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96.大天使ステラちゃん、すごい人

2024年、年内最後の更新でございます。

来年ものんびりと書いていきたいと思っておりますので、ぜひ気長にお付き合いいただけますと幸いです。

それではみなさま、よいお年をお迎えくださいませ。


 ジメジメ…………

 いじいじ…………


 上品で機能的な調度品でシンプルにまとめられた広いお部屋の隅っこ。

 ジトーっと、重たい空気を背負った小さな背中が丸まっていた。


 ルイだ。

 いつも自信満々で言いたいことははっきり言うルイにしては珍しい格好をしてる。


「ルイどうしちゃったのかな?」

「私にも覚えがあるがね、納得はできていても、今すぐに飲み込めないんだろう。要するに、拗ねている」


 私の質問に淡々と答えてくれたのは、きっちりと背筋を伸ばした姿勢で正面のソファに座ってくつろぐ、ルイのパパで宰相のニールさんだ。

 ニールさんは、目の前に置かれた小さなカップを音も無く持ち上げると、きっちり一口分だけを口に含み、それから決まったような動作でテーブルの上、さっきと同じ場所に置いた。

 目を閉じて、ゆっくり三秒。

 お茶の香りをしっかりと味わった様子のニールさんは、さっきからお茶を飲むたび何度もそうしているように、背筋は正したままで上体ごと背後に向き、一言はっきり「美味しい」って言った。


 ニールさんが向いた先、その言葉が向けられる場所にいるのは、ルイのママでニールさんの奥さんでもあるあーたんだ。

 あーたんは何度もニールさんがそうする度に苦笑いを返しているけど、なんだかこのやり取りもこれはこれで楽しいみたいに見えた。


 植物園にいた私たちは、あーたんが帰る前にあったまって行きなって言ってくれて、お屋敷の客間に入れてもらってあーたんオリジナルのハーブティーを飲ませてもらっている。

 あーたんが小さなカップに少しずつ何種類かを飲み比べだよって淹れてくれたハーブティーはどれも色が薄くて、だけど甘かったり果物みたいだったりするいい匂いがたくさんして、ニールさんが言うみたいにどれもすごく美味しい。


 あーたんは、さっき目の前で摘んでくれたばかりのハーブを専用の茶器で淹れてくれて、そのままそのお片付けをしながらニールさんと私たちが話しているのを聞いてるみたいだったんだけど、あーたんがそっちにいるとニールさんがお話に集中できないんだなって気が付いたみたい。

 ニールさんの様子に笑ったあーたんは、残りのお片付けはそばに居たメイドさんにをお願いすることにしたみたいだった。


「にーくんがその様子だし、あーしもそっち行こうかな。あのね、これをいつものとこに戻しといてほしいんだけど、お願いしてもい?」

「はい、もちろんでございます奥様」

「ん、あんがと。ルイは~? まだそこおるんか~?」

「………………………」

「まだらしぃ~」


 あーたんは私たちが囲むテーブルのところまでやってきて、ニールさんが座ってるソファの隣によいしょって座った。

 歩いてくる途中で隅っこで丸まっているルイにも声をかけてくれたけど、ルイはまだ隅っこにいたいみたいだった。




 ◇ ◇ ◇




「────む、誰かと思えば、ジャレット商会のお嬢さんじゃないか。それにマルクスくん。ルイに来客とは聞いていたが、どうして君たちだけで植物園(ここ)にいるのだ?」

「あ! ニールさん! ニールさんだ! ステラですこんにちは!」

「あ、おじさん。こんにちは、お邪魔してます」

「そうか、うむ、挨拶が先だな不躾をした。はい、こんにちは」


 ルイとあーたんがお話する間、植物園の中を探検し直していた私たちは、眼鏡をかけてきっちりとした服装をした、ルイをそのまま大人にしたような男性と遭遇した。

 ルイのパパで、宰相のニール・レッグウィークさんだ。

 ニールさんは私たちがいることに驚いたみたいだったけれど、私やマルクスが先にご挨拶して、チャーリーもご挨拶のおじぎをすると、それに続いてご挨拶を返してくれる。


 夢中になっていた私たちは気が付いていなかったけど、お空を見れば、いつの間にかお日さまが傾き始める時間になってしまっていたみたいだった。

 ニールさんも、今日の分のお仕事を終えて帰ってきたところだそうで、いつもどおりにあーたんにただいまを言おうと思って植物園に寄ったんだって教えてくれる。


 私たちは遅くなる前に帰らなきゃねって言って、ニールさんと一緒に、ルイとあーたんのいるところに戻ることにしたんだ。

 戻る最中、私が今日あったことをニールさんに言って、あーたんのところにルイもいるよって言うと、ニールさんは何故だかびっくりしたみたいに目を丸くしてた。


 ルイがあーたんのところにいるのはそんなに珍しい事なのかなって、私は分からなかったけど、でもその後すぐにニールさんの口元がニヨニヨってして、それを隠すみたいに口元を手で覆いながらそっぽを向いていたから、ルイもよくするその仕草に私はすぐにニールさんが喜んでいるんだって分かる。

 あーたんとルイが一緒にいるっていうのは、ニールさんにとって驚いちゃうくらいに嬉しいことだったんだね。


「ニールさんはあーたんに会いに植物園に来たから、おうちに植物園があるって知ってたんだねえ」

「? それはそうだが……。一体どういう意味だね?」

「ルイはねぇ、知らなかったんだってぇ」

「は? 知らな、はあ!?」


 私がルイが植物園を知らなかったことを教えてあげると、ニールさんはさっきよりもびっくりした声を上げていた。

 一瞬でお目目をまん丸にして、口もぱかっと開いたニールさんだったけれど、その後すぐに何か心当たりに思い当たったらしく、「言われてみれば確かに、そうか……」って、歩調をちょっと早めながら、頭が痛そうに眉間をぐりぐり揉んでいた。

 

 そうしてお話をしながら私たちがあーたんとルイのいる場所に戻ると、そこにはちゃんとあーたんとルイが仲良しさんで待っててくれていた。

 私たちが戻ってきたことに気が付いたルイは気恥ずかしそうなお顔になって、それからニールさんに気が付くと「……おかえりなさい」って小さな小さな声で言ってから、すぐにぷいっと顔を背けちゃう。

 あーたんのお膝の上で、抱っこされた格好のまま。


『おかえりにーくん。何か、こーなったぁ~』


 そんなルイを抱っこしたままのあーたんがそう言ってニールさんにヘラっと笑いかけたとき、ニールさんは今日一番のびっくり顔で声も出ない様子だった。

 あんぐりと開いた口が、顎が外れちゃうんじゃないかというくらいにパッカリ開いたままになっていた。




 ◇ ◇ ◇




「結局、ルイは拗ねて送りの馬車にも乗らなかったな。フフ」

「だねえ。後でにーくんからもルイに説明してくれんと困るよ?」

「うむ。ルイのあの様子では、君の才能に対して自信喪失して拗ねているというよりは、これまでそれを黙っていた私に対して怒って拗ねていそうだからな。フフフフ」


 パッカパッカと軽やかな蹄の音をさせて進む馬車の中、私とマルクスの目の前でルイのことを話すニールさんとあーたんは、困るって言いながらもなんだか楽しそうだ。

 ちなみにチャーリーは、御者さんと一緒にお外の御者席に座ってる。


 私の正面にいるニールさんはお口のニヨニヨが止まらなくなっちゃったみたいで、すごくご機嫌なのをもう隠そうともしてないみたい。

 ハーブティーを飲みながら私たちから今日あったことを聞いたニールさんは、びっくりしたり、お口をニヨニヨしたりを繰り返したあと、最後にはニヨニヨしか出なくなってた。


 そんなニールさんは、遅くなったからって言って、あーたんと一緒に馬車で私とマルクスをそれぞれのおうちまで送ってくれてる。

 もちろんルイも一緒にってニールさんは誘ったんだけど、ルイはまだ拗ねたまんまで、ぶすっとしたお顔でそっぽを向いたままのバイバイしかしてくれなかった。


 ニールさんとあーたんのお話を私たちは詳しくは分からないけれど、その話しぶりやニールさんの嬉しそうなご様子を見る限り、あーたんとルイは今日、仲直りができたってことみたい。

 ルイが拗ねちゃってるのが何故かは最後まで分からなかったけど、私はルイがあーたんと仲直りができて良かったなあって思ったよ。


「それで、ルイにはどこまで話したんだ?」

「ん? 全部」

「! い、いきなり全部か?」

「うんそう~。見ただけで草やら花やらの薬効がだいたい分かることとか、相性のいい土とか水とか全部直感で分かることとかぁ、勉強はしたことなくても品種改良とかはバンバンしてて、十年弱で王国植物学の定説ひっくり返したこととか、そんな品種改良した薬草を国の軍部にも提供してることとかぁ。あとは、薬効が高いけど栽培できないって言われてた薬草とかも、あーしの植物園(ラボ)ではそこらへんでわさわさ育ってることとかも、実物を一つずつ指差して見せながら説明したかなぁ~」

「そ、そうか……」


 途中、あーたんのお話を聞いていたニールさんのニヨニヨが引きつって止まった。

 だけど、あーたんは心配そうなお顔になったニールさんを気にした様子もなく、私とマルクスに向かってへにゃっと笑いかけてくれる。


「だいじょーぶだって。ルイは何か拗ねて見せてたけどさぁ、今のルイなら大丈夫って思ったから言ったんだし。ね、もうステラっちたちがいてくれるんだもんねー?」


 あーたんにつられるように私たちを見たニールさんも、「そうか、そうだな」って言ってお顔の強張りを緩めた。

 私は笑いかけられたのが嬉しくてへにゃって笑い返して、それから、でも、ってお返事をすることにした。


「違うかなぁ」

「え?」


 私のお返事はみんなにとって意外だったみたいで、あーたんとニールさんがきょとんと私を見て、お隣のマルクスも不思議そうに声を上げた。

 私は、違うと思ったことをあーたんに向かって続けてお話する。


「ルイはねえ、私たちがいるから大丈夫なんじゃなくってね、ルイが大丈夫になってもいいルイになれるから、もう大丈夫なんだよねえ」

「話がよく分からんな」


 私の思ったことは、思ったよりも上手にまとまらないままでお口から出てきちゃってたみたいで、そんな私に一番にお返事をくれたのはニールさんだった。

 ニールさんを見れば、そのお顔にはお勉強に厳しいおじいちゃん先生みたいな眉間の皺ができている。


 ニールさんは、お考え事をするときはお顔のニヨニヨが止まって、いつもの難しそうなお顔に戻るみたいだ。

 私はあーたんからニールさんにお顔の向きを変えてお話の続きを始めた。


「ルイってね、虫さん苦手だったでしょう」

「ん? 虫? 話が飛んだ「えっ、そうなん!?」」


 今度はあーたんがニールさんの言葉を上塗った。

 あーたんは言ってから、言葉を遮ってしまったことを「にーくんごめん」ってニールさんに謝ってる。

 それから、それでもやっぱり気になったみたいで改めて私に聞いてくれた。


「ルイって、虫苦手なん?」

「んーとね、ルイね、前ね、私のお部屋に虫さんが出たとき、すごくイサマシイだったのよぅ。えっとね、ムシャブルイでね、プルプルってして、『後ろは任せろ』ってね、言ってたの」

「なるほど?」


 私は眉毛にぎゅっと力を込めて私が思う精一杯のイサマシイのお顔をしてその時のルイの様子を説明してみたんだけど、あーたんはそんな私の説明では今いちピンと来なかったみたい。

 相槌を打ってくれながらも、ゆっくりと首を傾げちゃってた。


 前に、私のお家でお泊まり会をした日、ルイがいるときにお部屋に虫さんが出たことがあったんだ。

 そのときお部屋には白猫のリリーもいて、小さな虫さんを退治するリリーを私は見ていたんだけど、ルイはそんな私たちの後ろで『ゲッ』とか『リリーやめておけ』とか言って大騒ぎしてた。

 その時の様子をどういう風に言って伝えたらいいのか分からなかったんだけど、ルイがプルプル震えながら『武者震いだ』って言ってたのを思い出して、どこかで聞いた『イサマシイ』って表現をして説明してみたんだけど、あーたんには上手く伝わらなかったみたいだ。


 だけど、あーたんの隣でニールさんが「あー」と言って、苦いようなお顔でコクコクと頷いてみせてくれた。

 ニールさんには、私の言いたかったその時のご様子の想像がついたみたい。


「確かに、ルイは私に似てビビリ……いや、臆病……いや、慎重なところがあるから、虫などは苦手だったかもしれんな。だが、先ほどルイがだいぶ大きめサイズのコオロギを服の中に庇っていたように私は記憶しているが?」

「っね! にーくん、そうなんよっ! 植物園には虫がつきものだし、別にルイも苦手そうな素振りなんか見せんかったから……。だからさっきのコオロギ庇ったのも変に思わんかったんだけど……」


 不思議そうに言ったニールさんの言葉に、あーたんも頷きながら同意するみたいにコクコク頷いた。

 二人が言っているのは、さっきお屋敷を出る間際、拗ねたままバイバイをしてくれたルイの服の袖にいたコオロギさんを、私が見つけたときのことだ。

 

『…………ステラ王都までの道中達者でな。用事が終わったらすぐに帰って来いよ』

『うん!』

『マルクスは明日も来い』

『はいはい』


 帰りの馬車に乗るため部屋を出る私たちに、隅っこで背を丸めてそっぽを向いたままのルイが、そう言ってバイバイのために手を上げてくれたとき、ルイのそばに立っていたルイのお世話係さんがそんなルイの一点をハラハラした目で見ているのに私は気が付いたの。

 私もその視線の先を目で追ってみる。

 すると、ルイが上げた手の袖口のところ、まるで隠れるみたいに、さっきのだいぶ大きめサイズのコオロギさんのお尻が覗いてたんだ。


『あ、バッタさん! じゃなくって、コオロギさん! そんなところにいたんだねぇ』


 ルイは気が付いていないみたいだったから、私は落としたり踏ん付けちゃったらいけないと思って、コオロギさんに向かって手を伸ばした。

 世話係さんが『あっ』て強張ったお顔になったのには気付かずに。


 そうして、私がルイの袖口にいるコオロギさんを再びむんずと掴もうとしたとき、それに気が付いたルイがハッとして、腕を反対の手で抱え込むみたいに袖ごとコオロギさんを私から遠ざけたんだ。


『ばっ! おいステラ! もう掴んじゃ駄目だ』

『どうして?』

『ぐぬ……、そうだな。ステラは子どもだが、コイツにとっては大きくて力が強い存在だろう。怖がらせたり、握りつぶすかもしれないのではないか?』

『そっかあ』


 私に言い聞かせるようにゆっくりとそう言ったルイは、それから勢いよく抱き込んでしまった腕をそうっと開くと、袖口のコオロギさんが無事かを心配そうに確かめる。


『驚かせたな、サンダーキッド号。大丈夫だったか?』

『プルプルプルプル…………』


 そう労わるようにコオロギさんに言ったルイは、サンダーキッド号ってお名前になったらしいだいぶ大きめサイズのコオロギさんと見つめ合った。

 一人と一匹の間には、絆みたいなものが芽生え始めている気がしたんだ。


 そんな風に、私がさっきのルイの様子と、ついでにその横で感動したみたいに胸を押さえてうんうんと頷いてたルイのお世話係さんの様子を思い出していると、ニールさんとあーたんが私のお話の続きを待ってくれていることに気が付いた。

 ニールさんもあーたんもさっきルイがコオロギさんを庇う様子は見ていたから、ルイが虫さんを苦手だったならどうしてって思ってるんだね。


「大丈夫なように、ルイが変わったんだと思うよぅ」

「ルイが? 虫を大丈夫なように?」


 きょとんとしたお顔で聞き返してくれるあーたんに、私はもう一回言葉を重ねる。


「うん。ルイは変われるからねぇ」


 ルイはごめんなさいもできるし、欲しいこともやりたいことも言えるし、それに、変わりたいって思って、変わりたいって言って、それからちゃんと変われるように頑張れるすごい子なんだ。

 私がそんな気持ちを込めて続けて説明すると、あーたんはちゃんと分かってくれたみたい。

 あーたんはルイを抱っこしてたときみたいに落ち着いた笑顔になって、くしゃって笑った。


「……そっか。もうルイは、自分で変われるんね」

「うん。ルイはすごいのよ、オトナなの」


 隣でそんな私たちの会話を聞いていたニールさんが「……オトナか、そうか」って言って、力が抜けたみたいに笑う。

 きっとルイは、植物園の大発見のことも、喧嘩しちゃってたあーたんとのことも、虫さんがいっぱいいただろう植物園で過ごした中でのことも、今日サンダーキッド号にお名前を付けてお袖に匿ってあげた事だって、いっぱいいっぱい考えて、悩んで、それでもそうしようってルイが決めて、ルイが変わろうと思って、変わっていったんだろうなって私は思う。


「ルイはね、さっきは拗ねちゃってたけど、またきっと変わろうと思ってるんだと思うなあ」

「……うん、そうかも」

「そうかもしれんな」

「帰ったら、変わろうとしてるルイのこと、いっぱい励まして、褒めてあげてね。ルイはすごいんだから」


 私が、ルイのことたくさん褒めてあげてねってあーたんとニールさんに言うと、二人はお揃いの優しい笑顔になって、「もちろん」って言ってくれたの。

 私もつられてニコニコの笑顔になる。



「オレはステラもすごいと思うぜ。だから、─────いっぱい褒めてやるッ!」

「わ!? マルクス!」


 私があーたんとニールさんとお話してるのを私の隣でずっとご機嫌で聞いていたマルクスが、ニヤリといたずらっ子の笑い方をしたかと思うと、それからすぐにわっと両手を持ち上げ、怪獣さんみたいになって襲い掛かってきた。

 私が目を白黒させていると、そのままマルクスは両手で私の頭を挟み込んで、細かい動きで前後にわしゃしゃってする。


「よしよし! 偉い!」


 マルクスの勢いの良さと小さく揺らされるその動きが楽しくって、私はキャッキャッて声が出た。


「わっ、うふふふ。じゃあ、私もマルクスによしよしだ」

「お、やるか! くらえ、倍返しにしてやる!」

「わあバイ返しだぁ! でもバイ返しってなあに?」

「ん? さっきのをな、さらにもう一回分乗っけて、すごくいっぱいお返しするってことだよ。こーのーくーらーい、な!」

「きゃーっ! ふふふ! じゃあ私もね、バイバイ返しだよぅ~!」

「アハハ、こら、せっかく髪ぐしゃぐしゃになんねーようにしてやってたのに、もう」

「うふふふ」


 馬車の座席隣同士、私とマルクスはそうして先に私の家に着くまでの間、最後はこしょばし合いっこをしてケラケラ笑って遊んでた。

 あーたんもニールさんも、そんな私たちがゆっくり揺れる馬車の座席から転がらないようにって時々手を差し伸べながら、楽しそうに見守ってくれていたんだ。


「じゃあステラ、こっち帰ってきたら教えてくれよな! すぐまたルイん家行って遊ぼうぜ。王都まで気を付けてな」

「うん!」

「ステラっち、いつでも待ってるからね~」

「うん、またあーたんの植物園の中、探検させてね!」

「ステラ嬢、帰ったら私もルイを褒めようと思う。安心してくれ」

「うん、私の分までルイのことよしよしってしてねぇ。バイバイバイバイなのよぅ。うふふ」


 私と、御者さんにお礼を言ったチャーリーが先に馬車を降りると、マルクスとあーたんとニールさんがお別れのご挨拶をしてくれる。

 私がニールさんの言葉にさっきのくすぐり合いっこのことを思い出して笑っていると、ニールさんが「君たちほど激しく褒められるかは分からないが……」と自信なさげにしていて、それにあーたんが「あーしがやっとく」と言ってくれたから、私はまた嬉しくて笑った。





 今日はいつもより帰ってくるのが遅くなっちゃった。

 すっかり日も落ちて、門番さんももう夜の門番さんに交代してるお時間だ。


 ハーブティーを飲もうってなったときにルイの家の使用人さんが私とマルクスの家に心配しないでって伝言を伝えてくれたって言ってたけれど、いつもと違う時間にお外から帰ってくるのは何だかソワソワしちゃうかも。

 普段は朝ごはんのときにしかお顔を合わせられない夜の門番のクラクさんとウゲツさんにただいまって言うと、見た目がそっくりな二人は、そっくり同じ動きできっちり三秒止まる会釈を私に返してくれた。


「帰りが遅いな」

「帰りが遅いぞ」


 門を通る一瞬、そんな二人がチャーリーに向かって眼光鋭く小声で何かを言ったみたいだったけど、チャーリーはにっこり笑顔を二人に返しただけだった。


「お嬢様、今日はいかがでしたか?」

「楽しかったあ」

「それは何よりでございます」


 チャーリーと二人、星明かりのお庭を手を繋いで玄関まで歩く。

 私を覗き込むみたいにしてニコニコで聞いてくれたチャーリーに、私も見上げて笑顔で言った。


 今日もすっごく楽しかったなあ。

 それに、明日もすっごく楽しいだろうなあってご予定が待ってるんだ。


 王都に行くのももちろん楽しみだし、明日から週末までの間は王都や王城へ行くためのご準備をしましょうってママが言って、レミも私のお家で一緒にご準備をしたり、気を付けることを教えてもらったりすることになっているのも楽しそうだなって思ってる。

 私はウキウキでいっぱいなお気持ちでチャーリーが開いてくれた玄関の扉をくぐり、私のことを出迎えてくれたお家のみんなに、大きなお声で『ただいま』って言ったんだ。


ニールさん&あーたんペアは真面目風紀委員×陽キャギャル的な感じで結構お気に入りです。

学園時代の二人のラブコメスピンオフ話が書籍一巻に収録されておりますので、よろしければそちらもぜひ。(隙あらば宣伝)

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