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新人への洗礼

 オルタンス、マウラの2人に付いていくと、そこは訓練場のようだった。


「ここで冒険者になれるかどうかの試験をするわ。」

「はい、何をすればいいんでしょう?」

「戦闘に関する実力を見せてもらうわ。まだ魔法が使えないみたいだから、近接戦闘かしらね。」

「えーと、剣とかって事ですかね。」

「ええ、武器は剣でいいのかしら。」

「はい、それしか使えないので。」

「それじゃ、そこから好きなのを選んで。」


 オルタンスが指した先には、訓練用の武器がごちゃごちゃと置かれていた。

 その中で、今使っている剣に近いものを選ぶ。

 刃は潰されて切れないようになっているが、金属の塊なので当たれば怪我くらいはするだろう。


「では、やりましょうか。」

「えっ、オルタンスさんが相手なんですか?」


 ギルドマスターって、きっとすごく強いと思うんですけど、どうなんでしょう。

 こっそり鑑定したら、位階も38とかあるし。


「あら、別に勝つ必要はないの。冒険者としてやっていけるかどうか、それを見るだけだから。」

「良かったです。絶対に勝てなさそうだったので。」

「それが分かるだけでも合格にしていいんですけどね。それじゃ、どうぞ。」


 オルタンスはどうぞと言ったが、特に構えていない。


 しかし、レオナルトは攻められなかった。

 ゴブリン達が相手であれば、どこを攻めるべきかが分かったのだが、オルタンス相手では全く分からないのだ。


「これじゃ、確かに無理かしら。それじゃ、これでどう?」


 わざと隙を作ったのだろうか。

 一瞬、薄くだが攻めるべき剣筋が見える。

 その一瞬を逃さぬように剣を振るおうとするが、剣の速さが全く追い付かない。


 振るおうとした剣筋が見えなくなったので、慌てて剣を引く。


「見えるけど、自分の技量が追い付かない。そんなところかしら。」

「何となく、ですけどね。」

「いいわ。それじゃこちらから行くわね。」


 オルタンスから伸びてくる剣筋が見える。

 躱せないと判断し、なんとかそれを防ごうと剣を振るう。


 いつ来たのか分からないオルタンスの剣が、レオナルトの剣に止められている。

 止めた自分が言うのもなんだが、意味が分からない。


 まだオルタンスが剣を引いていないにも関わらず、次は反対の右から剣筋が見えたのでそちらに剣を振るうと、またオルタンスの剣をレオナルトの剣が止めている。


「すごいわね。次いくわよ。」


 そう言うと、オルタンスから複数の剣筋が伸びる。

 何本も伸びているが、そのうち2本がはっきりとしているので、その片方を防ぐように振るうと、確かに防いだ衝撃があったのだが、自分の首筋に剣が当てられていた。


「これも、1つしか防ぐ術を知らない、ってところかしらね。」

「何があったんでしょう・・・。」

「双刃よ。レオナルトくんも使えるでしょう?」

「使えますけど、こんなのは出来ないですよ。」


 自分のできるのは、ほぼ同じ場所に2回斬りつけるだけだ。

 こんな左右全く異なる剣筋で放つことはできない。


「そのへんが、経験の差なのよ。いいわ、レオナルトくん合格。剣の才能だけなら3級でもいいけど、位階が低すぎるから1級からね。」

「あ、はい。」

「あとは、細かい説明をマウラから聞いてちょうだい。また会えるのを楽しみにしているわ。」

「はい。ありがとうございました。」


 オルタンスが去っていくのと交代して、マウラがしっぽでも振りそうな感じで嬉しそうに駆け寄ってくる。


「す、すごかったです! ギルドマスターのあの剣を防いだ人って久しぶりですよ。」

「そう、やっぱりすごかったんだね、あれ。全然ついていけなかったですよ。」

「でも、ちゃんと合格しましたしね。それじゃ、手続きに戻りましょうか。」


 マウラについて、再び2階のテーブルに戻る。

 出された羊皮紙に、名前を記入して返す。


「これがレオくんのギルド証になります。盗難防止をかけるので、すみませんが血を1滴だけかけてください。」


 マウラが小さな針を渡してくるので、それで指先を突いて血を少しだけ出す。

 その指先をそのままギルド証に押し付けると、一度それが光る。


「はい、これでギルド証は完成です。引き続き、注意事項の説明をしますね。」


 マウラが、ギルドの会則の説明をしてくれる。


 冒険者には階級があり、一番下が1級でレオナルトはここからスタートになる。

 一番上が9級になり、3の倍数、つまり3級、6級、9級になるときに試験があるそうだ。

 ギルド証の色も階級が上がると変更になり、レオナルトは銅で3級になると銀、6級になると金、9級は青になるそうだ。

 これはギルド証の素材のためで、最後の青は最も固い金属である金剛鉄(アダマンタイト)の色だそうだ。


 階級は、依頼をこなしたり、素材をギルドに納品することで上がっていくらしい。

 依頼内容を基に、ギルドで適切な階級を設定し、自分より階級が1つ上の依頼まで受けることができるそうだ。

 つまり、いまレオナルトは1級と2級の依頼を受けることが出来ることになる。


 逆に階級が下の依頼は、1つ下までは問題ないが、それより下の依頼については、適切な階級の冒険者が優先的に受けられるそうだ。

 階級が高い冒険者が、階級が低い依頼を根こそぎ持って行って、こなす依頼がなくならないように、逆に放置されて塩漬けになるのを防ぐために、そうなっているらしい。


 複数の冒険者、具体的には6人までの冒険者が組んでパーティーとして登録すると、依頼をこなすとパーティー全員の評価になるらしい。

 それ以上の人数が必要な依頼については、複数のパーティーで挑むこともあるらしいが、それはギルドが許可した場合のみのようだ。


 特殊な依頼として、氏名依頼と緊急依頼があるそうだ。

 氏名依頼は、その名の通り依頼を受ける冒険者を、依頼主が指定しているもの。

 貴族や大商人が、お得意様として特定の上位冒険者を指名する事が多いらしい。

 緊急依頼は、魔物の群れが街に襲い掛かってきた場合等に発令されるもので、その時に街にいた冒険者は強制的に受けさせられるらしい。

 ただし、3級以上等と条件が付くことも多いので、1級のレオナルトにはしばらく関係ないだろう。


 あとは、当たり前だがそれぞれの国の法律には従う事。

 犯罪者として認められると、ギルド証は没収となり、それまでの経歴もすべてご破算になる。

 冒険者同士の喧嘩もダメで、どちらかが悪いと証言がない限り、どちらもそれなりの罰則、具体的には罰金や階級の降格、ギルド証の没収となるそうだ。


 あと、ギルド証を失くした場合は、再発行手数料として銀貨1枚が必要だそうだ。

 やや高いのは罰金の側面もあるのだろう。


「説明はここまでになりますが、質問はありますか?」

「依頼のノルマはありますか?」

「のるま・・・ってなんでしょう?」


 ああ、どうやら日本語はきちんと翻訳できるが、外来語はダメなようだ。


「絶対にこなさないといけない依頼の数とか。例えば月に1つはやれとか、そういうの。」

「特にありませんよ。階級を上げる必要もなく、他にお金を稼ぐ手段があるのであれば、まったくしなくてもいいです。ギルドとしてはできるだけ受けて欲しいですけどね。」


 レオナルトがインジスウェイから受けた依頼は、転生者への伝言なので、もしかしたらギルドの依頼はできなくなるかも知れない。

 そうなっても、ギルドの評価がリセットされないのは気が楽だ。


「じゃあ、依頼はこなさずに、素材の納品だけでも問題はない?」

「そうですね。依頼を受けるよりは評価は低いですが、それだけで階級を上げる事も不可能じゃないですよ。」

「自分の階級より高い魔物でも、素材納品には問題ない?」

「ないです。その代わり、1級の冒険者が、竜の素材を納品してきても、一気に階級が上がるとかはないです。報酬は適正金額で支払われますが、評価としてはコボルドの討伐証明の納品と同じ扱いです。」

「了解。僕からはもう聞く事はないです。素材の買い取りをお願いしていいですか。」

「分かりました。それじゃ、1階の納品受付に行きましょう。」


 またマウラの先導で、移動する事になる。

 1階の受付は、手前が総合案内、真ん中が依頼受付、奥が納品受付になっているそうだ。

 マウラと納品受付のカウンター越しで向かい合う。


「それじゃ、納品したい素材をこちらへお願いします。」


 カウンター脇に、一段低く広いテーブルがあり、そこに出すように指示される。

 素材はアイテムストレージに入っているが、転生者しか使えないとインジスウェイが言っていたので、ばれないようにした方がいいだろう。


 腰に結わえた布袋(ぬのぶくろ)の中に手を入れて、硬貨をストレージに移し、さもそこから取り出したかのように、プレーリーヘアの死体を取り出す。


「おお、大きなプレーリーヘアですね。死体の状態もいいので、査定も問題なしですね。これだけですか?」

「いや、まだあるんだ。」


 そう言うと、もう一匹のプレーリーヘアを取り出して並べる。

 あと、ゴブリンの右耳二つもついでに取り出す。


「こちらはゴブリンの討伐証明ですね。では、プレーリーヘアの状態を確認してもらうので、しばらくお待ちください。」


 そう言うと、けっこう大きなプレーリーヘア2匹を、軽々と持って奥に持っていく。

 マウラは、大人しそうに見えて強いのかも知れない。


 マウラはすぐに戻ってきた。


「プレーリーヘアの毛皮は2匹とも状態がいいので満額査定の大銅貨1枚だそうです。討伐証明の耳が銅貨2枚、肉が銅貨3枚、魔石が銅貨5枚、それにゴブリンの討伐証明が銅貨2枚。合計で、大銅貨4枚と銅貨4枚です。」


 そう言って、今言った数の銅貨と大銅貨を渡してくる。

 それを受け取って、布袋に入れるふりをしてストレージにしまい込む。


「それはアイテムボックスですか。すごいですね。布で出来ているものは初めてみました。」


 しまった。アイテム収納的な道具があると思って布袋をそれっぽく振舞っていたのだが、確かに布よりも革の方が丈夫なので、そちらが一般的なのだろう。


「珍しいですよね。布なのであまり丈夫じゃないので心配なんですよ。」

「確かにそうですよね、ってすみません。関係ない話を。」


 マウラが済まなさそうにしている。


「そういえば、近くにいい宿ありませんか。手持ちがないので、できれば安いところで。」

「ここから東門の方に歩いて行ったところに、「野兎亭」って宿があって、安いけど綺麗でごはんもおいしいと評判ですよ。」

「へえ、良さそうなところですね。」

「あと、その近くに古着屋さんもあるので、服を変えた方が・・・その返り血でだいぶ汚れてますから。」


 気にしていなかったが、ゴブリンの返り血でけっこう服が汚れてしまっている。

 洗って落ちればいいが、だめなら買わないといけないだろう。

 それ以前に、干している間に着るものすらない状態だ。


「確かにそうですね。手持ちで足りるかわかりませんが、見てみます。」

「いい服があるといいですね。レオくんカッコいいから、似合う服があればもっとよく見えますよ。」

「え、えっと、その、ありがとう、ございます。」


 素でカッコいいと言われたのは初めてなので、真っ赤になってしまう。

 マウラも、後から自分の言ったことに気付いて真っ赤になっている。


「そ、それじゃ、お気をつけて。」

「はい、今日はありがとうございました。」


 マウラに頭を下げると、マウラもペコリと頭を下げてくる。

 周囲の視線が、温かいものだったり嫉妬に塗れたものだったりして痛いので、早々に立ち去ることにする。


 冒険者ギルドの建物を出ると、通りを東に向かって歩き出す。

 そのまま中心部を抜けて、更に東に向かって歩いていく。


 突然、後ろから肩を掴まれて声をかけられる。


「ちょと、裏の方に行こうか。」


 反応ができないまま裏路地に連れていかれる。


 レオナルトを連れ込んだのは、3人組の魔族の男たちだった。

 小柄な男、背の高い男、太った男とテンプレの見本のような男たちだった。


「兄ちゃん、いいもの持ってるよな、その腰に下げてる袋をよ。」


 冒険者ギルドで見られて、尾けられていたようだ。

 まさか、昼の街中でこのような事になるとは思っていなかったので油断していた。


「これはただの布の袋ですよ、ほら。」

「嘘付くんじゃねえよ。ギルドでそこからプレーリーヘアを出してただろ。」

「いや、本当にただの布の袋ですよ。」


 実際、ほんとに何の変哲もないただのぼろい袋だ。


「黙れこの野郎、寄越しやがれ!」


 小柄な男が殴り掛かってくる。

 剣筋のように、男の拳がくる軌跡が見えるので、ひょいとそれを躱す。


「な、なめやがって!」


 かえって逆上させてしまったようで、パンチを次々と繰り出してくるが、問題なく避けられるレベルだ。

 加護によるアシストがなくても、空手をやっていたレオナルトにはなんとも緩い攻撃だ。


「くそっくそっ!」


 ムキになって出してくる拳を避けていると、横から思い切り蹴りを食らって吹っ飛んでしまう。

 小柄な男の攻撃を避けるのが簡単すぎて、油断していたところを太った男に蹴られたのだ。


「ぐ、卑怯な。」

「卑怯も何もねえよ!」


 まだ体制を立て直していないので、小柄なやつの拳を画面に受けてしまいよろめく。

 そこに背の高い男のローキックを受けて、転んでしまう。


 あとは、そのままタコ殴りにされるだけだった。

 いつの間にか、袋も奪われてしまい、意識が遠のいてきた。


「お前たち、何をしている!」


 ぼんやりと、兵士が駆けつけてくるのを見ながら、レオナルトは意識を手放した。



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