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初めてのデートは異世界で

 マウラに手を引かれるまま、レオナルトは雑貨屋に来ていた。

 食器類やタオル、小物入れなどの生活雑貨だけではなく、革の水入れやランタンなどの旅人や冒険者に必要なものも取り扱っているようだ。


 マウラは、大き目で可愛いものを見ているようだが、さすがにレオナルトが身に着けるのは厳しい。

 レオナルトは、あまり大きくなく邪魔にならない程度の大きさの革袋を手に、店員に値段を聞いていた。


「これで大銅貨5枚か・・・。」

「確りとした造りなので、長く使えると思いますよ。」


 レオナルトは悩んだ末、大銅貨6枚の革の水入れを合わせて銀貨1枚にまけさせて、購入することにした。

 マウラと支払いについて押し問答することになったが、レオナルトが根負けしてマウラが預かったお金から支払う事になった。


「絶対に、私が選んだ奴の方が可愛かったんですけどね。」

「いや、僕が使うんだから、可愛いのはちょっとね。」

「別におかしくないと思うんですけどね、私は。」


 マウラの美的感覚ではおかしくないらしいが、冒険者が使うものなので汚れてもよくて丈夫なものの方がいいだろう。


 また、マウラに手を引かれて、今度は古着屋に来る。


 色々と選んでくれるのだが、冒険者ギルドで見かける人が来ているようなものではなく、街中で見かけるような服が多い。


「うーん、マウラさん。やっぱり動きやすくて丈夫なものの方がいいと思うんですけど。」

「でも、こっちの方がカッコいいですよ?」

「いや、これじゃ動きにくいですってば。」


 店員に見守られながら、なんとか革のジャケットとパンツを選び、それと下着類や革の靴とあわせて銀貨4枚分の買い物になった。


「こんなに使っちゃって大丈夫なんですか?」

「預かった分で足りてますから、きっと大丈夫ですよ?」


 きっと?

 少し余裕を見て渡しているだろうから、全部使うのはまずいのではなかろうか。

 しかし、それを指摘してもよいのかどうか。


「ちょっと余っているので、解体用の短剣でも見ましょうか。」


 そんなレオナルトの心配を余所(よそ)に、また手を取って武器を扱っている店に連れていかれる。


 解体用の短剣を見に来たのだが、並んでいる武器を見て思わず見入ってしまう。

 レオナルトが使っている青銅の剣ですら、銀貨数枚はするようで、鉄になると大銀貨数枚はするようだ。

 店のカウンターの奥には、霊銀(ミスリル)という金属でできた剣が飾られている。

 元いた世界にはない、ファンタジーな素材だが、マウラ曰く魔力を通しやすい特性があるので、魔力を使って強化したり、魔法を扱う際にはいいそうだ。

 その代わり、一振りの剣で金貨数十枚もするそうだ。


 武器屋に来た目的の解体用の短剣を見てみると、片刃のナイフだった。

 刃渡りは5cmから20cm程度で、鉄製だがそれほど高くないようだ。

 

「このあたりでしょうかね。」


 マウラが見ているのは、刃渡りが10cm弱程度の鉄製だ。

 銀貨2枚もするようだが、足りるのだろうか。


 青銅の剣があるので、不要じゃないかと思うのだが、レオナルトの持っている剣は両刃のため、うまくい捌けないのだそうだ。


 どうしようか悩んでいるうちに、勝手にマウラが会計を済ませてしまったようだ。

 他人(ひと)の金をそんな簡単に使って大丈夫なのだろうか、と心配になる。


 レオナルトも、手入れ用の砥石を購入して、さらに剣のメンテをしてもらうことにした。

 十分ほどで終わる簡易なものだが、ナイフと砥石を買ったことでおまけでやってもらえた。


 ちょうど正午近くになったので、付き合ってくれあお礼に一緒にご飯を食べることにした。

 この世界では、お昼は食べなかったり、軽くで済ませることが多いようだ。


 まだ、ちゃんとしたお店で奢るほどの財力もないので、屋台で鳥肉と野菜のサンドイッチと果物を買って、一緒に食べる。

 大銅貨1枚が消えたが、マウラの幸せそうな顔を見られたので安い買い物だ。


「色々とみてもらってありがとうございました。」

「ギルドマスターから直々(じきじき)の指示ですから、ちゃんとしたお仕事ですので、大丈夫ですよ。」


 どう見ても楽しんでいたようだが、それは言わぬが花であろう。


「僕もデートみたいで楽しかったですよ。」

「で、で、デート!?」


 今更自分達が置かれていた状況を理解したのか、マウラが顔を真っ赤にして(うつむ)く。


「す、すみません。変な事言って。僕なんかと一緒にいても楽しくないですよね。」


 自分なんかとデートしたと周囲に勘違いされたら恥ずかしいのだろうと思ったレオナルトが、しょぼんとする。

 日本で生きていた頃は、デートはおろか、女の子にこんな風に接してもらたことはほとんどなかったのだ。

 きちんと向き合って相手にしてくれるのは、バイト先等の年上ばかりだったので、意識したこともないのだ。


「あ、あの、楽しかったですし、レオくんはカッコいいですし、その、嬉しいです。」


 しどろもどろで何を言いたいのか良く分からないが、とりあえず一緒にいることが恥ずかしいほど残念な人扱いはされていなさそうだ、と自己評価の低いレオナルトは判断した。

 (はた)から見れば、好意がありまくりだが、お互いに気付いていないのだ。


「そろそろ、戻りましょうか。オルタンスさんに心配されちゃいますし。」

「夕方までは、受付も暇なので急がなくても大丈夫なんですけどね。」

「少しでも依頼をこなしてお金を稼がないとですから。」


 レオナルトは笑って答えるが、実際のところ早く稼がないと宿代も危ないのだ。


 そそくさと2人でギルドに戻ると、一度ギルドマスターの所に行きお礼を言う。

 渡した銀貨を見事に使い切ったマウラに対して、若干呆れていたようだが、きちんと伝えなかった自分が悪い、とオルタンスも諦めたようだ。


 そのまま1階で、薬草集め、コボルド退治、プレーリーヘアの皮集めの依頼を受けて、薬草が採取できる場所を聞く。

 マウラから、西の森に行けば薬草もコボルドも見つかると聞くと、レオナルトは1人で街を出て西に向かう。


 ただの布の袋を盗んだせいで、犯罪歴がついたあの3人組の逆恨みが怖いので周囲を警戒しながら進む。


 すぐに、街道の左側に森が見えてきたので、警戒しながらも分け入る。


 薬草は、少し奥までいけばいくらでも生えていた。

 本来であれば雑草との見分けが難しいのだが、鑑定があるレオナルトには簡単なものだった。


 薬草だけではなく、解毒草や解熱用キノコも見つかったので、採取しておく。

 事前にマウラから聞いていたので、きちんと根元から掘り起こしておく。


 コボルドにも、比較的すぐに遭遇した。

 二足歩行をする犬、そんな感じの魔物だが、知能は低いようで、闇雲に爪を振ってくるだけであり、簡単に対処することができた。

 爪を避けながら、首筋に剣を振るうと、すぐに息絶えるのだ。

 手入れしてもらったこともあり、剣はすっとコボルドを斬り裂いていく。


 討伐証明であり素材でもある爪と、体の中にある魔石を回収していく。

 解体は、血に塗れてグロテスクだが、すぐに慣れることができたのは、転生したお陰なのだろうか。


 プレーリーヘアやゴブリンも、偶に遭遇したので、確実に狩っていった。

 幸いなことに、群れに遭遇することはなく、多くても2匹までだったので、余裕を持って対処することができた。

 もちろん、できるだけ同時に相手することがないよう、位置取りに気を付けて立ち回ったためだが。


 日が暮れる前に、ギルドに戻ってくると、ギルドは夕方の混雑ピーク前だった。


 納品用の受付に行くと、依頼受付にいたはずのマウラがニコニコとして受け付けてくれた。


「数が多いんですけど、どうしましょう?」

「えーと、それなら奥で受け付けましょうか。解体部屋があるので、そこでも大丈夫です。」


 マウラに誘われて、解体部屋という所についていくが、倉庫のような場所だった。

 ただし、そのまま外に持ち出せるよう、大きな扉が外に向かって開け放たれている。


「では、こちらでお願いします。」


 マウラに呼ばれた、素材の査定担当者が指す場所に、集めた素材を置いていく。


 薬草 32束

 解毒草 13束

 解熱キノコ 6本

 ゴブリン 11体

 コボルド 25体

 プレーリーヘア 8体


 次から次へと取り出される素材に、担当者は喜びの声をあげる。


「薬草も解毒草も、間違えて雑草が混じることがよくあるんですが、全部本物ですし採取の仕方も問題ないです。これだけしっかりしてくれる方はそうそういないんですよ。」


 担当者は本当に嬉しそうだ。


「プレーリーヘアは、皮が2枚ほど残念な状態ですね。ただ、残りの6枚は問題ないです。本当は少し引きたいところですが、2枚分も多少の価値はあるので、相殺ってことにしておきます。」


 初めて解体するので、最初の2枚は思い切り裂いてしまったり、穴を開けてしまったりしたのだ。

 練習代と思えば仕方ない。


 担当者が、嬉しそうに木の板に査定結果を記入し、それをマウラに渡している。


「それじゃ、窓口に戻って清算しましょうか。」


 再び、納品カウンターに戻って、マウラから明細を聞く。


○素材納品

 ゴブリンの右耳    銅貨2枚  11個

 ゴブリンの魔石    銅貨2枚  11個

 コボルドの爪     銅貨1枚  25個

 コボルドの魔石    銅貨1枚  25個

 プレーリーヘアの毛皮 大銅貨1枚 1枚

 プレーリーヘアの耳  銅貨2枚  8個

 プレーリーヘアの肉  銅貨3枚  8匹

 プレーリーヘアの魔石 銅貨5枚  8個

 薬草         銅貨2枚  2束

 解毒草        銅貨3枚  13束

 解熱キノコ      銅貨2枚  6本


○依頼達成

 ゴブリン討伐(5体)    銅貨5枚  2回分

 コボルド討伐(5体)    銅貨2枚  5回分

 プレーリヘアの毛皮(5枚) 大銅貨6枚  1回分

 薬草採取(5束)      銅貨5枚  6回分


 討伐依頼分については、素材納品とダブルカウントでもらえるようだ。

 採取系については、依頼分しかもらえないが、単純な素材納品よりは高くなるようになっているらしい。

 今回は、薬草を32束持ってきたので、薬草5束の依頼6回分と、薬草2束の納品になるそうだ。


 コボルドやゴブリンの討伐や、薬草集めといった基本的な依頼は、常に受け付けているので、何回分でも報酬がもらえるらしい。


 今回は合計で、銀貨3枚、大銅貨9枚、銅貨1枚の報酬となった。

 午後だけでこれだけになったのだから、十分だろう。


 マウラも、期待以上の成果が出たので、自分の事のように喜んでいた。


 レオナルトは、今度は周囲をそれとなく警戒しながら東門の方へ行き、今度こそ野兎亭に辿り着いた。


 1泊は大銅貨3枚で、夕食と朝食は別で銅貨5枚だそうだ。

 とりあえず3泊分を食事つきでお願いして、銀貨1枚と銅貨5枚を支払う。


 部屋はやや狭いものの、日本のビジネスホテルよりは広い。

 多少古い建物だが、清潔にされているようで問題はない。


 夕食は野兎肉のソテーだったが、味付けもしっかりしていて、スープとパンもついて大満足だった。

 あと、勧められるがままにお酒、エールを銅貨3枚で頼んで飲んでみた。

 こちらでは、特に飲酒に年齢制限がないようなのだ。

 日本にいた頃には、親の飲んでいるビールをちょっとだけ舐めさせてもらったことがあるが、苦くて絶対に飲まないと思ったものだが、エールの爽やかな喉ごしと味わいを楽しむ事ができた。

 こちらのエールがうまいのか、転生して味覚等が変わったからなのかは分からないが。


 部屋に戻り、剣の手入れをした後は、藁葺(わらぶき)のベッドでゆっくりと寝る事ができた。


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