを想像して身を隠したり窓に張り付いたりしていた私は、ふと気が付いた。


 カラララ………


 窓が動く。

 改めて手で窓の縁を持って動かしてみると、どうやら窓には鍵がかかっていなかったみたいで簡単に開くことが分かった。


「…………」


 私はふむ、と頷く。


「…………」


 腕を組み、考えてみた。


「…………」


 このお部屋から出られるお庭、そこは果たして“お外”だろうか。


「…………」


 否、こうして窓自体が人がお庭とお部屋を出入りできるようにと大きく作られているのだから、このお庭も含めてこの部屋は“子ども部屋”なのではないだろうか。


「うん」


 腕組みして考えていた私は、一つ大きく頷いた。

 うずうずして、仕方ない。


「…………策謀の匂いはこっちからするゼェ」


 私の中の渋くて格好いい名探偵ケイニーは、間違いなく冒険へと出たがっていた。

 いざ、お散歩だ!




 ◇ ◇ ◇




 開いた窓からお庭へと体を乗り出すと、お庭はそれほど広く開けているわけじゃないって分かった。

 木が生い茂っているから気が付きづらくなっているけれど、すぐ先には横断する壁がそびえ立っていて、このお庭はそんな壁と建物との間に沿って切り取られるように存在するみたいだった。


 お城の中を案内される間に見たお城のお庭のように管理されて整えられている雰囲気とはまた違う。

 壁の存在を目隠しするためにか、どちらかといえば鬱蒼としたという表現がよく似合うそこには、緑の草や木が生い茂っていた。


 地面とは段差のある窓の(へり)から片足ずつお庭へと足を下ろすと、草がシャリッと新鮮な音をさせる。

 スゥと息を吸い込めば、木陰特有の爽やかな空気に包まれた。

 ふかふかと柔らかく豊かな土の感触を楽しみながらお庭に両足で下り立った私は、注意深く周囲を観察してみた。


「窓。横のお部屋にも繋がってるんだ」


 建物沿いに横に長いお庭の先を見れば、私がいたお部屋の窓が終わってもまだその先にお庭は続いてる。

 窓からお庭に出られる作りの子ども部屋とは違ってそこから先は一定間隔で高い位置に窓が並んでいて、このお庭は横並びのいくつかのお部屋に面しているのが分かった。

 私は推理中のケイニーがそうするように、並ぶ窓を指差しニヤリと()()()に笑って見せる。


「お見通しだよヴァッカスくん」


 一人でそう言ってから、ふふって笑みが零れた。

 ここに作戦基地を作ろうかなんて、そんな風に想像を膨らませながら、すっかりケイニーになりきって嬉しいお気持ちいっぱいの私はお庭の探索へと乗り出したんだ。




 ◇ ◇ ◇



 それからしばらく。

 私はまた一つの解き明かすべき謎と遭遇していた。


「あれは、何だろうねぇ……」


 見つけたそれを静かに指差し、じっと観察して考えてみるけど、分かんない。

 私の視界に映ったあれが何で、どうやって、どうしてそうしているのか、今は名探偵のはずの私にも分かりそうになかった。


「浮いてるよねぇ……」


 プカプカ。

 そんな擬音が似合いそうな、宙に浮かんだ存在がそこに居た。



 毛並みは艶々、茶と白の見事な毛並みは陽の光を反射しているのか白金色にも輝いて見える。

 私の顔の大きさほどの小さな体躯は柔らかそうで、まるでケイニーが推理する時みたいに前足を上げて後ろ足二本で直立している姿は、そこが空中でなければそのまま二足歩行で歩いていってしまいそうなくらいには安定感があるように見えた。


 それが、垂らしたふわふわのしっぽをフッサフッサと揺らしながら、青空を背景にプカプカ浮いてる。

 たぶん動物さんなそれが何をしているのかと思って見ていれば、どうやら窓から建物のお部屋の一つを覗いてるみたいだった。


 たぶん動物さんで、たぶんケイニーみたいに二足歩行をするその不思議な存在を前に、私がすることは一つしかない。

 よし、話しかけてみよう!




 ◇ ◇ ◇




「こんにちは!!」


 静寂を切り裂いて飛んできた途轍もない大声に、彼は思わずビクリと空中で体を跳ねさせる。

 声がした方を見れば、思ったよりも低い位置、そこに小さな女児が立っていた。


 バッチリと目が合ったことで彼、神聖な獣たる存在はゾッと身を寒くする。

 気配に疎い人間の中にも、幼い時分だけはごくごく稀に彼の気を感じ取れる者もいた。

 長い生の中でそんな者と出会うことはこれまでにもあったが、何もこんな場所でと思ってしまう。


 最悪のタイミングだ。

 しかも、目の前のこの娘ははっきりと彼のことを認識しているようで、目と目が合っているように思う。


 まさか姿形まで認識できているのかと思えば、思いかけず突然現れた目の前の娘の正体にも気になった。

 しかし事は、そんなことを言っている場合ではないようである。


「こんにちは!! 私ステラっていうのよ!!」


 追撃。

 まさかの先ほどよりも大きな声での追撃であった。


 不味い不味い不味い不味い。

 まずいでおじゃる!


 流石の彼もこれには予想外で、内心で慌てふためく。

 たった今は建物のすぐ内側で彼の大切な存在が色々と策を巡らせている最中。 

 よもやこんな子どもの声で遮られ、成り行きが変わってしまうことになっては大事だった。


『そこな娘よ、そなた()の声が聞こえるな』


 姿すら見えているらしいこの特異な子ならと、彼は静かに語りかけた。

 神気を纏う彼の声は、その声を聞くことの叶う誰もが畏れ敬い、耳を傾ける響きをしている。

 想像どおりにポカンと口を開けた娘を見てよしと納得した彼は、静かにこの場を収めるべく続けて口を開いた。


『娘よ。ここで見聞きしたことは忘れ、今すぐ────』

「ケイニーさんみたい!!」

『ブッ』


 駄目だった。

 娘はぱあと顔を輝かせたかと思うと、どこぞの誰とも知らぬ名を挙げると喜び勇んで近づいてきた。


 言葉を遮られる経験なぞこの数十年、いや数百年はなかった神の獣はわなわなと口をわななかせ、言葉を止めてしまう。

 しかしそれとは対照的に、娘のほうはいよいよ勢いを増し止まる様子がなくなっていた。


「 私ねえ、ステラっていうのよ!! こんにちは!! お喋りできるなんてすごいねえ、名探偵さんなのかなあ!?」

『────ッ大きいっ! 声が大きいでおじゃ!』


 これには流石に彼も焦る。

 いい加減にしておかないと、本当に建物の中の者たちが騒ぎだしてしまうだろう。


『此処を何処だと思うておるのじゃ、声を落としてたもうっ!?』


 ここは城の中、さらには仕官や使用人が(せわ)しなく出入りするような場所ではなく上層部や王族すらも利用するような宮の客室すぐそばだ。

 こんな場所で大声を上げる者などいていいはずがなかった。


 実際には彼が思うほどこの場所は城の深部ではなく、ある程度の爵位を持つ貴族ならば外部の客人のもてなしに使用できるような区画である。

 しかし、人のそのような機微にまで精通しているわけではない彼にとっては城の中というのに変わりなく、ましてや彼の大切な者がお膳立てして準備した場であると知っているだけにここは決して騒いでよい場所でも場合でもなかった。


 目の前の娘をギロリとねめつけるが、それに娘は怯む様子も見せなかった。

 仮初の姿であっても、彼の姿を見ることの叶う者からしたら彼のひと睨みは身の破滅を感じるほどに恐ろしいもののはず。

 であって然るべきなのに────。


「小さい猫さんは、猫さんなのかなあ? それともライオンさんかなあ? あなたのお名前はなんていうの??」

『ぶ、無礼者!』


 矢継ぎ早に投げられる不躾にもほどがある質問の数々。

 限られた相手を覗いて崇め奉られる立場が当然であった彼にとっては、幼子といえどとんでもない暴挙である。

 もはや辛抱溜まらんと、彼はついに()()()を言葉へと乗せ相手への攻撃に転じた。


『どこからどう見ても立派な狐でおじゃる! このお間抜けさんっ! それに、真名など教えるはずがないでおじゃ! お馬鹿さん、お馬鹿さん!!』


 神気の籠る神聖なる獣からの誹謗の言葉。

 それはすなわち、ただの人の子が受け止めてしまえば壊れてしまうほどの攻撃である。

 相手が子どもだからと強すぎる言霊を使うことこそ避けたが、これでこの娘も昏倒くらいはする────────


「わあ、狐さんなんだねえ、格好いいねえ!」


 しない! ビクともしなかった!!

 何なのだこの娘は!?


 嫌な冷たさが背を撫でるのを感じて、まさかこの吾こそがと彼は鎌首をもたげようとする嫌な考えに気付かないふりをした。

 瞬間、間合いが詰められる。


『!?』


 信じられない衝撃が彼の体を襲い、彼の時は一瞬止まった。

 ぐっ、ぐっと、紛れもなくこの体躯を握りしめている、幼い娘の両の掌。


『!? っ!!? は、離せ! この手を離すでおじゃ!! 何故掴める!? そなた何者──────』


 なりふり構わずに上げた大声にも、娘は動じた様子もない。

 ふわりと、この場でしてはいけないはずの“匂い”がした。


『っ!? ま、まさかそなたっ!?』

「うふふ、じゃあねえ、ここは危ないからねぇ。一緒にパパのところに行こうかねえ」

『あっ、こら、この! 何処に行こうというのじゃ!? 離して! 嘘!? 本当にこの童、吾を掴んで!?』


 力の限り暴れたところで、仮初の体で発揮できる力など高が知れていた。

 そも、力と力の勝負になるなど想定していない事態である。


 かの獣はこの世のものではなく、ただ仮初の体でこの世界を構成する物質と要素、そして魂の隙間に存在として“在る”だけだ。

 この世界に干渉しない程度の神力を使い、ただ大切な存在の生を見届けるためにここに在る。


 それだけの存在のはずだった。

 姿を見、声を聞き、触れるどころかその体を掴んで拘束する者がこの世界にいるなどとは思いもしなかった。


 もしもそんな者がいるとすれば─────────。

 彼は一つの可能性に思い至る。


 まさか。

 笑い飛ばしたい、けれど可能性はある。


『ぐえ。ぐ、ぐるじい…………』

「お体柔らかいねえ」


 しかし、まずは握る手のこの力強さと、どこへ行こうというのか駆け出し始めた娘をどうにか止めるのが先決だと、神の獣は思うのだった。

モブ転生少女ステラちゃんの謎がやっと解き明かされる!?(ババーン)(集中線)(背後で爆発)(なお今からどんどん横道に逸れる模様)



ちなみにその頃メイドのお姉さんは先輩メイドさんに余計な仕事をお願いされてヒーヒー言ってます。

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― 新着の感想 ―
声がでかい、急に走り出す 年相応の幼女ステラ元気!
まだ力加減あんまわからない年頃だと、猫ちゃんとかわんちゃんをぎゅーーー!っと、可愛いねえ!の気持ちのままやりがちですよねえ。 仕方ないね神獣さん!
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